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天使のような

こんなクソッタレな世の中でも。誰も彼も救う価値のないような人間だらけの世の中でも。生きた証しや意味何て三ヶ月もすれば有象無象と同じにされる世の中でも。

俺は君の何処までも透き通り、混じりけのない純度百パーセントの歌声を聞くだけで幸せになれた。

心を透かしてくその歌声に俺は、魅了されていた。

放課後の教室で誰も居ないと分かるとひっそりと歌い出すその声はいつも濁らない。

乳白色のその肌は歌声を連想させる。

程よく痩せていて起伏の少ない抱き心地のよさそうな体と、制服のスカートから覗かせるむっちりとした太股は黒のストッキングに包まれている。

先天性白皮症、所謂アルビノらしく夏でも冬でも露出は限られていて、きっと彼女はその事でかなりの苦労をしてきたと思う。

特に日本人は差別が得意な人種だ。人よりかなり色素が少なくて白いと言うだけで、無知な子ども達の間ではいじめに発展しかねない。

プラチナブロンドの髪は避けた日差しをほんの少しだけ反射させ、蒲萄色の瞳は閉じられている。

端正な顔立ちは気弱さを演出させ、白いこともあってか触れれば壊れそうな儚さを醸し出していた。

天使の環と羽をつけたらよく似合いそうだ。

そしてこんな風にこっそり盗み聞きなんてしてる俺は気持ち悪いことに彼女の天使の姿を描いてしまい、さらにはそのノートを机の中に忘れてしまった。


「はぁ」


おかれた状況に思わず溜め息を漏らす。


「誰?」


今の聞こえた!?

えっ、歌ってるのにあんな小さな溜め息聞こえたの?


「えっと、ノート取りに来たんだけど」


諦めて教室ドアを開けてそう言う。みるみるうちに乳白色の顔が薄紅色に変わっていく。

聞き惚れてた俺が言うのも何だけど、聞かれの嫌なら家で歌えよ。


「見せなさい」

「ふぁっ?」

「普段から宿題を無視してる神居(かみい)くんがわざわざノートを取りに来るなんて裏があるに違いない。私の歌を盗み聞くだけ聞いてなにもしないなんて不公平よ」

「・・・・・・」


依然頬を染めながら、蒲萄色の綺麗な瞳できつく睨んでくる大幸(おおさち)さんはすごい剣幕で捲し立ててくる。

あまりに身勝手なそれに思わず開いた口が塞がらなかった。

クラスでも一人で本読んでる、綺麗で世の中の穢れを感じさせない雰囲気のおかげでかなり意外だった。

でも性格と雰囲気が違うなんてのはよくあることか。


「いや、見ない方がいいと思う」

「どうして?」

「えーっとそのですね、見たらきっと気分を害される事間違いないようなものでして、変な思いをしないためにも見ないのが得策かと━━━━━━」

「これね?」

「って聞けおい!」


俺の話も聞かず机の中からノートを引っ張り出してきた。そして弱味を握れるのがそんなに嬉しいのか、楽しそうに笑いながらパラパラとノートをめくっていく。


「えっ、これ━━━━━━」

「返せ!」


例のページを見られると同時に、乱暴に取り返した。

彼女を模写した物でさえ存在感が強すぎてあっという間に見つかってしまった。

こうなったら逆ギレ作戦で行こう。キレられる前にキレてごまかしきる、これしかない。


「それってもしかして私?」

「・・・・・・だからなんだよ」

「でも天使の格好してたけど神居くんまで私が人間じゃないって言うの!?」


何の罪もない机を思いきり叩いて叫ぶ。

確かに見る人によっちゃ人間扱いしてくれてないみたいな風にも感じれるかもしれない。

でも俺はそんな差別的な気持ちで描いたわけでも悪意があったわけでもない。

この世のものとは思えないほど美しくて触れただけで壊れそうな繊細さを感じさせる彼女に、空想上の生物を少し重ねたかもしれない。


「何か言ってよ!」

「俺はそんなつもりじゃ無かったんだ」

「ふざけないで!」


俺の言い訳染みた言葉にとうとう怒りが臨界点に達してしまい、大声に呆気に取られた俺は胸ぐらを思いきり捕まれ、バランスを崩した彼女の体重を支えれず後ろに倒されてしまう。

そして俺が立ち上がろうとする頃にはもうマウントを取り、片手で俺の肩に体重をのせて拳を固めていた。

眼には涙がたまっている。

はぁ、何でこんなことになっちゃうかな?

