第14話 メガ盛り!……という名の途惑い
皆さんお疲れ様です。
前回の宿題の答え合わせの回だよ~?
みんなやってきたかな~?
それでは答え合わせを始めましょう。
(2012/11/12 体裁統一のためのチェック)
「明ちゃんちょっと来て~」
朝食の後片付けをしている最中に呼ばれて振り返ると、リビングのソファーで母さんと姉さんが暗い笑顔で手招きをしていた。いかにも『悪だくみしています』という顔だ。
「なに?」
「良いからさっさとこっちに来る!」
怪し過ぎるよこの2人。近寄りたくない空気放ってるし……。その笑顔怖いんですけど……。
2人のそばまで行くとどうやら雑誌を見ていたらしいことが分かる。
「さっき電話で明ちゃんのカットの予約入れたの。一緒に髪型考えましょ~?」
ぐいぐい引っ張る2人に根負けしてソファーに座らされ、逃げられないようにガッチリ挟まれてしまった。
「ほらほらこれなんて良いんじゃない?」
「ぶっ!?」
開かれたページに思わず噴いてしまった。
「えー、こっちの方が面白そうじゃん?」
「え~、お母さんこっちの方が―――」
「待て待て待て~! ちょっと待て~!」
バン! と音がするくらいの勢いで両手を雑誌に叩き付けて僕は制止の声を張り上げた。
「なに考えてるの2人とも!?」
「「えー?」」
2人ともハモらないでよ……。
「お母さんはこっちがカワイイなぁって思うんだけど~……ダメ?」
母さんがペラペラページをめくって一つの髪型を指さした。目の前が一瞬真っ暗になった。
「ダメです!」
「私はこっちの方が好みだけど……ダメ?」
姉さんがペラペラページをめくって……ってこっちもなの!?
「ダメです!ていうか僕になにを期待してるの!?」
母さんがすがるような表情で、
「だってせっかくそこまで髪が長いんですもの~、一生に一度くらいしかできない髪型してみない?」
と言う。
カワイく言ってもダメなものはダメなの!
「てゆうかなにこの雑誌! メガ盛りとか意味分からない髪型、日本で流行ってるの!?」
女の人って良く分からないよ……。
「なに言ってるの? ロマンよ? ロマン」
訳分かんないよ!?
「まあまあ、明ちゃんも後学のために一緒に語りましょうよ~?」
ほらって言いながらさっきのページを広げる母さん。
なになに……。
「なにこのベルサイユ宮殿盛りって……」
うず高く巻き上げて盛り込んだ髪の毛のかたまりに生け花よろしく生花を挿しまくってる。いや確かに名前はロマン感じるよ? 髪型も花がキレイだなぁとは思うよ!? でもさ~……これは無いよ……。
「毎日生花挿し直すとかどうするの?」
「そっか~……お金かかるもんね~。残念」
お金の問題じゃないでしょ……手間暇の問題でしょ!?
「じゃあ今度は私ね。明にはこれをして欲しいなぁって」
そこに描かれていたのは『ネコ耳』という盛った髪型だった。
「姉さん……そんな趣味だったの? それだったら自分でネコ耳にすれば良いじゃん」
「えー、私はネコ耳の明が飼いたいのに……」
残念がられてもイヤだよ。以前以上に酷使されそうだよ。
「大体どこにこんな髪型してる人がいるんだよ!?」
文句を言ったら2人がジト目で僕を指さした。
「はぁっ!? まだ僕なにもしてないじゃん!」
母さんがペラペラとページをめくると1つのページを広げた。それに合わせて姉さんが小さい鏡を僕に向ける。
ページを見る。鏡を見る。ページを見る。鏡を見る。ゴシゴシ目をこすって再びページを……。
「いいかげん現実を受け入れなさいよ?」
姉さんが呆れ交じりに言った。
言うのは良いけどどう考えても受け入れられないよ!
「なんなのこの『ヘッドホン』って! 意味が分からないよ!?」
頭の両サイドに大きなお団子を作って、そのお団子の間に髪で細く編み込みをしたような髪型。そんな髪型がどアップに掲載されてる。キャッチフレーズは『防寒対策にもなるよ♪』とか。
「ないないない! ゼッタイないよ! ありえないよ!?」
どうして僕の髪型がヘッドホンなんだよ!? てゆうか母さんどうやって僕の髪を盛り込んだんだよ!?
