第33話 ふたつのウワサ!……という名の物怖じ
お久しぶりです。
先週はオフ会とかその他諸々で忙しくて更新できませんでした。
申し訳なく思いながら新しいお話をお送り致します。
それではどうぞ~。
学食に到着した。
すっごく広くて生徒200人くらいは入れるんじゃないかなって思えるくらい。
入って右手の壁際に券売機と各ジャンルごとに窓口がある感じ? 左手の壁際にはお弁当とか菓子パンとか売ってるベーカリーって言うの? がある。
中学校の時にはなかったし、前の学校は人が怖くて学食なんて縁がなかったから新鮮。
「……なにをキョロキョロしてるの?」
「ひゃぅ!?」
いきなりボクの耳元でボソッと囁かないで! びっくりするじゃない。
声がした方を見たら、にゅっと水穂さんの顔がアップになっててびっくりした。
「が、学食ってのに初めて入ったから新鮮で」
「なるほどー、ここは食券制だから、事前に買わないとダメだよ? ちなみに和洋中にイタリアンとそろってる。最安値はチャーハンセットで200円のスープ付!」
「へ~、そんな安いんだ~。焔さん結構来てるの? くわしいねえ」
「学食組だからね、私ら」
「ですね」
今度、お弁当作らずに学食でお昼食べてみようかなぁ?
「それじゃあ、私らはお昼ご飯買って来るから席とっておいてねー」
焔さんと水穂さんが券売機に向かって行ってしまった。
「それじゃあ、佐伯さん。私たちは席取ってましょう」
根府川さんがボクの手を取って、歩き始め、林田さんも後から走って来る。
「あー待ってよ、とーの」
席を取ると言っても、あんまり苦労することもなく、6人掛けのテーブル1つを確保して座る。高校生ってあまりお金持ってないイメージだし、お弁当組の方が多そう。
「ねえねえ、佐伯さん。私たちも名前で呼んで良い? 私のこともあかねって呼んでほしいな!」
「私のことも藤乃で良いわ」
「う、うん……。あ、あかねさんに……とーのさん? で良い?」
やっぱり女の子の名前呼ぶの恥ずかしいなぁ……。
あ、違うよ! 今はボクも女の子だからこれが当たり前! 当たり前なんだよ! ゆ、勇気を持って一歩を進むんだよボク! ふぁいとっ!
小さくガッツポーズを作って気合い入れる。
「あ、あのっ、ボ、ボクのね、名前もね、好きに呼んでください……」
こ、これで良いんだよね? お友達ってこういう風で良いんだよね!?
「か、カワイイなぁ……撫でて良い? 良いよね? ウサギみたいにカワイイなあ」
「ずるい……私も撫でてみたい……」
隣に座ったあかねさんがボクの頭を撫でるのを見て、向かいに座ったとーのさんがうらやましそうにコッチを見ながら身を乗り出した。
「あぅー、頭撫でるの禁止! 禁止なんだからぁ!」
首を振ってあかねさんの手から逃れる。
特に人前で、撫でられるなんて恥ずかしくてダメだよ! こればっかりはボク許さないんだからね!
