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ばっくわ~どまじっく  作者: 水姫 七瀬
第4幕 人間恐怖症からの躊躇
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第42話 素直に甘える!……という名の躊躇

こんばんは。

今回から第4幕の開始となります。

なんか久しぶりに書いたせいか、文字数を想定料からオーバーしてました。

ちょっと長めなスタートですが、新しいお話をお送り致します。



「暑い……」


 目が覚めて開口一番の言葉がそれ。

 今日何度目になるか分からないけど、かけ布団をはね退けたらお母さんが苦笑いをした。


「もう、明ちゃん? 暑いのはカン違いだって言ってるでしょう?」


「でもぉ……」


 熱のせいで体が熱いっていうか、ダルいっていうか、とにかく気持ち悪くて涼しい格好がしたい。


「でもぉ……じゃあありません! 自業自得なんだからガマンしなさい!」


「は~い……」


 しかたなく、はね退けた布団をかぶり直してだき枕に抱きつくと、お母さんがボクの頭をひとナデして微笑んだ。


 今現在、市民病院の特別魔法病棟なんていうアヤシい名前のところに入院してます。魔法災害での負傷者や、魔法関係で病気にかかった場合、または魔力が強い人が入院する時に使う病棟なんだとか。

 入院の理由は魔力経路の加力炎症という病状だから、だってさ。

 魔力の成長期っていうただでさえ安静にしていないといけない状態だったのに、過剰に魔力運用を行ったから、体内の魔力を伝達するための経路が耐え切れずに炎症を起こしたってのが正しい症状みたい。

 大きな鳥型の『ナニカ』を倒した後、ボクは拓海にお説教をされることになったんだけど、その最中に急に気が遠くなって、気付いたらこのベッドの上だった。

 救急車を呼ばれるくらいにみんなには心配かけたみたいで、ちょっとだけ……その……申し訳ないなぁなんて思ってるところではあります。


「ごめんね? お母さん。お仕事とかありそうなのに、付き添いなんてしてもらっちゃって」


「はあ……明ちゃん? そんな気にしちゃダメよ? 親は子供が何歳になってもカワイイものだし、いつだって心配していたいのよ? だから気にしちゃダメよ?」


「でも~……」


「でもじゃありません」


「だって~……」


「だってでもありません。そもそも、今回の件だってお母さんにきちんと説明してくれれば、救急車を呼んで対処してもらったのよ?」


「ごめん……なさい……。心配かけてごめんなさい……ぐすっ……」


「もう、泣くことなんてないのに……」


 ちょっとぐずついたボクの目の周りをハンカチで拭きながら、お母さんが笑った。


「だから、本当に自分ひとりで解決できないことがあった時には、素直に甘えなさい」


 素直に甘える……? あれ? ボクって甘えたことなんていっぱい……あれ?


「あれ? ボク、お母さんたちに甘えてるよ? 甘えてる……よね?」


「あ~か~り~ちゃ~ん?」


「ひゃいっ……?」


「はぁ~……甘えてくれてたらわざわざこんなことを言いません」


 やっぱりそうなんだ……。

 ボクも最後に甘えたのいつかな? って思ったら小学校の4年生だったような気がしたのはまちがいじゃなかったんだ……。


「いい? 明。ただでさえ、明は女の子になったばかりなのに、魔法少女なんてものをしてるのよ? いろいろ分からないこともあるし、ムリをしたらそれこそ一生もののケガだってするかもしれないでしょう?」


「うん、分かってるんだけど……」


「蒸し返すようで悪いけど、明はイジメられるようになってからぜんぜん私たちを頼ってくれなくなった。心配させたくないからって気持ちは分かるけど、頼ってくれないことも心配なのよ? 明は周りに迷惑かけないように自分で解決しようと無茶をして……気付かせてもくれない。お母さんはそこが心配なのよ。分かって? ね?」


