37.誕生パーティーを切り抜けたいんですけどね? 後編
9月頭の数日間、接続障害で書いたやつが消えましてね……。3回も。
Dosってなんじゃー!
MS-DOSってやつかー!
おのれマイクロソフト!(いいがかり
精神的に回復するまで今までかかりました。
今日は我が最愛の娘、エリーが5歳を迎える特別な日だ。丁度冬の社交シーズンではあるので、このかわいらしさをたっぷりと、近隣の貴族連中に自慢してやらねばなるまい。
「あなた! お料理のテーブルがあれ1つで足りるわけがないでしょ!? 早く物置から同じのを3つ出して! それとデザートコーナー用のは丸テーブルで5つ、急いで!」
「監督、それもう終わった。テーブルクロスはどれ?」
「あらグゥさんは気が利くわねー。それに引き換えウチの唐変木ときたら……」
う、うむ。流石にギルド推薦の冒険者は先読みまでできるようだな。素晴らしい人材を雇えて、ヨカッタヨカッタ。
「あー、俺は招待した方々の名簿を再チェックしておくので、後はヨロシク」
現場監督をやってる妻の機嫌があまりヨロシクなさそうなので、そそくさと書斎に逃亡することにした。
数ヶ月ほど前から俺が治めているテルネラント領内では、娘が開発したという農業魔法とやらでとうもろこしから砂糖を量産し始めたらしい。
俺も1度農業魔法を使う娘をこっそり覗いて見ていたのだが、季節に関係無くその場で作物が採れるという、異世界人並みの非常識な技術だった。
自領から兵站革命を起こせると喜んだのだが、方法を聞こうとして話し掛けるとエリーは泣きだしてしまうので、未だに聞き出せていない。頭を撫でて宥めようとすれば、さらに怯えて柱の陰に隠れてしまう始末。何故だ。
それはそうと、とうもろこしからの砂糖の生産は国全体に影響を及ぼす、我が領の基幹産業になるだろう。砂糖は今まで南方の国々からのさとうきび糖しか入手経路が無かったため、菓子類は高級嗜好品なのだ。自領で通年大量生産可能となれば、かなり安価に供給できるようになるはずだ。
その絡みで、あまり会いたくは無いのだが、財務大臣をやっている義父のカイル侯爵を招くことにしたのだ。おそらく同伴者として、砂糖流通に関わる役人やら取引先になってくれそうなどっかの領主を連れて来てくれるだろう。
……これはギブアンドテイクだ。割り切ろう。義父はエリーが生まれてすぐから「孫に会わせろ」とうるさかったのだが、今夜は初めて面会を許そう。親である俺でさえなかなか会えないのだ。光栄に思うといい。
「……ああ、そしてこれか。忘れてたな……」
名簿をつらつらと流し見ていたら、一応おまけ的に載せていた名を見つけた。俺が爵位と領地を得た後も継続して王都騎士団で魔物狩りをすることになった元凶で、軍務大臣将軍職に就いてる俺の親父のグレン侯爵だ。
こっちも孫だ孫だとうるさかったわけだが、確か王子殿下のお目付役に抜擢されたとかで、招待はしたが流石に城から出てこれねえだろ。ざまぁ。
要注意人物はチェック完了。あとは俺が家の応接間でやつらを引きつけておけばいい。エリーとの面会は、パーティー終了間際の一瞬に留めるよう、キリアと連携してやろう。
万一暴走して庭の会場に飛び出す奴がいたとしても、名医だとキリアから紹介されたひょろひょろ騎士のフレッド魔術医官を招いているわけだし、どんな事にしてしまっても問題には発展しないだろう、うん。
では準備も上々、時間も頃合いである。タイムスケジュールによれば、今エリーはステージに隣接した楽屋で準備しているはずだ。是非とも娘に激励を送らねばな! 今夜の為に、貸衣装屋には大金を支払ったのだ。俺の娘がどんなにかわいらしいことになっているか楽しみでしかたない。
「おーい、そろそろ時間だz……ぐふっ!」
楽屋の扉を開けた瞬間、ずがががーん!という衝撃と共にキリアの右拳が私の意識というスポットライトを消し、まぶたという緞帳が下りてきた。
残念。俺のエリーちゃん生誕祭はこれで終わってしまった。
◇
エリーのやつから情報をもらって、王都中の魔力の流れを辿ってみたわけだが、今はどこもかしこも普通の大地による龍脈から成る気の流れしかないでやんの。
女神グゥは普通の人間のように擬態して、完全に潜伏してしまったわけだ。俺とカケイが冒険者として活動しているヤツに接触した時と同じように。ヤツが注意して気配を消している間は全く人間と見分けがつかないから、非常にやっかいなんだよな……。
