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ばっくわ~どまじっく  作者: 水姫 七瀬
第3幕 新しい生活への物怖じ
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第39話 知られる!……という名の物怖じ

こんばんは。

もう真夏日があったようで、今週末には東京も桜が満開だそうです。

ちょっと上野公園でも行ってこようかなぁ? と思ってしまいました。

というわけで(どういうわけで?)新しいお話をどうぞ~。



「ごめんなさい」


 どこからか、落ち込んだ人の声が聞こえた。


「なにがですか? 私に謝るようなことが?」


 目を開くと、いつか見た真っ暗の中にところどころ星のような光源のある空間だった。

 足元に、誰かの青紫の(あざ)やかな和服のすそと足袋(たび)が見える。


「また……夢の中?」


「やはり、まだ早過ぎたのかもしれません」


 ボクの問いかけに、なにも答えてくれることはなく、淡々と話を続ける。


「余計な影響をあたえてしまいました」


 目の前に立った人を見上げる。暗がりなのと光のない状態のせいで顔は良く見えないけれど、黒くつややかな長い髪が特徴的な女の人だった。


「もう少し、もう少しだけ成長するまでは――」


 女の人がゆっくりと右手の人さし指をぴたり、とボクのおでこに当てる。

 ボクはただ見ることしかできなくて、体をそれ以上動かすことができない。


「待つことにします」


「待って! あなたは――」


 くすり、と目の前の女の人の口元が自嘲気味(じちょうぎみ)にほころぶ。


「それは……また別の機会にでも……」


「ひぅ……」


 頭に強い痛みを感じて目を閉じてしまった。


「あなたはあなた、他のなにものでもない。そのことを忘れないでくださいね」



…………


………


……







□◇□◇□◇□◇□◇――…



 頭いたい……。


「大丈夫か? 佐伯さん」


 気づいたら、心配そうな表情の拓海の顔が目の前にせまってた。


「ひゃぅ!? だっ、だいじょ――」


 いきなりおでこに冷たいなにかが当たった。拓海の手だった。


「な、なにっ……するの……」


「いや……顔が真っ赤で熱があるみたいだしさ……。こうすれば少しはマシかなぁ? と」


 いや、確かにちょっとは楽になった気がするような? しないような? でも確かに、体がすごく熱い……気がする。息も整わないし、体がすごくダルいし……。


「でも……正直……これは……どうかと思う……んだけど?」


「へ……? ああっ、そのっ、ごめん……。気安く女の子にこんなことしちゃダメだったな」


「ううん、冷たくて……気持ち……いい……」


 こんなこと、前にもあった気がする……いつだっけ?