「あらら……残念。それじゃあ、あかりちゃんって呼ぶね!」
「それじゃあ、あかちゃんって呼ぶわね」
「「えっ!?」」
やんごとなきあだ名っぽい呼び名がとーのさんの口からこぼれて、ボクとあかねさんが同時に反応した。
「それって入学当時に私に付けようとしたあだ名よね? なに? 藤乃って『とーちゃん』なんて呼ばれたいの!?」
「と……『とーちゃん、あかちゃん』?」
とーのさんとあかねさんを交互に指差して読んでみた。
「「違う!」」
「はぅ!?」
ボクの方にぐるりと同時に向いて、否定されました。
「なに? また漫才してるの?」
焔さんと水穂さんがお昼ご飯をプレートに乗せて、ボクの向かいと隣に座る。
焔さんはチャーハンセットだ。さっき言ってた通り、ボリュームがあって、マグカップにコンソメスープが入ってる。これで200円とかすごいなぁ……学食。
水穂さんはきつねうどん。こっちは半分に切られた大きな油揚げが2枚入ってる。
「あ、高坂さんに加賀見さん。おつかれさま」
「ありがと。私も名前で良いよ? 高坂よりも焔の方が呼びやすいでしょ?」
「私も、水穂で良い。2人とも仲良くしたい」
「じゃあ私たちも下の名前で呼ぶね? 焔ちゃんに水穂ちゃん」
「よろしく。焔、水穂」
「もしかして4人ともそんなに仲良くなかった……とか?」
「うんまあ……特に仲良くなる機会もなかったしね」
「そうだね、明ちゃんの転校が良い機会だね」
「じゃあ……ボクも、仲良くしてくれる?」
「なに言ってるの、もう友達だよ? 私たち」
「ありがと」
せいいっぱい笑って、答える。ただそれだけだったけど、なんか周りは変なスイッチが入ったようです。
「やっぱカワイイねえ。私の妹にならない?」
「いやいや、私もこんなのが妹なら欲しいって」
「いやー、美少女のはにかんだ笑顔って華があるねえ」
「むぅ~……もう、バカなこと言ってないで! ご飯食べよ? うどん伸びるよ?」
「……そうね」
うなずくとすぐに割りバシを割って、水穂さんがきつねうどんを食べ始めた。
ボクもため息交じりに弁当箱を開けようとすると、あかねさんが小声でささやく。
「そんなことないよ? だってさっきからまわりのみんな明ちゃんのこと見てるんだよ?」
「……え?」
急いでまわりを見ると、何人かがこっちをじーっと見てた。
「ううっ……」
こっち見てるっ!? みんな見てるよぉ……。
「よしよし」
いきなり水穂さんがボクの肩を抱き寄せて頭を撫で始めた。
「え? あれ? ちょっとやめて! なんで抱き付いてるの? 頭撫でないで!」
首を振っても肩を固定されて逃げられない……。ちょっと誰かへるぷぅ!
わたわたと目の前の焔さんに向かって手を伸ばすと、焔さんがぽかんとした顔をしていた。
「こらこら、なにをやってるかな?」
言葉とともにゴツンって頭になにかがぶつかる感触がした。
「い、痛い……」
水穂さんも頭を無言でおさえていた。
拘束から解放されて、声の主を見る。姉さんが微笑みながら背後に立ってた。まあ、誰かは声で分かってたんだけどね。
「副会長?」
「副会長!? すみません。迷惑をかけてました?」
みんな姉さんにへこへこ頭を下げてる。ボクと姉さんが姉弟だって知らないからだね。
うるさいから注意されてるとカン違いしてるのかな?
「姉さんどうしたの? お弁当でしょ?」
「私は生徒会のメンバーと一緒。明こそお弁当じゃないの? 明のことだから学食に来ないと思ってたんだけど」
「あのー……お2人はどんな関係で?」
「姉妹よ?」
「きょーだいだよ?」
2人でかみ合わない答えを口にする。
姉さんはもうボクのことを妹しか見てないってのがあって、ボクは相変わらず自分が男の子って気分が抜けないからなんだろうなぁ。
「それって実の姉妹ってことですか!?」
「そうだよ~? 似てないでしょ?」
そう言って笑うと、姉さんがボクの肩に腕を回して頭に顔を乗せた。正直重いです。
「百合百合しい……」
なにその百合百合しいって……。
「美人という点以外は正反対」
「ありがとう。似てないというのは残念だけど、ほめ言葉として受け取っておくわ」
「もう! 姉さんったら」
「ごめんごめん」
姉さんは謝ると、ボクの肩を離してくれた。
「でも、明もなかなかね~。ウワサが上まで来てるわよ? 曰く、『今時珍しい古風な美少女が転校して来た』とかなんとか」
「はぇ? なにそれ……ボクのこと? それ」
「そうなんじゃない? 今日来た転校生ってあなただけでしょう? 今朝の登校時にけっこう見られてたし、あれが原因かも? あー、あともうひとつあったわね。『カワイイ転校生を押し倒したラッキースケベの厳島拓海』」
「ぶっ!?」
思わず吹き出してしまった。
「見つけたらとりあえず一発頭をなぐっておけって言われてたわ」
「なにそれ! なんでそんなウワサ流れてるの!?」
「転校初日にいきなり厳島くんとはちあわせってのも運命的だけど、押し倒されるとかどこのラブコメ? って笑っちゃったわ」
「あ、あれは不可抗力! 拓海に悪気はなかったって分かってるもん!」
「今の明と厳島くんの間に信頼関係がないから心配してるの。お姉ちゃん心配してるんだから少しは警戒しなさいよ?」
ボクの頭を軽くポンポンたたいて注意みたいなことを言う姉さん。そんなこと、言われなくても……分かってるよ。前のボクと今のボク、もう違うんだって……。
「お~い! 副会長! みんな席にそろいましたよ~!」
「今行くー! それじゃあね、明」
「うん、またね」
生徒会のメンバーらしき人に呼ばれて姉さんは別の席に行ってしまった。
「ねえ、明ちゃん。厳島くんと前からの知り合いなの?」
あかねさんがこめかみを押さえながら聞いて来た。
――ええ、私の恩ある方です。
「ええ、ボクの恩人です」
するりと、ボクの口からそんな言葉が出てきた。ボクって拓海に恩なんて感じたことあったっけ?
