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冬休み到来は良き事ではない

校長がテンプレを垂れ流すのを、身も凍る体育館で白い行きをしきりに吐き出しながら聞き流す。

三年は間近に控えた人生の岐路に頭を抱え、一年生は冬休みと言うイベントに胸を踊らせ、二年生はその両方。

冬休みや夏休みはきっと皆にとって楽しいものなのだろう。彼女や仲間と迎えるクリスマスも、寒いなか神社に集い年を越す年末とその直後の初詣もきっと楽しいものなのだろう。

一部を除いて。その一部には俺のような非リア充や朝倉のように当然の報いを受ける人間が含まれる。

いやー、一人で迎える正月もいいもんだよ。姉ちゃんなんかは大人の付き合いでいないし、両親がいないのはいつもの事だしな。

気楽な寝正月こそが本当の幸せだろう。

正月くらい登校時間や待ち合わせ時間に縛られない方がいい。

終業式を終え教室に戻ると皆がそわそわしている。これから迎える長期連休をどう過ごすか相談してるのだろう。


「なぁなぁ」

「なに?」

「神居は冬休みどうすんの?」

「寝る」

「灰色だな」


速水(こんな奴に君づけなんて間違っていた)がそれの崇高な予定を灰色なんて言いやがった。

何でだよ、睡眠重要だぞ。


「まぁ俺も人の事言えねぇけど。冬休みは筋トレと走り込みかな」

「そうかい」


そんなどうでもいいことを話してるうちにホームルームも終わり、長かった二学期が終わった。

これから二週間前後くそ寒い学校に行かなくて良いと思うと天にも昇りそうだぜ。

早いとこ帰って昼飯食おう。


「神居くん」


教室を出ようとしたとき、俺を呼ぶ声がした。

しかしきっとそれは空耳で、扉の前で立ち止まったら迷惑でもあるわけだから帰路を急ぐことにした。

と言うよりもう早く帰ってベッドにダイブしてスリープしたい。


「神居くん待って」

「ん、小幸さん。どうした?」

「・・・・・・あなたに私と帰ることを許してあげる、感謝しなさい」

「しません」


小幸さんが俺の進行方向を遮るようにして立つ。

妙に上からの発言の鼻につくのできっぱり拒否するとすこしオロオロとした。

誰も一緒に帰らないとは言ってないのにな。


「帰らねぇの?」

「帰るわよ、言われなくても」

「なら早く帰ろうぜ、寒くて仕方ねぇ」


そして流れで追い越し際に頭を撫でてしまった。

トラウマ確定ばんざーい!

とにかく帰ろう早く帰ろう、咎められる前に一刻も早く帰ろう。

にしても手触り気持ち良かったな。


「痴漢」

「誠に申し訳ありません」

「ばっ罰として・・・・・・その、冬休みの間にあなたにメールとか送らせなさい」


頬を赤らめ、目線が合わせられないほど照れてるのかすこし俯く。

ほんとこう言うとこ狡いよな、そりゃ容姿を妬まれるわけだ。


「駄目?」

「好きにしてくれ」


俺はこいつと会ってから表情を読むスキルが格段に上がった。小幸さん事態表情豊かではないけど、人間なんだから最低限は顔に出る。

今なんかは嬉しいの我慢してる顔だし、むしろこいつは顔に出やすいタイプだろう。

こういう風に、大幸小幸という人間は知れば知るほど魅力的に見えてしまう。

下らない雑談四割俺への罵詈雑言六割な会話を嗜んで俺は帰宅を完了させた。

玄関には見慣れていて見たくもない靴が二足あった。

そしてその靴の履き主のキャピキャピした声がリビングから嫌というほど越えてくる。


「たっただいま」


リビングのソファーで瓜二つの少女が俺の漫画を読んで大笑いしている。

活発そうな顔立ちとサイドテールがそれを増長させ、遺伝とは恐ろしいものなのかそれとも成長期に入ったばかりなのか俺よりかなり低い身長の双子がそこにはいた。

まぁそれでも長内さんよりかは高いけど。


「「おかえりー」」


ハモんな。


「それ俺の漫画何だけどどうして君達が持ってるのかな?」

「それはねぇおにーちゃん」

「私たち姉妹が勝手に持ってきたからだよ」


右サイドテールが姉の陽日(はるひ)、左サイドテールが妹の陽夏(はるか)。右サイドテールってなんかポジションぽくね?