ま、いっか。ショウリ師匠の文字通りヘビーな修行からは脱出できたこったし。
俺は身も心も軽々と、自分の店に戻った。
「社長! どこ行ってたんです!? 今日はテルネラント子爵邸で、プレゼンやるって言ってたじゃないですか。もう予行練習の時間なんかありませんよ!?」
ドアを開けるやいなや、俺は従業員に拉致られることになったようだ。
……あー、そういやエリーの誕生会に合わせて、各地を治める貴族を集めて新型魔道具の販促をするんだったかな。
どっかの世界で見たテレビショッピングの社長のモノマネをして見せたらウチの社員にはウケたみたいで、俺がステージに立ってレンジだの掃除機だのにあれこれセットで販売するトークを披露するって話になってたっけ。
「そんじゃぶっつけ本番でやるわ。セットの内容と価格、オススメポイントのレジュメはくれや」
道中でレジュメを脳みそに焼き付けたわけだが、子爵邸に踏み込んだ瞬間、真っさらに消え去った。
「灯台下暗し、ってか」
女神がいた。お祭りの裏方仕事やってた。冷めた料理を下げるというタテマエの下で、自分の胃袋に収納していた。
俺やカケイと冒険者やってたときそのままな行動をしているこの女は、お祭りスタッフとして冒険者ギルドから派遣されてるということだろう。
しばしの間放心していたら、カケイがやって来た。
俺がショウリ師匠の相手や女神探しをしてる間、司会進行をしてくれたらしい。ステージはエリーのマジックショーが終わって、第1幕後の休憩に入ったようだ。
「それでは師匠。あの女神様をなんとか捕まえないと」
「ああ、どうするかな。あいつはプラズマを使うから物理拘束なんか意味無いしな」
「じゃ、説得して協力してもらう方向で」
奴の使うプラズマ魔法つーか、奴の本性そのものは、自由気ままの気の向くまま。まるで幽霊みたいな存在だからな。縄で縛ろうがどっかに閉じ込めようが、するりと抜けられるから意味が無い。壁抜けなんぞお茶の子さいさいてなもんだ。『何処にも在り、何処にも無い』とも呼ばれるような奴の存在は、実際の幽霊なんかよりはるかにタチが悪い。
ともあれ俺たちは、彼女が放蕩生活してるうちに彼女の気が暴発して世界が壊されないように、コントロールの協力を申し出るのが一番ってとこだろう。
「で、お前はグゥに気付いておきながら、何で今まで放置を?」
「1人でやっても逃がすだけでしょうに。師匠がここに来るはずなのは、工房のスタッフから聞いてますからね。待ってましたよ」
むぅ、手痛い返しが来た。いらない仕事をさせちまったのは、正直すまんと思っている。しかし有効活用はさせてもらおうか。
「司会の代役は助かった。ついでだが、奴にお前の存在はバレてるわけだから、そのまま説得してきてもらえるか? 今逃げてないのは、お前は接触OKってことだろうからな」
「貸し2つですよ、師匠」
「お、おう」
カケイが説得、俺は逃げても追跡できるように、周囲を警戒する。
おや、グゥの側に男がいるな。あいつは……クックか? グゥとパーティーを組んだ時に、奴のパートナーとして一緒にいた男だ。異世界人ではあったが普通の人間だったはずだが、俺達天仙のような異世界転移の可能な術でも持っていたのか……?
カケイが2人に話しかけて数分後。
グゥの背後、屋敷の壁が突然爆発した。
おいカケイ。おま、どんな説得しやがったーーーっっっ!!!???
◇
珍しい。昔冒険者としてパーティーを組んだ仲間と再開した。と言っても、俺は遠目で彼女のステージを眺めているだけだが。
初めて彼女と会った世界に、また戻って来れたのだろうか? 俺とグゥは一緒に何度も異世界転移を繰り返してきたわけなので、確率としてはざっと無限大分の1だ。奇跡としか言い様が無い。
「たまに良くある」
それ、矛盾してて頻度よく分かんないからな!?
スタッフと書かれた腕章と『冷めたお料理処理係 グゥ』と書かれた名札を付けた相棒が、焼きそばを片手にドヤ顔で語る。
「次に転移する世界なんて未知だから、いるかいないかどっちになるかの確率は50%。行ってみてから初めて確定する」
シュレディンガーの猫じゃねーよ! もっとこう、複雑な要素あんだろ!
