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第98話 街がそれらしくなってきた

 最初の人たちを迎えて一週間ほど経った。

 その間に色々なことが起きている。

 結局ミルラがギルドのサブマスターへ就任してしまったり。

 ジータの街でギルドの受付していたマールの元同僚ケネスが辞めて来てしまった。

 彼女はマールの次に人気のあった受付担当で、今は受付の新人の子の指導などを一手に引き受けている。

 この街へと移り住んだ冒険者は早くも三十人を超えていた。

 マールによる個別の面接をジータで終えていたので、しっかりした者たちしかいなかった。

 もちろんマールが気に入らない人は、面接で落としていたのは言うまでもない。

 建築関連の技師も来ているせいか、伊織の方の段取りは思ったよりも早く進んでいた。

 窓枠や、ドア、配管のチェック等は技師に任せているので伊織はひたすら建てていくだけ。

 ギルド会館の裏手のブロックと、道を挟んで向かいのブロックには集合住宅が20棟ほど建ってしまった。

 一フロア四世帯の四階建てで、三二〇室になる。

 この時点でダムの人口を全てカバーできてしまうくらいだ。


 その晩、セレンと伊織は打ち合わせをしていた。

「この国は庶民の数は把握されていないって言ってたよね」

「そうですね。正確な数はその地域を任されている騎士爵や男爵も把握できていないと思います」

「ということは、数百人増えたところで問題はないってことでいいのかな?」

「大丈夫でしょう。この土地は農地としても土が肥えていて適していると評価も出ましたし。魔石の加工も産業として成り立つと思います。数百人受け入れたところでびくともしないでしょうね」

「それなら、アールヒルド家とクレイヒルド家の肝いりの事業ということで、国境に話を通して置けば一気にやってしまえると考えていいかもね」

「はい。その辺は大丈夫です」

「あっちの王都まで街はいくつあったっけ?」

「はい。確か三つだったかと」

「それなら徐々に計画を進めていったとしたら約千人いなくなるってことだね」

「十分国力を削ぐことはできますね」

 伊織もセレンも物凄く悪い笑顔をしていた。

「マールちゃん。魔女が、怖い魔女が笑ってるよ……」

「しーっ。片方は怖い化け物なんですから……」

 二人とも覗いているのがバレていないと思っているのだが。

 気が付いていたセレンと伊織は呆れた顔をしていた。


 あえてこの街に城壁を作らなかったのは、街を広げる予定だったからであった。

 西側には墓地があるので広げることはできないが、あとの地域は広げることは可能だ。

 最終的な街の人口は千五百人を超えることになるだろう。

 今後ネード商会はジータの方が支店になる形になるのだろう。

 ギルドの方はというと、低ランクの女性冒険者から受付業務を募ると数名が採用になった。

 ミルラを軸に冒険者ギルドはいま普通に動き始めている。

 彼女自身も最近ギルドの仕事が楽しくなってきたところらしい。

 セリーヌもセレンの秘書として十分な働きをしている。

 セレンの秘書の仕事をしながら、ネード商会の従業員を指導している。


 フレイヤードの総人口はおよそ三千人。

 そのうちの三割以上を移住させてしまうのが今回の計画だった。

 その足掛かりとして、ダムの街を丸々移住させてしまうことが最初になる。

 大き目の馬車を三十台ほど用意すれば全員を乗せていけるはずだ。

 前に置いてきた麦もそろそろ底をついてしまうかもしれない。

 ゆっくりしている時間はなくなってきているのだ。

 明日あたりセレンとマールを連れてダムの街へ行く予定になっている。

 セレンの話では、ダムの街を管轄している領主は女性だという。

 そして領主ですら生活が苦しくなっているという話を聞いているそうだ。

 おそらく住民の負担を軽くするために自ら多く税を納めているのだろう。

「──と聞いていますね。その女性領主は騎士爵らしく、かなり無理をしているとも……」

「それは会ってみたいな。もしかしたら賛同してくれるかもしれない」

「ただ、その領主にとっては亡命になってしまいますから。争いの火種にならないとも限りません」

「大丈夫。そのときは俺とマールだけでもなんとかできると思うから」

「先生。手加減しなくてもいいいのであれば、私一人でも十分だと思うんですけど」

「だから、駄目だって」

 へたに自信をつけてしまったマール。

 確かにマール一人で一つの軍と同等以上の火力をもってしまっている。

 でも、それでは駄目なのだ。

 あくまでも悪いのはあの王女とそれを許している王族だと伊織は思っている。

 騎士や兵士たちはただ従っているだけにすぎないはず。

 伊織だって身内に手出しさえされなければ荒事にしたくはないのだ。

 だが、今回の計画は国として喧嘩を売るようなもの。

 最悪の場合、伊織が先頭に立つことも仕方ないと思っていた。

「もし何かあったとしても、マールは人を殺めちゃいけない。怪我をさせれば相手の戦意は奪えるんだからね」

「はい。でも……」

「いいんだ。もしものときは俺やる。まぁ、そうならないように気をつけるよ。戦わないで勝つのが一番いいんだからね」

「はい。先生」

「セレンはとにかく交渉事を頼みたい。俺には無理だから」

「はい、任せてください」

「この街に今のところ【もしも】はないと思う。俺と数人ならば、一呼吸で国境へ行って防衛できるはずだし。ガゼットさんとメルリードさんはセリーヌとミルラたちを見ていてほしい」

「うん、わかったわ」

「おう、嬢ちゃんたちのことは任せてくれよ」

「とにかくしばらくは荒事にするつもりはないんだ。そのときがきたら、二人の力を借りるつもりだけどね」


 夕方、伊織はセリーヌを連れて街中を見て回ることにした。

「イオリさん、いいのかしら。仕事サボっちゃって」

「いいんだ。明日から少し会えなくなるかもしれないからね。それに約束してたでしょ、帰ってきたらって」

 二人が歩くと、あちこちから声がかかる。

 手を振る人も沢山いた。

 皆伸び伸びと仕事をしているようだ。

「あの事件からまさかこんな日がくるなんて思ってませんでした」

「うん。忘れちゃいけないけど。辛いことだけじゃいけないんだ。だからこの場所に街を作ったんだよ」

 商人も多数入ってきている。

 軽い軽食の店や、雑貨屋などはもう商売を始めているようだ。

「セリーヌのところのお姉さんたちにもさ、何かできるように考えないとね」

「そうですね。それは私の夢でもありますから」

 セリーヌは伊織の腕を抱いて寄り添って歩いている。

 二人は軽食の店で一緒に食事をしたり、雑貨屋を見て回ったりしてその日の夕方まで過ごしていた。


読んでいただいてありがとうございます。

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