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幕外編その1 カワイイ妹のために!……という名の暗躍

今回から2話ほど幕外編が入ります。

アンケートの結果、千夏さんと智樹くんが上位2つの票数でした。

今回は千夏さんの回です。

それでは幕外編の第1回をどうぞ。

(2012/11/16 体裁統一のためのチェック)



 初めてその姿を見たのは土曜日の夜だった。

 たまたまアイスを買いに行かせたら全然帰って来なくて、凄く心配してそろそろ探しに行こうかって、本気でそう思った時だった。


「ただいま~」


「……その、ただいま……」


 いつも通りの調子で帰ってきた母さんの後ろから怯えて隠れるように入って来た『女の子』。それが、『弟の(あきら)』だったとは素直に信じられなかった。

 すごく小さくて、大きなダンボールからあふれるほどの大量の髪の毛、その髪の奥からは大きな目がこっちをのぞき見るような感じで。お世辞にも可愛いどころか、不気味に思えてしかたなかった。

 それでも、身振りや食の好み、話す時のクセなんかを目の当たりにすれば、その『女の子』が『明』だってことを認識するしかなかった。



□◇□◇□◇□◇□◇――…



 夕飯の後にお母さんに呼び出されたのを思い出して、お母さんの部屋に行った。


「お母さん? 入るよ?」


「静かにね」


「うん?」


 疑問に思った私はゆっくりと部屋に入ると、そこには頬を涙で濡らした『明』がお母さんに抱き付いたまま寝息を立ててる姿だった。


「お母さん、これどうしたの?」


 質問すると母さんが苦笑交じりに口を開いた。


「よっぽどショックだったのね……。この子は今までイジメられてきた分、悪意に敏感でしょう? 必死に嫌われないように気丈(きじょう)に振る舞ってたのね。気を張り過ぎてたせいか一気にムリが来ちゃったみたいで、この通り」


 私は言葉を失ってしまった。

 目の前には『異様に髪が長くて不気味だ』なんて思ってしまった明が眠っている。

 本当なら私たちが率先してこの子の不安を取り除いてあげなければならないのに、逆に私たちの不安を取り除こうとしてただなんて……。


「私たちってバカだわ……。本当は明が一番苦しんでるはずなのに……そんなことにも気付かなかっただなんて……」


 思わず涙ぐみそうに鼻の奥がツンとした。

 私はそれを(こら)えながら、ゆっくりと乱れた明の前髪を()き上げるように()でた。

 微かにのぞいた顔はとっても幼く、そして可愛かった。

 ふっくらとした頬、ぷっくりとした唇、つんと形の整った小鼻、そして今は閉じられているけど大きな垂れ目がちな瞳。どう見ても美人になりそう。それが今の印象だった。


「なんだ……すごく可愛いじゃない……」


 思わずつぶやいた言葉をお母さんが聞いて「ふふっ」って笑った。


「あら? 今頃気付いたの? この子、髪を綺麗(きれい)にしたらすごく化けるわよ? それこそ私達とは比べ物にならないくらい」


 お母さんの顔はほほ笑みながらも真剣だった。


「そうね……」


 私も小さくうなずいた。


「千夏」


 母さんが私の名前を呼んだ。


「なに?」


「あなた、良いお姉さんになってあげてね? 言われなくても分かってると思うけど……」


 なによ? 急に。今の私は良い姉じゃないとでも?


「……いえ、分かってるわ。私ってイジワルな姉だものね」


「千夏……そこまでは言ってないわよ? そんな自覚あるの?」


「私さ、本当は妹が欲しかったの」


「ええ、小さい頃『ママ、私ね! 誕生日には妹が欲しいの』って言われたことがあったわね。9歳くらい? 確か智樹ちゃんが幼稚園に入学した頃だったわね」


 ちょっと変な昔話持ち上げないでよ! ……もうっ。

 私は軽くお母さんをにらんだ。でもお母さんは笑顔を絶やさない。この人には敵わないわ……。


「でね、なんていうか明が妹だったら良かったのにって思ってたのね? どこかで」


「そっか」


「だからかな? 普段の明って中性的っていうか、どっちかというと女の子っぽいでしょ? それを見るとイライラしちゃって……。智樹みたいにもっと男の子っぽい性格だったら諦めきれるのにな、って」


 でも、それって単なる八つ当たりであって、明には関係無いことだよね。

 そう考えると私は確かに良い姉では無いんだと思う。


「なるほど……ね……」


 お母さんが考え込むような素振りを見せる。


「まあ、イジワルは置いておいて――」


 置いておいて良いものなの?


「明ちゃん、今日から女の子として生活しなくちゃいけないの。だから色々と女の子の先輩としてサポートをしてあげて欲しいの。もちろん私もするわ? お願いできないかな?」


「私で大丈夫かな?」


 今までけっこうイジワルしてきた自覚はある。明に嫌われてはいないだろうけど苦手意識は持たれてそうな気がする。


「大丈夫よ。それに……千夏ちゃんって言うほど明ちゃんのこと嫌いじゃないって知ってるもの」


「なっ!? なんで!?」


 いえ、確かに明のことは嫌いじゃないけどさ。その根拠(こんきょ)は何なの?


