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第109話 エピローグ

本日は106~109話の4話更新となっています。

お気をつけくださいね。


 元王女が目を覚ますと、知らない天井が目に入ってくる。

「あら、やっと起きたみたいね」

 身体を起すと目の前にこれまた知らない女性がいる。

「ここはどこよ?」

「アリーシャといいます。ここは教会に併設されている修道院です。私はここの責任者をさせてもらっています」

「そんなことは聞いてないのよ、私はなぜここにいるのよ?」

「あら、そんな乱暴な口の利き方はいけないわね。さぁ、朝ごはんを用意したので早く着替えていらっしゃいな」

 全く会話にならない苛立ちからつい言葉を荒げてしまう。

「私はフレイヤード王国の王女なのよ! ここはどこなのか言いなさいよ!」

 アリーシャは困った顔をすると。

「あら、フレイヤード王国なら──」

「なによ?」

「──昨日、なくなったわよ」

 自分の国が昨日なくなったと聞いた。

 信じられない言葉を聞いて呆然とする。

「ほら寝ぼけてないで顔を洗ってらっしゃい」

「はい……」

 仕方なくベッドから降りて歩いて行く。

「お姉ちゃんだめだよ。着替えてからこないと」

 小さな女の子がそう言った。

 一度ベッドに戻るとそこには畳んである服が用意されている。

 そこで初めて気が付いた。

 自分が下着姿で歩いていたということを。

 周りを見回したが着ていたはずのドレスが見当たらない。

 それにあまりの寒さにこのままではまずいと思い、用意されていた服に袖を通した。

 どうみても白を基調とした修道服にしか見えない。

 裸よりはいいと思って顔を洗うことにする。

「あ、お姉ちゃん戻ってきたのね。ここだよ、ここで顔を洗うのー」

 桶に水を汲んであるだけの質素な手洗い場だった。

 水が冷たい。

 顔を洗ってタオルを探そうとすると。

「はい、お姉ちゃん」

「あ、ありがとう」

 タオルで顔を拭くと、さっきの女の子の笑顔あった。

「お姉ちゃん、綺麗」

「そうかしら?」

「朝ごはん食べにいかないと駄目だよ、ほらー」

 女の子に手を引かれながら進んだ先には似たような女の子が数名いる。

 用意されていたものは、野菜を煮たスープにパンだけだった。

 ぐぅ……

 美味しそうな匂いについお腹が返事をしてしまう。

 小さな女の子たちは皆手を組んで祈りを捧げている。

「お姉ちゃん、ちゃんとお祈りしてからじゃないと食べちゃだめだよ」

「そ、そうなの?」

「うん」

 仕方なく真似をして祈るふりをする。

「「「「いただきます」」」」

「い、いただきます」

 ひと口スープを啜ってみる。

 おかしい、すごく美味しい。

 パンをちぎって一口食べる。

 今まで食べたものよりも美味しい。

 もちもち、ふかふかした食感と、焼きたてのいい香り。

 スープに入った野菜も柔らかく、美味しくてたまらない。

 量は多くはなかったが、すごく充実した朝食だった。

「お姉ちゃん、食器洗ったらアリーシャ先生のところにきてくださいって言ってたよー」

 食器を洗う?

 どういう意味か聞いてみた。

「自分で使った食器は自分で洗わないと次に使えないじゃない、おっかしーの」

 今まで食器など洗ったことがなかった。

 女の子の真似をして洗ってみた。

「駄目だよそんなんじゃ、貸してみてー」

 女の子は器用に食器を洗ってみせる。

 毎日やっていることだからできるのは当たり前なのだろうが。

「ほら綺麗になったでしょ?」

 笑顔で言われると否定できない。

「あのね、先生ってどこにいるのかな?」

「んっとね、こっちだよー」

 手を引っ張って連れていってもらう。

「ここだよー。ノックしてから入るんだよ。わたし先にお掃除してくるねー。またね、お姉ちゃん」

 そう言うと小走りに行ってしまう。

 コンコン……

「入ってらっしゃい」

 ドアを開けるとそこにはアリーシャがいた。

「あの……」

「ほらさっさと入って。ドアは閉めるのよ」

 言われた通りドアを閉める。

「はい、座ってちょうだい」

「……フレイヤードが昨日なくなったってどういうことですか?」

「あら、憶えてないのね。あなたの行いのせいで消えてしまったのよ」

 アリーシャの説明はこうだった。

 自分のせいで父と母も王の立場を追われた。

 自分自身はこの教会から盗んだ物の責任を問われてここに連れてこられた。

 ここでの行いによって父と母の処遇が変わってしまうということ。

 本来あの場で死んでいてもおかしくなかったということ。

 自分を一番憎んでいたと思われる人が生きていることを望んでいるということ。

 本来幽閉されるところを目の前にいるアリーシャが預かるということで、ここにいることを許されたということ。

 自分が盗んだ物は実はアリーシャが責任者として保管していた物だったということ。

 ここは孤児院でさっきの女の子は孤児だったということ。

「──ということなのよ。わかってくれたかしら?」

「……はい」

「あなたは許されたわけではないの。でもね、これからの行いでそれは変わっていくわ。周りにいる子たちも見ているのよ。大人が恥ずかしいことはできないわよね?」

「はい」

 それからは少しづつではあるが彼女の態度は変わっていく。

 毎日の祈りを孤児たちと一緒に行った。

 掃除洗濯、炊事まで教わりながらもこなしていく。

 孤児たちは彼女を姉のように慕い、孤児たちを妹のように優しく扱った。

 王女として恥ずかしくないようにと、身についていた教養などを子供たちに教えていく。

 学校の先生のようなことをしていった。

 流石は元女王だけある。

 アリーシャが言ったように、一週間もしないうちにシスターとして恥ずかしくない所作を身につけていた。

 城で贅沢三昧していた頃よりなぜか充実している毎日を送っていった。

 幽閉されているわけではないのに、自分から離れていこうとしない。

 子供たちを連れて毎朝外の掃除をするようになると、街の人々の目に触れる。

 この世のものとは思えないほどの美しさをもつシスターがいると噂になっていくのだ。

 彼女を一目見たさに、礼拝をするものが増えていったという。

 元からある程度の才能があったのか、仕事の合間に治癒魔法を覚えると人々に無償で治療を行うようになる。

 見た目の美しさとその優しい振る舞いから、いずれ聖女と呼ばれるようになるとか、ならないとか。

 今後は全て、彼女次第なのである。



読んでいただいてありがとうございます。


今回で第一部完となります。

閑話をはさんで第二部スタートとなります。

これからもよろしくお願いします。


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