先輩の本質
翌日の土曜日の今日、俺は生徒会の件で呼び出されていた。休みなのに学校の生徒会室に拘束されてるのだ。そんなの休みとは言わない。
休めない休日は平日と何らかわりない、むしろ本来なら休めるのにと言った不満やストレスが出る分、たちが悪い。俺の休みを妨げるものは何人たりとも許さない。
反撃も何もできないけど。
そんなわけでこうして俺は暖房の不快な空気で満たされた生徒会室にて、水無月と向かい合ってる。
「他の人たちは?」
沈黙に耐えきれず水無月が不機嫌に話を切り出した。
「知らん」
「はぁ」
「何でお前は副会長になったんだ?」
そう、今回気がかりなのがこいつの動機である。自分からなりたくてなったわりには、抵抗が少なすぎる。
「何でもいいじゃん」
「もし自分からなりたくてなったんだったら今のうちに言えよ」
「ウチはただ推薦されたから仕方なくやっただけ」
「推薦は断ることもできたはずだ。なのにやりたくもない生徒会役員を引き受けた、理由は何かしらあったはずだろ」
「・・・・・・だから何にもないって」
「そうか」
答えは最初から見えてる。こいつがやりたくもない役員を引き受けた理由は推薦にある。中途半端に高いカーストではクラスの総意を無視することはできない、だから押し付けられた仕事を受けた。
群れ社会とはこう言うものである。
不信任になるのはまぁ間違いないだろう。しかし校則によれば不信任になった生徒も含めその役職の役員は特別な事情がない限り、自動的に再選挙に出馬するらしい。
かなり後ろの方にかかれてるしあんまり使われない校則なのだろう。
「あんたは何でやんの?」
「私は本校をより良いものへと改革すべく━━━━━━」
「あっもういいわ」
「そうか」
クラスでの派閥争いで上位にランクインしたものの天辺がとれた訳じゃない。俺からすれば青春を謳歌する女子高生なのだが、きっと彼女も彼女なりの事情があった、その一つが推薦を断れない立ち居ち、二つ目が生徒会での立場。
たったの数日で分かるくらい由々色先輩は好感度をあげるのがうまい人だ、中途半端なこいつが太刀打ちできるわけもなく、しかし高いプライドが屈することを許さなかった。
きっとそんなところだろう。
三つ目があるとすればそれは自己承認欲求だ。
自分よりも上の人間に推薦されるのは、自分の高いプライドでも許せ尚且つ、頼られる、認められてるという実感がわくものだったのだろう。
「はぁ」
「ウチがため息つきたいくらいだし」
前髪をいじりながら俺のため息すらにも文句をはいて見せた。
頭のどこかでは厄介事を押し付けられただけだと理解してる、だから抵抗はしない。でもそれが厄介事だとしても、皆は自分の事を信じて任せてくれた、だから不信任になることは皆を裏切る事だ。
信任とはそう言うものである。
自分の信じた人間が不信任になるということは、自分の判断が間違ってたことになる。何故間違えたか、人間はその時周囲に理由を見いだす。
今回の場合だと逆恨み的な意味で、水無月は格好の的だ。
「不信任になったら困るのか?」
「・・・・・・」
「どうせサボってたんだ、それに推薦とか言ってるけどようは押し付けられただけだろ」
「違う」
「面倒事を押し付けられた。でも信じて任せてくれた、自分は認められたんだ、そう考えた方が遥かに気分もいいし楽だろうよ」
断ることをやめ、周囲に流され都合のいい解釈をしてこの様。
特に能力があるわけでもないから生徒会でも足を引っ張り、でも高いプライドがその事を認めない。だから過去二位の得票率を誇る由々色生徒会長に対抗して、勝って自分の有能さを認めてもらいたかった。
「俺も個人的に由々色先輩には怨みがある。だから俺から提案が━━━━━━」
コンコンコン
「入るよ」
返事も待たずに由々色先輩は入ってきた、一緒に顧問の先生も少し申し訳なさそうにして入室。
永江先生は四角形に組まれた長机の右面に座り、先輩は俺のとなりに座った。
「いっ!」
「どうしたの、神居君」
あんたに太股つねられたんだよ!
