第35話 魔力の成長期!……という名の物怖じ
お久しぶりです。
マジで忙しかったこの3週間。
その反動か、何にもやる気が起きなくて苦労しました。
そんな倦怠期明けの新しいお話をどうぞ。
「気が付かれましたか?」
目を開いた瞬間に聞こえた言葉がそれだった。
「え~っと……はい?」
頭がボーっとする……。また魔力枯渇しちゃったんだよね……。いいかげん、そういうの起きないくらいの魔力が欲しいよ。
「なにをおっしゃいますか。十分に魔力は強いというのに……」
ボクの後ろから、あきれ混じりの優雅な口調の声が聞こえた。背中に人の温かさを感じる。
もしかして、ボクの心を後ろの誰かが読んでたりするの? さっきからボクの心の声に答えてるような……。
「ふふ、心を読んでいる訳ではありませんよ? 自然となにを思っているのかが分かってしまうだけです」
「まじめに答えてくれないってことかな?」
「じゅうぶんにまじめな回答だとは思うのですが……まあ良いです」
「それで……ここはどこなの?」
ところどころ星のような光源はあっても、左右を見ても真っ暗……上を見ても真っ暗。下を見て……見ない方が良かった。
「ひぅ!? 足元なんにもないよ!?」
やっぱり真っ暗だった。
「そう驚かれることも有りませんよ。ここは夢の中なのですから……」
「夢の……中?」
ずいぶんとはっきりした夢だなぁ……。
「本当はまだいろいろと経験を積んで欲しいところではありますが――」
背中に感じる温かさがふっと消える。立ち上がった?
「このままでは命がいくつあろうと足ることもないでしょう?」
ゆっくりと誰かが話しながら、ボクの正面に歩いて来る。
「ですから、ほんの少しだけ――」
足元を見ていたボクの視界に、青紫の鮮やかな和服のすそと足袋が見えた。
「なにを言って……」
「お力添えさし上げましょう」
ボクが顔を上げると、目の前に来た人の人さし指がぴたり、とボクのおでこに当たる……。
「痛い……」
痛みに思わず目をつむる。
びみょうに爪が刺さってるよ! なにするんだよ、この人!
「それでは……次は別の形でお会いしましょう」
目を開けたら、高根市役所の軽バンの中だった。
「あれ? ちょっと……どうなってるの?」
「明っちが起きたよ~?」
隣から舞さんの声が聞こえた。
「う~……頭がくらくらする~」
軽く頭痛を感じておでこをおさえる。さっき爪を立てられたところがみょうに痛い……。というかなんだか熱いような……。
「だいじょうぶ~?」
そう言って私のおでこに自分のおでこをくっつける舞さん。
正直近すぎます。っていうか恥ずかしいからやめて!
「ん~……熱があるんじゃないかなぁ? かなり顔赤いし~」
「いえ、それは舞さんがですね……」
ごにょごにょごにょ……。
「だいじょうぶ? 明ちゃん」
運転席から母さんの声が聞こえる。迎えに来てくれたんだ。
「だいじょうぶですよ。子供あつかいしないでください……」
とは言いつつも、本当に体がだるい……。
「ムリしないで市役所に着くまでは少し楽な姿勢でいなさい」
「うん……」
お言葉に甘えて、もう少し……眠ろうかな……。
□◇□◇□◇□◇□◇――…
「――ですってば!」
「でも、こうして!」
「ちょい落ち着いたって、光さん」
「そうですのん」
気が付いたら回りがすごくさわがしいんだけど……いったいなんなの?
「明ちゃん……目を覚ました。けどこれって……」
めずしく水穂さんが困った顔をしてのぞき込んでた。
「明! だいじょうぶなの!?」
あわててお母さんが駆けよって来たのか、荒い足音とともにお母さんの顔が視界に現れる。
「おか……さ……」
『お母さん、どうしたの?』って声を掛けようとしただけなのに声が出なかった。
ていうかちょっと待って! なんで? どうして? 体がぜんぜん動かないよ! 私どうなってるの!?
なんだか一杯制服のブレザーが私の体に重ねられてるのが見える。でも、これだけ掛かってるのに寒いって感じるし……。
「う……ぐ……」
ちょっと体を動かそうとしただけで頭いたい……。
「頭いたい……から…だ……だるい……動かないよぉ……」
今まで体験した魔力枯渇とぜんぜん違うよ……。
「ちょっと失礼」
ジェイクさんが私のおでこに足を置いた。
「ふ~む……これは成長痛だな……」
成長痛? 成長痛って成長期に身長伸びすぎて関節痛くなるとかそんな感じのあれ?
「光、明は本当に15歳なのか?」
「それはそうでしょ? 戸籍見れば分かるじゃない」
「一般的にこちらの年齢換算で12歳から14歳くらいが魔力の成長期とされている。まあ、こっちでいうところの思春期に入った頃だな」
「ああ、だから魔力測定って中学校からしか無かったのね」
焔さんの声が聞こえてきた。こうなるとみんな一緒みたいだし、ここって魔法少女課の部屋だったりするのかな?
