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幕外編その3 カワイイ妹のウワサ!……という名の心配

はい、番外編の第3回で千夏さんの第2回です。

ちょっと間が開いてしまいましたが、5月病……もとい風邪でいろいろと体調崩していました。ごめんなさい!

という訳でどうぞ~。



「はあ……」


「なにため息付いてるの? 佐伯さん」


「え? 私、ため息ついてた?」


「それはもう盛大に……」


 苦笑しながら頷いたのは前の席に座ってる加賀見さん。苗字で呼び合う仲だけど、かなり親しい仲ではある。

 まあ、なんというか、名前で呼び合うよりは苗字で飛び合う方がお互い性に合っているような気がするだけなんだけどね。


「なにか悩み事でもあるのかしら? 私で良ければ聞くわよ?」


「あ~……悩みと言うより――」


「心配なのよね~? 千夏は」


 どっかりと私の肩に抱きついて、静奈が茶化すように言った。


「重いから退きなさい」


「え~? 千夏ちゃんのイ・ケ・ず――あう!?」


 加賀見さんが、静奈の額にデコピンを放った。パシン、っていい音が聞こえたくらいだから相当痛そう。


「まったく、あなたも少しは反省という言葉を覚えるべきよ? 静奈」


「だったら、手を挙げる前に言ってくれないと……。沙希はいっつも注意より先に手が出るから嫌いよ」


「で、佐伯さんが心配しているというのは?」


「ああ、それは今日転校してきたうちの妹」


「カッワイイのよね~。ほんとにちっさくて~、ぷるぷるしててカワイイのよ~」


「ぷるぷる?」


「そうそう、あんな風に――」


 静奈が指した方を釣られて見る、となんだか教室の後ろの出口あたりで人だかりができていた。

 なんだろう? 女子たちがカワイイカワイイと言ってて気になって近づいてみる。というか、近付くたびに賑やかから沈黙、沈黙からオロオロに切り替わる。


「どうしましょう?」


「ちょっと、誰が泣かせることしたの?」


「ああ、そんな泣かないで」


 人垣の中をのぞき込む、と真ん中に黒髪ロングストレートの小さな子がぷるぷる震えて涙目になっていた。


「うっく……ふぇ……」


 その子が鼻をすすった瞬間にバッチリ目が合う。と、スルリと人の間を縫って、ぎゅうっと私の腕にしがみついた。


「い……痛い……」


「え? あれ?」


 みんな困惑顔で私を見た。

 そうだよね。こんな展開、すぐには飲み込めないわよね。


「あの……千夏。その子、お知り合い?」


 女の子を囲んでたひとり、颯花さつかが遠慮がちに聞いてきた。


「ええ、恥ずかしながらウチの妹です」


『ええーっ!?』


 一斉にみんな叫んだ。そんなにびっくりすることなのかしら?


「って、ちょっと、明……苦しいんだけど……」


 大声でびっくりしたのか、腕からさらに背後に回ってぎゅーっと腰にしがみつかれてます。正直コレをどうにかしてください。



□◇□◇□◇□◇□◇――…



「私は橘川奏きつかわかなで、よろしくね?」


「私、加賀見沙輝(かがみさき)。名前で呼ばれるの苦手だから苗字で呼んでくれると助かる」


「あ……の……さ、佐伯……明です。よろしくお願いします」


「ねね、私は進藤颯花。チョコ食べる?」


「え? あの……」


 困ったように、黒髪ロングストレートの小柄な女の子が、上目遣いで私を見上げた。

 いえ、ウチの妹なんですけどね。こんなに可愛いのに半月前までは男だったとか、私でももう信じられない。いえ、信じてって言われれば信じますよ? 比喩表現です、比喩表現。