「今日君たちに集まってもらったのは他でもない。不信任決議の結果が出たから事前に知らせておこうと思ってな」
「俺も呼ばれたって事は不信任ですか?」
「あぁ、その通りだ。だから立候補の決まって二人にはもうそのつもりでいてもらう」
「・・・・・・ウチ、立候補したくありません」
「駄目だよ、最低限校則は守ってもらわないと」
一瞬の間もなく先輩は水無月の辞退を却下した。対抗したまでが正しいとすると、こいつはいったい先輩に何したんだよ。
これって要するに『叩き潰すから逃げんなゴラァ』ってことだろ。
何やったんだよお前。
「何か事情はあるのかね」
「・・・・・・」
「生徒会が校則を破る以前に、教師の私が見逃すわけにもいかんしな。少し酷だが水無月君には出てもらう他ない」
「でも、応援演説とか頼める人いないし」
「原則であって絶対ではない。最悪自分一人で演説するだけでも構わん」
「・・・・・・分かりましたやればいいんでしょ」
何故俺を睨む。
あれか、消去法で俺を睨んだのか。
「その前に神居君にはここで志望動機を述べて貰いたい」
考えてないですよ、えっ、先輩!?
絶対伝達ミスだろこのいかれ由々色。志望動機、先輩に弱味を握られたからです、ありえん。ここは無難にいくか。
「えっえーっと。由々色先輩に学校をより良いものに変えていこうと何度も誘われたからです。彼女の諦めない姿に胸を打たれました」
「そっそうか」
「キモっ」
「・・・・・・」
いっそのこと本当の事言ってやればよかった。
「もっもういいですか?週末に休まないのはユダヤ教とキリスト教への冒涜なんで帰りたいんですけど」
「あっ、君は後で私と残ってね」
「何故」
心当たりはかなりあるけど、やっぱりあれの事なのかな。絶対そうだよな、手駒が謀反を起こそうとしてるようにも聞こえなくもないからな。
なら捕まるまえに逃げる。逃げるが勝ちって言うくらいなんだから逃げないと敗けなんだろう。
その一心で俺は先生の出ていったあと、寒いけど上着は抱えたまま走り去った。
「神居くーん、約束!」
やっぱ逃げれませんよね。
駆け寄ってきた先輩に皮膚ごと袖を捕まれ連行されること約十分。もと第一地学室、現在の空き教室である。
「そんなに私の事信用できない?」
先輩が遅かったのはこの教室の鍵を取りに行ってたからか。そして今はもう退路をたたれ正座させられ・・・・・・俺が何したってんだよ。
「はい」
「・・・・・・じゃあ特別に一つ目的を教えてあげる」
「特別もなにも元からその約束だったじゃないですか」
「うるさい黙って聞く!」
「はっはい」
二段積みにされた机と椅子の山から一つだけ引っ張ってくると、先輩はそれに足を組んで偉そうに座った。一つって辺りが肝だな、俺には正座で十分というわけですか。
「部活の予算って決め方知ってる?」
「知りません」
そもそも部活はいっても孤立するから入ろうとも思いませんでした。
「教師の方から大まかな予算案を出されるんだけど多少なら生徒会で誤魔化せるんだよね、ここの学校部活に力入れてないからチェック甘いし」
「それがどうしたんですか?」
「因みに部活の設立申請を受理するのも生徒会の仕事。水無月さんは私のやることやることに反対するから面倒だったのよね、だから私の部を作ろうとしても全力で反対されて」
部を作るだけなら反対はされないだろうから、きっと先輩以外全員幽霊みたいな部だったんだろうな。
「あっ、君も部員だからね」
「・・・・・・はい?」
「生徒会会長と副会長所属の部なんて怖くてそうそう逆らえないよ」
「いやそんな事はないと思いますが」
「その気になれば一週間から二週間のクラブ停止を言い渡せるもん」
そんな事したら貴女へのヘイト値が鰻登りですねはい。まぁ俺も多少の被害は食うんだろうな。通りで止められるはずだよ、誰が悪いかって言うとこの人が一番悪い。
「勿論発案から命令までの首謀者は君ね」
「ファっ!?」
「そうしないと私の評判さがるもん。君なら校内一の最低変態男で下がる評判なんかないもんね」
これでようやく掴めてきた。大幸さんも、俺に汚れ仕事が向いてるって思わせるように吹き込んだのだろう。
でも由々色先輩は一つ重大なミスを犯してる。早く気づかないと取り返しようがないミス、いや気付いたとしても取りかえさせない。
「これでいい?」
「はい」
「じゃあもう帰っていいよ」
「はぁ、足しびれた」
「もし余計なことしたら潰すから」
「了解です」
俺は颯爽と去る・・・・・・ドアの鍵開いてない。えっ、今結構格好つけて去ろうとしたんだけど、えっ。
ヤバイ、はずい。何て言うか三十秒前の自分殴りたい。
半笑いの先輩に鍵を開けてもらったこともあって俺の気分は最高にlowって奴だ。