母さんを見ると、一瞬頭に『?』を浮かべて微笑んだ。
結局出かけるまでメガ盛りについて話し合っただけで髪型は決まらなかった。
□◇□◇□◇□◇□◇――…
僕が来た美容院はアッシュ・キャットという若者向けで家から車で片道20分のJR高根駅の近くの美容院だった。
「いらっしゃいませ~」
「予約を入れていた佐伯です。本日はよろしくお願いします」
「お願いします~」
「本日はお嬢さまですね。ずいぶん髪が長いようなのではじめに少し切らせていただいてよろしいでしょうか?」
「はい? 普通そうじゃないの?」
疑問に首を傾げる僕に、母さんが耳元で「美容院ではまず洗髪から入るのよ」とささやいた。
確かに僕の髪の毛の量じゃあ洗髪するのも大変だと思う。
僕は美容師さんにうながされて散髪台に座った。
「とりあえず、座った状態で床につかない程度に切らせていただきます」
そう言って、美容師さんが屈んだ状態でハサミを入れようとした状態で母さんがストップをかけ、
「切った髪は束ねてダンボール箱に入れていただいて良いですか?」
と僕が昨日髪を入れていたダンボール箱を床に置いた。
美容師さんもその意図が分かったのか「はい」とうなずいて切り始める。
「どうして切った髪をまとめてダンボールなんかに入れるの? 持ち帰ってなにかに使うの?」
すると母さんが耳元に口を持って来て答えてくれた。
「明ちゃんの髪は長くてキレイだから、切った髪はカツラ屋さんに売りに行くの」
「どうしてそんなとこに……」
だいいち、髪の毛持って行って売れるくらいならみんな持って行ってるよ。
「バカにしちゃダメよ? これでもかなり高く売れるんだから」
「どれくらい?」
「それはね…(ごにょごにょごにょ)…くらいよ?」
「ぶはっ!?」
細かい金額はあえて言わないけれどゼロが5つ付いてました……。女性の髪は命なんて言うけど本当に信じられないくらい高値で売れるんだなぁ……。髪の毛もバカにできないや……。
「それだったらいくらか僕に還元してくれないかなぁ?」
「なに言ってるの~? これからいろいろ要りようなんだからお金はいくらあっても足らないわ~」
そうですか……。確かに性別変わったら変わったでものすごくお金かかるだろうししかたないよね……。
切り終わったら美容師さんにシャンプー台に連れてってもらった。
いつも行く2000円ポッキリの床屋は切るのもシャンプーも同じ場所なのに美容院は違うみたい。それに床屋は前屈みなのに美容院は仰向けなんだなぁ……。
ていねいに頭を洗ってもらう。髪の毛が長いからといってわしゃわしゃ洗われるわけじゃない。床屋なら多少乱暴にガシガシ洗うんだけどね。とっても気持ち良くて寝ちゃいそう……ぐぅ……。
「かゆいところはありませんか?」
「あっ……? はい大丈夫です~」
危ない危ない、半分寝そうだったよ。美容院の洗髪すごいや。
美容師さんの手際も良く洗髪が終わってさっきの散髪台に腰かける。
「髪型はどうしましょう?」
「とりあえず太ももにかかる程度に切ってもらえれば良いでしょうか?」
そう言ったのは母さん。ロングすぎるよ……。
「もっと切りたいんだけど……」
「ダメよ! そこまで長く伸ばすにはものすごく時間がかかるんだからっ! 特別な理由以外には認めませんっ!」
「どれくらいかかるの?」
「お嬢さまの髪だと……15年くらいはかかるでしょうね」
15年って僕の人生丸ごとじゃないか。良くそんなに髪の毛伸びてたなぁ……。
「むしろ先程の髪はどうやって伸ばしていたんですか? 地毛ですよね?」
あ、よけいなことに気付かれた。説明できないしここはもう、
「キカナイデクダサイ」
スルーしてもらって髪型カタログ本を渡してもらう。
「内ハネとかどうですか? シャギーっていうんですけど――」
「この子、高校に入ったばかりなので染めたりパーマとかはちょっとダメなのですよ~」
「分かりました。それでは髪質チェックだけしておきますね」
「お願いします~」
髪質チェックとは髪の状態とパーマがかかりやすいかどうかとか癖毛になりやすいかどうかを調べてくれるらしい。いくらか切った髪の毛でチェックをしてくれるサービスだって教えてくれた。
