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9.西北軍の騎士団を視察するよ!

「だんちょー。入り口で女の子が泣いてたから、保護して来たっすー」

「アレックス、おめーはいっつも軽いんだよ! 簡単に俺の執務室に連れてくんな! 何のための応接室だよっ!」


 廊下を見れば、昨日も会った子爵令嬢様が、ぺたーんと座り込んで泣いていた。いつでも来いとは言ったが、ちょっと早過ぎやしませんかね? お守りの人ドコー?


「おい、保護者はどこだ? 従者の1人くらい連れて来てるだろ?」

「それが、見つけた時は1人だったでやんす。近くのやつが嬢ちゃんの話を訊いてたんですが、泣き出しましてね。顔が怖かったんだろうと、あっしが代わって連れて来たってわけでさあ」


 はぁ、何にも訊き出せてないわけか。まあいい。どうせ先日の用件だろ。


「解った、子爵令嬢様は俺が応接室にお連れする。おめーは何かお飲み物をご用意して差し上げろ。5分以内だ、急げ!」

「はいよっ!」


 俺はなんとかエリー様をなだめすかして、応接室に案内した。テーブルにはくまさん柄のマグカップに苺ジュースが入れてある。

 アレックスの野郎、こういう気配りはできるのに、集団戦時の気配りはさっぱりってぇのはどういうこった? 部下の指導は後ですることにして、エリー様からお話を伺わなければ。

 俺はエリー様にジュースを勧めると、話を切り出した。


「エリー様、早速のご視察ありがとうございます。おそらくフレッドの件とは思いますが、その、お供の方はどちらに?」

「はい、今日はフレッド先生とのお約束で、1人で参りました。ああ、こちらの訓練所まではメイドのミリアムに送ってもらいまして、夕刻までフリータイムにしてあります」


 このご令嬢、3歳児の年相応にピーピー泣くかと思えば、大人同様の受け答えもできるんだよな。もしかして……?


「お気付きかと思いますが、一応ご説明を。先生には先日お話をしてあるのですが、私は異世界からの転生者です。騒がしい生活が嫌なので、将来的に独り、自給自足の生活を目指しております。可能であればご理解ご協力をいただけますよう、お願いいたします」

「……解りました。では、普通の3歳児同様に接するくらいでよろしいですか?」

「助かります。私は他人と接するのが苦手なもので、言葉が硬くなってしまいますのはご容赦を。異世界の知識を求める方を最小限にするご配慮と、秘密が漏洩しないよう年相応の扱いをお願い致します」


 ぐはあ、やっぱ転生者だったかー。誕生パーティーの時も、妙におとなしかったから気にはなってたんだよなあ。

 それを見つけ出したフレッドはたいしたもんだ。スレイア男爵令嬢のトイレについて行くような男ではあるが、人を見る目は曇っちゃいなかったようだな!


「解りました。では、今日はフレッドに何か知識をお授けくださるのですか?」

「はい、お約束ですので。約束を守らず、私が異世界人であるとばらされるのは怖いですし」

「エリー様は絶対に、私が守り、守らせます。ご安心ください。では、フレッドを呼んできます」

「あ、診察室にいらっしゃるのでしたら、私が参ります。実践が必要な知識ですので」


 異世界の知識は貴重なものだ。不埒ふらちやからが狙ってくることをおそれての判断だろう。

 何にせよ、自領のお姫様を害させるような失態は、テルネラントの騎士としてやらかすわけにはいかんからな。

 俺はエリー様の手を引いて、気合を入れながら医務室へと向かった。


 ◇


 ぶええええー! 恐いこわいこわー!!!

 軍隊って恐いから近寄らんとこ……というわけにもいかず、頑張って「ごめんくださーい」って言ったら、恐いおじさんに睨まれました。もう泣くしかないです。

 メイドのミリアムさんに付き添いをしてもらって、西北軍騎士団駐屯場まで来たのはいいですが、フレッドさんに会う前に恐い騎士さんたちに会わなきゃいけないって忘れてました。ぶえええええ!


