16.イモ掘りほーい!
ここから新展開の開始です。
かなーり大風呂敷を広げてます。
少し日差しが強くなってきましたが、私は今日も元気に子爵邸に向かいます。週1回のフレッド先生がいらっしゃる日ですので、体調は万全に整えているのです。
子爵令嬢のエリー様はなんでも異世界人の転生者だったようで、まだ3歳だというのに、新しい魔法や魔術をフレッド先生にご教授なさっています。
お友達になってすぐから、私にも魔法を教えてくださっていたのですが、まさか異世界人とは思っておりませんでした。
異世界人とは、みんなが幸せになれるように、神様が遣わしてくださる尊いお方です。何人かはこの世界にいらっしゃるようですが、こんな身近にいるなんて普通はまずありません。
エリー様は、私にフレッド先生とのお茶会を毎週プレゼントしてくださる非常に尊いお方です。ええ、私の忠誠は全てエリー様に捧げました。
エリー様は何でもできる素晴らしいお方なのですが、少々臆病な所がありますので、そこを私がお守りすることにしました。お父様にも宣言してあります。
そんなことを考えながら歩いていますと、エリー様のお屋敷に到着しました。
……玄関の辺りで、大騒ぎしている男がいますね。不審者でしょうか? エリー様が恐がるので、排除しないといけませんね。
「エリーちゃーん! お父さんを置いて行かないでくれー!!」
……アラン子爵様でしたか。エリー様がミリアムさんの陰で恐がってらっしゃいますので、やっぱり排除しないといけませんね。いつも通り、王都で魔物狩り任務でもしててくださいませんかね。
「おはようございます、子爵様。これは何の騒ぎですの?」
「おお、スレイア殿か。聴いてくれ。エリーがこれから森に薬草採集に行くと言っているんだが、護衛はそこのヒョロい医者とメイドだけだそうだ。魔物も出る場所に、騎士が同伴しないわけにはいかないだろう?」
なるほど、ヒョロい医者とは、ご領主様といえどあまりの雑言ですね。討ち入りされても知りませんよ?
そもそも、薬草の知識が無い人が突然混ざっても、足手まといになるだけですから、強い弱いではなくご遠慮いただきたいのですがねー。
という訳で、絶対阻止します。使用人のミリアムさんや部下のフレッド先生では強く言えないでしょうから、私が頑張るしかありません。
「フレッド先生は医師でもありますが、基本は西北軍騎士団所属の魔術騎士様ですよ? しっかり同伴いただいてますので、ご心配は無用ですわ」
「し、しかし、魔術騎士ならば後衛だろう。前衛ができる武術騎士は必要だ!」
「……ミリアムさんがいますよ? だめ?」
おお、エリー様が勇気を振り絞って反撃なさいました! 素晴らしい成長ですわ!
「エリーちゃん? 強いお父さんが守ってあげるから、一緒に行こうね?」
「やー!!!」
エリー様が泣いてしまいました。ミリアムさんもフレッド先生も困ってるじゃないの。……かくなる上は、アレしかありませんかね?
と、思った瞬間、しゅごごごごという音と同時に、アラン様が地に這いつくばるさまが展開されました。
アレことキリア様が助けに来てくださったのです。呼んできてくださった家令の方、ありがとうございます。
「エリーちゃんを恐がらせたら、ダメでしょう? ゆっくりと子育てについて、お話をしましょうねえ?」
キリア様は、幾つもの打撃を受けたボロ雑巾を引きずりながら、玄関へと消えて行きました。
「さて、では参りましょうか? ああ、アレはいつもの事ですので、お気になさらず。今日はお弁当に唐揚げを用意してありますよー!」
ミリアムさんは通常運行で、エリー様の手を引いて森に向かいました。あ、待ってください。フレッド先生の意識がまだ帰って来てません!
