第2話 アイスクリーム買って来い!……という名の不幸
第2話をお贈りいたします。
序盤はさくさく進みたいなぁ?という夢を見ています。
正夢だったらいいなぁ……
(2012/10/27 体裁統一のためのチェック)
けっきょくプレイ時間が2時間半を超えても『飛竜玉』は出なかった……。
『Dragon Hunter』は自分が冒険者になって竜を討伐するゲームでクエスト制だ。
飛竜討伐2頭クエスト4周して殺した数は8匹。どうして出ないんだっ!
僕は天を仰いだ。しょせんこの世に神も仏も無いのか……。
そして今5週目。ついに待ちに待った『飛竜玉』をゲット。
「きたあああああああああああ!!」
思わずガッツポーズ。これでクエストクリアすれば確定だ。倒した飛竜は1匹目、後は半死半生のもう一匹を倒せばクエスト完了だ。
「明」
「運が僕に味方をしてくれる! やってやるぜ!」
「ちょっと明!?」
その時、背後から姉さんの声が聞こえてきた。
「んー? ちょっと待って……今良いところ」
索敵マーカーを目で追って飛竜を探す。ちょうど隣のマップにいるらしい。よしツイている!
マップを移動した瞬間に飛竜がマップを旋回しているのがわかる。
「こっち向きなさいよ」
「ちょっと待ってってば」
目の前の大画面にはちょうど飛竜が眼前に現れたところ。ここから大筒(肩に構える大きな鉄砲)で撃ち落とせば地上戦だ。
「ゲームなんていつでもできるでしょ!?」
不意に姉さんの足が視界に入る。
「あっ? ええ!? ちょっ……まっ……」
次第にゲーム機の電源ボタンに伸びる姉さんの足。目の前の大画面には飛行したままファイアブレスの体勢に入る飛竜。どっちに対応すれば良い!? とテンパる僕。
「えいっ!」
ポチっとな。
ひと昔前に流行った擬音語が聞こえる瞬間だった。
「ああああああああ!!!!?」
画面がブラックアウトした。
「ぼ……僕の『飛竜玉』が……2時間半の結晶が……」
なんて……ことしてくれたんだ。
僕は跪いていた。
「あんたが聞かないからでしょう? 自業自得よ!」
それでも待ってって言ったのに……この鬼っ……悪魔っ……。
「……で、そこまでして僕になんの用?」
ハンパな用件じゃないんだよね? と言葉にふくみを持たせる。
しかし、姉さんにそんな思いは通じなかった。
「冷蔵庫にアイスが無いのよ」
「は?」
僕の目が点になるのが分かる。なんて言った? この人。
「冷蔵庫にアイスが無いって言ったの」
「だからそれがどうしたって言うんだよ?」
そんなことで僕の2時間半の結晶が消えたのか……。
「察しの悪い愚弟ね。買って来いって言ってるの!」
「自分で買って来れば良いじゃないか」
コンビニなんてここから歩いて10分弱。歩いて往復20分だ。そんなことのために僕の2時間半が消えるなんて……鬱だ。
「ピーマン」(ボソ)
「え……?」
「ピーマン」
姉さんの目が座ってた。アイスを買ってこないと許さない、という意味なんだろう。
まさか自分が腹いせに入れたピーマンがブーメランよろしく遅延地雷となるなんて思ってもみなかった……。
くそっ、どうしてあの時ピーマンなんか入れたんだ僕はっ!?
まさかのピーマン地雷によるダメージ恐るべし……。僕は……ピーマンに……負けたのか……。
野菜以下の自分に愕然とする。
「それで行ってくれるよね? ううん、行くよね? 行かないなんて言わないよね?」
――行カナイナンテ言ワセナイ。
黒いオーラが見える。
「イカセテクダサイ」(棒読)
「よろしい。じゃあ行ってきなさい。ああ、クレイジーダックのストロベリーね。それ以外許さないから」
そう言うと姉さんは千円札を一枚渡して来た。
「レシートとおつりは必ず持って来るのよ?」
「はいはい……」
しかたなくうなずいて着替えに行く。
春先だから手軽にロングTシャツとハーフパンツにライトブルーのパーカーを羽織る。
メッセンジャーバッグに財布と生徒手帳、携帯を突っ込んで玄関に向かった。
玄関の姿見を一瞬見る。見様によっては女に見られなくもない……。パーカーが、姉さんが着ないからと押し付けてきた女物だからかもしれないけど。
別に良いんだ。中学生のお小遣いはスズメの涙ていど。服を買うお金さえ無いなら姉からのもらい物だろうが少しでも見栄えが良いなら使わない手はない。それに女物と言っても目立つほどじゃない。きっとみんなわかるまい。と思って玄関の扉を開ける。
玄関を出ると外は曇っていた。午後は晴れるとニュースが言ってたけど、往復20分だし大丈夫だろ、うん。
□◇□◇□◇□◇□◇――…
コンビニへ歩く。
時刻は17時前、そろそろ日が傾く頃なんだよね。
一番近いコンビニは桜並木を歩いた先にある。もう半分は葉っぱが見えてる。
時間が経つのは早い。僕の平穏だった毎日は1週間も経たずに終わってしまった。
もっと普通の学園生活は送れなかったのだろうかと嘆く。が、解決するわけも無い。学校側が対応してくれることを願うばかり。
あ、もし暴力沙汰になったら警察呼んで助けてもらおう。いくらなんでも警察沙汰になれば最低でも停学にはなってくれるはず。そうしよう。
目の前にETが見える。某宇宙人じゃないよ? 『Every Time』というコンビニさ。
いつでも何時でもやってるってゆう意味だっけ? で使っている和製英語らしい。本当はそんな意味は無いらしいけど、気づいたのは商標登録した後らしくて変更ができなかったんだってさ。外国人も腹を抱えて笑うようなまちがいらしくって、一部じゃ日本の恥だと揶揄されている。それでもコンビニの少ない僕らの住む地域じゃ貴重な一件。むしろ無くちゃ困る。
「いらっしゃいませー」
店員の明るい声が響く。ちょうど品出しだったらしくて商品を出しながら声をかけてくれたらしい。
ちなみに店員の名前は厳島拓海。数少ない小学校からの親友だ。高校生になったばかりにしては長身長の170台後半。アイドル張りのさわやかイケメンで声も甘い。その上しっかり者で優等生。女性から見ればかなりの高物件。
しかし、僕は知っている。彼の好みは『幼女』でハァハァ言っているのを……。正に残念過ぎるイケメン。
そんな彼の誕生日は4月3日で、早くも16歳。入学したら即バイトの許可を申請してバイトしてやるって叫んでいたのを思い出す。
僕は軽く手をあげて奥の高級アイスクリーム用冷凍庫の中を見る。
クレイジーダックは高級アイス。普通の脇にあるアイス陳列用の冷凍庫には入っていないのだ。
上からパフェ、アイスの箱、そしてクレイジーダック。
隅から隅まで見る。バニラ、抹茶、チョコビスケット、チーズタルト、プリン、そして……そして……?
