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第8話 とにかくお金を稼がないと その3

 討伐部位を回収して元の街道へ戻ろうとしたが、伊織は道に迷ってしまう。

 城門に着くまでかなりの時間がかかってしまった。

 まだぎりぎり日が落ちていない時間だろう。

 城門で衛兵に呼び止められる。

「ちょっと、なんだその恰好は……」

「すみません、これギルドカードです」

「イオリ君って、ちょっと前にコボルトを討伐に行くって言ってた」

「はい、戻ってきたんです。入ってもいいですかね?」

「しかし、その恰好はなんなんだい?」

「ギリギリで避けてたらこうなってしまって……」

「とにかく怪我がないならいいんだ……入っていいですよ」

 丁寧な言葉と地の言葉が混ざって、本当に驚いているようだった。

 ギルドへの道中、振り返る人がかなり多い。

 こんなボロボロな恰好をして、大きな袋を担いでいれば目立って当たり前だろう。


 ギルドへ着いて、玄関ホールに入ると同時に注目を浴びる伊織。

 マールが驚いた表情でこっちを見ていた。

 伊織は周りの視線を無視して、マールのいるカウンターへ向かう。

「コボルト討伐終わりました、討伐部位の確認お願いしたいんですけど」

「は、はい。イオリさん、どうしたんですか? その恰好……」

「ちょっと避けそこないまして、それでも大きな怪我はないと思いますけど」

「で、では、部位の確認をします。こちらのカウンターへお願い出来ますか?」

 少し離れた位置にある討伐部位を確認する場所だろう。

 ドスン!

 伊織がカウンターへ乗せた大きなズタ袋。

 これは出る前にここで借りたものだった。

 それを見たマールは目が点になるほど、驚いている。

「これ、もしかして……」

「全部そうです。あ、カードも出すんですよね。お願いします」

 そう言うと、ポケットからギルドカードを出す伊織。

「ちょっとお待ちくださいね、こちらへどうぞ……すみませんー、誰か2人くらい手伝ってー」

 出されたお茶を一口含み、いつもの癖で異常がないかを確かめる。

 そして安心して、飲み始めた。

 説明を受けたテーブルで待つこと暫しの間。


 二杯目のお茶を飲んでいるとき、やっとマールが戻ってきた。

「あの、これ、本当ですか? コボルトの討伐部位ですが、二三八枚ありました。それとハイコボルト、コボルトの上位種が一枚あったんですが……」

「あ……五〇迄は数えてたんです。でも、途中でめんどくさくなって……」

「めんどくさくなったって……えっと、通常のコボルトだけで銀貨百十九枚。銀貨十枚で金貨一枚の換算をしましたので、金貨十一枚と銀貨九枚なんです。ハイコボルトが通常、Cランクの討伐対象なので……」

「結構稼げましたね、これで今日の宿代と食事代もなんとかなりそうですよ」

 伊織はこれで一文無しから解放される。

「いえ、結構どころじゃ……それとですね、来週の頭、Cランクの試験を受けてもらうことになりましたが。大丈夫でしょうか?」

「それってどういうことでしょう」

「いえ、コボルトの討伐数だけでDランクの上限を超えてしまって……それで現在Dランクということになるんですが、それでもCランクへの資格が出来てしまいまして」

「そういうことでしたか」

 伊織は苦笑しながらも納得したという顔で答えた。

「ハイコボルトの件ですが。Cランクへ昇格してから清算ということでこちらで預かる形になります。よろしいでしょうか?」

「いいですよ」

 伊織はさらっと答える。

「では、暫定的にですが、Dランクになります。おめでとうございます。しかし、初日でDランク上限なんて聞いたことがないですよ……」

「偶然じゃないですかね、では今日は失礼します。ネード商会で服を新調しないとダメみたいなので」

「はい、いってらっしゃいませ……」

 伊織はギルドを出て左折し、ネード商会へ向かう。

 流石に目立つので小走りになってしまうのは仕方がないだろう。


 ネード商会へ着くと、店員へ話しかける。

「すみません。伊織って言いますけど、セレンさんいますか?」

 セレンとミルラは貴族の子女だと聞いて知ってはいたが、ここは知らないふりをする伊織。

 そう言ったとき、奥から聞き覚えのある声がした。

 出てきた声の主はセレンだった。

「あら、伊織さん……ってどうしたんですか? その恰好」

「いえ、ちょっと討伐依頼を受けてきまして。そのときにこうなってしまったんです。それで、服を新調するならここかな……と」

「は、はい、それでご予算はいかほどでしょうか?」

「そうですね、さっき稼いできたのが。確か、金貨十一枚って言ってたかな。それで間に合いますか?」

「──金貨十一枚……どうやったらそれ程稼げるのでしょうか?」

「えっと、コボルトが二百三十匹くらいでしたっけ。一気にかかってきたので、よく憶えていないんですよ。終わったら周りにどっさりと……」

「いいですか、銅貨百枚で銀貨一枚になって。銀貨十枚で金貨一枚になるんです」

「はい、ギルドで聞きました」

「普通の小さいパンがですね、銅貨一枚で買えるんですよ。宿屋もいいところを借りても一日銀貨一枚超えることはありません……」

「なるほど……」

(銅貨が百円くらい、銀貨が一万円、金貨が十万円くらいになるんだ。えっ、ということは今日の稼ぎって、百十万……)

「えっ、えぇええええ!」

「解ってもらえたみたいですね。ここではなんですので、奥へどうぞ」

「は、はい……」

 自分の稼いだお金の単位にちょっとびびった伊織だった。

 アルバイトもしたことないのに、今日だけで百万円相当を稼いでしまったのだ。

 仕方のないのことである。


読んでいただきまして、ありがとうございます。

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