二人とも来年中学一年生だ。


「俺の部屋勝手にはいんなよな」

「それより兄貴」

「何だよ陽夏」

「彼女出来た?」

「いてもお前らにだけは絶対言わないから安心しろ」


いないから言うことなんて何にもないんだけど。神徒悲しくないもん、平気だもん。


「それより冬休みの間お世話になるからねおにーちゃん」

「分かったからスカート気を付けろ、足上にして寝転んでっから中身見えてんぞ」

「えー、おにーちゃん小学生のパンティー見て興奮する変態さんなの?」

「少しは恥じらいを持てよ」

「花も恥じらう乙女なんだけど」

「なら恥じらえ!」


冷蔵庫の麦茶を一口のんで二階へ上がる。

するとどういうわけか左サイドテールがついてきやがる。

安心しろよ、そんなにマークしなくても俺にパス出す奴なんていねぇよ、それどころか眼中にも入ってないまである。

自室に入り部屋着に着替えようとする俺の背後でなにも言わずベッドに寝転ぶ陽夏。


「兄貴サー、友達っていると思う?」


俯せの陽夏がそんなことを聞いてきた。


「どっかの小説で友人は嗜好品とか言ってたし、どっちでもいいと思うぞ」


俺は知ってる、○学生とつく奴等のバカさ加減を。

陽日と陽夏と同じ小学校に通いだした頃、まだ小二の二人はクローンだドッぺるだと言われて毎日からかわれていた事を俺は知ってる。

あいつらは本人が笑っていて、周りも笑っていることはやってもいいことだと勘違いするのだ。それの笑顔が作り笑いだという可能性を全く考慮せずに、やっていいことなのだからやってると胸をはる。

それから今まで時は流れ、陽日は学校でも友達が一杯のクラスカーすとでも上位、陽夏はその逆らしい。

きっと兄弟、姉妹での差は本人たちにとって頭を悩ませるに相応しい問題なのだろう。


「でも陽日ちゃん、友達に囲まれて楽しそうたよ」

「そんなお姉ちゃんが羨ましい、か?」

「羨ましいとかじゃないけどさ」

「その内陽日の周りの人間関係が崩れる日が来るかもしれない。もしそうなったら一人慣れしてない陽日を助けてやってくれ」


頭を撫でながらそういう。

姉妹での差が学力であれば本人の努力で埋まる。しかし人間関係では本人の努力もへったくれもない。

でも埋められない差は依然としてそこにあって、どうすることもできない毎日は続く。

なら一人ぼっちでいることに意味を見いだせばいい。


「でさ、そんな日が来ても来なくても見つければいい。友達なんていなくても楽しめる方法を見つければいい。誰かに合わせて楽しむよりも何倍も楽しいぞその方が」

「その考えで行くと兄貴は毎日楽しそうだよね」


走り回ったり跳ね回ったりしてるのがしっくりくる容姿で、ここまで暗いのは少しギャップが大きい気もする。まぁそれもこいつの魅力だけどさ。

今のはものの例えで俺はロリコンじゃあねぇ。


「あぁ、毎日が楽しくて楽しくてしかたねぇよ。ちょっと場所開けろ、俺も疲れてんだよ」


すると壁側にごろりと半回転。

俺は座ってくれって意味で言ったんだけどな。あと枕返せ。

仕方なく俺はベッドに腰掛け足側にある壁に肩をもたれさせた。


「寝ないの?」

「寝てほしいの?」

「どっちでもいい」


また目をつむる。

ところで姉ちゃんはどこ行ったのだろう。玄関に靴なかったし出掛けたんだな。

何だかんだで過干渉で過接触な姉ちゃんは、男子高校生には辛いものがある。

何が辛いかは言わないが、ヒントを出すとすれば胸だな。ほんと無意識でやってるあたりが辛い。


「おにーちゃん漫画帰しに来たよ」

「そうかよ、じゃあその本は本棚のしたから三段目右から七冊目のところに入れておいてくれ」

「はーい」


何で机の上に置くんだよ俺の話は無視かおい。


「陽夏ちゃん寝てるんだね」

「はえぇなおい」

「それだけ疲れてるって事ですよ、おにーちゃん」

「お前は元気そうだな」

「仕事の出来る女は疲れを表に出さないのです」


なら俺は仕事のできない男でいいや。疲れを全面に出して仕事を一つでも減らしてやる。

ドヤ顔の陽日を無視してまた本人の視線を落とす。

そんな俺の真隣に陽日の馬鹿は座った。

端に座れよ端に。


「その本面白い?」

「三ページしか読んでないからわからん」

「陽夏ちゃん学校で孤立しちゃってるんだけどどうしたらいいかな?」


そう言うのってさ、普通相談しにくくて限界まで溜め込んじゃうもんじゃないの?

それとも俺は他人だから相談しやすいの?


「いじめられてるわけじゃ無いんだろ」

「でも影口とか」

「ならいざってときはお前が助けてやれ。それでも手に負えんかったら親に頼れ。もし小屋に言いにくいなら俺でも姉ちゃんにでも頼れガキ」

「ガキって言うな」

「はいはい」


それから程なくして陽日も眠りについた。疲れ見せないじゃないのかよっ、て言う突っ込みは胸にしまい俺は昼食を作り始める。

二週間弱こいつらと一つ屋根の下とか、胃に穴空いたらどうしよなんて事を考えながら過ごした。

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