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15.お弟子さんができたよー

 ふううううぅぅぅぅぅ!


「やった……な」

「ええ、ぐったりですね……」

「ふたりともー、帰るわよー?」


 キリア奥様が申し込んだ西北軍騎士団との演習を無事に終え、儂はため息を吐いた。

 ここまで激しく動いたのは数年ぶりなので、少々息が上がってしまったようだ。


「それで『軍神』様は何人やったの?」

「延べで20人くらいか? それともう軍に居ないんだから軍神はやめてくれ。……そうじゃな、『エリー様親衛隊長』ならいいぞ!」

「そんなガキっぽい二つ名文化をウチの騎士団に持ち込まないでくれねぇか? ああ、手洗い用のバケツを用意させたから、清めてから中に入ってくれや」


 お相手してもらった西北軍騎士団の長を務めるマックスがわざわざ手洗い水を用意してくれた。有難く使わせてもらおう。

 このマックスという男は儂より10ほど年下なのだが、なんのかんので10年以上はよきライバルになってもらっている。というわけで、今日もまた北西軍の指揮官役として付き合ってもらったのだ。


「マックスさんは、私が騎士団にいた頃より腕を上げたのではなくて?」

「いやはやお恥ずかしい。まだまだ未熟ですよ」


 儂らが今回やった模擬戦は、騎士役を数人使って3人の賊役をどのように鎮圧するかという定番訓練だ。個人の技量の他、部隊リーダーの判断や指揮官の戦術指導の技術を磨くための、総力戦に近い訓練になっている。賊役はサバイバル技術を磨く訓練になっており、騎士団役から1本取られる前に、目潰しや急所狙いをしてでも包囲を掻い潜って、ゴールに辿り着けば勝ちとなる。

 マックスはゴツい見かけとは裏腹に細かい気配りのできる男で、部下からの信頼は厚いため、今日は危うく連携でやられそうになったのだ。


「いやいや、魔術騎士と武術騎士の連携を指揮するあの手腕には参った。攻め手に1人お前クラスの者が入っていれば、奥様はともあれ儂とミリアムはまずやられていたな」

「いやいやいや。普通の賊3人を相手するなら、あの騎士10人を出せば、余裕で鎮圧できるからな?!」


 1回戦は騎士団役を5人で始めたのだが、武術騎士2名が迂闊に速攻をかけて、奥様の手刀とミリアムのハイキックで瞬殺されたため、2回戦から騎士団役を10人に増やすことになったのだ。

 儂はまあ見た目で判断されてしまう方だから敬遠されたようだが、ミリアムもなかなかの手練れである。甘く見過ぎだ。

 奥様のご結婚を期に、儂とミリアムも雇い主を軍からアラン様個人に変えたので、4年も経った今では知らない者も居ることだろう。儂もミリアムも、一応は当時の領主軍で二つ名持ちだったんだがのう。

 当時は奥様の真似で身体に魔力で武装するのが流行っておって、ミリアムの奴なんかは特に足への風魔法武装が得意で『俊足のミリアム』などと呼ばれてたもんだ。足技だけなら奥様以上の使い手だというのに、迂闊に近寄るなんぞ愚の骨頂よ。


 しかし最後の方では、魔法武装の真似ができてきた奴らを隠し玉にされて、奇襲を受けたのでやられかけたのだ。これはマックスの采配が見事だったというしかない。


 儂らがエリー様を迎えに医務室に向かうと、フレッド先生の診察室前に人だかりができていたのだが、儂らの顔を見た瞬間に蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。


 失礼な。


 ◇


「その治療法はどのようなものなのかね?」

「はい、血液中の糖分を強制的に排除する魔法が見つかりましたので、それを継続的に行い、正常な糖分量を維持しようというものです。しかし、魔法のコントロールが難しく、現在修行中といったところですね」