 「もらってイイの?」って聞きたいみたいだけど、声が出ないらしい。

 ひとつため息を吐いてうなずくと、明は受け取って食べ始めた。

 この子、甘いもの好きだったっけ? 前までは違った気がするんだけど、チョコひとつでぱぁって表情が明るくなった。

 なんとも現金な……と言うか、こんな様子を見ると、お菓子につられて誘拐されないかしら? って、本気で思ってしまった。


「ほ~ら、妹ちゃん。こんなのはどうかな~?」


 面白がって、今度は静奈がおせんべいを一枚取り出した。


「ちょっと、静奈? 今時の女の子がせんべいだなんて――」


「ボク、おせんべい……大好きです。いただいて……いいですか?」


「おおう、どうぞどうぞ」


「ありがとうございます」


―― カリカリカリ……ポリポリポリ……


「和むね~」


「そうよね~? まるでリスとかハムスター見てるみたい」


「んぅ?」


 いや、その気持分からないでもない。分からないでもないけど……。

 首を傾げた後、両手で小さくおせんべいかじるとか、それは狙ってやってるの? それは狙ってやってるの? それともこの子、天然なの? 本当にこれが2週間前まで男の子だったなんて、誰が信じようか? 否、信じまい。


「ごめんね? 明。ちょっと生徒会の仕事が急に入ってきたから、それを片付けなくちゃいけないの」


「姉さんって、副生徒会長さんなんでしょ? そういうの、生徒会室とかでやるんじゃないの?」


「ああ、これは――」


「佐伯さんってマジメ過ぎだから、生徒会の集まりがない日でも色々と手を回してるのよ。困った子よね」


 私のセリフを遮って、加賀見さんが苦笑しながら誇張した説明をした。


「へ~、姉さんってすごかったんだね~。家ではあんまりそういうこと言わないから知らなかった~」


「そうなの? 千夏も家で自慢話すればいいのに。副会長やってます! だなんて自慢よ? 鼻高々よ?」


「なに言ってるの? 颯花。副会長なんて内申書の点数稼ぎよ? そんなので自慢してどうするの」


「こう言ってはおりますが、我らが副会長、立派に他推薦で選ばれているのです」


「それは――別に関係ないでしょ……? たまたま立候補いなかっただけだし」


「人望有り! 面倒見よし! それに加えて美人! 我が章栄高校は安泰ですなあ!」


「もう! 奏までやめてくれる!? 過剰評価はホメられないわよ!?」


「おっと、千夏のツンが出たよ、ツンが! さあ、いつデレるか賭けましょう!」


「静奈……部費……」


「ゴメンナサイ!」


「――んふっ……ふふっ……」


『え?』


 振り返る、と明がコロコロと笑っていた。


「姉さんたち、面白いね~」


「ありがとう、妹ちゃん! それ、最高の褒め言葉」


「家でも、こんな感じだったらいいのに」


「ちょっと、余計なこと――」


「え? 千夏って自宅じゃこんなんじゃないの?」


 静止遅く、奏が食いついていた。遅かったか……。


「えっとね~? うちじゃけっこう横柄なんだよ~?」


「ちょっと! 明!?」


 それってずいぶんひどい言葉じゃないの!? 確かに、今年の春までは疎遠だったけどさ……。これでも姉としていろいろ気を配ったりしたんですよ。


「え~? 意外。こんな可愛い妹ちゃんにそういうことするってことは、千夏って根っからの“エス”ですか、そうなんですね? さすが学内罵られたい美人ナンバーワン!」


「ちょっと奏! なにその評価!? どこから来たの!?」


「男子生徒が裏で投票してたよ?」


「姉さん、人気者だね」


「喜んでいいのか悪いのか、ちょっと考えさせて」


「でも、ボクは姉さんが好きだよ?」


「はぇ!? なっ、なにを急にっ!?」


「いっつも横柄な態度だけど、いつも心配してくれるし、困った時はしっかり助けてくれるんだもん」


「へ~……千夏がねえ……」


「こないだなんてね? 帰りが遅かった時に真っ先に探しに行くって言ってくれたの、姉さんなんだ」


「うわ~……佐伯さんって……シスコン?」


「ちょっと! 人聞き悪いこと言わないで! 誰だって近くのコンビニにお買い物任せたら2時間も帰ってこないとかだったら心配するでしょ!?」


って、この話題マズくない? このまま続けたらなんか根掘り葉掘り聞かれそう。


「え~? もしかして妹ちゃんって、迷子になるタイプなの?」


「ううん、姉さんに頼まれてたアイスが、近くのコンビニで品切れだったから、ちょっと遠出したら遅くなっちゃったんだよ」


 ああ、そういう逃げ方をするのね。でもそれって逆に私が批難されることにならない?