 そっか、ボクってそんなことでも心配かけてたんだ。心配かけないようにってひとりでガンバってきたけど、それもひとつの迷惑のかけかただったんだ。


「うん……ボク、これから……その……ガンバって甘えてみる」


「ガンバって……ね……」


 ガンバってまで甘えるものじゃないと思うんだけど……って、苦笑しながらお母さんがつぶやいた。

 言われてることは分かるけど、やっぱりそんなにすぐに変えられるほど、ボクはできた人間じゃないんだよね……。


「さて、お説教はここまで。本当は明ちゃんに聞いておきたいことがあるの」


「聞いておきたいこと?」


「そう、明ちゃんは女の子になってから、なにか変わったことはない?」


「変わったこと? そう言われても……全部変わっちゃったから……」


「肉体的に、じゃなくて精神的に、かしら? 魔力の成長期って、精神的な影響を受けるものなの。特に明ちゃんみたいな大きな成長をする人は特に、精神的になにか大きな影響を受けてるものなんだけど、なにか心当たりない?」


「心当たり……って言われても……」


「精神に関係することでも、心に関することでも、なんでもいいの。気になったことは全部教えて?」


「うんと……え~っと……。ああそうだ! 最近よく子供っぽいって言われるようになったよ? それって関係あるのかな~?」


「子供っぽい……ぷっ……」


「おか~さ~ん? 今のぷってな~に?」


「だって、子供っぽいというか本当に子供なんだからしかたないでしょう?」


「ひっど~い! ボクだってもうすぐ16歳なんだもん! もう子供じゃないんだからね!?」


「金曜日は12歳って言ってたじゃない……」


「むぅ~……そんなこと覚えてないもん!」


「あらあら、困った子ね。他にはないの?」


「ん~……?」


 後なにかあったっけ? 精神的? 心……? あ~……あれって関係あるのかな?


「えっと……最近よく夢をみるんだよね」


「夢? う~ん……精神的に子供に戻っ――」


「子供じゃないもん! ボク、子供じゃないもん! むぅ~……」


「ああ、ごめんなさい、明ちゃん。そういう意味じゃなくてね?」


「それに普通の夢じゃないもん!」


「普通の夢じゃ……ない?」


 お母さんが怖い顔をしてにらんできた。ちょっと怖い。


「なんて言うか……続きモノ? 誰かの子供……え~と3歳くらいかな? からの成長をボクが横で見てるんだよね。あれ? 成長? 日常生活? あんまりよく覚えてないかも……」