「明ちゃんが作ったご飯だって『いただきます』を言わないのは単なるテレだっ――」


 あわてて途中でお母さんの口を(ふさ)いで明を見た。

 どうやら起きてはいないようだ……。良かったー……。


「なにそれ!? どういうことなの!?」


 お母さんが私の手をゆっくりどけた。


「あの臙脂(えんじ)色のエプロンが二人の仲を証明してるわよね。明は大事に使ってるし、アレを洗濯後に元の場所に戻してるのは千夏ちゃんだものね」


 改めてそんなこと口に出されて言われると照れるじゃないの……。


「お母さんってこういう時はイジワルよね……」


 頬が熱くなるのを感じながら、怒っていますと表情を意識して作り変える。とお母さんはおかしそうに笑った。


「なに言ってるの? 私は千夏ちゃんのお母さんよ? そんなこと分かっているでしょう?」


「うっ……嫌な自信ね……」


 でも言われっぱなしは嫌だしせめて嫌味(いやみ)の一つくらいは言わせて欲しい。


「まったく、普段もそういう母親ヅラしてればもっと明や智樹も尊敬すると思うのに……」


「なに言ってるの? これは女としての先輩ヅラ、母親ヅラはここぞという時に決められればそれで良いのよ?」


 お母さんが胸を張って自慢気(じまんげ)に言った。これはダメだ……この人なに気にもったいなさ過ぎるわ……。


「そうですか……」


「そんなに言うなら、千夏ちゃんがもっと自分に素直になって、お姉ちゃんヅラしてみれば良いじゃない」


 ここまで言い負かされたら……引き受けないなんて選択肢選べないじゃない……。


「分かった! 分かりました! 具体的にはなにをすれば良いの?」


「そうね。この子、章栄高校に編入することになるの。私もさすがに学校までは目が届かないし、よろしくね? 章栄高校副生徒会長の佐伯千夏さん」


「ああ、そういうことね……」


 そっか、同じ高校に来ることになったのか。でもなんだろう? 2人で登校とかも……悪くはないかも……なんて考えてしまう自分が不思議でしょうがない。


「と言う訳で~。千夏ちゃんに初めてのお仕事をあげちゃいま~す」


 いつもの能天気な母さんに戻ってた。


「え? なに?」


「明ちゃんが着れそうな服を千夏ちゃんの昔着てたのから探してくれないかしら~?」


「え……? ああ、任せておいて! カワイイの選んであげるから」


 私は胸を張ってそう答えた。

 そうよね、まずはカワイイ服を選ぶことから始めよう。



□◇□◇□◇□◇□◇――…



 日曜日は明の髪を切って、下着類の買い付けだった。

 とりあえず私服は私のお下がりで当分間に合わせられそうだったから良いとして、下着だけはどうしても個人で必要な物だからね。

 明は「コンビニでも買える」なんて言うけどとんでもない。やっぱり女の子としては下着にも少しはこだわりを持たないと……。

 でも、からかう目的でクマさんのバックプリントのおこちゃまパンツを持って行ったらお母さんが異常に盛り上がっちゃってついつい私も盛り上がっちゃったけどね……。

 でもその後の一件……あれは忘れられなかった。

 私だけ先に避難させられて、後から来た母さんと明、明は青白い顔で気絶していて本当に心配した。

 結局、夕食の後に明は「魔法少女になる」って決心を口にした。

 でも、私としてはこんな危険な目に遭うなら魔法少女なんて仕事、して欲しくないって思う。

 

「本当に良いの? 危険なことだっていっぱいあると思うわよ?」


 そう聞いたら、明は笑顔で答えた。


「僕、男に戻るんだ。そのために魔法少女になるんだ。自分の『願いごと』を叶えるためなんだからがんばるよ」


 だったら私の立ち位置は決まったも同然だ。『できるだけこの子を支えてあげよう』って。せめて日常生活をしっかり送れるように陰からしっかり支えて上げるんだ。

 それが他の何者でもない、私のカワイイ弟の……ううん、カワイイ妹のために私ができることなんだ。


「分かった。明がそこまで言うなら止めはしないよ? 私も影ながら応援してるから」


 いつもの意地悪な私では無い、素直な笑顔でうなづいた。


「千夏ちゃ~ん」


 横を見るとお母さんはニヤニヤと笑っていた。

 なに? いつもそんな笑顔で接してたら明も喜ぶのにどうしてしないかですって?

 そんなの……恥ずかしいからに決まってるでしょ!? もう知らない!


「姉さん」


 真顔の明が私を呼んだ。


「な……なによ?」


 あまりにも真剣っぽい顔だから身構えてしまった。


「ありがとう」


 ふわりという擬音語が似合う柔らかい笑顔を浮かべる明。本人もすごく恥ずかしいのか顔がどんどん赤くなって行く。


「ふ……ふんっ!そんなのね!家族として当たり前なの!」


 私の顔も随分赤くなってるでしょうね。いつもの憎まれ口しか口から出ないでやんの……。

 でもなんだろう、こそばゆいけどこんな関係も嫌じゃないなって思う自分が確かにここにいることを強く感じたのだった。



                         ― お・わ・り ―

結構自分で校正はしているのですが誤字脱字が多い性分です。

誤字とか脱字があったらご指摘いただけたら幸いです。



と言う訳で『カワイイ妹のために!』の回でした。

みんな明ちゃんがイジられると期待してたでしょ?期待してたでしょ?

でもざんね~ん!普通に良いお話でした!(てへぺろ☆

今回のお話の教訓、イジワルな姉をデレさせるのも大変だと言う事ですね(意味不明)

やっぱり立場が上位の人か弱点が絡まないとデレないんだなぁ……と(何を当たり前な)


あ、今回、いつもより漢字を使っているのは千夏さんの視点だからです。

千夏さんは結構頭良い人なので普段も漢字を結構意識してるんじゃないかなという単なる演出です(苦笑)


それにしても暗躍と書いたにもかかわらず暗躍らしい暗躍してませんね……困ったもんです(ぇー)

まぁ暗躍の動機部分といった所として理解して頂ければ幸いです(苦笑)

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