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12.お母さんタコる

「ちょっと貸してくれるかい?」


 フレッド先生が、魔術師用の的当て練習場に1レーン確保してくれました。的は破壊力を確かめる藁案山子ではなく、鉄球を鎖で鉄棒にぶらさげた物で、地水火風の4大魔法のどれでも的当て訓練できる優れ物です。


 お手本として、フレッド先生に何発か風魔法を撃ってもらうことにしました。

 おおお、すげー! イケメン白衣のフレッド先生が、すっぱんすっぱんと的に風魔法当ててるわー。女性魔術騎士や兵士の一団が、キャーキャーと黄色い声を上げたくなるのも解ります。それを見た男性魔術騎士も負けじと魔法を撃ち始めるので、だいぶ訓練効果があったことでしょう。

 フレッド先生は指先に込めた魔力を使い、ピストルのように右手を構えて撃っていました。かっこいいですね。他の魔術騎士さんたちも、胸の前で両手を開くやり方から切り替えたようですが、【魔力操作Lv2】を習得してないもんだから、発動しませんでした。かっこわるいですね。


 では、私も試しに1発撃たせてもらいますか。

 今回は【魔力操作Lv2】の練習なので、私も先生と同じく指先に集めた魔力を使って風魔法を使います。


 風魔法は、空気に力を加えて操作する魔法全般を指します。ほとんどの人は、そのまま風を動かすだけで終わっちゃうのですが、流石に軍のレベルでは空気を一点に集めた圧力を開放することで、風を強化する方法を指導しているようです。この技法では、空気を集める力に加え、推進力を得るための反作用の力も同時にコントロールしなければなりません。

 そんなわけで、てのひらに集めた魔力を使って胸の前に空気の弾を作り、反動に耐える筒状の壁を作り、弾を開放する、というのが風魔術による空気砲の術の流れなのですが、私と先生は魔術操作で銃をイメージしてやっております。ですがここで私、間違えちゃいました。

 指先に集めた魔力を使って空気の弾を作り、弾が走る筒を作り、弾を発射するために筒内でもう1つ圧縮していた空気を開放して、着弾したら弾の方を開放する、という手順にしちゃいました。銃のイメージが、前世での鉄砲に引きずられました、てへっ!

 私の手元のばしゅっという小さい音に続いて、的の鉄球に着弾した瞬間ずどぉん!って……。


「……ごめんなさい」


 私はすぐに謝りました。

 鉄球が鉄棒にぐるんぐるんと鎖で巻き付いて、メンテナンスが必要になったんだもん。あの重い鉄球を、鉄棒の周りをぐるぐると上下運動させて戻さないといけないんですよ? 私にできるわけがないので、誰かに労働させてしまうことになるわけです。大変申し訳ございません。


 みなさんぽかーんとしてましたが、私が謝るとすぐに私の周りを取り囲みました。


 ぶえええええ! 私、わるいこでした! ごめんなさいごめんなさい! フレッド先生、空いたレーンで練習再開してないで助けてください、お願いします。筋肉のムキムキが責めてきます、いや攻めてきますですか? どっちでもいいから助けてー! ぶええええええ!


 涙も枯れ果てるかと思ったその時、ずがごぎゃーん!とばかりにものすごい音がして、魔術騎士さん達が地面に転がり、死屍累々となっていました。


「……エリーちゃんを泣かせたのは、どなたですかぁ?」


 私は、お母さんが舞踏のように滑らかな動きをしながら、とてもにこやかな笑顔で魔術騎士さん達に質問しているのを、ただただ見ていました。


 ◇


「あら、キャロルちゃんお久しぶり! 今日は訓練に?」

「ううん、今日は先生とお客さんの子守りよ」


 魔術騎士隊にいた頃の同僚に見つかったので、誤魔化すことにした。なに、『お客さんの子守りwith先生』と聞こえるようにしただけだ。『先生&お客さんの子守り』が正解だが、外聞悪いし。


 いやあ、それにしてもご領主さんとこのお嬢様、3歳だというのになかなかたいしたもんです。あれはたぶん、お母さんのキリア様に似たんでしょうねえ。


 領主様の奥様になられたキリア様は、元は領主軍騎士団魔術騎士隊に所属していた風魔法の使い手でした。

 魔術騎士隊の風魔法使いの役割としては、空気砲をぶっ放す後衛がメインなのですが、彼女は風を身に纏ってぶん殴るのがメインの戦闘スタイルなのです。

 ほら、強い風の日に後ろから風を浴びると、速く動けるでしょ? あれあれ。

 で、付いたあだ名が『風神キリア』。伝説では、10匹ほどの狼の群れを単騎で生け捕りにしたとか、魔物化した熊の土手っ腹を素手で貫いたとか。

 そんな武勇にも拘らず、流麗な動きで見る者を魅了するもんだから、大変モテモテだったみたいです。猪突猛進な動きで『雷神』と呼ばれていた、領主のアラン様に見初められるのも当然というわけですわ。

 そんな2人の子供が規格外なのも当然というわけでしょう。先生と団長の会話から、異世界人であるとは判りましたが、そもそもそれ以前に超人だったってことです。


「派手にやったもんだねー。あの鉄球は流石に魔術騎士だけの力じゃ無理でしょ。武術騎士のパワー型を2〜3人呼んできて」

「はいよ」


 元同僚の女性魔術騎士は苦笑しながら、武術騎士達の練習場の方に駆けて行った。

 あの鉄球は、熊レベルの大型の魔物を想定して、200kgほどの重さで作られている。魔法で体制を崩す訓練では、玉1つ分の距離を振り子運動させれば合格だ。それを鉄棒大車輪させる3歳児とか、超人以外に何と呼ぶ?


 まあ3歳児は3歳児か。すごい物を見せられた騎士連中の賞賛に囲まれて、びっくりして泣いてるくらいだし。って、フレッド先生!? 呑気に隣のレーンで練習再開とかしてないで、エリー様を見ててくださいよっ! やれやれだね。


「あんた達! 子供相手に何やってんだい!」


 伝説の子供をあやそうと一歩踏み出したその時、魔術騎士連中が一斉に地に這いつくばった。

 人間で作られた魔法円の中央に立つその姿、まさに『風神』という伝説だった。


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