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6.誕生パーティーを切り抜けろ! 前編

「こんにちは。お誕生日、おめでとうございます」

「こ……こんにちは。あの、ありがとうございます……」


 私は今日、精一杯のおめかしをして、アラン子爵様のお屋敷に来ています。目の前のお人形のような女の子、エリー子爵令嬢の3歳の誕生日パーティーにお呼ばれしたの。


「あら、ちゃんとご挨拶ができますのね。ご立派ですわ」

「お、お褒めいただき、ありがとう……ございます……」


 ご両親や使用人以外と話すことが滅多になかったのでしょう。とてもはずかしがりやさんみたい。

 でもこれからは、私が5歳のお姉さんとして、一人前のレディに仕上げてみせますわ。お父様と約束したんですもの。

 私、将来はお父様と同じように、男爵の位をいただいて、町を発展させて行きたいと思ってますの。エリー様は子爵になられる方なので、一緒に頑張らせていただきますわ!


 お父様とアラン様は、お母様たちとラブラブで町にショッピングに行きました。エリー様にプレゼントを買ってらっしゃるそうよ。

 私もお誕生日にはぬいぐるみなど買っていただきましたし、エリー様もきっと楽しみにしてらっしゃることでしょう。


 大人の人はみんな出掛けてしまいました。ここに居るのは私とエリー様だけです。

 少し心細いですが、お姉さんとしてエリー様をリードして差し上げないといけません。レディとして頑張らなくては!


「……あの、スレイア様。お庭をご案内いたしますね……?」

「あ、は、はい!」


 え、あれ? 私がリードされた? このままではお姉さんとしての威厳が!

 ……いや、ひょっとして、お友達ができたのが嬉しくて、お庭を自慢したいだけかもしれない。うん、きっとそうよ。


「エリー様は、毎日お庭をお散歩なさってますの?」

「いえ、お庭に出たのは、あまり……。おうちから、見ていただけですので」


 あら、体が弱いのかしら? 少し鍛えた方がよろしいかもしれません。剣術や魔法が使えないと、立派な領主にはなれませんもの。

 剣術はまだ無理にしても、魔法は練習できるはずですわ。


「お庭で魔法などは、練習してませんの?」

「少しなら、使えます」


 エリー様は、道端にしゃがみこんで、お花を摘んできた。蕾などはどこを見渡しても無いのですけど!?


「差し上げます。回復魔法で、咲かせました」


 私はまだそよ風を吹かすことくらいしかできませんのに、歳下のエリー様は回復魔法まで使いこなしてらっしゃる……。少し落ち込みました。


 そんな私を見てか、エリー様は町のお話を聴きたいとおねだりしてきました。気遣いのできる、本当に良い子です。


 歩き疲れて、お屋敷に戻ろうと話していましたら、玄関のドアがばーんと開いて、ヒゲだらけの大男が突然駆け寄って来ました。

 あまりの恐ろしさに泣きそうになりましたが、私はお姉さんとして、エリー様を守らないといけません。

 頑張ってみましたが、足がすくんで全く動けず、エリー様が大男に捕まって泣き出してしまいました。


 その後のことはよく覚えておりません。

 メイドが高速で大男を始末したとか、茂みに放り投げたとか、夢でも見たのでしょう。

 気が付けば、山のようなお菓子を食べ、エリー様のお部屋で遊んでおりました。


 ええと……もうすぐパーティーですのに、お腹がいっぱいです。どうしましょう……?


 ◇


 無事におやつ危機を切り抜けて、お部屋の中に避難できました!


 とりあえず、ハロルドさんはなんとかならないかなー。元騎士団長だけあって、武力的なカリスマはもちろん、領内の問題解決能力はピカイチなんですけど、とにかくめっちゃ怖いんです。

 ぱっと見の恐さというのもありますけど、なんか目の仇にされているというか、いつ襲撃してくるかわからないという怖さです。

 うーむ、やはり軍人さんとしては、『戦えない者は不要だ死ね!』ということなのでしょうか?

 まあいいです。もう少し鍛えたらお家を出て行けますので、わざわざ殺しに来ることは無くなるでしょう。


 パーティー用のドレスにお着替えする時間になったようです。スレイア様は別のお部屋で着替えるのか、男爵様のメイドさん達に連れて行かれました。私は私で、着せ替え人形になっています。とてもつらい。


 さて、ミリアムさんに手を引かれてパーティー会場に入ると、皆さん拍手で迎えてくださいました。

『子爵令嬢を粗末にするということは、俺を粗末にするということだ』ですね、おとうさん。父の権力という薄皮1枚で首が繋がっている現実に寒気がしてきました。早く逃げたいです。


 一応立食パーティーではありますが、子供用にテーブルが用意されていました。スレイア様が先に腰掛けてらっしゃいます。

 おや、髪飾りには私が魔法で咲かせたアカツメクサとシロツメクサの花が飾られています。ゴマスリは成功したと思っていいでしょうか? だめ押しで、もう少しスリスリしておきましょう。


「あの、お食事をお持ちいたしましょうか?」

「ありがとうございます。でもまだ、あの、お腹が減っていませんの……」


 ああ、あの量のおやつ食べたら、ちょっとやそっとじゃお腹が減らないでしょう。迂闊うかつでした。

 では、回復魔法でちょいと調整してみましょうかねー。


 回復魔法って、知識先生の話を要約すると、『生体の化学反応を促進したり抑制したりコントロールする魔法』らしいんだわ。

 反応機構は、『魔力で生化学的エネルギーであるATPの量をコントロールし、生合成反応やら輸送反応をコントロールする』という流れ。

 前世世界の生化学やら医学薬学を知っていれば、めっちゃいろんなことが薬無しでできちゃうよねー? すごいチートだわ。知ってればこの世界の人でもできる技術ではあるんだけどねー。


 怪我したとか欠損したとかなら、合成反応を促進させて、適切な形になるようにアポトーシスもコントロールせにゃならんので、かなり高レベルの【回復魔術】スキルが必要なんだけど、糖分の排出くらいならレベル1でも十分。

 腎臓で糖分を再吸収してる輸送体を、一時的に止めてしまうだけ。1つの操作だけだから、めっちゃ簡単。

 ちなみに輸送体の限界を超えるくらい血糖値が上がり過ぎてる病態が糖尿病。最近前世の世界でもこの輸送体をブロックして糖を排出する薬が販売されてます。おでぶ系の人にはダイエット効果もあるとかで、大変おいしい薬です。


 輸送体をブロックするデメリットは、浸透圧の関係で物凄くおしっこが出る点。

 しばらくトイレと友達になるけど、その後に美味しいもんいっぱい食べられるんだから、総合的にプラスよね。

 メイドの1人に声を掛けて、スレイア様をおトイレに案内してもらったので、恥をかかせること無くミッション完了!



「……面白い術ですね……」


 部屋の隅の声に気付かないまま、私は無事にトイレから帰還したスレイア様の手を取って、ご馳走の山に突撃するのであった。


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