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酔っ払いの姉

授業も終わり、また同じトラブルになるのも嫌だからさっさと帰ろうと教室を出た。靴を履き代えながら時間を見る。うん、この時間だと少し急げば待たないで済むな、急ごう。


「神居くん」


振り返ると帽子を被り、顔の半分以上を赤いマフラーで覆った小幸さんが居た。

てっきり今日も歌って帰ると思ってた。


「どうした?」

「えっと、お礼言おうと思って」

「・・・・・・あぁ、良いよ別に。ある種の自己満足だから気にしなくても構わんよ」

「でも家族以外の人に庇って貰えたの始めてで」

「庇うなんて同情染みたことしないから」


そう、同情はしない。

分かったふりをされるのは腹立つしな。最近になってラグビーが流行りだしたからって、知ったかぶりしたりする奴なんかは案外見てて腹立たしいものがある。

そこまでして流行に乗る必要ないじゃん。


「あれだよ、何も知らない奴が知った風に攻撃してるのが気にくわないだけ。それに俺もホントの小幸さんのことを数パーセント位知ったわけだしさ、知らん振りは出来ないよ」


はぁ、バス待ち確定だなこりゃ。

日も暮れてるしさっさと帰りたかったんだけどな。


「うん。ありがと」

「はいはい」


ピロピロピロ~


ん、姉ちゃんからか。


『今から学校迎えにいきまーす』


そして添付されていた写真には顔が真っ赤の姉ちゃんが写っていた。何で呑んでんのに家から出るかなぁ?


「ごめん、本当に急ぎの用事出来たから帰るわ。まだ話あるんだったらこれに電話かメールかしてきて」


手帳に書きなぐった電話番号とアドレスとIDを渡す。

おずおずとそれを受け取ったのを確認して駆け足でその場を離れた。


「おっ、神居俺に足で勝負か!?」


誰だよ俺のエンカウント率上げたやつ。てか速水くんも大概早くね?

だってもうこいつ外周の準備できてるし。

雪降ってても上着はウィンドブレーカーしか着れないもんな、さぞや寒かろう。


「・・・・・・」

「ちょっ!何で何も言わずに逃げんだよ~」


相手にするのも面倒だからだよ坊主ついてくんな!

こいつ本当に足早いな、俺の全力に軽々とついてきてやがる。


「はぁ、はぁ」

「ははぁ、駄目だなぁ。ちゃんと鍛えないともやしって言われんぞ」


両膝に手をついて息を切らす俺の背中を軽く叩きながら言う。

もやし馬鹿にしたな?もやしは環境に強いすばらしい作物なんだぞ。

だから俺みたいなひ弱な貧弱よりも、お前みたいな脳筋野郎にこそ相応しい食物だよ。


「おっと、そろそろ戻んねぇと。じゃあ鍛えて出直してい」


そんな風に息を切らしすぎて軽くえづく俺をその場に残し速水くんは去っていった。

リベンジなんかしないから。

ふぅー、さて行くか。

気を取り直して歩き出そうとしたとき、きっとエンカウント率上昇の呪いのアイテムをいつの間にか持った俺は後ろから息を切らして走る小幸さんを見つけてしまった。


「神、居くん。はぁはぁはぁ」

「だっ、大丈夫か?」


走ってきた彼女は少し右足を引き摺っていた。

ここは聞いとくべきなんだろうか。でも考えられる理由が走ってるときに捻ったなんだよな。

それなりにお高いプライドの持ち主にそんな事聞いていいものか。


「なぁ。右足痛いのか?」

「ひぇっ!?」

「いや痛くないんだったらいいんだけど、もしかして今走ってくる途中で怪我したのかなって」

「かっかっ勘違いしないで」


まるでアニメのツンデレヒロインのような台詞ですな。


「まるでアニメのツンデレヒロインのような台詞ですな」


こっこの声・・・・・・。

恐る恐る振り返るとそこに黒いストッキングに黒いスカート、黒いトップスに黒いコートの我が姉が降臨していた。

腰元まである長すぎる黒髪は締め切り間近で忙しくてあまり手入れされておらず、所々跳ねている。

俺より三十センチセンチ、つまり二メートル三センチの長身とそれに見あった胸と足と腰のクビレ。

見た感じ欠点らしい欠点は見つからないが、本人は身長が高いのが嫌らしい。

まぁコンプレックスなんて人それぞれだわな。

そんな黒ずくめの姉ちゃんが自分より頭二つ分くらい小さい小幸さんを見下ろしながら、俺の考えたことをそのまま口に出した。


「・・・・・・」

「あれ、固まっちゃったにゃ」

「姉ちゃん歳を━━━━━━」

「何?」

「何でもございません」


そう。この人はお酒が弱いわりに酒飲みなのだ。

すぐ酔っぱらうわりには呑んで他人に絡む、お酒を呑んではいけないタイプの人。酒に呑まれると言うと分かりやすいかもしれない。


「で、この子誰?」


答えにくい質問ありがとうございます。

ここは無難にクラスメートでいいだろ。


「きゃっきゃみ居くんとは友人でしゅ」

「小幸さん落ち着け」

「うん?ずいぶん親しそうだねぇ」


そしてニコニコしながら右手の間ビールを傾ける。直ぐに酔うくせに呑む量も飲ませようとする量も多い。おまけに未成年だろうと関係なし。

俺には酔い潰れた姉ちゃんの介抱と言う使命があるし、そもそも未成年だから絶対に呑まないけど。


神居(かみい)神酒(みき)、神徒の七つ上のお姉ちゃんだよ」

「ずっ随分とお年の離れた姉弟で」

「まぁ義理だしね」


ケラケラっと笑いながら言う。

俺と姉ちゃんは血の繋がった姉弟ではない。孤児だった俺を神居家の方々が迎えてくれたのだ。

だから姉ちゃんにも一生頭は上がらない。


「姉ちゃん呑みすぎだよ」

「酔ってないもん」

「酔ってるから、かなり酔ってるから。ほら帰るぞ」

「いやー、(ゆき)ちゃんともっとお話するのー」

「駄々こねないでくれ」

「幸ちゃん・・・・・・」


これ以上呑まないように右手を掴んで連れて帰ろうとすると、毎度毎度初対面の人と仲良くなったんだーとか言ってこの人は帰ろうとはしない。

横切っていく同じ高校の生徒がこちらを見ては何かしらの反応をして帰っていく。


「はぁ。小幸さん帰らないの?」

「えっ?あっあぁ、そうね、そろそろ帰ろうかと思って━━━━━━」

「幸ちゃん帰るの?」


でた、大きな小人。

酔っぱらった姉ちゃんの特徴その一が妙に小動物じみる事。今みたいに目をうるうるさせて決心を鈍らせてくる。

姉ちゃんは素でもかなり寂しがり屋だからしょうがないのかな?

でも迷惑。


「小幸さん、構わず帰っていいから」

「うっうん。また明日」


今朝の毒気など全く感じさせない彼女は心身ともに真っ白だった。きっと小幸さんの毒気の強い喋りを知らなかったら惚れてたとおう。


「何か足引きずってるね」

「あっそうだった。姉ちゃん頼みあんだけどいい?」

「添い寝」

「・・・・・・分かった」


その日の事は学校中で噂になった。

小幸さんをおぶる姉ちゃんもだが、何故かそれを姉と呼ぶ俺も噂されるようになった。

まぁ似てないもんな。

そして余談だが姉ちゃんと添い寝すると言うことは、抱き枕になると言うことに他ならないのだ。

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