第103話 ゆったりとした時間
話が終わると伊織はガゼット、ジムを連れて冒険者ギルドへ向かった。
ギルドにはミルラが受け付けて半分のびている。
「あ、お兄ちゃん。受付終わったよー。ケネスちゃんがいなかったらヤバかったかも。つかれた……」
伊織はミルラの頭を撫でながら。
「お疲れさま、ミルラ」
「イオリさん。お疲れさまです。凄かったですね」
「うん。ケネスさんもお疲れさま。あとで皆で晩ごはん食べるからミルラと一緒に来るといいよ」
「はい。ご馳走になります」
伊織はケネスから各家庭の登録簿の写しをもらう。
ガゼットが冒険者を集め終ると馬車を数台用意する。
「そしたらね、この場所に各家族がいるから、ブロックごとに配達お願いしたいんだけど」
「聞いたか」
「「「「「はい。ガゼットさん」」」」」
「なんだよこの空気?」
「こら、お前も働くんだよ。ジム」
「えっ。いきなりかよ」
「じゃないと、晩飯なしな?」
「仕方ねぇな……」
ジムが渋々振り向いた先には鬼の形相のガゼット。
「何か言ったかな? ジム君」
「いえ、なんでもありません。さて、頑張るかなー」
伊織は方面ごとに馬車を配置して家具を乗せていく。
全部の配達が終わったのは日が暮れる寸前だった。
皆で集まって食事をしたあと、部屋に戻った伊織は机に向かっていた。
机の上には穀物酒の瓶とグラスがひとつ。
最近の伊織は、暇ができると魔石を使った簡単な魔法陣の開発をするようになった。
物づくりに目覚めてしまった伊織はとあるものに没頭している。
グラスに入った酒を一口舐めては手を動かす。
くだらないものを作りながら飲むのがこの街へ来てからのライフワークになってきていた。
地魔法の応用なのだろうか、伊織には実に肌に合う魔法だった。
今の伊織にはどんなに細かいクズ魔石でも素材になってしまう。
集めてくっつけてしまえばいいだけなのだから。
小さな魔石を適当に合わせて細さ五ミリ程度の棒状に加工する。
握り手の部分から先まで滑らかに加工していくと、先端を匙状にしていく。
素材を無視するなら見た目だけはクリスタル製の耳かきなのだろう。
そこで伊織は余計な一工夫をする。
マールから写しをもらった簡単な魔法陣の書いてある手帳をめくる。
ある魔法陣を見て先端に細かく彫り込んでいく。
匙状になっている部分に、明かりを灯す魔法陣を描き込んだのだ。
少し魔力を流すと匙の部分がぽうっと光る。
なかなかの出来に自画自賛中の伊織。
(これなら誰でも耳掃除が楽しくなるぞ……)
間違いなく力の無駄遣いをしている。
コンコン……
そんなときドアを叩く音が聞こえた。
「はい、開いてますからどうぞ」
伊織はドアには目を向けず返事だけをする。
この時間ならマールあたりだろうか。
いつも酒を横取りしにくるのだから。
「あの、お邪魔します」
「ん?」
振り向くと声の通りセレンがそこにいた。
カチャン
それも後ろ手に鍵を閉めている。
「あれ、セレン。珍しいですね」
呼び捨てにするようになってから結構経つが、言葉尻は丁寧になってしまう。
伊織にとっても姉のような存在だからだろう。
「何を作られてるのですか?」
伊織の肩口に顎を乗せるような形で伊織に近づくセレン。
ふわりといい匂いがする。
「これです」
「あら、この形は……耳かきですか? それにしては不思議な素材でできてますね」
「はい。魔石なんです。採掘現場で出た使い物にならないクズ魔石を集めて作ったんですけど」
「そんなことができるのですか」
「他の人は知りませんけどね。もったいないから無駄にできないなーって。あ、そうだ。ちょっとこっち来てもらえますか?」
伊織はセレンの手を握り、ベッドへ連れていく。
「そ、そんな。私、まだ。結婚するまでは……」
左手を頬に当てて恥ずかしがるセレン。
鈍感な伊織はそんなセレンの気持ちにはお構いなしにベッドに座るとセレンを横に座らせる。
「よっと」
「──イオリさんがどうしてもというのであれば。でも、心の準備が……」
伊織はセレンの頭を抱くと、自分の膝の上に乗せた。
「えっ。あれ? 膝枕?」
「はい。動かないでくださいよ」
「えっ。何を? あっ……いやっ」