「えーっと……拓海、ちょっと良い?」
陳列作業を行っている拓海に尋ねる。
「ん? ああ、明か。どうかしたか?」
「この中にクレイジーダックのストロベリー無いんだけど、在庫って無い?」
拓海が僕の指さした所を見ると申し訳なさそうに、
「あー……アイス系は入荷したら即陳列するからここに無いなら無いんだろうなぁ。すまん」
と言った。どうやら運悪く品切れのようだった。
「そうなんだ。品切ればっかりはどうしようもないよねぇ……」
なんてことだ。ここに無ければ後はさらに10分歩いて行った商店街のスーパーくらいにしか置いてない。
でも、姉さんに『クレイジーダックのストロベリーね。それ以外許さないから』と言われてる。しかたない、そっちまで行くか……。
「それじゃあ、バイトがんばってね」
「おう、また来てくれよ? サービスしてやるからな」
「え? なにかくれるの?」
「スマイルはゼロ円だからな」
さわやかイケメンのスマイルサービス……か。僕が女の子だったら嬉しいんだろうなぁ。でも僕は男だから意味が無いがっかりサービスだ。
「いや、僕はパスする。なにが悲しくて男からゼロ円スマイルサービスもらわなくちゃいけないの? 今度女の子にでもしてやりなよ。お前の笑顔なら撃沈するからさ」
「いやー……でも俺、『幼女』にしか興味ないからなぁ……ああ、どっかにいないかなぁ? 俺だけの『幼女』……」
やっぱりがっかり過ぎるよ、コイツ。
しかたないから姉さんの携帯に一言メールを送って、スーパーに向かってトボトボと歩く。
こんな時に「無かったんだゴメン」と謝ったら他の味で許してくれる優しい姉が欲しい。
けっきょく逆らえない僕はありもしない優しい姉さんを妄想で補完する。
……うん、空しいだけだ。むしろ気色悪い……。『あの』姉さんが優しく接してくるなんて気色悪い。トリハダ立ちそう。
□◇□◇□◇□◇□◇――…
空しい妄想を繰り返して商店街にやってきた。
ちなみに店舗名はG.J。夕方だからだろうか? 主婦のおばちゃん達がひしめきあってる。
今は17時だから、ちょうどスーパーのタイムセールが始まる頃だ。どのおばちゃんも殺気立ってる。おばちゃんたちは時に目当ての商品を手に入れるために取っ組み合いの大立回りをする時がある。巻き込まれては大変とさっさと目当てのものを探す。
普段行き慣れていない場所だけど、記憶にある場所に冷凍庫がある。きちんとクレイジーダックのストロベリーもあった。
「あー…何個買えば良いんだろ?」
姉さんから聞いてなかったことを思い出す。
いいや、買えるだけ買ってこう。一個297円だし3つか。要らないって言ったら1つ300円で僕が買取れば良いし……。
決めてレジに並ぶ、すでにタイムセールを戦い抜いた猛者、もといおばちゃんたちが殺到してる。
ため息をついて自分の番を待つ。ずいぶん時間を使ってしまった。どうせ姉さんは怒ってるんだろうなあ。
気分が沈む中、僕の番が回ってくる。
僕は手早く会計を済ませて外に出た。
□◇□◇□◇□◇□◇――…
空を見上げると今にも雨が降りそうな天気に変わってた。
「うっわ~、やばいなぁ……」
急いで帰らないとひと雨降られそう。意を決して走り出す。どうせ早くしないとアイスも溶けちゃうし、さっさと帰ろう。
しかし、この時別の選択肢をしてたらこの不幸は回避できたかもしれない。そう思わせるほどの大きな不幸が僕を待ってたのだった。
― つ・づ・く ―
結構自分で校正はしているのですが誤字脱字が多い性分です。
誤字とか脱字があったらご指摘いただけたら幸いです。
なんか思った以上にコメディーらしくない……。何か誤ったかなぁ?でもコメディーとして上げちゃったからにはもっとコメディーらしい表現方法を研究して行かないとなぁ……。
因みに前話の『アンソニー』と『セガール』某CMネタです。しかもかなり古いです。
因みに、あたしはアンチじゃなくて大好きな方です。誤解されませんように。
それでは今回はこの辺りで~。
修正:
中学生にはお小遣いは端金 → 中学生のお小遣いはスズメの涙程度
(2012/03/24)