第1話 僕はチキンな高校生!……という名の不幸
連続して第1話をお贈りします。
(2012/10/27 体裁統一のためのチェック)
僕の名前は佐伯明。今年高校1年生になったばっかり。
身長低い、女顔、気弱でイジメられ~の典型的内気少年だ。
どうしてそんなことが分かるかって?
だって入学1週間でもうイジメられてるんだ……。
別に好きでイジメられてるわけじゃない。
これにもちゃんとした理由は無い。たまたま気が弱そうだからって目を付けられたのがきっかけ。
本当は中学校で終わってたはずだったのに……。
僕は中学校の頃イジメられていた。1年から3年までずっと!
理由はなんだっけ? そうそう、クラスの男子から『お前がカブトムシ盗ったんだろう!?』だ。
ある日、クラスの虫かごからカブトムシがいなくなっていた。
前日エサやり当番が虫かごのフタを閉め忘れたのが原因。
けっきょく教室のそこらかしこからカブトムシが発見されたものの、
「お前がそんなインケンな性格だから悪いんだ!」
って言いがかりでクラス全員満場一致のイジメられる対象となってしまったのだった。
ちなみに先生は見ない振り。しょせん先生もサラリーマン。面倒事にはフタをしたい。
けっきょく文句もなにも言えないチキンな僕は3年間耐えるしかなかった。
そして中学を卒業して新たな学園生活! 高校生! 中学とはオサラバ! 新生活カモーン! とはしゃいでいた時期がありました。
フタを開けたらワーオ、中学校のイジメ主犯格が同じクラスでしたよ……がっでむ!
結局、メンバーは変われども主犯格がいるわけで、クラスは先導されてまたイジメられる日々が再び到来。
そんな波乱万丈のスタートに疲れていた僕だったのだ。
今日は土曜日、週の最後で午前で授業も終わり。
逃げ帰るように家に帰ってきた。
どうして逃げ帰るように帰って来たかって? それは呼び出し状が机の中に入っていたからだ。
正直まさか呼び出し状まで来るとは思ってなかった。どうせいつか痛い目を見るなら今は逃げた方がマシ。負け犬根性万歳な行動だった。
□◇□◇□◇□◇□◇――…
家に着いて一息つくとちょうど姉の千夏が玄関右正面の階段から降りてくるところだった。
「あら? 明、おかえり。ちょうど良かった」
僕はイヤな予感がして視線を反らす。
姉さんが『丁度良かった』という言葉を使う時は大抵僕に命令をする時だ。理不尽極まりない。
そう、僕は家族の中でも最底辺なのだ。家族構成は5人。父と母、この姉に弟と僕で5人。
父は厳格、母は朗らかだけど躾には厳しい。姉は唯我独尊(※注、本当はそんな意味ではありません)、弟は強かで立ち回りが良いさわやかスポーツ少年。
それに比べて僕はイジメられ体質でネクラ、これといった容姿でもなく、学校でも中位をキープする平凡野郎。極めて平凡過ぎて最底辺なんだ。
そんな僕に声をかけてきた姉さん。まちがいなくなにか命令されるに決まってる。
「お腹すいたからあんたお昼ご飯作りなさいよ」
やっぱり命令された。
わが家では土曜のお昼は各自でとることになっている。母さんが茶道の先生(?)をしていて土曜日は家を空けているからだ。
とうぜん『各自』なので自分で用意するべきなんだけど、姉さんは全部僕に押し付ける。
だからいつまでたっても料理できないんだよ!……と叫んでみたいけれどできない。しょせん僕はチキンだよ。涙をのんで従うしかないのさ。
「わかったよ。ちょっと待ってなよ」
僕はしぶしぶうなずいて2階の自分の部屋に鞄と制服の上着である深緑のブレザーを放り投げてキッチンに向かう。
手早く自分の臙脂色のエプロンを掛けて調理に入った。
冷蔵庫と冷凍庫、脇の野菜が入った段ボールに目を通す。
冷や飯、卵、玉ねぎにニンジンを発見する。チャーハンで良いか?とプランを立て、ため息と共にまな板の上に食材を並べていく。
「んじゃーお昼ご飯できたら呼んでね!」
と姉の声が背後から聞こえる。
のん気なものだと愚痴ってまずは材料を洗っていく、ニンジン、玉ねぎ。ああ、ピーマンを忘れてた。姉さんはピーマンがキライだ。腹いせに入れてやろう。
ニンジン、ピーマン、玉ねぎと微塵切りにして行く。オーソドックスで良いよね?
