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席替え

あの出来事から一週間がたった。

例年より二週間ほど遅いが、俺の住む町でも雪が積もり始めて毎日寒い日々を送っている。

おまけに積雪のおかげでチャリ通もできなくなり、仕方なく俺はこの時期だけバスに乗ることにした。まぁ、寒いからどっちみちバスに乗るんだけど。

マフラーを巻いて手袋も付けヒートテックも着て仕上げに分厚いコートを着てもまだ寒い。そしてバス待ちで動かないからさらに寒い、特に足元。


「はぁあ寒い」


溢した息が白くなり霧散していく。

まぁ三度切ってたし仕方ないんだけどさ、こう言う日はもう炬燵むりになって暖房効かせて寝てたい。

でも俺は自宅で仕事をする姉ちゃんと二人暮らしでサボるなんてのは出来ない。因みに黒猫のココアもいる。

そんなこんなでようやく到着したバスに乗り込み空いてる席にいくとそこには何と小幸さんが居たのだ。

ここまできて戻るってのも悪いし、かといって隣に座るのもなぁ。どうしたものか。


「座らないの?」

「えっあ、失礼します」


小幸に促され空いてる窓際の席に座る。

こんな場所でも視線をよく集める彼女の隣に座る。一緒に乗ってる男子高校生に羨望の眼差しを向けられクラスメートには奇怪な奴を見る目をされる。

そんな中バスはようやく走り出した。


「挨拶も出来ないの?」

「・・・・・・おはよう」

「えぇ、おはよう。普通は言われなくてもするものなのだけれどね」


ならお前からしてこいや。


「今日から雪積もるらしいな」

「そうみたいね、最悪」

「まぁ寒いもんな」

「紫外線対策の手間が増えるのよ、雪に積もられると」

「えっ?」

「雪は約八十%もの紫外線を反射してくれるから。そんなことも知らないなんて可哀想な人、今度図書館に行って空っぽの頭に紫外線の知識を入れてきたら?」


少し知らないくらいでどうしてそこまで言われなくちゃいけないんだ。

俺、小幸さんの声とか見た目とか佇まいとか好きだけど、こう言う辛辣なとこ苦手だわ。

貶されるくらいなら喋らなくていいか。


「ぐうの音もでないのかしら?」

「・・・・・・」

「何か言ったらどうよ。一般人並みの会話も出来ないなんて三歳からやり直した方がいいわね」


いっこうに返事を返さない俺に彼女はほんの少しだけ肩を落とした。

何、そんなに俺と話たいの?

ならその妙な上から目線と毒舌やめろ。てか毒舌でもなんでもねぇ、ただの悪口だそれは。


「神居くんは差別しないと思ってたのに」

「そんな風に貶されたんじゃ話してても楽しくねぇよ」

「でもお父さんは、大抵の男は私と話してるだけで楽しいはずって言ってたわ」

「貶さなかったらな」


だいたいそれって多少フィルターかかってるから言える事なんであって、話題自体が退屈なものでも喋り上手なやつだと楽しいしその逆だと退屈なんだよ。

小幸さんは饒舌ではあるけど喋り上手ではない。


「仕方ないじゃない。今まで他人と接してこれなかったのだから」

「・・・・・・ならさ、笑顔の練習でもするか?」

「頭が沸いてるの?」

「沸いてねぇよ。小幸さんレベルだったら笑顔だけでもかなり武器になるからさ。そりゃ満面の笑みじゃないけど微笑むくらいに笑ったりとかどうだ」


それこそ一年間同じクラスだったが、まだ俺は赤面と泣き顔と仏頂面しか見てない。いや、歌ってるときの顔は楽しそうだったな。

作り笑いでも出来るようになれば多少はクラスにも馴染めるかもしれない。

そしたら俺だけが罵倒される事もなくなるはず。


「こっこうかしら?」


少し間をおいて小幸さんは、まるでひょっとこのような顔で聞いてきた。

えっと、それってもしかしてだけど笑顔?それとも変顔?


「なっ何が?」

「笑顔よ笑顔」

「小幸さん。この際はっきり言うけどそれは変顔って言うんだよ」

「・・・・・・」


あっ仏頂面に戻った。でも心なしか紅いぞ、もしかして照れてますか?

