陽夏は限界を知っている
翌日の昼下がり、白い水分の結晶が降り積もるくそ寒い中俺は陽夏と映画館のカップル席に座っていた。
まぁ外界に甘えられないから内側に甘えたいのだろう。その証拠に、俺にもたれ掛かりスクリーンを眺めてる。
俺はまぁこいつからしたら結構な他人で、クリスマスに家族以外と出掛けていく陽日の事も羨ましそうに見ていた。そこから導き出される答え(仮)は恐らく俺の考えで間違ってない。
それから数十分後、コメディー色の強すぎる純愛物語の幕は閉じた。
「兄貴、次どこいく?」
「そうだな、帰るか?」
「こんなナチュラルに帰宅提案できる人本当にいたんだ」
劇場から抜け出し映画館のロビーにて、このショッピングモールの地図を見ながら会話を嗜む。
依然として陽夏は俺と腕を組んだままで、俺のいたって真面目な提案にふざけんなと言うように絞めてくる。
「じゃあどこ行く?陽夏決めていいぞ」
「そう言うのって普通男が決めておくもんでしょ普通」
なぜ二回も普通と言った。
どっちが決めても構わねぇだろ。
「じゃあ私が決めてあげよっか?」
「ひゃあいふぅ!」
「大幸先生、お久しぶりです」
「急に耳元でささやかないでください変な声でたでしょ!」
「喜ぶと思ってやったんだけど逆効果だったかな」
そう言ってニコニコと前に会ったときと寸分違わぬ笑顔で話続ける。相変わらず外面の頑丈さが窺えるぜまったく。
「陽夏ちゃん久しぶり。あれからお友達はできた?」
この人確信犯だろ。
「今はそんなもん居なくても大丈夫ですから」
「ふーん、そっか。せっかくだし三人でケーキでも食べに行かない」
「・・・・・・兄貴に任せる」
判断逃げたなこいつ。
まぁ、俺レベルになると遠慮して行くとも行かないとも言いにくいこの状況でもはっきりNOと言えるがな。
「い━━━━━━」
「よしじゃあしゅっぱーつ」
「聞くきないなら初めから聞くなよ」
「なに?」
「何でもありません」
嫌悪の感じを隠しきれてない陽夏も、隠そうともしない俺も無視して大幸さんは半ば無理矢理連れてケーキ屋に入った。
店内は甘い匂いがして、店の奥には六組ほどの椅子と机がおいてあり、装飾なんかは可愛い(笑)ではなく落ち着いた雰囲気の物でで統一されてる。
その店はちょっど先日、陽夏の好きなモンブランと陽日の好きなティラミスを買った店だ。
「何にする?お姉さん奢ってあげる」
「いや自分と陽夏の分は俺が出します」
「まぁまぁ遠慮しないで。私は無難に苺ショートにしよっと、陽夏ちゃんはモンブランかな?」
「えっあっはい」
「じゃあ俺も大幸さんと同じので」
「了解、先座ってて」
促されるまま俺たちは一番奥の席についた。
陽夏は不思議そうな顔で大幸さんを眺めている。
まぁ簡単なところで、『どうして私の選ぶケーキが分かったのだろう』か。
あの人は目敏い。見ていないようで細かいところまで見ていて、それで得た情報を瞬時に分析して解を導き出す。きっとこう言うのを良く当てれる人が社会でも出世するのだろう。
「まぁ好きなものだし普段もそれ選んでるからな、他に比べてそっちに目がいくのも普通だ。あの人はお前の視線から選び出したんだよ」
「わたしあの人苦手だな」
「だと思う」
「お待たせ、何の話してたの?」
ケーキと紅茶の乗ったプレートをもった大幸さんが正面に座る。
「何で陽夏の選ぶのが分かったのかです。いくらですか、払いますから」
「まぁまぁここは年上の余裕を見せつけると言うことで奢って上げるから」
「そうすか」
急に陽夏は黙りこむ。まぁわからんでもないがな、できるなら俺も今すぐお帰り願うかお帰りしたい。むしろ俺が帰る一択だな。
控えめに少しずつケーキを食べる陽夏をみて大幸さんは口を開いた。
「陽夏ちゃん」
「はい」
「お友達出来てないんだね」
「だったら何ですか?」
マジでだったら何だよ。
「もっと頑張らないとね」
「もう限界まで頑張りました」
「そっか、じゃあ仕方ないね」
案外あっさりと身を引いたせいで思わず紅茶を吹きそうになったぜ。
それからもこんな風にまったりと険悪なムードで時間は過ぎて行き、しかし大幸さんただ一人はそんなものを意にも介さず話続けた。
時計の短針が五時を半分ほど過ぎた頃、店員さんの睨む目が強くなってきてそろそろ耐えれないから店を出た。
「今日はお姉さん楽しかったよ」
「そうですか」
「ごめんね陽夏ちゃん、お兄さんとのデート邪魔しちゃって」
「デデデ・・・・・・」
でかいハンマーもったペンギンか?
「じゃあばいばーい」
はぁ、嵐のような人だった。
遠ざかる背中を見送ることなく陽夏は顔を赤くしながら踵を返し俺の手を引いて歩き始めた。たぶん俺の学校にあの人が来たら登校拒否するレベルで嫌だろう。
だってなんもかんも見透かされてる気分で非常に気持ち悪いんだもの。
「兄貴、もう帰ろ」
「喜んで」
「ふんっ!」
「・・・・・・」
やっぱり喜んで帰るのは不味かったか?
見るからに不機嫌そうだもん。
「いっとくけどデートじゃないから。デートじゃないけど・・・・・・その、付き合ってくれてあり・・・・・が、とう」
「はいはい、帰るんだろ」
「適当に返事しないでよ馬鹿」
「うるせぇぼっち」
「兄貴もにたようなもんでしょ」
あっそうでした。
まぁぼっちは誉め言葉だからな。
闇の帝王並みに心の中を読んでくる人との邂逅で疲れきった体は妙に重かった。
こんな風に冬休みもあっという間に過ぎ去り、感覚的にはあと三ヶ月は休みたいところを我慢して今日、俺はまた学校の制服に身を包み家を出た。




