現生徒会副会長
あれから一週間後の昼休み。いろいろ調べた結果現副会長、一年一組、水無月南さんは由々色先輩と周知が知るレベルで仲が悪いらしい。
先輩とは真逆でよくいる鬱陶しいタイプの女子高生。カーストで頂点のグループに上り詰めれなかったものの、それなりの順位で優雅に青春をしてルはずの女子高生だ。
正直言うと名前も知らなかった人間に怨みどころか関心の一つもないが、俺は俺で弱味を握られてるってことを忘れてはいけない。
「ねぇ」
ヒソヒソと俺のかげぐちを叩きまくる奴等の教室でそれらを無視して本を読んでると小幸さんが話しかけてきた。
「何だよ」
「最近、随分と生徒会長さんと仲がよろしいのね」
「そんなことねぇよ、小幸さん」
むしろ俺はあの人嫌いだよ。人を痴漢に仕立てあげて表面上の謝罪はあれど、その事をネタにして強迫紛いのことしてさ。
「その、私と神居君は友人関係というのでしょ?」
「・・・・・・」
「だからさんとか、くんとかやめにしない?」
「気が向いたらな」
「・・・・・・神徒」
えっ、何顔赤くしてもじもじしながら俺の名前呼んでくれてんの?
そんなのに憧れたり動揺したりするのは中学時代でやめました。
「きょっきょゆき・・・・・・さん」
やめたんじゃねぇのかよ俺・・・・・・。
はぁまた一つ新たな黒歴史を刻んだか。まぁ高校なんて黒歴史とトラウマを募らせるだけの場所だから、当たり前っちゃ当たり前か。
ガラガラガラ
「えっと、神居君来て」
教室をぐるりと見渡し俺を見つけた先輩は手招きをする。
小幸は不機嫌そうに自分の席に戻り、俺の陰口はヒートアップした。まじでアイドルのライブ並みにヒートアップしてるのに、体感的には極寒何だよな。
そんな極寒の地から脱出した俺は廊下で彼女の方に向き直った。
「ちょっと待っててね、もう少ししたら水無月さんも来るから」
あぁそう言うことね。
少し待つと一組の教室から不自然に赤茶色なショートヘアーの女子生徒が不機嫌全開で歩いてきた。
見るからにプライドが高そうで承認欲求強そうだ。なのにプライドが高いからその辺の奴に認められた程度じゃ満足しない。
あとは味もよく分からないけど流行りだからって理由で珈琲屋でたむろってそう。
「何のようですか?」
「昨日話した不信任決議の事だよ。水無月さん居なかったから今言うね」
「先輩はウチよりこんな痴漢魔の方がいいって思ってるんですね」
「彼は痴漢なんてしてないよ。それに水無月さんより仕事もできるし」
「まっ、ウチがこんなのに負けるわけがないですけどね」
両者とも火花を散らしております。そしてその火花の弊害をただ一人受けている人物もおります。
俺マジ被害者。
「不信任決議は明日の全校集会で知らせて、二週間後に集計、翌日にはもう神居君が副会長だから引き継ぎの準備しといてね」
「分かりました。でも私はまず間違いなく負けませんけど」
捨て台詞をきめて立ち去ってく彼女の後ろ姿はいささか見苦しいものがあった。
きっと彼女は今回負ける。
今の話を聞いたところ昨日の生徒会にも欠席したようで、しかも俺には大人気の会長とあの大幸さんがついてしまっている。彼女に勝ち目はない。
生徒会選挙なんてのは昔から人気投票みたいなものだ。
この会長の事だからきっともう彼女の生徒会での態度を噂にして流してるのだろう。なら尚更彼女は選ばれない。
「で、そろそろ約束の説明してくれますか?」
「うーん、まだ早いかな」
「約束が違います」
「私は協力してくれたらって言ったでしょ。まだ何もしてないし、何もできない人に協力も何もないもんね」
「じゃあ先輩の目的は何ですか?」
「それもーまだだーめっ」
俺の唇に人差し指をあててそれ以上聞くなと、口では言わないが態度でそう言う。
俺は自分でも頭がいいと思う。だからこんな風な口に出さないで自分の意思を伝える方法も沢山知ってる、眉ひそめながら本を読んで話かんなっていう態度も知ってる。
相手の一挙手一投足に着目し、分析と解析を繰り返せば解読ができる。その事を知ってる俺には先輩みたいな計算する人じゃなくて、小幸みたいな計算できない人の方が驚異的なのだ。