「それじゃあこれなんてどうですか? カワイらしいお嬢さまにピッタリかと」
その紙面には大きく『お姫様カット』と書かれていた。
「ちょっ――むぐぅ!?」
文句を言おうとした僕の口に母さんの手が素早く伸びてさえぎった。
「それでぜひお願いします~」
モガモガともがいている最中に鏡に映った母さんの目と視線が合った。とっても目が鋭く座ってます。怖くて反論できませんでした。結局僕はどこまで行ってもチキンですね(爆)
「あ、でももみあげはそのままにしておいてもらって良いですか?」
「わかりました」
髪を切ってもらっている間、じーっと切る様子を見ていた。
前髪をキレイに櫛で支えて一直線にじょっきり切ったり、前髪をすいたりしているんだけど、はじめは幽霊だった様相がどんどん変わっていく。まるで自生している松の木が盆栽に変わっていくような感じと言えばいいのかな?例え方が変?良く言われます。
「後は後ろを少し短くして終わりですね」
そう言って膝を突いて僕の髪を切った美容師さんが立ち上がった。軽く刷毛で襟元や体に付いた毛を払った。
「前髪以外はすかなくて良いんですよね?」
「はい、必要になったらまた来ますので今回はすかなくて結構です」
母さんは長くてキレイな髪だからとできるだけハサミを入れさせないようにしたいみたい。
確かにこんなにキレイなんだしこれ以上ハサミを入れるのもイヤだなぁ……。
って、なんか僕女の子みたいな考え方しちゃってるじゃないか!? なしなし今のなしぃ!
「良かったわね、明ちゃん。短くなって」
「ウン、ヨカッター」(棒読み)
結構ダメージでかいよ。空元気でギリギリ間に合わせてなんとか耐えた。
美容師さんに手を取ってもらいながら立って全身が映る姿見の前に移動した。
姿見には漆のようなつややかな黒い髪をキレイに切りそろえた少女が映っている。
茶系のジャケットとパステルグリーンのカットソー、黒のホットパンツ(名称は母さんに教えてもらった)にハイソックスという出で立ち。
目はちょっとタレぎみの大きい目。朱が差した頬がカワイらしい。って頬が朱いとか自分で照れてるだけじゃないか! 自意識過剰も良いところだよ僕!?
「ちょっと明ちゃん? お~い、明ちゃ~ん戻って来て~」
「はっ!?」
いつの間にか母さんに手を握られて引かれていた。
「千夏ちゃんが近くの百貨店で買い物して待ってるから行きましょ~」
「う……うん」
後ろを振り返って姿見を見ると、仲良しのお母さんに手を引かれている小学校の女の子といった印象だった……。
それが誰なのかはあえて言わないでおく。っていうか言わないし見ないし忘れてよ!
「ありがとうございました。またお越しください」
美容師さんも大変だね。帰るお客さんをお店の外まで見送らないといけないなんて……。
なんて逃避をしながら僕は母さんと一緒に美容院を出た。
佐伯明の精神ポイントマイナス60点。残精神ポイント40点。僕の精神は果たして今日いっぱいもつのだろうか……。
あ、そうそう。さっき魂が飛んでて聞いてなかったけど、髪質チェックの結果は『非常に良質だけどパーマのノリが悪くて、パーマしても半月程度でストレートに戻ってしまうでしょう』だってさ。
― つ・づ・く ―
結構自分で校正はしているのですが誤字脱字が多い性分です。
誤字とか脱字があったらご指摘いただけたら幸いです。
という訳で推理要素の回答編でした(笑)
みんな推理できたかな~?答えは『ヘッドホン』盛りでした(ぇー)
回答率は1%にもなりませんよね!と言うか予想外過ぎたと思います(爆)
今回某有名所さんと内容が美容院回で似すぎてない?という印象を持った貴方は鋭い!でも全くの偶然だそうです。
本人に直接訊いて確かめたら『GWに美容院行ったから』って答えが返ってきました。
因みにあたしはプロットの時点で存在しているのでパクリじゃないですよ~?正に偶然の産物です。
と言う訳で、新しい髪型になった明ちゃんを今後ともよろしくお願いいたします(ぺっこり