伊織はセレンの耳に耳かきを差し込むと、魔力を少しだけ流した。
セレンの耳の中でぽうっと光る耳かきの先。
「ほら。変な声出さないでくださいって。うん、美人さんは耳も綺麗なんだね。お、よく見えるな。ちょっと取り残しがあるぞ……」
ぞぞぞぞ……
「そんなところを誉められても困りますっ! あっ。あぁああああ……」
セレンの体中がびくびくと震える。
ぞぞぞぞ……
「いやっ。あっ。でも気持ちいい……すごく幸せだわ」
セレンは目を閉じて、快感に体を預ける。
ぞぞぞぞ……
「あっ。うん……あっ」
セレンは足の付け根あたりをもぞもぞさせて悶えている。
なんと色っぽい声だろう。
耳かきをしてもらったことはあっても、したことがなかった伊織には新鮮な経験だった。
「はい。今度はこっち向いてくださいね」
セレンの身体ごと伊織の方に向いてもらう。
何も考えずに伊織のされるままに反対を向いたセレンの目の前には、伊織の股間がアップになって視界に入る。
「ちょっと、イオリさん。これはさすがに恥ずかしいです」
セレンは起き上がって伊織の逆側へ座ると、こてんと頭を膝に乗せてきた。
「何が恥ずかしいんだろう? ま、いいでしょ」
相変わらず鈍ちんの伊織だった。
ぞぞぞぞ……
「あぁあああ……」
伊織の手が止まった。
「あん。もっと……」
上気した表情のセレンは伊織に継続を求める。
その表情を見た伊織は生唾を飲み込んだ。
「は、はい。終わりです。なかなかの出来だったな。ご協力ありがとうございました」
セレンは顔を真っ赤にしながらも、伊織の手から耳かきを取り上げた。
ベッドの中心へ移動して座ると伊織に手招きする。
「はい。今度はイオリさんの番ですよ。こっち来てください」
「あ、はい」
伊織は一瞬きょとんとしたが、セレンの膝の上に頭を乗せた。
セレンは手ぬぐいをストレージから出して準備をする。
「覚悟はいいですね? 私初めてですから」
「えっ。はい、覚悟しました」
伊織の返事が少しずれているのに気付いたセレンはくすりと笑った。
「これ何が違うんですか?」
「少しだけ魔力を流すと先が光るようにできてますね」
「なるほど。では、動かないでくださいね」
セレンの魔力でもぽうっと光る。
ぞぞぞぞ……
「おおおおおお……」
「これは便利ですね。耳の奥までよく見えますよ」
「そのために作ったんです。これで耳かきをする人も楽しいのではないかと」
ぞぞぞぞ……
「おおおおおお……」
ぞぞぞぞ……
「おおおおおお……」
「セリーヌちゃんが言ってたのはこれだったのね。イオリさん、うるさいです」
「はい。ごめんな──」
ぞぞぞぞ……
「おおおおおお……」
その伊織の反応に気分をよくしたセレン。
自分に全てを預けている無防備な伊織。
「はい。今度はこっち向いてくださいね」
伊織が頭を上に向けた瞬間。
「少しくらいいいわよね」
セレンはあまりの伊織に対する愛おしさに、顔を近づけて伊織にキスをする。
「んっ」
伊織も気持ちよかったのでされるがままになる。
すると伊織の口の中にセレンの舌が入ってくる。
「あむぅ。んちゅ……んっ、ぷはっ……はっ、つい夢中になってしまいました」
セレンから香る薄いいい香り。
マールともセリーヌともまた違う。
若干脳が溶けているような気持ちのいい感覚に身を任せる伊織。
「はい。こっち向いてくださいね」
そして伊織の視界に入ってきたものを見て、伊織は慌てて身体を起す。
ベッドの上をどすどすと歩き、反対側に寝て頭を乗せた。
「どうしたんですか?」
「はっ。これは確かに恥ずかしいわ」
「はい?」
「今日は白なんだね」
「えっ。あっ……もうっ!」
パシンッ!
伊織の頭を叩くセレン。
「はい、動かないでくださいね。耳の中怪我しちゃうから」
「うげ。お、お手柔らかに」
ぞぞぞぞ……
「おおおおおお……」
ぞぞぞぞ……
「おおおおおお……」
なんだかんだ言っても、仲のいい二人。
この耳かきはネード商会の人気商品となるのでった。
【二人の仲を縮めます。光る耳かき、予約販売始めました】
そんな看板が店頭に飾られていた。
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