「ふ~ん……不思議なこともあるのねえ……。魔力に覚醒して、なにかが影響してるのかしら?」


「それで、そろそろ夢が終わりそうだなって思ったら、後ろから声が聞こえて振り向くの。誰かがそこにいて、顔はよく分からないけど、女の子なんだよね」


「女の子?」


 そう、多分女の子。え~っと……確か容姿は――


「黒いロングヘアーで身長は……あれ? ボクよりちょっと背が高い感じ?」


「どうしてそこで疑問形なの?」


「う~ん……夢の始まりは小さな女の子だったんだよね。それがいつの間にかボクより身長高くなってるような……」


「だから続きモノなのね。その夢、なにか他に気になったことはない?」


「う~んと……他に……他に……あったような……いたっ」


 思い出そうとして、急に頭が痛くなった。


「大丈夫? 明。ムリをしなくてもいいわよ? しばらくゆっくり休養する必要があるんだし。時間はいっぱいあるわよ」


「うん……」


 でも気になるなあ……。なんか今日は変なこと言われた気がするんだよね……。


「ほらほら、難しい顔すると、美人さんがダイナシになっちゃうぞ?」


「美人って言われても、まだあんまり実感わかないんだよね」


「考えてもしかたない時は甘いモノでも食べて気分転換しましょう。明ちゃんはなにが食べたい? お母さん買ってきてあげるわよ? 3時のオヤツも過ぎちゃったしね」


「はぇ? あ、もう4時半過ぎてる。でもいいの? ボク、入院してるし……」


「いいのいいの、入院してても食事制限されるような病気じゃないしね。それに、こういう時は素直に甘えなさいって言ったでしょう?」


「うん……じゃあ、焼きプリンがいいなぁ? あったらふわふわのがいいなあ……。ってお願いしてもいいですか?」


 なんだか途中でムリなこと要求してるようで、上目づかいでお母さんの顔色をうかがってしまった。

 そんなボクの態度がよくなかったのか、ため息吐いて苦笑いした。


「分かったわ、ちょっと待っててね。近くのコンビニ行って見てくるから」


「やっぱりいい、普通の焼きプリンでいいから……。購買で買えるのでいいよ?」


「こういう時くらいちょっと甘えてくれていいのよ? それで、病人はベッドで大人しく待ってればいいのよ」


「……分かったよ~。大人しく待ってるね?」


「そうそう、それでいいのよ? それじゃあ行ってくるわね」


 お母さんが苦笑交じりにボクの頭をひとナデして、部屋を出て行った。


「ボクって……そんなに甘えベタなのかなぁ……」


 抱きまくらを抱え直して、寝返りをうちながら考える。

 小学校と中学校、イジメられることが多くて、誰かに頼ろうとしても見ないふりされて、家族には知られて欲しくなくって必死に我慢してた気がする。

 そっか、甘えるっていうか、人を頼るってことをしないんだ、ボクは。

 性別が変わるっていう一大事が起きたのに、ぜんぜん周りを頼ろうとしてないから、ボクは心配されてるのかもしれない。


「うん、きっとそうだ。そうに違いない」


 頼るって心配させるだけだと思ってたけど、場合によっては安心させるって効果がある時もあるんだなぁ……。

 うん、これからはもうちょっと、お母さんたちを頼ろう! そうしよう!


「それにしても暇だ~」


 考えごとが終わるとなんにもすることがない。

 魔力検査とか、魔力経路の診断とかその他必要な精密検査も終わっててなにもすることがない。後は魔力経路の加力炎症を治すだけだけど、ちょっと頭がぼーっとするカゼ程度なんだよね。


「はぅ~……うぅ~……ふにゅ~」


 寝苦しいし、さっきまで寝てたせいで眠気もないし、ほんとに暇だなぁ……。


 どれくらい経ったかな? なんにもやることがなくて、ゴロゴロしてた時、コンコンと病室のドアをノックする音がした。


「誰だろ? お母さ――」


 あ……、そういえば今、コンビニ行ってるんだった。

 この部屋は個室制で、今はボクひとりしかいないから対応してくれる人がいない。

 コンコン。

 もう一回ノックの音。その後、何人かの声が聞こえて来たけど、距離があって聴き取れないし、返事をしようとしても体調不良のせいで、大きな声が出せない。


「しかたない」


 ダルい体にムチを打ってベッドから降り、スリッパを履いて病室の入り口を開けた。


「どなたですか~……」


 ガラガラと音を立てて開いた引き戸の向こうには、焔さんと水穂さん、藤乃さん、あかねさんが目を丸くして立っていた。


「あか……りちゃん……?」


「ふぁい?」


 あれ? なんでこんなところに4人が……。ていうか、なんか内3人ほどプルプル震えてるんですが……。


「カワイイ……」


「うん、カワイイね……」


「はえ? いったいなに言って――むぎゅ!?」


 いきなり3人に抱きつかれた。ちょっと苦しいです。


「カワイイワンピースパジャマで、抱きまくらを抱えてのお出迎え。狙ってますね」


 無感動な表情にムリヤリ口を吊り上げて、水穂さんがボクの頭から爪先をじっとりと観察しながら言う。


「え……? あ……」


 下を見ると、替え用のピンクの生地にひまわり柄のワンピースパジャマ。それに加えて、水色にピンクのハートがいっぱいついた等身大抱きまくらを抱えていた……。


「おぅ、のぅ……」


 思わず口から吐いたのはかたこといんぐりっしゅ。

 いえ、そんな言葉が出るほどショックだったと思ってください。

 ていうか、どうしてボクは抱きまくらを抱きしめたままだったんだよ!? こう、ちょっとポイってすれば十分手放せたじゃないか!?