「今この世界にいることは確定した。これで100%」
あーもー! こいつにゃ、広大な世界の広がりに思いを馳せるってえロマンを解する心はねえのか。ヤケだ。俺も食ってやる。
貴族様の小間使いのバイトを終わらせてグゥのバイト先で合流することになっていたわけだが、まさか以前いた世界でパーティを組んでいた美女のカケイさんと、この世界で合流することになるとは驚いた。
……まあ、世の中どんなに驚くようなことだってありえないわけじゃないんだ。ちょいと大きめの規模で気を集めたくらいで神様が出来上がるような実例もあるこったし、「そんなこともあるだろう」くらいで収めておくのが精神衛生上適切だ。
「唸ってないでこれ食べる。結構美味しい」
お、おう……。
グゥがよそってくれたチャーハンを一口食べると、ごま油と焦がしネギの風味が口の中全体に広がった。
やべえ。冷めてレンチンしたチャーハンだというのに、このレベルの高さはどうだ。おそらく屋敷の入り口付近で中華鍋を振るっているメイドさんの作品だとは思うが、まさかここまでの質の中華料理をこの世界で食えるとは思ってもみなかった。
「親方の料理は、異世界人の師匠に教わった正統派。お昼のカニチャーハンも美味しかった」
おま、昼夜連続チャーハンかよ! ……ま、この味なら毎食でもアリかな。
一息ついたところで、俺達はお貴族様の贅沢な夜会料理をパクつきながら、今日の情報交換を始めた。
「お前の気がダンジョンで澱んでたみたいでな。雇い主のパーティがそこのモンスターハウスに突撃したようで、かなりヤバかったぞ。後片付けした俺の腰もヤバいし」
「多分そのパーティに、この誕生日パーティーの主役がいたはず。瘴気に染まってたから、治しといた。この役目は治療のご褒美」
グゥが『冷めたお料理処理係』のネームプレートをドヤァと見せてくる。はいはい、よくやったよくやった。
「……あー、そんじゃ坊ちゃんもこの会場にいるのか。会ったら気まずいから、気を付けねえとな」
「あら、私と会うのも気まずかったかしら?」
空になった俺の茶碗にプーアル茶を注ぎながら、タイトなスーツ姿の美女が話しかけてきた。
「ステージの方はもういいの?」
「ええ。あなた方とお話し合いの時間よ。お久しぶりね、グゥとクック」
以前パーティを組んだカケイさんで間違いなさそうだ。
あの時はグゥの暴走が唐突だったから、ろくに挨拶できなかったんだよなー。転移寸前に結構凄そうなスキルが生まれてたから、お詫びにと2人にプレゼントしてきたんだけど。
「今日はね、2人にお願いに来たの。特にグゥ、あなたの気が暴走しないように、警戒させて欲しいの。いいかしら?」
「構わない。転移しなければゆっくり暮らせる」
「ああ。願ったりかなったりだ。何度も異世界に転移してきたが、時々死人が出るくらいヤバいエネルギー量だからな……。尸解はさせてきたけど、寝覚めが悪いんだよな」
話を聞けば、最初に会った時も暴走抑制が目的だったんだそうだ。その後も異世界転移を繰り返して、追いかけてくれていたらしい。
「……遷人? えー! カケイさんって、天仙だったの!?」
「一応は八仙の一人よ。何仙姑って呼ばれてるわ」
八仙といえば、仙人界のトップクラスじゃないか。なにそれこわい。
「では、このパーティーが終わったら、リョガン師匠とも合流しましょう。呂洞賓。彼も八仙の一人なんだけど、知ってるかしら?」
「仙人の中では最も有名ですよ。前の世界でご一緒してた、あのリョガンさんがですか……」
心臓に悪いくらいの大仙人の協力を得られることになり、気が抜けたその瞬間。
ちゅどどどーーーーーーん!!!!!
「豪快なおじさん出てきた」
「あれはご同類ですか?」
「……はい、八仙です」
屋敷の壁を豪快に吹き飛ばして、中から芭蕉扇を持ったメタボのおっさんが現れた。
「いやー、リョガンの気配を追って転移してみたものの、ちみっと座標ミスったかな?」
会場内は突然の爆発に、パニック状態だ。
カケイさんが指を鳴らすと、どこに隠れていたんだか解らないが、リョガンさんがおっさんを一瞬でどこかに連れ去った。
こちらにもカケイさんからアイコンタクトが飛んでくる。了解。
「只今のは、異世界名物の祝砲『壁花火』でございます。私達ドーヒン魔道具工房からのささやかなサプライズプレゼントを、どうぞお楽しみくださいませ!」
何が壁花火だ。異世界名物って言えばいいってもんじゃねーぞ! ……ありゃ、皆さん納得してるの? 腑に落ちないが、まあアイコンタクトの指示通りにやっとくか。
「グゥ、直上の二階と三階も順番に壁花火だ」
「了解」
ちゅどーん! ちゅどどーーーん!!!!!
うん、グゥのプラズマ魔法が派手に決まったな。
壁の修繕は大仙人サマ達にお任せでいいだろ。
さて、客も落ち着きを取り戻したようだし、俺もステージの出し物の続きを観ながら腹一杯食わせてもらおうかな。