「妹ちゃん、尽くすタイプ? なにもアイスのためにそんな遠出しなくっても」


「ん~? だって姉さん全国模試でピリピリしてたころだったから、あんまりストレスためるのも悪いし、甘いモノ食べたくなるんだろうし……。それだったら頼まれたものキッチリ買っていくのが、お……妹として協力できる範疇かな? って」


「うわ~……すっごくいい子だ~。ね? 千夏。この子、私にちょうだい?」


「ちょっと奏! なに言ってるの!?」


「きゃう!?」


 はずみ、と言うかなんというか、売り言葉につられて、ついつい明を抱き寄せていた。


「こっ、この子は私の妹なんですからね! 誰があげますか!」


「し……シスコンだ~」


「真性ですね……」


「まさかツンデレの上にシスコン……」


「救いようがないわ」


「ちょっと! 静奈も奏も決め付けるな! それに颯花! 手遅れみたいなこと決めつけないでくれる!? 加賀見さんだって妹がいるでしょう!?」


「うちはそんなにベタベタしてないわよ? ある意味ドライ? まぁ家庭の事情もあって、お互いそんなに干渉的じゃないから、悪いけど佐伯さんの期待には添えかねるかな?」


「へ~……そうなの?」


「そうなんです。で、いつ終わるの? そのお仕事。さっきから随分と手が止まってるじゃない」


「うっ、うるさいわね! やろうと思ってたらあなたたちが邪魔してくるんじゃないの!」


「――ここ、タイムスケジュールの設定が甘いかも」


「……え?」


 下から声がして見ると、抱きしめたままの状態から、明が書類を指さしてた。


「これ、球技大会の当日までのと、当日進行のスケジューリングでしょう? 当日までのは日程がギリギリすぎるから2日前倒し、当日は試合毎に余白空けてるけど、スポーツはアクシデントがつきもの。後ろに予備白空けて、各試合毎はシビアに見たほうがいいと思う」


「え? え? あれ……? どうしてそんなこと……それに2日前倒しって?」


「この学校、体育科まであるでしょう? ライバル同士張り合って同じ種目に変更、なんてことが想定されるじゃないですか? 一次決定を設けて変更期間を2日設けたほうがいいですよ?」


「……もしかして妹ちゃんってかなりデキる子?」


「ていうか、もしかして千夏よりも気配りできるタイプ?」


「将来有望ね~」


「ふ~む……佐伯さんの妹さん、なかなか優秀そうで、この学校の未来も安泰そうね」


 なんかこの流れ……姉としての威厳が……。


「でも、良く知ってたわね? ウチの体育科の連中がそんな感じだって」


「それはお姉さまに教えてもらっていましたから」


「へ? お姉……さま……」


「へ~? ほ~? まさか千夏もそんな趣味があったとはね~……」


「ち、違う! 私そんな趣味ないから! 明も変なこと言わないでよね!」


「ふぇ? ボク、なにか変なこと言った?」


 言った本人に自覚はないみたいで頭が痛くなりそう。


「妹さん、部活入ってないんでしょ? 生徒会に入ったらどうかな? 美姉妹ふたりで生徒会役員とか面白そう」


「ええ!? ボ、ボク……そうゆうのは……」


「でも、この事務処理能力は生徒会で重宝しそうだよね」


「言えてる言えてる。時期はずれの転校生、編入試験で高得点を取り、さらに美少女。オマケに生徒会からのスカウト! とかね? 姉は生徒会副会長ってところもポイント高いよね~」