◇
今日も朝から大変でした。お父さんはかなり過保護な気がします。成長してからの農耕牧畜狩猟採集生活を始める障害になりそうです。
あんまり解ってもらえないので、今日もぶええええって泣いてしまいました。みなさんの前でみっともないです。
かくなる上は、薬草採集で汚名挽回するのです! あ、名誉返上でしたっけ? まあどっちでもいいです。
今日の採集の目的は、糖尿病の末梢神経障害対策として、漢方薬を調合してみようというものです。
グルコースからソルビトールになる反応を抑える、エパルレスタットって成分の合成がすんごい難しいですし。あ、作るだけなら作れるのよ。材料と機材集めにすんごいお金かかるだろうってのが、すんごい難しい点ね。
そんな訳で、安めに作れる漢方薬なのです。
作る処方は、『八味地黄丸料』です。丸薬作るの面倒だから、煎じ薬にします。
使う生薬はだいたいが街の薬屋さんで買える物ですが、めっちゃ高かったり、薬として使うには処理が不適切だったりと、幾つかは自前で採集した方がいい物です。
特にトリカブト。これはしっかり弱毒化しておかないと、コロリと死んじゃう毒薬です。製法をフレッド先生に伝え、完成品はうちのハロルドさんと西北軍のマックスさんの2人が試して大丈夫だったらしいから、問題無いです。
それで今日の目標は、北の森に生えてるらしいヤマイモです。自然薯とも言います。生薬名はサンヤクと言い、ステロイドなどの成分が男性ホルモン作用や抗炎症作用、血糖降下作用などを持っているとかで、足腰が弱ってきたドルフ男爵様には適切な薬です。
いざとなったら、私がまたソルビトールを抜きに行けばいいのですが、普段から血糖コントロールをしてもらえば楽になります。
ああ、フレッド先生はあのおしっこ魔法は使えるようになったようで、基本的に1日3回、食後2時間後におトイレで魔法を使ってあげてるとか。
そんな会話をしながら歩いてますと、森が見えてきました。結構深い森で、確かに魔物が居そうです。
こんな事もあろうかと! とマッドサイエンティスト根性で、新偵察魔法を完成させてきました。
魔力波形を利用する技術は旧偵察魔法で確立しましたが、今回は魔物などの種族固有の魔力波形を読み取って、位置を把握する魔法です。
新魔法かと思ってたんですが、知識先生によると【サーチ】というスキルとして、既にあるとのこと。がっくりです。しかも野生のカンでなんとなく使える人がほとんどなので、魔法の括りに入って無いんだとか。
「それじゃ、安全確保してきますねー」
その野生のカンで魔物を見つけては、すっぱんすっぱんと踵落としで屠って行くミリアムさんを横目に、私は自然薯さんの位置を【サーチ】で見つけては掘り返して行きます。
イモをぽっきり折らないように、慎重に掘り進める必要があるので数はこなせませんが、私達は着実にゲットして行きます。見つけたイモは、水魔法で周囲を柔らかくしてから、フレッド先生に丸投げです。スレイア様も手伝って、通常は2時間くらいかかるようなイモ掘りも、1時間くらいでできるみたいですね。
「これを掘ったら帰りましょうかねー」
私が3本目のイモに水魔法を使い、みんなに声をかけた時です。スレイア様とフレッド先生のイモ掘り組の向こうに、熊の魔物が現れました! ミリアムさんの姿はありません!
「逃げてー!」
私は叫びながら、水魔法で水球を作って目潰しを試みますが、魔物の勢いは止まりません。
熊が今にも2人に襲いかかろうとしたその時、ズバン!という音と共に、熊の正中線から血が噴き出しました。
「のんびりイモ掘りしてんじゃねーよ。ここは魔物の巣だぜ?」
両刃の剣を背中の鞘に戻しながら、その青年は呆れたようにため息を吐いた。
「ありがとうございます! 助かりました」
私達3人がお礼を言っているところに、ミリアムさんがイノシシを担いで、ドヤ顔で戻って来ました。
時間が止まるというのは、こういう状態を指すのでしょうね。
風邪でほぼ1週間死んでました。セフカペンとアモキシシリン使って、ようやく回復してきました。
まだ咳が続きますので、カルボシステイン飲んで寝てますね。