第23話 まさかの夢遊病!……という名の途惑い
お疲れ様です。
今回は少し短めのお話をおおくりします。
というわけで新しいお話をどうぞ~。
(2012/11/13 体裁統一のためのチェック)
夢。夢を見ている。
多分これは夢。僕の夢。
今のカッコウは姉さんからもらったパステルグリーンのルームワンピース。長い髪は料理の邪魔になるから後ろでゆるくくくっておさげにしてる。
「ふんふんふ~ん」
鼻歌交じりに臙脂色の少し大きめなエプロンを身に付けて、台所に立つ僕。
「本当に良いの~?」
母さんが不安そうにこっちを見る。
「どうしてですか?」
「だって、普段はお母さんが朝食を作ってるじゃない?」
そうだよね、僕って低血圧でいつも寝坊気味で、朝ご飯なんて作ったことがないもん。
だから、これは僕の夢だ。
「それはそう……ですが……ここのところ迷惑ばかりかけていますし。たまには私が朝食を作らせていただいても良いではありませんか?」
それに僕、こんなていねいな言葉なんてぜったい使わないよ。
「え、ええ……」
さらに母さんが困った顔をしている。かなり心配させてるんだと思う。それに気付けよ夢の中の僕。
「お母さま、たまにはテレビのニュースでも見てゆっくりしていてくださいね」
お母さまとか……ないわぁ。ぜったいそんな呼びかたしないよ。夢でもこのキャラはさすがにないわぁ……。
炊飯ジャーは予約してあって後5分で炊き終わる。
それを見て手早くお味噌汁を用意することに決めた。
冷蔵庫からとうふと乾物かつおダシのパッケージを取り出して、流しの下段から乾燥ワカメを取り出す。
「基本に手堅くおとうふとワカメのお味噌汁で大丈夫ですか? お母さま」
「はぁ……もう良いわよ~。お母さんは明ちゃんにおまかせするわ~。お母さんもたまにはゆっくりさせてもらうわ~。たまには……ね」
ことさら『たまには』を強調する母さん。とりあえずこの場だけは譲ってあげるってことみたい。
「お母さま、ありがとうございます」
嬉しくてしかたないという感情が伝わってくる。よっぽど朝ごはん作りたかったんだなぁ、僕。
「でも、お母さま。私の……いえ、なんでもありません」
軽く笑って流した。今のはなにが言いたかったんだろう? ちょっと悲しいと感じた気がする。
気を取り直して鼻歌交じりで料理を再開。
かつおダシを入れて少量のワカメを加える。先にワカメを入れるのがポイント。海藻類は戻して旨味が染み出すんだ。
それを脇に冷蔵庫から柚子の皮を持って来て細かい千切りにして鍋に入れる。
少し味見をしてみると、十分かつおとワカメの旨味、柚子の爽やかな風味が口に広がる。
あれ? でも僕、お味噌汁に柚子の皮を入れるなんて知らないよ? どうして……?
「こんなもの……かしら?」
続いてお味噌を冷蔵庫から持って来てお鍋の中で適量溶く。お鍋の中が茶色に色づいたところで、冷蔵庫にお味噌を戻す。
左手にとうふを半丁持って、賽の目に切ってお鍋に優しく放り込んで火を止めてフタをする。
「おはよう」
「おはようございます」
「おはよ~、玲二さん」
父さんが起きてきたみたい。スラックスにカッターシャツ、腕にはジャケットとネクタイを持って来ていた。
「今朝は珍しく明が朝食を作っているのか」
「あら? お父さま、私が朝食を作ってはいけませんか?」
「お父さま……? 熱でもあるのか? 明」
くすり、と1つ笑って父さんを見る。父さんもなんだか困った顔をしている。
「私に熱などありませんよ? おかしなお父さま」
フライパンを取り出して軽くサラダ油をしいて、ハムを2枚置いて卵を上に割る。その後、軽くお水をかけてフタを閉める。
「もうすぐ朝食の準備が終わりますので、お父さまもお掛けになってお待ちください」
できあがったハムエッグを乗せた2つの小皿を母さんと父さんの前にならべて、ご飯をよそってお味噌汁をお椀に注いでならべる。
「どうぞ」
「いただきま~す」
「いただきます」
母さんと父さんがお味噌汁に口を付ける。
「うん、基本はしっかりできてるのね……。でもお母さん、お味噌汁に柚子を入れるなんて教えた覚えないんだけどなぁ……。これってお母さんの実家の味なんだけど?」
え? これ母さんの実家の味なの?
母さんの実家ってウチから近いけど、母さんと母さんの実家が仲が良くないから年に盆と正月くらいしか行かないんだよね。
それに母さんの実家に行った時って伯母さんは料理するんだけど伯母さんのお味噌汁には柚子は入ってなかった気がする。
「あれ……そうですか?」
でも僕のこの反応って教えてもらったことがあるって反応だよね?