まぁ知ったこっちゃねぇけど。

それから学校近くのバス停まで会話は無かった。


■□■□■□■


嘘だろ。

何で俺はこう毎回席運が悪いんだ。よりによって小幸さんの隣になるなんて、毎日罵られると考えるだけで異に穴が空きそうだぜベイベー。

小幸さんは体質上いつも日の当たらない廊下側から二列目の席となる。日の当たらないなんて言い方したら少し変か。

そして俺は廊下側一番端後ろから二番目、お隣さんが仏頂面と物言わぬ壁と言うポジションになったわけだ。

これからよろしく、壁さん。

因みに前には小学生並みの身長とツインテのおかげで高校生には全く見えない長内(おさない)優子(ゆうこ)さん。後ろには野球部最速の一番打者、年がら年中日焼けしてる丸坊主の速水(はやみ)(そう)と言う俺とは無関係な布陣になってる。

悪意を以て組まれた気がしてならないよ。


「おう神居」

「なっなに?」


何でそんな他人にフレンドリーなの?


「しばらく宜しく頼むな」


そう言って速水くんが右手を差し出す。そして俺も人の事言えねぇなとか思っちゃったりする。

俺も小幸さんほどではないが対人は苦手だ。そのおかげであまり友達もいない。

欲しくもないけど。

差し出された右手を控えめに掴むと思いっきり握られとても痛かった。


「私も宜しくしたいんだけど」


そんな俺と速水くんとのやり取りに、後ろから高校生にしてはいささか幼い声が聞こえる。

それこそ小学生中学年位の声。

まぁ誰のかは分かってるけど。


「おぉ、優子ちゃんよろしく」

「ちゃん付けしないで坊主頭」

「じゃあ優子で言いか?」


なんたるコミュ力、はじめっからちゃん付けとは恐れ入るぜ。


「仕方ない。ほら、神居・・・・・・」

神徒(かみと)です」

「じゃあ神くんだね」


何かすげぇ偉そうな渾名なんだけど神くん。


「長内さんだっけ」

「うん、よろしく」


童顔な顔でにっこり、是非とも小幸さんに見習ってもらいたいものだ、うん。

椅子をこちらに向けて俺の机に正面から向かうと小声で何かを言ってきた。


「今日バスで大幸さんと話してたっしょ」

「そっそれが?」

「あんまりこう言うこと言いたくないんだけど、大幸さん皆に無視されてるからつるむと神くんまで━━━━━━」

「あーそう言うの気にしてないから」


横目に小幸さんを見ると仏頂面が少し歪んでいた、本をもつてにも力がこもってる。きっと小幸さんを無視してる連中は何も知らないんだと思う。

いわゆる無知の攻撃ってやつだ。何も知らないけど気にくわないからいじめる。

やつら連中にとって自分の気にくわないものは攻撃対象で、周りでそれを見てるやつらは無知なのだ。

でも俺は少しだけ知ってる。彼女の綺麗な歌声や、アルビノに対するコンプレックスを持ってることを。気弱そうに見えて実は勝ち気な性格なのも、人と話すのになれてなくてつい毒を吐いてしまうことを、俺は知った。


「いや、あんたのために言ってんだけど」

「うんありがと。でも俺は何も知らない奴の攻撃を一身に受ける小幸さんの事少し知ったからさ、もう知らぬ存ぜぬは通らねぇよ」


何より俺は皆と言う言葉に縛られるのが嫌いだ。

皆やってるから俺も、皆持ってるから俺も。なら皆でいじめてるから俺もとはならない。

人は集団になると連帯感と言う鎖で仲間を繋ぎ止め、暗黙の了解という誰も言わぬ掟を破れば処刑する。

怖すぎだろ集団心理。


「変なの」

「まぁいいじゃん。それにあいつ俺と話してるとき楽しいとかどうとか言っててさ、ようは話し相手を楽しませたいんだよ。俺はそんな気遣いなくても小幸さんと話すだけで楽しいのに」

「えぇ、何惚れてんの?」


歌声にはな。


「そんなじゃねぇよ」

「ふーん」


机に突っ伏してしたから訝しげに見つめてくる。

やめろ見た目幼女、ロリにそんなんされたら目覚めかねんだろ。

そんな俺を二分ほど見つめて、『まいっか』と言い前を向く。

もう一度小幸さんの方を見ると机の上に腕を君で顔をうずくめていて、表情はよくわからなかった。

こんな風に今日も進んで行って、多少の変化こそあれど劇的なものは何もなかった。

そうして放課後を迎えた。

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