第3話 僕は村人A!……という名の不幸
第3話をお贈りいたします。
序盤さくさくを目指していますがそれでも5話掛かるとかちょっと遠い目。
そんなお話ですがどうぞ宜しくお願いします。
(2012/10/27 体裁統一のためのチェック)
「はぁ……すっかり遅くなっちゃったなぁ」
今、商店街から裏道に入ったところだった。
商店街から家までの直線距離だと裏路地に入った方が早いんだ。
商店街とコンビニを結んで家を象ると、ちょうどアルファベットの”L”の字になるんだ。その商店街と自宅の直線距離を取るにはこの裏路地を通らないといけないんだ。
最近なにかと物騒で、市長から『魔物が徘徊する場合があるのでできるだけ夕方などの時間帯は人気の無い所は通らないようにしましょう』と広報で流れてくる。
でも、魔物なんて遭遇しようとしてもできないけどね。
魔物がこの世界に現れ始めたのは28年前。異世界の門が偶発的に発生して向こう側の悪意ある『ナニカ』がやって来るんだそうな。その『ナニカ』に対抗するために生まれたのが魔法少女システム。同じく異世界の門の向こう側の善意を持った者たちが魔法少女を選んで指揮するものらしい。
で、その指揮されている魔法少女が各都市に配置されてる。とうぜん僕の住んでいる高根市にも魔法少女がいるらしい。誰か知らないけれどありがたいことです。
と、こんなこと考えていてもしかたない。早く帰らないと姉さんに怒られる。
急ぐ道のりを駆け足で進んでいると大きな影が僕にかかる。どうも、道脇の家の塀の上から影が延びているらしいんだけど……。なんなんだろ?
そう思って塀の上を見上げたのがまちがいだった。そこには身の丈3メートルくらいの大きな犬が音も無く僕と並走していた。
いやなんてゆーか犬じゃないなぁ……オオカミ? そうだオオカミだ。ゲームで良く見たあれだなぁ……。
「ってオオカミ!?」
僕が叫んだ瞬間、大きくオオカミがジャンプする。
うわぁ……本当にオオカミってカッコイイんだなぁ……じゃないない! 違うよ僕っ!
オオカミが前方に着地してこっちに向き直った。
『トテモ良イ匂イガスル』
「しゃ、しゃべった!?」
『濃密ナル魔力ノ匂イ』
は? え? 魔力の匂い? 魔力ってあれかな? RPGとかファンタジー小説の設定の魔法を使うための力。あれのことなのかな?
『汝、我ニ魔力ヲ捧ゲヨ』
「はぁ? ええ?」
後ろを振り向く、誰もいない。右は塀、左は団地の公園だろうか、小さい広場みたいな公園だけどあいにくと誰もいない。
「あーっと……?」
『察シガ悪イ人間メ。オ前ノコトダ』
シューシューと音を立ててオオカミの口から気味の悪い色をした煙が吐き出される。黒っぽい赤と言うか、なんというか……くさったブドウの汁みたいな色? そんな色だ。
「もしかして僕?」
いやー、外れて欲しい。すっごく外れて欲しい。僕じゃありませんように……。
「ソウダ、オ前以外ニ誰ガコノ場ニ居ル?」
残念、なんと本当に僕でした……。ていうかなんで僕ぅ!?
「いやー、なにかのまちがいでしょ? 僕、魔力なんて持ってないし……」
『間違イ無イ。オ前カラ強イ魔力ヲ感ジル。我ニ捧ゲヨ』
いやいや、捧げよと言われましてもどうやって?
「え? なに? どうやってするんだよ?」
『ナニ、簡単ナコトダ。魂ヲカジレバ良イ』
えー……? それってつまり……。
『汝、自ラヲ贄トシテ捧ゲヨ』
うっわー……思った通りの回答だよ……。贄とか言われちゃったよ……。
「え……? ニエってなに? どんな字を書くの?」
なにかのまちがいじゃないか確認のために聞いてみる。
『アホウカ。異界ノ生命タル我ガコノ地ノ文字ナド解スル道理ナド持チ合セテオラヌ』
でーすーよーねー……。
『素直ニ我ニ捧ゲルガ良イ』
そう言うとオオカミは一つ咆哮を上げる。
グォォォォオオオオオオオオオオオ!!!!