「明のこの魔力の成長具合はどう考えても成長期の最初期ではないか?」
「明が12歳くらいだって言いたいの? 確かに年齢の割に体は小さいけれど……」
体が小さいってのは余計だよ、お母さん……。
「だからって、こうなるなんて……」
お母さんが私の左腕を持ち上げた。腕輪の片方にヒビが入ってて、黒いモヤがそこから漏れてるのが見える。
「え? 腕輪……どうなっちゃったの?」
「どうやらキミの魔力の成長に耐え切れなかったようだ。こうなってしまっては変身もできんな」
「そう……ですか……」
「いつかこうなることは分かっていたから、事前に特注品を注文していたんだが……予想以上に早かったな。まあ、明後日には届くから家でゆっくり休養を取っていなさい」
「は? え? 休養って、単なる魔力切れじゃないんですか?」
「それが魔力切れだったらまだましなんだが……な」
「そうね……3日くらいはこのままかしら……」
なんか私の知らないところでトントンと進んでるんですけど……。誰か説明してくれないかな?
「とりあえずこれを代用にするしかあるまい」
黒っぽい腕輪が私の腕に通された。これって前に掛川先輩が言ってた封印用の腕輪だっけ? それが代用になったのか、ヒビ割れた腕輪から黒いモヤが流れ出なくなった。
「それじゃあ、光。後は経過観察するしかあるまい。このまま明を家まで連れて行って休ませてあげるといい。私も今日の仕事が終わったら光の家に行くことにしよう」
「分かったわ。それじゃあみんなも学校には連絡しておくけど、もし何か聞かれたらよろしくね?」
「分かりました。それじゃあ明ちゃん。これから辛いと思うけどがんばってね」
「見舞いにいったるさかい。がんばりやー」
「がんばって……」
「それじゃあ解散しますかね~」
「「「お疲れさま~」」」
みんな私の上からブレザーを取って、あいさつして帰っちゃうよ! 私へのフォローは? ねぇ、私だけ何も分からないままなの?
「それじゃあ、帰りましょうか」
お母さんがそういって私を抱え上げた。
えーっと……これはお姫さま抱っこというヤツになるのだろうか……。
もうイイや……考えるの放棄しよう。
私は抱きかかえられるまま帰ったのだった。
□◇□◇□◇□◇□◇――…
目を開けたら、私の部屋だった。
「うぅ~……頭いたいよぉ……」
「起きた?」
勉強してたのか、お姉ちゃんが机から振り返って声をかけてくれた。
「お姉ちゃん。私……どれくらい寝てた~?」
「ちょっと待って……今9時過ぎだから……話に聞いてたので4時間くらいかな?」
「お姉ちゃん。私おなかすいちゃったの……何か食べたいよぉ」
「ちょっと待ってて……って、どうしたの明」
「んぅ~? なにが~?」
「なんか口調がバカっぽくなってない?」
「あぅ~……私バカじゃないもん……」
ひどいよ、お姉ちゃん……。って、あれ? 言われてみたら確かに口調が変じゃないか。
私……じゃない、ボクってこんな口調してないよね? どうなってるの?
「にゃ~……っと」
変な声を上げてジェイクさんがボクの胸の上に飛び乗った。
「良いかい? 明」
「うえっ!? ネコがしゃべった!?」
姉さんがイスから飛び退くのが見えた。そういえば姉さんにジェイクさんのこと話してなかったことを思い出した。後でフォローしないとなぁ……。
「推測するに、今の明の症状は魔力の成長期による倦怠感だ」
「それはもう前に聞きました~」
「うむ、この歳まで成長期を体験してなかったキミは揺り戻しで一気に成長期が来てしまったんだろう。だからそんなにだるいんだ」
「ええ~? ねこさんなんとかならないの~?」
なんだか考え方まで変な感じがするのに~。
「ムリだな。2、3日でなんとかなるだろう。その間は精神的にも影響が出るからそのつもりでな」
「ふぇ~……そんなぁ……」
「ああ、そうだった。しゃべるネコのことはどうでも良いからお母さんに明が起きたこと報告してこないと……」
お姉ちゃんが頭をふらふらさせながらお部屋を出て行きます。なんだか前にもこんなことあったなぁって思ってたのでした。
― つ・づ・く ―
結構自分で校正はしているのですが誤字脱字が多い性分です。
誤字とか脱字があったらご指摘いただけたら幸いです。
という訳で『魔力の成長期』の回でした。
いわゆるパワーアップ回の前段取りというやつですね。
これからパワーアップするぞーって感じで。
その分、成長前の反動が色々とへろへろ~な感じに展開されていきます。
次回から2回分に渡ってへろへろな明が色々とやらかしちゃいます。
ご期待下さ……いと言いたいところです。
あ、後ご報告が1つほど。
みなさんに反対意見が無ければ年明けにでもジャンルを『コメディー』から『ファンタジー』に移そうと思います。
『コメディー作品にチャレンジしてみたい』というのが最初期の思いで、色々と悩みました。
しかし……今後の展開と私の腕ではコメディー重視のシリアス展開なんてのは無理だなぁ……と思い至ってしまったので、思い切ってジャンル移籍しようかな?と思います。
今までコメディーとして応援して頂いた人にはとても申し訳なく思いますが、ご理解ご協力お願いします。
あ、作風が変わることは全くありません。
ゆる~く現代魔法少女ファンタジーとして明ちゃんの活躍が描かれる事には変わりありませんのでご心配なく。
という訳でもしかすると本年度はこれが最後になる可能性も高いので……。
今年1年有り難うございました。また来年もよろしくお願い致します(ぺっこり
という言葉で終わります。