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陽日とお出掛け①

真冬の布団はミミック並みに誘惑力が強い魔性のアイテムだ。冷えたからだを包み込み、自らの体温で適温まで暖められたその空間は心地がいい。

一度はいれば二度と出れない、それはさながら迷宮そのもの。

マジ布団モンスターだわ。


「おにーちゃん!」


そんな布団とフュージョンを果たした新型生物、布団マンの名を誰かが呼ぶ。具体的には右サイドテールが呼ぶ。

しかし俺はぼうパンのヒーローのように語尾にマンをつけてはいるものの、愛と勇気だけが友達のぼっち宣言はしないのである。つまり俺に大声で助けを求めるだけ無駄だ。


ガチャ!


「おにーちゃん!」

「本日は臨時休業ですのでまたのお越しを」

「馬鹿なこと言ってないで朝御飯食べてよ」


右サイドテール通称陽日が俺の布団と言う外骨格をひっぱる。

あっ、通称と名前の位置逆だったな。


「はぁ。いくら寒いからって朝御飯は食べないと駄目だよ」

「ワタシ、ニホンゴ、ワカラナイ。ニホンゴ、ムズカシイ、オジョウサン」

「しっかり分かってんでしょうがっ!」

「いてっ」


布団こそ取り上げられなかったが、ベッドから引きずり落とされ冷たい床の上。それまであたたっかた体急激に冷やされ無意識に体が震える。


「はい起きて。で、陽夏ちゃん起こしてきて」


言うだけ言って陽日は出ていく。

こいつそれを俺に押し付けるためだけに起こしやがったのか?

陽夏とか超寝起き悪いじゃん。あいつも絶対布団マン、いや布団ウーマンになってるよ。

布団と平穏だけが友達なんだよコンチクショー。

仕方ない、陽夏を起こしてから二度寝だ。

そう決めて俺は陽夏の寝ている部屋に向かった。


ガチャ


布団をがっしりつかんで離さない手に布団にくるまった体、こいつやはり出来る。

布団くるまった眠り姫のベッドに近づき体を揺する。

急に大きな音を立てて起こすのは効果的だが圧倒的に不機嫌になってしまう。だから揺するなどしてなるべく不機嫌どをあげないように起こすのが正解。


「起きろ、朝飯できてんぞ。お前が起きてくんねぇと俺が寝れねぇんだよ」


頬を軽く叩きながら呟きかける。

しかしビクともせずだんだん俺のストレスがたまっていく次第。もうこいつの不機嫌とかどうでもよくね?


「やーだぁ」


強制連行。そうしよう。

無理矢理布団を引き剥がすのは同じ布団戦士としては胸がいたんだが何とか布団を引き剥がし、抱き抱えてリビングに降りた。

その間やはり寒いのだろう、両手を俺の背中でクロスさせ力の限りといった風に抱き締めいた。


「連れてきたぞ」


姉ちゃんは朝からお出掛けか、まぁ今日は新作のインタビューって言ってたしな。


「おにーちゃんやっぱロリコン?」

「違う、俺はロリコンなんかではない」

「てか陽夏ちゃん起きてないし」


そう、陽夏はいっこうに目覚めない。多分こいつが白雪姫だったら魔女も楽だったろうに。

毒盛らなくても眠り姫なのだから。

いやでも殺すから毒は盛るのか。


「ほら陽夏ちゃん起きて」


ダイニングテーブルの椅子に座らせると間髪いれず陽日がお越しにかかる。

因みにこいつが離してくれるまで十分くらいかかった。

そして陽日の努力が実り眠り姫は目覚めた。


「眠い」

「俺も」

「ほら朝御飯食べて、少し冷めちゃったよ」


いただきます。献立は一般的な物で、食欲のない朝にしては些か量が多い気もするがまぁ気にせずいただこう。

三十分ほどかけて朝食を取り終える頃にはすっかり目も覚めてしまっていて、二度寝する気にはなれなかった。陽夏はまた寝たけど。

食器を洗うと水が冷たくてやだなぁ。お湯にも出来るけど面倒だし。


「冷たかった」


テレビの正面のソファーに座り新聞を読み始める。ふーん離婚したんだ。

そんな俺に陽日が後ろから忍び寄ってくるのも察知できたが面倒なので放っておこう。


「おにーちゃん」

「どうした?」

「あれ、ロリコンなのに私に抱き付かれてキョドらないなんておかしいな」

「そもそもロリコンじゃねぇから」

「それより出掛けようよ」

「・・・・・・嫌だ寒い」


気温が四度前後で雪の降る真冬に用もなしにわざわざでかけるなんてありえない。俺はまだ凍死したくない。


「いいじゃん、こんな可愛い女の子が誘ってあげてるんだよ?即拒否どころか両手話で大喜びしてクレープの一つでも奢るべきだよ」

「クレープは別に構わんが、その妙な上から目線が腹立つな」

「甘えられる方が好き?」

「偉そうなのが気に入らないんだよ。どう解釈したらそうなる」


背もたれを乗り越え隣に座ってくると、あざとさマックスで体を近づけてきた。

ようするにどうあっても自分が引き下がる気はないのだ、傲慢な奴め。

そんな俺の気持ちを無視して陽日は上目遣いに瞳を少し潤ませ、さらには頬まで染める。

これがリア充の力か。

しかし俺にそんな見せかけだけの好意は通用せん、そんなパチもんには騙されない。


「ダメ?」

「お前ホント八方美人だよな」

「うん、私欠点うまく隠してるからそう見えるでしょ」


そっちの意味じゃなくて誰にでもいい顔するってことだよ。

こりゃ近いうちにカーストトップの奴等で内乱でも起きるかな?


「おにーちゃんお願い」

「はぁ。クレープ食ったらすぐ帰るからな、今日みたいな日に外に出たら凍え死ぬ」

「おにーちゃん大好き」


あざといあざとい。


「それと親戚の俺にそんな媚びうる必要ないだろ。どうせうるんだったクラスの男子にしとけ」

「だってみんなチョロくて歯応えないんだも」


末恐ろしいガキだなおい。

陽日に対するうすら寒さと冬の物理的な寒さを感じながら服を着替え書き残しをして、俺と陽日は出掛けた。

最寄り駅から四駅となりに、大型ショッピングモールがある。多分こいつがいってるクレープ屋もそこの店だろう。


「おにーちゃん手袋貸して」

「嫌だね。手が寒いならポケットにでも突っ込んどけ」

「むぅ、ケチ」

「お前の心象と俺の防寒を秤にかけると防寒が優先されるだけです」


別にケチでも構わんけど。

結局俺の手袋は強奪されてしまい、目的地につくまで俺はポケットにいれて何とか凌ぐことになった。


《続く》

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