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11.お母さん怒る

「異世界人は規格外とは聞いてますけど、びっくりさせないでくださいよ……」

「ごめんなさい……」

「すまん……」


 突然の健康診断終了後、私とマックス団長さんは2人並んで仲良くフレッド先生から怒られました。

 なんでも一般的には、魔力って自分の体内のやつしか使えないんですって。【魔力操作】のレベルが低すぎですよあなた達!って言う前に規格外認定されちゃってしょんぼりです。

 魔力を使い過ぎたら、ぽってり倒れるみたいです。

 そりゃー待合室の患者さん全員片付けたら、看護師さんも先生も、びっくりして検診するわけですわ。マックス団長も、一般的な話なら早く教えてくださいよー! え、「魔術のことはよく解らん!」ですか。脳筋でしたか、そうですね。


 そんなわけで、【魔力操作Lv2】以上のものは、オーバーテクノロジーであることが発覚しました。

 知識先生はあくまで万能『辞書』スキルなので、常識を教えてもらえるなんて求めてはいけないのです。

 そんなこんなで待合室の患者さんも空っぽになったことですし、少しばかり『常識的な』魔術をフレッド先生の方に教えてもらうことにしましょうか……。


「……はい、指先に魔力が集まったら、今度は空気中の魔力をそれにまとわりつかせるようにぐるぐるとー……って、なんで私が魔術講座開いてるの?」


 フレッド先生から軍隊式魔術訓練法を聞いていたのだが、気が付いたら私が教える方になっていた。

 生真面目なフレッド先生は、先日同様にメモ用紙を出してフンフンと聞いています。マックスさんはグゴーガゴーと船を漕いでいます。

 見よ。これがイケメンりょくとおっさんりょくの差です。インテリと脳筋の差ともいう。


「今までに無い画期的な知識だからですよ。……まあ、馬の耳に念仏とか猫に小判とかの人もいますけど」


 いやいやご謙遜を。軍隊式の方法も、私には役に立ちましたよ? 自分の体に蓄える魔力の容量を増やすためのトレーニング方法ですからね。

 普段は空中から魔力を取り出してそれを使ってるんですが、もし魔力が無い場所に行っても、体内に魔力がいくらか残っていれば、それを振り絞って最後まであがけるわけですよ。……まって、それしぼうふらぐ。

 いやいや、誰かに未来を託して死ぬとか無いから。ぼっちの独り暮らしでは、死ぬときもぼっちが理想ですよ。でも、人生は最後まで楽しく生き汚く全うするのがモットーです。


 おっと、魂が抜けかけた。

 それにしても、【魔力操作Lv2】くらいは使えないと自身の魔力を消費しすぎちゃって、回復魔法を使いきれませんからねー。準備のための準備に、1時間くらいかかりました。一所懸命に練習してた先生にスキルを確認してもらったら、使えるようになったということで、次行きましょ。


「とりあえず、【魔力操作Lv2】の習得はOKだったみたいなので、攻撃魔法か何かで実験してみます? 回復魔法だと患者さんがいないから、無理ですよね?」

「ああ、エリー様が全員治してしまいましたからね……。では、修練場で魔術を使ってみましょうか」


 フレッド先生は若干目から光が失われた表情をしたが、すぐに私の手を取って修練場に案内してくれました。

 マックスさんは、ただの大いびき発生マシーンと化していましたので、消毒液調整をしていた猫耳獣人看護師のキャロルさんと協力してベッドに寝かせてきましたから、しばらくは修練場の方が静かでしょう。