あ、肉類は入れない。だって脂っこいの苦手だからね。
卵はできれば半熟が良いんだけどそこまで凝るとめんどくさいので止めておく。
調理時間15分弱。われながら手際が良い……。
ちなみに料理は小学校4年からしている。
今しているエプロンは小学校4年の時に『姉さん』が僕の誕生日プレゼントに贈ってくれたものだ。
今じゃあ僕の伸長も160cmを超えてかなり短く感じるけど、『姉さんの為』に買い換えるのもイヤだから使い続けてる。
「姉さん、できたよ?」
お皿に盛りつけて食卓に並べながら言うと、リビングのソファーにダラダラと寝ころんだ姉さんがこっちに振り向く。いいかげん慎み持ってよ。
姉さんが食卓に着いて食べ始める。手を合わせるどころか感謝さえしない。これが姉さんのクオリティ……唯我独尊(※注:意味を誤解しています)はダテじゃない。
と、考えた瞬間、姉さんが僕をジロリとにらんだ。
「あんたさぁ、いいかげん私がピーマン嫌いだってことをさ。理解してくれないのかなぁ?」
かなり殺気立ってるご様子で、目が座ってる。ガツンと食器に当たったスプーンで首をはねられそうだ。
うん、正直めっちゃ怖い。目で射殺すってのはこういう時に使われる言葉だよね。
「い、いい歳なんだから、ピ、ピーマンくらい食べたら……どうかな?」
「なにそれ……? どうゆーこと?」
「イエナンデモアリマセン」
ささやかな抵抗はあっさり失敗。それどころか僕を窮地に追い込んだようです。
「つ、次は気を付けるよ。次は……」
(そう次だけはね……)
「明? 言葉がまちがっているわ? 次『から』はでしょ? 次『から』は」
『から』を異常に強調する姉さん。ゼッタイ僕の意図を理解してるよこの人、おっかない……。
「つ、次からは気をつけます……」
ここまで脅されたら逆らう気さえ起きやしない。素直にうなずく僕はことごとくチキンだった。
「で、あんた、そろそろ高校生活慣れた?」
「……いや……」
「でしょうね」
世間話ていどで聞いてきたのか意図は分からないけど、あっさり引き下がられる辺り、姉さんも僕がまたイジメのターゲットになったことを予測してるんだろう。
一瞬で無言の食事になって数分。姉さんが完食して席を立つ。どうやらこれから勉強らしい。
「それじゃ、後よろしく~」
ひと言言って去って行く。
僕は自分の分を食べて2人分の食器類を洗った。
□◇□◇□◇□◇□◇――…
食後の僕はフリーダム。
リビングの据え置きゲーム機の『Dreem Player 3』を起動させる。『Anthony』というメーカー製でそこはかとなく普及しているゲーム機。
ちなみにマスコットキャラクターはサル。『アンソニー』と『セガール』という二匹のサルのどつき漫才が記憶に色濃く残ってる。どうしてやめちゃったんだろうなぁ? あの猿漫才……。
最近はまり中の『Dragon Hunter』をゲーム機に入れて起動する。
今日はゼッタイ素材出してやるんだ。そう息巻いて拳をにぎりしめる。
「待ってろ! 『飛竜玉』!」
僕は興奮気味にコントローラーをにぎりしめて叫んだ。
「明! うるさい!」
2階から響いてきた姉さんの声にビクリと肩を震わせて、静かに始めた僕はやっぱりチキンだった。
― つ・づ・く ―
結構自分で校正はしているのですが誤字脱字が多い性分です。
誤字とか脱字があったらご指摘いただけたら幸いです。
また前振り長いんじゃねぇの?って思った人!ごめんなさい微妙に今回も本番まで長いです(ぇー)
本番が第4話からの予定です。
いやこれは別の作品よりも前振りは短くしようと努力したんですよ!?
いえ努力不足だよ!ってツッコまれればそれまでなんですけどね……。
ついつい下地を作り込み過ぎちゃうんですよね……悪い癖だなぁ……。