「そっか……小学校の……4年生……」


 確か、拓海と遊ぶ約束してたのにカゼで寝込んで外に出れなかった時があって、その時拓海が心配して家に来てくれたんだっけ……。


「ん……? ああ、そっか。約束の時間になっても来ないから心配して、アキラの家に行ったら熱出してたから看病したんだっけ? 懐かしいな。まだ覚えてたのかよ?」


「忘れるわけ……ないじゃない。あの後、拓海にうつして、ふたりで寝込んだんだから……」


 今思い出しても、ちょっと笑ってしまえる、ボクにとって数少ない思い出だ。


「本当にアキラ……なんだな……」


「ごめん……。ボク、本当は……言いたかった。言いたかったんだよ……」


「だったらどうして……」


「だって、お母さんたちに、家族以外には秘密にするようにって……」


 そう、ボクが女の子になったあの日、ボクが今までいじめられてきたこともあって、家族の他に誰も話しちゃダメって、いじめられる原因にもなるからって口止めされたんだ。


「でも……」


 でも違う……。本当はそうじゃない。ボクは……怖かったんだ。拓海に知られるのが……。

 ボクのことを拓海に話して、知られて、もし拒絶されたらって思ったら、怖くてしゃべれなかった。


「ボク、拓海に……ひぅ……きらわれるの……うぐっ……怖くって……」


 そう実感したら、視界が滲んで、心が張り裂けそうなほど痛かった。


「そしたら……しゃべれなかった、の……ボク、がアキラだよ、って」


「はあ……。俺が何年お前と親友してきたんだよ? 小学校低学年の時からだぞ?」


「ひっく……ご、ごめ……ごめんね? 拓海……」


「泣きながら謝るなよな。俺も……その悪かったんだかさ、その……転校初日に……」


 ほっぺたをかきながらそっぽを向く拓海。ちょっとだけど、赤くなってるのが分かる。


「思い出して、赤くなるなんて……拓海のバカ……ヘンタイ……」


「しかたないだろ!?」 


 うん、ホントは分かってる。普段の拓海はこんなことわざわざ言わない。どう考えても照れ隠し。ほら口元が笑ってるのはそんな時の拓海の癖だ。


「あれは不可抗力(ふかこうりょく)だって――」


「明! 大丈夫なの!?」


「おか……あさん? 痛いよ……」


 いきなり、駆け込んできたお母さんがボクをきつく抱きしめた。良く見ると、ここって軽バンの中?


「まったくもう! ムチャしすぎなのよ! ってどうしたの!? こんな泣いて……どこか痛い? それとも苦しい?」


「ううん、なんでもない……。なんでもないよ? お母さん」


「そう? それならいいけど……。とりあえず、左手出しなさい。腕輪の状態確認しないと」


 お母さんに言われるまま、左手を出そうとして、うまく動かなかない。なんとか震えながら差し出すと、お母さんが乱暴に手を取った。


「まったく、ひどい壊れ方してるじゃないか」


 ため息をつきながら、ボクのお腹の上にジェイクさんが飛び乗った。


「ジェイクさん……ごめんね? ムチャなことして」


 首になんかごてごてと輪っかがはまってる……。もしかして……全部腕輪?


「まったくだ。腕輪ひとつとっても安くないんだぞ? 光、ありったけ持ってきたから使ってくれ。私は変身用の腕輪をどうにかしよう」


「はいはい……またこれは多いわね」


 ため息をつきながら、お母さんがボクの左腕に黒い腕輪を通していく。1コ、2コ、3コ、4コ……


「って、なにこの数……」


「私が聞きたいわよ……。いったい一晩でどれほど成長するのか……。末恐ろしいったらありゃしないわ……」


 壊れたものもふくめて全部で7個の腕輪がボクの腕に通った。それと同時にゆっくりとボクの体から出てた魔力のモヤがおさまっていく。

 心なしか少しだけ、体のダルさがなくなってきたような気がする。 


「注文していた腕輪も、仕様変更しておかないと間にあいそうにないな……」


 それって笑いごとにならないよね……。


「とりあえず、変身用の腕輪を交換だな? ひとつしかないからエルカを呼んで任せよう。魔力石の乗せ変えは契約主じゃないとできんからな」


 ひとつしかないってことは、どっちかしか選べないってこと? それだったら、ボクは――。


「待って……ジェイクさん。ひとつしか、交換できないんだったら……。ボク、今はジェイクさんのほうが……良い……」


「明。なにか誤解しているようだから言うが、キミの正規の担当は私じゃない。エルカだ。だからキミの腕輪の修理優先順序はエルカとの契約の腕輪が優先される。それは忘れるなよ?」


「うん……でも……今回だけは……お願い……」


「まったく、今回だけだからな?」


 ジェイクさんがため息をつきながら、ボクの壊れた腕輪をひとつ抜き取って、なにかし始めた。


「ありがと」


 ボクのワガママでよけいなテマを増やしたようで、なんか心苦しい。ほんとにこれで良かったのかな?

 そんなことを思ってボーっとお母さんたちを見ていた。

 いやほんと、この時にボクが気づいておけば良かったんだけど、そうは問屋がおろさないようです。


「ネコがしゃべるなんてほんとに初めて見た。本当にいたんだなぁ……守護者(ガーディアン)って」


 忘れてたよ! 拓海がいたんだった。


「ぬぉ!? なんだコヤツは!?」


「あら? 拓海くんじゃない。お久しぶりね? どうしてここに?」


 頭がボーっとしててぜんぜん気にもしてなかったよ!?