 ……あれ、キャロルさんも修練場に行くんです? 騒音から逃げるんですねわかります。


 ◇


 いつものようにテルネラント子爵邸に遊びに来たら、エリー様の姿が無かったので、お庭のお手入れをしていたキリア様に訊いてみることにしました。


「おはようございます、キリア様。エリー様はいらっしゃいますか?」

「あら、スレイアちゃんおはよう。エリーなら西北軍本部に行ったわよ。フレッド先生と魔法のお勉強するとか言ってたわ」

「西北軍本部ですね? 私も行ってみます」

「1人じゃ危ないわよ。私もエリーちゃんに会いたくなったから、ご一緒するわ。ハロルドー?」


 お屋敷の2階から、恐い顔の人が窓を開けて手を振っています。


「ちょっと西北軍の本部に行ってくるから、護衛を頼めるかしらー?」

「喜んでお供致しますとも!」


 ハロルドさんは、なんか一瞬でお庭に下りてきました。先ほどの窓からは、家令の人が何人か絶望の顔でこちらを見ています。


「みなさーん、ハロルドさんはお借りしますので、後はお願いしますねー?」


 キリア様がにっこり微笑むと、家令のみなさんは手をぶんぶんと振って応えます。……まあ元気になったのはいいことです。


 ハロルドさんが御者を務める馬車で1時間も行くと、北西部の中心街に着きました。メインストリートを軍本部に向けて走っていますと、なにやら見知った顔が買い食いしながら歩いてきます。

「あら、ミリアムさんがいらっしゃいますね」と言い始める前に、キリア様が私の隣の席から消え、ミリアムさんの前にいらっしゃいました。どんな魔法でしょうか?

 ミリアムさんも馬車で軍本部に行くことになりました。ミリアムさんの持っていたお菓子は、キリア様が私にくださいました。ポテトチップス美味しいです。


「さて、エリーちゃんの保護者として任せたはずですが、貴女は1人で散策を?」


 キリア様の笑顔がなんともお綺麗でした。対照的にミリアムさんの顔はなんだか青くなってる気がします。


「え、エリー様は、フレッド先生と、あの、秘密のお話があるとかで、夕方までお暇をくださったんですよー。あははは」

「あら、そうでしたの? エリーちゃんのお昼ごはんはどうするおつもりでしたの?」

「あっ! ……あははは……」


 次の瞬間、しゅごん!っと妙な音が聞こえたかと思うと、ミリアムさんが後頭部を押さえて涙目になっていました。ものすごいたんこぶです。

 結構な音だと思ったのですが、ハロルドさんはこちらを見ようともせず、一心不乱に馬車を御しています。恐い人だと思っていたのですが、真面目で誠実な方だったのですね! おかげさまで、すぐに軍本部に到着しました。


 エリー様とフレッド先生は秘密のお話をなさっているということでしたので、軍本部からすぐ隣の付属病院の方に馬車を着けました。二人きりでいらっしゃると聞いて、ちょっと胸がもやもやしています。急いで行きましょう! ……転んでしまいました。

 ちょっと涙目で病院の受付さんにお2人の場所を聞いたところ、修練場に行ってしまったとか。それならば、とハロルドさんが案内してくれました。なんでも昔は騎士団長をなさっていたとかで、軍の施設はお庭のようなものだとか。ああ、それでお顔が恐かったのですね。解りました!


 お外にある修練場に出ると、すぱーん!すぱぱーん!!と、ものすごい音が聞こえてきました。フレッド先生です。騎士のみなさんの注目を集めながら、風魔法で的の案山子を撃ち抜いていきます。


「先生、お疲れ様です!」


 私は近くの犬獣人兵士さんがタオルを配布していたので、ゆずってもらい先生に手渡した。汗を拭く動作1つ取ってもかっこいいです。


「ありがとう。おや、貴女は確かエリー様のお誕生会でご一緒だった……東南地区代官、ゼフェル男爵様のお嬢さんでしたか?」

「はい、スレイアと申します。いつも父がお世話になっております。ところで、先ほどのは新しい魔法ですか?」

「ええ、新しい魔法というか技術というか。エリー様に教わって、試していたところですよ」


 そのエリー様はというと……魔術兵や魔術騎士のみなさんに囲まれて、ぴーぴー泣いていました。エリー様は怖がりですからね。そんな恐い顔の人たちがたくさん近付いたら、泣いてしまうに決まってます。

 私は「お姉さんとして、助けに行ってきますね」と先生に宣言するやいなや、一陣の風が修練場を吹き抜けます。


 荒ぶるキリア様の先触れでした。

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