19.情報整理なんて朝飯後ですよ!
今日いらっしゃるとアポイントメントを取っていたリョガンさんはしょうがないとして、あの女は何様のつもりなんですかね? 朝っぱらから押しかけて来ておいて、エリー様と一緒の食卓ですか。礼儀のれの字もなっていませんわね。
……あ、ご挨拶ですか? ふおー! 王都でも有名なデザイン菓子工房の新作タルトですってー!!!
いえいえなんでもございませんですお嬢様。ただいまブレックファストプレートに、焼きたてのパンと新鮮なミルクをご用意いたしますので、しばしご歓談くださいませ。
それにしても異世界人の使う空間魔法はすごいですねえ。フルーツが瑞々しいまんまじゃないですかー! うふふふふ。
「おう、イノシシのねーちゃんじゃねえか。頑張ってんな」
「……ミリアムと申します。よしなに」
「ミリアムさん、今日はお邪魔いたします」
「リョガンさん、もう忘れてあげて……」
ちょっとー、リョガンさーん? 反省してるんだから思い出させないでよねー。リョガンさんのプレートのソーセージは1本減らしておきますね。エリー様とお嬢様はお優しい方ですので、スクランブルエッグをマシマシにしておきましょう。
ちなみにあのイノシシは、倉庫に入れて熟成させてあります。血抜きをしてから熟成させること4日で完成です。あと数日で、テルネラント領主館でお仕事をしている役人さんたちや、使用人たちの胃袋に収まることになるでしょう。
メイド部隊では家政婦長さんを筆頭に「味噌仕立てのボタン鍋にしようね!」ってことで話がついています。家宰のハロルド様が隠し持ってた、高級調味料を見つけちゃったんですよねー。味噌やら醤油やらカレー粉やら、他のお料理も楽しみで仕方ありません。
なんでも東方の調味料を異世界の方々が見つけてきて、少しずつ量産できるようにはなってきてるらしいですが、まだまだ我々には高嶺の花なのです。我々は良い上司を持って幸せですわー。
「おや、おはようございますエリー様。今旦那様を捜しているのですが、ご存知ありませんか?」
「おはようございますハロルドさん。お父さんなら、山にしばかれに行きましたよ」
「いつものアレですか。ならばしばらくは戻って来ないですね。……ところで、そちら様はどなたですかな?」
噂をすれば何とやら。ハロルド様が食堂にやってきました。そうなんですよねー、奥様が旦那様を引きずって、裏山に行っちゃったんですよねー。あと1時間くらいは暴風地帯になってるはずなんで、誰も近付けません。
ハロルド様はエリー様のお客様方に興味を持ったらしく、ご一緒の席に腰掛けました。まあ貴重なお味噌をいただけたことですし、コーヒーの1杯くらい給仕してあげましょうか。
「ほう、エリー様のお力を借りたいと。エリー様はご聡明ではあるが、まだ幼いので冒険は無理かと思うのだが……」
「ああ、俺たちは冒険者だが、エリー様を冒険に連れ出そうってわけじゃねえ。ちょいと知恵を借りに度々お邪魔するんでよろしくって話だ。安心してくれ」
「そうでした、お口に合うかは解りませんが、こちらは先日王都でオープンしたばかりの和菓子屋さんで求めましたお団子です。どうぞお試しください」
ほほう、まだ空間収納に隠してるブツがありましたか。これは小豆餡と醤油餡たっぷりのお団子ですね? 見たところ硬くなっている様子も無く、とても美味しそうです。軍に居た時はスルーしてたんですが、これは空間魔術の教えを請う必要があるかもしれません。
まあ、コーヒーのお茶請けとしてお団子を出してくる点は、甘いと言わざるを得ないですが。……いや、上手いこと言おうとしたわけじゃないですよ?
「エリー様に実際行っていただきたいのが、情報の整理ですわ。私たちが持ち込んだ情報を【知識】のスキルで精査して確度を上げていただきたいわけです。お願いできますか?」
エリー様はコップに残ったミルクを全部飲み干すと、大きく頷きました。
◇
げーっぷ! やっとお腹いっぱいです。朝食も食べないうちから難しいお話をされては、頭の中に何も入ってくるわけないでしょ?
それにしてもこのカケイさんって人、ただの優しいおねえさんかと思ってたんですが、やっぱり異世界人だけあってしたたかっぽいですね。うちの使用人たちの力関係を的確に見抜いた贈り物攻撃をしてきます。たぶんお母さんに会ったらホールケーキを出して、お父さんに会ったらビスケット1枚出すかどうかって判断すると思います。
「それで、どんな情報を何すればいいんです?」
「まずはユニークスキルの情報をお願いします。それから、それが今どれだけ生み出されているのかを」
はいよー。知識先生ー、ユニークスキルって何? どれだけいるのー?
「私の兄弟でしたら、原初の女神から流出した、物事の根源にアクセスする能力です。私はこの世界の知識である、アカシックレコードにアクセスできる能力です。現在、リョガンさんの【峻厳】まで確認できましたので、少なくとも6つの兄弟が発生しているはずです」
なるほど解らん。リョガンさん達に判断してもらお。
「ユニークスキルに関しては、なんか『物事の根源にアクセスする能力』って言ってます。あとリョガンさんの【峻厳】で6つ目だってー」
「うわ、領域は分割されてるが、ボスレベルの管理者権限スキルじゃねえか。」
「私達の【慈悲】と【峻厳】、ボスの【王冠】、エリー様の【知識】、あと2つですね」
ふーん、ボスさんもユニークスキル持ちなんですね。カバラ準拠だとすると【知恵】と【理解】もあるんでしょうけど、まだ見つけてないからアンノウン、と。
そんじゃ知識先生以外のスキルの能力を、順番に聞いてみましょかね?
「【慈悲】は生命力を与えることに関するスキルにアクセスするスキルで、【回復魔術】【蘇生】などのスキルを引き出せます。【峻厳】は逆に、攻撃魔術系などの生命を奪う方に関するスキルにアクセスできるスキルですね」
ほほう、生命力に関して対になるスキルなのね。万能統合スキルは便利ですねー。では、【王冠】のスキルは?
「【王冠】は、『無』にアクセスして、無限に創造できるスキルです。魔力さえあれば、世界の創造や改変が可能です」
へ? チート中のチートスキルですよね?
「あの……リョガンさん達のボスさんって、神様か何かですか?」
「神様そのものだけど、言ってなかったか?」
「師匠、言ってませんよ。エリー様が混乱なさってるので、最初から順番に説明しましょうよ」
他の世界も含んだ全世界が滅亡するとかいうお話が、急に現実味を帯びてきました。
私は大きくなったら、この世界で楽しいぼっち生活を目指すんです。勝手に滅亡されては困ります。究極の意地悪です。断固として逃げなければいけません。
「はい。最初から今に至るまで、詳しくお願いします」
私達は、ぽかーんとしている使用人達の邪魔にならないよう、応接間に場所を移した。
もちろん、お茶とお菓子はたっぷりと用意してね!