俺はただノートを取りに来ただけだし、この絵だって半ば無意識に描いたような物だし。


「まだ言い訳はある?」

「俺は大幸さんが人間じゃないなんて思ってない。でもその絵は単純に・・・・・・」


言いたくねぇ、恥ずかしいよ同級生に言う言葉じゃねぇもん。


「単純に、何!?」

「・・・・・・あぁもう単純に大幸さんが綺麗だったからだよ!

「はっ!?きゅっ急に何い出すのよ」

「大幸さんの長いプラチナブロンドの髪とか、細い指とか蒲萄色の輝く瞳とか全部綺麗すぎて無意識のうちに書いてたんだよ!殴るなら殴れ、痛くも痒くもない・・・・・・多分」


ボコボコにされる覚悟を決めて俺は目をつむる。

うおっ、結構怖いぞこれ。いつ殴れるかわからねぇし、ってか遅くね?

言ったら直ぐ殴られると思ってた。


「本当にそうおもう?」


目を開けると両手で赤くなる顔を必死に隠す大幸さんがそこにいた。

勢いで言ってしまったが俺も今になってかなり恥ずかしくなってきたぞ。

どうすんだよおい、明日からどんな顔して教室はいりゃいいんだよおい。

誰か教えて。


「本当の本当にそうおもう?」


勿論。そう断言しようとした俺の声は出る前に、扉を勢いよく開ける担任教師によって止められた。

この体勢を何も知らない人が見れば十中八九『私、じゃま?』と思うだろう。

いわゆる不純異性交遊にも見えなくもない。

はぁ、指導室か。


■□■□■□■


完全下校時刻までみっちり説明をしたのち、紛らわしいことはするなと怒られやっと釈放された。

冬になって一気に日が暮れるのが早くなったな。

高一もあと少しか。

そんな事を思いながら少し肌寒い駐輪場から自転車を引っ張り出してきたときだ。


「まだ答えてない」


いつの間にか俺の背後に彼女が居た。

指導室出て速攻で逃げたんだけどなぁ。


「大幸さん」

「苗字で呼ばれるの嫌いなの。小幸(こゆき)でいいわ」

「小幸さんが綺麗かどうかだろ」


変に先のばしにすると余計厄介なことになりかねん。さっさと言って帰ろう。

こう言う場合は照れてはいけない、堂々とはっきりとがルール。さぁかますぜぇ、すかした言葉を!


「そっその、えっと・・・・・・綺麗だ、と、思います、はい」


駄目だ!

照れないなんて無理!

今まで異性にこんなこと言う機会なんて全くなくて耐性なんて有るわけもなくて、照れるななんてのが無理な話なんだよ。


「でっでも気味悪くないの!?」

「何が?」

「こんなに真っ白で髪もこんなだし、いっつも長袖しか着れないしいっつも帽子と日傘は欠かせないし目の色も・・・・・・」


うつむき控えめに嗚咽する。

日陰でよくわからないけど少しアスファルトの色も変わってる。

生まれもって障がいがある人生なんて凡人の俺には想像もつかない。そんな凡人な俺の妄想でも辛いものがある。

きっと何回か目の色とか、髪の色とかで心ない言葉を浴びせられたりしたのだろう。

整いすぎた容姿は真っ白を得て周りの女子どもを霞ませて、僻まれたもしたのだろう。

事実今も彼女は少し僻まれている。

整いすぎてるってのも難儀だな。いや、アルビノはもっと難儀か。


「絶対気持ち悪いよ」


絞り出すようにした声でそう言う。


「俺は人よりかなり色素が薄いとか、瞳の色が違うとかで気持ち悪いとは思わないよ」


どちらかと言うと教室にいるキョロ充の方が気持ち悪い。原宿辺りでケバケバのメイクをしたり、凶器のような付け爪してるやつらの方が気持ち悪い。


「嘘だ!」

「あの絵見てどう思った?」

「・・・・・・私とは似つかないくらい綺麗だった」

「あの絵のモデルは小幸さんで、俺があの絵を書きたいって衝動に駆られたのは素直に小幸さんが綺麗だったからだよ」


数学の時間に設問も無視して半ば無意識的に描いたあの絵は嘘じゃない。

俺の無意識からきた、かなり本音に近い物だ。


「光が眩しすぎて見えないことも沢山あって皆に迷惑もかけるのにどうしてそんなに庇ってくれるの?」

「俺はアルビノじゃないから当人の悩みなんて分からないけど、俺はいいと思うよ。無理矢理髪色変えたりして個性だそうと努力してる奴より全然好きだよ」


何気に他人に好きっていったの初めてかも。

もうだめだ、帰ろう。

俺の言葉に呆然としたままの彼女に欠ける声はなく、俺は帰路を急いだ。

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