「ワ……ワスレテクダサイ」(棒読み)


―― ぴろりろりん


 マヌケな音がしたほうを見ると、藤乃さんが携帯で写メを撮ってた。


「あはは……どうして、写メなんか撮ってるの?」


「カワイイからに決まってます!」


「ぐっ……ふぐ……ぅ……」


 ボクの中のナニかがはじけたような気がした。


「けっ、消して~! 消せ! 今すぐ消してぇ!」


―― ぼかん! ぼすん! どす!


「きゃあ!?」


「ひぃ!?」


「ちょっと、明ちゃん!?」


 気付いたらメチャクチャに抱きまくらを振り回して暴れてた。


「はふぅ! ひぃ……ふぅ……う~……めがまわるぅ……」


 調子が悪い上に大暴れして気持ち悪くなってきた……。


「ほら全く、調子悪いんだから暴れちゃダメだよ?」


「ごめん、焔さん……」


 焔さんに肩を貸してもらいながら、ベッドに戻った。


「それにしても、ずいぶんカワイイ格好だね!」


「本当ね。なんだかいけない気分になりそう……」


「とーののそういう言葉は危険だから、口に出すのは止めてね?」


 口に出すのはってことは、思ってるのはいいってことなのかな? まさかね……。


「それに等身大抱きまくらはインパクトあったよ? すごく……その……カワイかった!」


 焔さんまでなに言ってるんだよ……。


「知ってる? 抱きまくらを愛用してる人は、潜在的に甘えるという好意に欲求不満らしいわよ? つまり、甘えん坊ってことね」


「そんなことないもん! ボク、甘えん坊じゃないもん! そんなの水穂さんのでたらめだよ!」


「ムキになるところがアヤシイです!」


「アヤシイわね」


「ムキになる明ちゃんもカワイイなあ」


「ほっ、本当なんだか――」


―― がらがら。


「ただいま~、遅くなってごめんね? 明ちゃん。頼まれてたふわふわ焼きプリン、近くのコンビニになかったからちょっと遠くまで――あら? みなさんこんにちは?」


「ふふ、お母さんにプリンを買わせに遠出させるとか……甘えん坊ですね」


「んぐっ……う……ぅっ……」


 悔しいけど反論できない……。確かにボク、お母さんに甘えてって言われて頼んだわけだし……。でもなんだかそう言われるのは悔しい。


「本当に、甘えん坊さんってのもカワイイなあ」


「……うきゅ~!」


―― ぼん! ぼすん! ぼかん!


「きゃあ!?」


「わわわ……」


「明ちゃんストップ!」


「バカ! バカ! バカぁ! みんな大っきら~い!」


―― ぼかぼかぼかぼかぼっか~ん!



 けっきょく疲れて倒れるまで、照れ隠しに抱きまくらを振り回して暴れ回ったのだった。

 教訓。当分ボクは誰かに素直に甘える、なんてことはできそうにありません(がくり





                         ― つ・づ・く ―

結構自分で校正はしているのですが誤字脱字が多い性分です。

誤字とか脱字があったらご指摘いただけたら幸いです。



という訳で『素直に甘える』の回でした。

今回、第4幕のサブタイは躊躇シリーズになります。

今回第4幕は魔法少女から少し離れて、明の学園生活に重点が置かれます。

いわゆる人間関係がいろいろと複雑な……こうなにかがありそうだなぁ!って展開にしたいなと思っております。

という訳で、新しく始まった第4幕もがんばりますのでどうぞよろしくお願いします(ぺっこり




あ、そうそう、夏コミ当選したのでちょっと夏コミ用の作品を作成するために今月いっぱいは更新頻度が下がります。

詳しくは活動報告の方に書いていますので、詳しいお話はそちらの方をご確認ください。

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