 おやフレッド先生、ちゃんと治療法の組立てまで終らせてましたか。流石はプロですね。

 ですが、目の前のドルフ様の治療としてはちょっと足りないので、補足しておきましょう。


 優しそうなおじいちゃんです。……怖くない、こわくない……。まずは前に出てご挨拶から始めましょう。


「こんにちは、はじめまして。私は領主アランの娘で、エリーと申します。父がいつもお世話になっております」

「これはご丁寧に。私はここの代官をさせていただいております、ドルフと申します。お嬢様は、今日は病院の見学会か何かですかな?」

「はい、フレッド先生のお仕事に興味がありまして、無理を承知でお願いしてしまいました」


 私はフレッド先生に目で合図を送ると、ドルフさんの足に触れた。とりあえずは、下肢の神経から改善を始めてみましょうか。

 神経内のソルビトール合成を止め、フルクトースへの変換を促進します。……あれ、意外と楽に終わってしまいました。

 では、壊れてる末梢血管の修復も……すぐ終わりましたね。


「ドルフ様、エリー様は異世界からの転生者で、今の師匠なのですよ。色々と教えていただいております」

「ほう、異世界の……」


 なにしれっとバラしてくれてますかこのイケメンはーっ! ……もういいです。ここにはもう来ません。もう決心しました。


「あまり他の方に話さないでください。それとドルフ様の足は私の方で治しておきましたので、痛みは無くなっているはずです。フレッド先生は口が軽いので、治す方法は秘密にします」

「そんな、エリー様、お許しください……」

「フレッド先生は相変わらず、夢中になると周りが見えなくなるようだな。自業自得じゃが、私を治療してくれる者がいないと困ります。私からも、何とかお許し願えませんでしょうか?」


 ふむー、ドルフさんを継続治療できないのは困るかー。私を拉致監禁してでも治療させようと、軍を派遣されたら一大事だし。

 それと、さっきからスレイア様の殺気が背中に刺さります。いや、先生をいじめてるわけじゃないんでご勘弁ください。

 ……分かりました、スレイア様。アレですね?


「では週1回、私のおうちまでレッスンに通うのはいかが? スレイア様は週3回通ってらっしゃるし、先生もご一緒に」


 スレイア様をチラ見したら、すっごいいい笑顔でぐっじょぶサイン出してます。隣のキャロルさんは仕事に穴ができるので、渋い顔をしています。どないせいっちゅーねん。


「話は聞かせていただきました。謝礼は『ボン・ソワール』のケーキ払いとします!」


 ぱーん!と診察室の扉を開けて入場して来たお母さんが、高らかに宣言した。ああ、もっと食べたいんですねわかります。美味しかったですもんね。


「個数は4個とします! エリー様お付きメイドとして、これは譲れません!!」

「フレッド先生の財布の中身が滅亡するから、やめて差し上げろ」


 ミリアムさんの主張を、ハロルドさんがたしなめます。お母さん、私、スレイア様の分はいいとして、しれっと自分の分を入れてるところが怖いです。


「研修費は私が出すよ。エリー様、キリア様、スレイア様を交えて、お茶をしながらしっかり勉強して来てくれ」


 うわー、ドルフ様かっこいい! お金をぽーんと出せるオトナはモテますよー!

 一方、ケーキの用途を限定されたミリアムさんがぐぬぬってました。たった一言で悪巧みを壊滅させる手腕もかっこいいです。


 私達は3時くらいに西北軍本部を出てきました。ドルフ様のお見送り付きです。久々に足が自由に動かせるようになったのが嬉しいらしく、この後修練場にも顔を出すそうです。


 朝はミリアムと乗り合い馬車で来ましたが、帰りはみんなで自家用馬車です。

 スレイア様とおしゃべりしながら帰ってるわけですが、来週からイケメン先生と魔術訓練できるようになって、えらい興奮してらっしゃいます。ええ、鼻息が文字通り荒くなってます。

 一方、私はといいますと、グルコースだのフルクトースだのと少々頭を使いましたので、疲れが出ています。

 ブドウ糖より果糖が多めな蜂蜜たっぷりのホットケーキ食べたいとか思いながら、テンション高いスレイア様の相槌マシーンになって道中を過ごしましたとさ。

 おやつ無しだからね!仕方ないね!!

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