相手の挙動を、言動を一つ一つ丁寧に解読すれば、それ以上踏みいって傷付くこともない。
「分かりました」
踏みいって傷つくのなら踏みいらなければいい。わざわざ自分から傷つきにいくのも馬鹿らしいし。そして信じて自分の内側に踏みいることを許して傷つくのなら、俺は誰も寄せ付けずにぼっちでいる。
誰も傷つけず誰にも傷つけられず、世間に無関心で世間も俺に無関心で、そうすれば必要以上の争いは消える。
今回の件もそうだ。
互いに嫌い合うほど関心を持つから、互いを貶め合う。
結論、敵も味方も誰一人いない俺最強。
「先輩」
「何かな?」
両手を後ろでくんで見上げてくる。
アングルから仕草から何まで全部あざとい。
「自分の部下は仕事の出来ない奴の方が安全ですよ」
「生徒会なんだから書類仕事くらい出来てくれないとね」
「えっ、あんなアニメみたいに山積みにはならないでしょ」
「この学校、ボール一つですら書類書くから割と忙しいよ。特に文化祭とか体育祭とか、最近だと卒業式と入学式で忙しいかな」
「そんな忙しい時期に選びなおしですか」
「あの子じゃ回らないだろうしね」
キーンコーンカーンコーン
「じゃ、行くね」
「・・・・・・」
手を振る先輩を無視して俺は再びホットゾーン、いやコールドゾーンに踏み入れた。
■□■□■□■
翌日の朝、俺は全校集会で舞台に立たされるべく舞台袖で待機していた。
しかし案外緊張しはしてない、当たり前だ。俺はもう既に全校生徒から変態のレッテルを張られ、最低な人間と銘打たれてる。今更怖いものなんてない。もうなにも怖くない!
『生徒会からの連絡です』
由々色先輩に続いて歩き始める。水無月さんは遅刻らしい。
大人気の生徒会長に伝説の変態がついて歩く風景に体育館がざわつく。しかしそれも先輩の咳払い一つでおさまり、不信任決議の事を話始めた。
「おはようございます。今日は生徒会現副会長の水無月南さんの不信任決議を三日後に集計することと、その結果次第では今日から二週間後に再選挙することをお伝えします。生徒会では彼女の不信任には賛成で、今日も本人に関わる重大な日だというのにこの場にいません。後日生徒会から配られるようしに信任なら丸を、不信任なら罰をつけて三日後までに提出してください」
この言い方では彼女を不信任にする流れが出来てしまう。生徒会から水無月南を追放しようという流れに拍車がかかってしまう。
それが狙いなんだろうな、この人は。
「次に、再選挙に関してのお知らせです。我々生徒会では神居神徒くんを推薦します。皆さんも我こそと思う方は立候補してください」
生徒会に楯突いて当選したって、後々内部での風当たりがきついことくらい誰でも分かる。
そもそもこの時期に二年生は立候補しないだろう。翌年に受験だったり就活だったりが待ち受けてるのだからそんなことしてる暇はない。
やるとしたら今年の四月に立候補してるはずだ。
確かあのときも他に誰もいなくて信任投票になったんだってけかな。得票率は驚異の九十八パーセント、もしかすると他の立候補を考えてた人は勝てないから辞めたのかもしれない。
「これで生徒会からのお知らせを終わります」
体を少し傾けて頭を下げたのち舞台袖にまたはける。
つつがなく全校集会は終わり、後の副会長なのだから後片付けを手伝えと残された。
たかだか数脚のパイプ椅子と数本のマイクだろ。それくらい自分で片付けろよ教師どもめ。
「お疲れさま、神居君」
「まぁ黙ってたってただけですけどね」
「いや、この私に手を出した不届きものとして嫌われてるのによくたてたよね」
「喧嘩うってんのか」
両手にパイプ椅子を持つ俺の横を身軽に喋りながらついてくる先輩。喋ってるならなにか手伝ってほしいものだ。
「先輩」
「何かな、後輩くん」
「優しくしてリターンはありませんけど、誰かを蹴落とそうと誰かを利用するときっちりそれにあったリターンがあるので気を付けてくださいね」
「そうだね、まぁせいぜい気を付けるよ」
少しまえにやられたらやり返す銀行員の名台詞通り、悪意には悪意が返ってくるのだ。
善意には悪意が、悪意には悪意が返ってくる。
これだけ人類が増えたのだから仕方ない話だ。
教室に戻るとさらに居心地は悪くなった。