 ミリアムさんも町に遊びに行っちゃうし、もうどうしようもありません。諦めました。

 ごめんなさいもう帰ります蹴らないで下さい、って言おうとしたら、事務所の奥からチャラい系のお兄さんが来て、団長室まで連れてきてくれました。ありがとうチャラい人。


 団長のマックスさんの顔を見たら、ちょっと気が抜けてへたりこんでしまいました。みっともないです、ぶええええ。


「エリー様、立てますか? 担ぎますか?」


 ぶええええ。昨日のフレッドさんみたいな『お米様だっこ』はごめんですー! 頑張って泣き止みました。


「ふむ、では応接室にご案内いたします。こちらへどうぞ」


 応接室に着くと、鼻腔をくすぐる甘いかほり……苺か!

 チャラい人が苺ジュースを用意してくれていたようです。ありがとうチャラい人。

 むはー! 果汁100%のほんまもんのジュースやでー。前世の日本に持って行っても表示違反とか言われないやつやでー!!!


 くぴくぴジュースを飲んでいると、マックスさんが目の前のソファーにどっかり腰を下ろして、尋問が始まりました。やっぱり知ってる顔でも恐いもんは恐いです。


「エリー様、早速のご視察ありがとうございます。おそらくフレッドの件とは思いますが、その、お供の方はどちらに?」

「はい、今日はフレッド先生とのお約束で、1人で参りました。ああ、こちらの訓練所まではメイドのミリアムに送ってもらいまして、夕刻までフリータイムにしてあります」


 そうなんだよねー。ミリアムさん、町でのフリータイム目当てで私のわがままに付き合ってもらったって感じだったから、駐屯場に着いてすぐにどっか行っちゃったんだよねー……。

 ああそうだ。団長さんも先生から何か聞いてるかもしれないし、先手打っておきますかー。


「お気付きかと思いますが、一応ご説明を。先生には先日お話をしてあるのですが、私は異世界からの転生者です。騒がしい生活が嫌なので、将来的に独り、自給自足の生活を目指しております。可能であればご理解ご協力をいただけますよう、お願いいたします」


 うん。どうしても秘密って漏れちゃうからね。先生みたいにちょっとしたことで気付いちゃう人もいるわけだし、こっちも口止め口止めっと!


「……解りました。では、普通の3歳児同様に接するくらいでよろしいですか?」

「助かります。私は他人と接するのが苦手なもので、言葉が硬くなってしまいますのはご容赦を。異世界の知識を求める方を最小限にするご配慮と、秘密が漏洩しないよう年相応の扱いをお願い致します」


 うむとばかりにうなずく団長さん。怖いけど、もう私にはお願いするしかないんだよ!


「解りました。では、今日はフレッドに何か知識をお授けくださるのですか?」

「はい、お約束ですので。約束を守らず、私が異世界人であるとばらされるのは怖いですし」


 あくまで秘密を守ってもらうための取り引きだ。独り立ちして逃げられるようになるまで、異世界人ということは秘密にしてもらわないと、私を利用したい人たちがわんさかやって来ることになりかねないもんね。


「エリー様は絶対に、私が守り、守らせます。ご安心ください。では、フレッドを呼んできます」

「あ、診察室にいらっしゃるのでしたら、私が参ります。実践が必要な知識ですので」


 放尿魔法なんて、お掃除が簡単な場所でやらないと後が怖いもんね。応接室でやらかしたら、目も当てらんないわ。

 診察室や処置室なら、怪我した騎士兵士の皆さんの患部を洗う施設くらいあるでしょ。


 私はマックスさんに引きずられながら、フレッドさんのいる場所に向かった。

 ……マックスさん、手を握りながら「ふぅうーーーん!」とか唸らないでください。私が幼女だからって興奮してるんでしょうか。なにそれ別の意味でこわい。


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