大きな咆哮は大気をブルブル震わせてるのか、近くの外壁や電柱がビシビシと鳴って電線がグネグネと揺れてる。
さすがに僕もこれには敵わないと思って逃げ出した。できるだけ早く、できるだけ安全なところに……。
瞬間的に視界の中に回転する丸いジャングルジムを見つける。全速力で公園に駆け込んでその中に飛び込む。
ガガンッと遅れて大きな音が響いた。
「ひぃ!?」
オオカミがジャングルジムに体当たりしたんだ。メキメキという音を立ててジャングルジムが軋む。
『早ク往生セヨ人間』
ガツン、ガツンという体当たりと共にどんどん揺れが激しくなる。
格子越しに目の前に大きなオオカミの口が迫ってる……ガツンガツン音を立てて。
「ひぃ!? イヤだぁ! 死にたくないぃ!」
どうして僕がこんな目に……。あれか、腹いせに姉さんの嫌いなピーマンをチャーハンに入れたせいか! そうなのか!? だとしたら今度からピーマンなんか入れてやらないんだからなっ! 恨むよピーマンの神様。なんでピーマン1つのせいで僕が死ななくちゃいけないんだよぉ!?
『サァ、諦メロ。我ヘノ贄トナルガ良イ』
「やだぁ! ゼッタイやだぁ!」
なんとかジャングルジムの支柱に抱きついて耐えているけれどそのジャングルジムがそろそろヤバイ。
なにがヤバイかって? 傾き始めてるんだ。
「サア、人間ヨ。ドコマデ耐エルコトガデキルカナ? グルルルル……」
だんだん倒れて行くジャングルジム。しかもどんどんオオカミが体当たりしている所がひしゃげてるよ!
どうしろって言うの!? このままじゃあ僕食べられちゃうよ!
「ソラソラドウシタ人間、諦メルカ人間」
笑いながら体当たりするオオカミ。マジ怖いです。ていうかヨダレ飛び散ってます。口開けて笑わないでっ! 服にかかってる! 服にかかってるから!
「てゆうかこういう時の魔法少女だろぉ!? なんで来ないんだよぉ!?」
そう叫んだ瞬間にボキリという音が聞こえた。その瞬間に世界が回転する。
「わぁあああ!!!!」
どうやら支柱の根元が折れたみたいで、地面をジャングルジムが転がり出したらしい。
「コレハ何トモ面妖ナ……転ガル檻トハ」
ゴロゴロと転がるジャングルジム。それを追い回すオオカミ。
追うものと追われるもの。その関係はまるで猫と毛糸玉だ。
ゴロゴロ―…ガシンガシン。ゴロゴロ―…ガシンガシン。
これが等身大の猫と毛糸玉だったらどんなに和めたんだろ! そしてその玉に自分が入ってなければさらに……。
「でい゛う゛が……だれ゛がどめで……ぎぼぢわ゛る゛……おえぇ……」
もう気持ち悪くて限界……。
すぐに力が抜けて手が滑ってしまった。しかも運が悪いことにすぽーんとジャングルジムの入り口を通り抜けて外に投げ出される。なんてお約束!?
「ヤット、贄ガ喰ラエル」
視界がグラグラするのと地面に放り出された痛みでうまく立てない。それでも逃げなくちゃって本能が言ってる。命が危ないって言ってる。
僕はやっとのことで立ち上がって逃げようと前進するも、目の前にはオオカミが回り込んでた。
アレだ、『勇者は逃げ出した! しかし、魔王からは逃げられない!』ってヤツだ。
正に魔王に睨まれた村人Aな僕、なんて言ってる場合じゃなかった。目の前には大きく口を開いたオオカミの顔が迫ってた。
(ああ、これで僕の人生も終わりか……あっけなかったなぁ……)
覚悟を決めて目を閉じようとした瞬間、ドッゴーンという大きな音とともにオオカミが横倒しに吹っ飛ばされてた。
「え? え? なに? なんなの?」
スタンという音と共に目の前に女の子が着地した。
「やぁやぁ、少女よ。お姉さんが助けに来たからにはもう大丈夫だからね!」
とにかく赤い人だった。後ろ姿しか見えてないから判断できないけれど、赤い髪にパステルピンクの生地に赤色の縁取りがされた燕尾ブラウス。下は真っ赤なパンツルックだった。
その姿はあまりにも衝撃的で、僕の感想はただひとつだった。
(うっわー……なにこのはずかしいかっこう……)
― つ・づ・く ―
結構自分で校正はしているのですが誤字脱字が多い性分です。
誤字とか脱字があったらご指摘いただけたら幸いです。
シリアスコメディー目指しています。序盤がコメディーらしくなくて申し訳ないです。早くも感想でコメディらしくないと突っ込まれました(苦笑)
今までシリアス系しか書いてこなかったのでコメディに慣れてないんですよね。なので序盤からコメディ全開なんてことは出来ませんでした(泣)
まぁまだ物語の起承転結の『起』の部分の更に『承』が今終わった所なのでもう少しお待ちください。
それでは今回はこれで失礼しますなのですよ。