「あの……それは……」


 笑顔でにらむお母さん、怖いです……。

 拓海、がんばってくれないかなあ……。

 あわい期待で拓海を見た。見たけど……速攻でボクの方をじ~っと見てきた。

 うん、気持ちは分かるけど、もうちょっとがんばって欲しかったよ……。


「あ~か~り~ちゃ~ん?」


「ひゃ、ひゃい……」


 お母さん、ほっぺた痛いです。そんなに強く引っぱらないでよ~……。


「一般人は巻き込んじゃダメって言ったでしょう?」


「ふぁい……ごうぇんにゃふぁいれふ」


 必死で謝ってるのになかなか離してくれない……。て言うかヤバイヤバイ、よだれ垂れそうだってば。


「おばさん、そろそろアキラのほっぺた開放してあげてやってもらえませんか? 形はどうであれ、俺の不運でこうなったんで、アキラを責めないであげてください」


「そうねえ……。それじゃあ、しかたないわねえ……。それで? 明ちゃん? 拓海くんに話しちゃったの? 話しちゃったのね?」


「ひゃう……」


 だからそんな怖い顔でにらまないでよ……。

 ボクだって本当だったら話す気なんて起きなかったかも……。話したのだって拓海にバレたからで……。


「ひぁうひょ~……」


「なに? 明」


 やっとお母さんがほっぺた開放してくれた。まだじんじんする。


「あぅ~……ほっぺた痛い……。じゃなくて……違うよ。ボクじゃなくって、拓海のほうが……気がついたんだもん……。ボクの……せいじゃないよ」


「本当なの? 拓海くん」


「あ~……え~っと、はい。名前の漢字はそのままだし、千夏さんの妹って言われてバレバレっていうか……」


「……名前、読みだけじゃなくて漢字も変えておけば良かったかしら?」


「いやいや、そもそも千夏さんに妹なんていないですし、顔で分かりますよ」


「顔? ボクって、そんなに分かりやすい顔……してる?」


 鏡に映った自分の顔を思い出してみる。元の自分の顔とはぜんぜん違ったような気がするんだけど……。


「小学校5年とか6年くらいのお前の顔を女の子っぽくして、そのまま髪の毛伸ばすとこんな感じに……」


「ボクが子供っぽいってことを言ってるのかな?」


 それはちょっと傷付くっていうか、怒っても良いところだよね? 今怒って良いところだよね?

 なんて言うか、ムカついたから拓海をにらんだら苦笑された。

 ボクの怒った顔ってそんなに怒ってるように見えないのかなあ……? なんだか自信なくなっちゃうよ。


「いや、だってさ。今のお前の口調だって小学校高学年とか、中学校入りたての頃のだろ?」


「え……? あれ? そうだっけ? ボクって、その頃こんな口調だったっけ?」


「クラスの女子に『なよなよしてて女々しい』って、からかわれたから変えるって言い出す前はそんな感じだったよ」


 そんなこと、ぜんぜん覚えてない……。


「って……ちょっと待って……」


 話を聞いてたお母さんがいきなり頭を抱え込んだ。


「どうしたの? お母さん」


「拓海くん、今の明の姿をどう思う? 率直(そっちょく)に言って」


「良くて中学一年?」


「口調は?」


「同じく中学生?」


「ジェイク、魔力の成長期って12歳から14歳くらいなのよね?」


「ああ、まあ……そうなんだが……まさかなあ……」


 はぅ~……なんかイヤな予感してきた~……。

 このまま連想されるとなると、続きがなんとなく分かる気がする……。


「もしかして、明って……『願いごと』が解けて女の子になっても、15歳の体にはならなかったんじゃ……」


 ああ、考えたくない答えに行き着いちゃったよ……。

 母さんはびみょ~に引きつり笑い起こしてるし、ジェイクさんは凍りついてる。

 拓海だけはなにがなんだか分からずにぽか~んとしていたのだった。







                         ― つ・づ・く ―

結構自分で校正はしているのですが誤字脱字が多い性分です。

誤字とか脱字があったらご指摘いただけたら幸いです。



という訳で『知られる』の回でした。

とうとう、魔力の成長期の秘密が明らかに!

36話で次回で~とか言ってたのに引っ張ってごめんなさい。

結局タイミング見計らったら2話もズレこんでしまって……(遠い目)

そして次回が第3章終了直前のお話とか前回言ってたのに、またしてもズレこんでまぁ……(滝汗)

プロットってままならないもんですねぇ()

意外と書いてると膨らんでく膨らんでく……。

こんないい加減な漢字で連載していますがどうぞこのままお付き合いください(ぺっこり

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