「あの――」


「そうしなよ? 妹ちゃん。きっとすごいことになるよ? うん」


「ね、姉さ~ん……」


「この子、目立つの苦手だから……」


「大丈夫、生徒会書記とか目立たないわよ!」


「そうね! その選択肢があるわ!」


「ダメだ……この子たち、ぜんぜん話を聞いてない……」


 暴走状態の4人が私と明を放り出して、盛大に話の花を咲かせていた。

 これは……どうなることやら……。

 不安そうに見上げる明を見て、ため息を吐いた。



□◇□◇□◇□◇□◇――…



「はあ……ちょっと明? いいかげん離れてくれないかしら? 歩きにくいんだけど……」


 ぎゅっと、しっかり左腕にしがみついた明が顔を上げて首を振る。

 これから毎日、登校はこんな感じになるのかと思うと頭が痛くなる。というか、学校への道のりが遠く感じて仕方ない。

 まあ、気持ちは分からなくもないけど……。

 登校途中の周囲の生徒たちを見る。どこを見ても、誰かと目が合って逸らされる。これを何十回も繰り返せばストレスも溜まるわよね。


「今日で登校2日目じゃないの。いいかげん慣れなさいよね?」


「だって~……」


 恐る恐る、明が周囲を盗み見て、さらに抱きつく力が強くなった。

 いったいどうして一晩でここまで悪化したんだか……。


「おっはよ~! 千夏に妹ちゃん」


「おはよう、静奈」


「おはよ~ございます。その……掛川先輩……」


「ますます注目されてるね~、うんうん」


「なにその、『私は事情通』って反応……。もしかしてなにか知ってるんじゃないでしょうね?」


「ま、ま~ね~? あは、あはは……あはははは~……」


「教えなさい!」


「いや~、昨日の放課後の話がどっかからウワサとして流れちゃったらしくてね~? 昨日の夜に私のところに新しいウワサが……」


「発信源、静奈じゃないわよね?」


「まっ、まさか~? 颯花にきまっ――あ……」


「あんのウワサ好きめ~……教室着いたら、どうイジメてあげようかしら? うふ、うふふふ……」


 さっそく、教室に駆け込んでとっちめ――


「置いてかないで~……」


 駆け出そうとしたところを、涙目で見上げる明が左腕をぐいっと引っ張って、出鼻をくじかれたのだった。



□◇□◇□◇□◇□◇――…



 あとで詳しく調査をした(というか、颯花を締めあげた)ところ、新しくできたウワサはどれもこれも頭を悩ませるような内容だった。

 曰く――


・時期はずれの美少女転校生。和風美少女で華がある。

・頭が良くて、学年5指に入る才女。料理の腕もいいらしい。

・ちっさくて可憐、そして守りたくなる系。あんな子、妹にぜひ欲しい。

・美人副会長の妹。正に美人姉妹。目の保養に一度はセットで見てみたい。

・事務処理能力を買われて、生徒会にスカウトされてるらしい。

・というか、あの美人副会長を「お姉さま」と呼ぶ関係らしい。


――などなど……。ロクでもないウワサばっかりだってことだけは確かだった。


「あの子、だいじょうぶかしら……」


「千夏もいろいろと大変だね~? もし妹ちゃんになにかありそうだったら、私も協力するからね~?」


「はあ……。そうしてあげて……」


 まだ転校2日目。こんなに注目されてしまっている我が妹のことを憂いて、ため息ばっかり出るのだった。






                         ― お・わ・り ―

結構自分で校正はしているのですが誤字脱字が多い性分です。

誤字とか脱字があったらご指摘いただけたら幸いです。



と言う訳で『カワイイ妹のウワサ!』の回でした。

他視点からの明がどう映っているのか、を焦点にしてみました。

このままどんどん雪だるま式にウワサに尾ひれ胸びれ、背びれまでついていくことでしょう。

そしてこのまま第4幕にて色々と事件が起きるわけですね(ぇー)

ますます、明が知らないところで変な原因が一人歩きです。


という訳で次回を『幕間3 胡蝶の夢』、その後に第4幕へと移ります。

最近色々と体調不良気味ですが、がんばっていきますのでよろしくお願いします(ぺっこり



P.S.

今年の風邪は抗生物質が効きにくい上に酷くなりやすいらしいので、みなさんも風邪をひいたら早めに病院へ行くことをオススメします。

肺炎になりかかって入院とか大変ですからね(体験談)

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