教えてもらったかな? う~ん……覚えがないなぁ……。
「それにこの味……私のお母さまの味だわ……」
複雑そうな顔をする母さん。
なんだか僕の気持ち落ち込んできてるみたい。
「でも、これはなかなか良い味を出してるじゃないか」
「ありがとう。お父さま」
嬉しくてしかたないって感情が流れてくる。
しだいに姉さんが起きて来て、智樹も起きてくる。
「みんなおはよ~……?」
姉さんは酷い低血圧でボーっとしながら、席に着いた。
「おはよう」
短めにあいさつした智樹はものすごくご機嫌ナナメな様子。って言うより、目の下はすごいクマになってる……。
「姉さま、智樹、おはようございます」
「めずらしいわねー、明が起きてるなんて……」
「智樹、すごいクマなのですが……大丈夫ですか?」
「だっ…! 大丈夫……」
なんか叫びそうな勢いで声に詰まった。頭に響いたのかな?
「そう……? 体調が悪いならあまりムリをしないでくださいね」
「あ、ああ……」
「姉さまはご飯とお味噌汁だけで良いですよね?」
「あら……今日は明がご飯作ったんだ……お願い……」
「智樹はどうします?」
「ハムエッグ2枚。って、なんか今日はお兄変じゃね……?」
「どこがですか……」
智樹まで言うんだ。やっぱりこのしゃべりかた。ものすごく違和感あるよね。
「ハムエッグ2枚ですね。少し待っていてください」
姉さんは頭が重そうな様子でご飯とお味噌汁をモソモソ食べて、智樹は大盛りごはんとお味噌汁、ハムエッグ2枚を用意してあげた。
夢の中では智樹はまだご機嫌斜めだ。なんかあんまりカワイくない……。
それにしてもどうしてこんな夢を見るんだろう?
もしかしていつも通り、家族仲良く朝ごはんを食べたいっていう僕の願望?
夢って見る人の願望が現れるって言うし……。
ああ、でもそうなると僕ってとってもさびしがり屋ってことに……。
いやいやそんなことは――。
□◇□◇□◇□◇□◇――…
「どうしたの? 明。ご飯食べないの?」
「え?」
いきなり、目の前から姉さんの声が聞こえてまばたきをした。
――残念ですね。時間切れ……ですか……――。
え? え? なにコレ!? 今の声は誰の声? っていうかどこから聞こえたの? いやそれもあるけど、なんで僕はおはし持ってるの!?
「どうなって!? あれ? 僕、今どうしたの!?」
目を覚ましたら、ダイニングでテーブルに座って家族みんなで朝ご飯を食べていた。そんなの現実にあるの!?
「明ちゃん? なに言ってるの~? 今日の朝は明ちゃんが朝ご飯作るからってキッチンで動きまわってたじゃない?」
僕が朝から……?
「僕、今起きたんじゃないの?」
「なに言ってるんだ、明。さっきまでここで私達と会話して、朝食の用意をしていたじゃないか……」
父さんが心配そうに僕を見る。
「ええ!? だって、僕今まで寝てたし?」
「おいおい、大丈夫か? お兄……」
「大丈夫じゃ……ないかも……」
これってまさかの夢遊病!?
「僕どんな感じだったの?」
「そういえば変だったわね~。みょうに物腰がさわやかで……それでいてなんかお嬢さまっぽかったし……」
「私も一瞬本当に明か? と疑ったほどだ」
母さんと父さんが言うあたり……もしかしてさっきの夢だと思ってたのは……実は本当のことだったの!?
「ありえない……ありえないよ……」
「さわいでもしかたないって……冷めないうちに食べちゃいなさいよ?」
姉さんの言うことはごもっともで……。
「うん……わかった……」
素直に食べ始めようとしたとき、母さんが怖い顔でこっちを見ていた。
「なに? 母さん」
「ん? ああ、ごめんね~? なんでもないわ~」
あわてて笑顔に戻った母さん。でもなんだかさっきの顔が忘れられない……。
本当にどうなってるんだろう……僕……。
― つ・づ・く ―
結構自分で校正はしているのですが誤字脱字が多い性分です。
誤字とか脱字があったらご指摘いただけたら幸いです。
と言う訳で『まさかの夢遊病!』の回でした。
明ちゃんの秘密の一端が見えましたね~。
今回は夢オチならぬリアルオチと言う訳です(ぇー)
いえ、ごめんなさい……オチてないかも……(汗)
一人称の小説でこうゆー展開って表現難しいですねぇ。
キャラクターの視点変更で語っちゃえば話は早いのですが、今のところ別視点で語れるようなキャラが居ないのが問題ですねぇ。
なんか上手い手法とか無いですかね~……。
まぁ頑張って考えるのも作者の一つの楽しみ方ですかね。
銃騎士物語が一段落で今プロットチェック掛けてるので8月前半はこっちをメインに更新すると思います。
よろしくお願いします(ぺっこり