「へ~……恩人ねえ」
「でも厳島くんは初対面みたいな反応だったじゃないか」
「ほっ、ほら! ボクって、小学校高学年から……この前までお婆さんの家に住んでたから! そ、それで向こうも分からないんだよ!」
「そんなもんなのか……」
「そうゆーものなの! もうこの話はおしまい!」
早々に切り上げ切り上げ!
お弁当のふたを開けておはしを取る。今日のお弁当はボクが気合いを入れて作ったんだよ。
けっして初登校が楽しみでついつい気合いが入っちゃったとかじゃないんだからね!
「美味しそうなお弁当。もしかして自分で作ったの?」
焔さんが乗り出してお弁当に視線を向ける。
お弁当箱の中には明太子ソースのかかった野菜サラダと、ケチャップでデコったチキンナゲット、アスパラベーコンにだし巻き卵。アクセントにプチトマトが輝いてる。ご飯だってきちんとふりかけがかかってる。
本当はなにか煮物を入れても良かったけど小食になっちゃって入れるのをあきらめた。
それでも、やっぱりお弁当はひとつの楽しみ。手は抜きたくない。
「うん、転校初日でお昼ご飯どうなるか分からなかったから」
「キレイねー」
「本当。これなら料理も趣味ではなく、特技」
「私もこれくらい料理できるようになりたいかも」
「なにかひとつちょうだい!」
焔さんがもの欲しそうに言うから正直な言葉を笑顔で返す。
「ダメです」
「ええ? ケチぃー」
「だってボク、小食だからあげれるほどなにもないもん」
「そっかぁ……残念無念」
本当に心から残念そうに言う焔さん。そんな顔されるとこっちが心苦しくなっちゃうじゃん。ズルいよ、もう。
「もう、そんな顔しないで! 今度多めに作って来てあげるから」
「やたー!」
「私も欲しい」
「分かったよ~。だからもの欲しそうな顔をするのは禁止ー!」
なんだかんだ言い合ってるけど、こんなに楽しい学校でのお昼なんて、久しぶり過ぎて楽しい。
「明ちゃん……どうしたの?」
「う~? なにが~?」
「いえ、涙流してるからどうかしたのかな……って」
右手の甲で目じりをぬぐったら、少し濡れてた。
「ううん、こんな楽しいお昼は久しぶり過ぎて……うれしかっただけだよ!」
笑って答えると、ちょっとだけみんなの顔が曇ったけど、すぐに笑顔に戻った。
― つ・づ・く ―
結構自分で校正はしているのですが誤字脱字が多い性分です。
誤字とか脱字があったらご指摘いただけたら幸いです。
いやー、前回は酷かったみたいで申し訳ありません。
二次関数の虚数解の方程式とか最近使ってなかったのでめっきり間違えてました。
あの方程式って覚えるのも面倒くさいくらいで、なんともはや……。
今回は学食のお話。
私は高校は私立だったので公立高校は良く分からないけど、専門学校の学食はこんな感じです。後はカフェテリアとか吉野家とかマクドナルドとかありますね。
章栄高校は県立なので購買部と学食だけです。
本当は学食も無い公立高校が多いですけど、地方の公立高校だとある所もたまーに……。
まあ、このお話は現代よりも少しだけ未来のお話を想定しているので、そう言う事もあると思って妥協くださいませ(ぺっこり




