第12話 それでも家族!……という名の幸福
お久しぶりです。
新しいお話をおおくりいたします。
今回で起承転結の『起』の部分が終了です。
(2012/11/12 体裁統一のためのチェック)
今、リビングのソファーに家族全員が腰かけて、向き合っていた。
テーブルを挟んで右側に母さんと僕、左側に父さんと姉さんと智樹。
父さんはお酒を片手にピザの注文、姉さんはじーっと僕を見つめているし、智樹は落ち着かない様子で貧乏揺すりをしながらテレビを見ている。そんな3人の様子に縮まる思いをして僕はうつむいていた。
ただ1人、母さんはニコニコ笑顔でみんなの様子を観察してるのはこの重い空気を終わらせられる切り札を持ってるためだと思う。
平日は父さんの帰りが遅いから土曜日の夜は久しぶりに家族全員がそろって団らんというのがわが家の平常運転。それがどうだろう。今夜に限ってはお通夜のような重い空気。自分が原因だからなにを言ってもダメそうだ。本当にどうしてこんなことになったんだか……。
居心地悪く身を捩ってると父さんがこっちを向いた。
「あ~……明で良いんだよな? ピザはなにを頼む?」
「いつも通りマヨネーズシュリンプで」
僕はエビが好きで、いつもピザはエビが乗っているのを頼むことが多い。
「そうか……。あ~もしもし、マヨネーズシュリンプを追加で――」
そんな僕に納得が行ったのか、1つうなずいて父さんは電話を続ける。
「本当に……明なのね……」
半信半疑で姉さんも口を開いた。なにか喉につかえたような表情。
「気持ち悪いよね……なんかさ」
自分でも未だに鏡を見たら違和感をひしひしと感じる。さっき車のバックミラー越しに見た自分、玄関の姿見に映った自分、なにもかもが自分じゃなかった。
背が縮んでものすごく髪が伸びただけだと思ってた。鏡で自分を見るまでは。
自分でそう思うからこそ、姉さんがなにを感じているのかなんとなく分かる。気味悪がってるんだ。
「ちょっと待って! 私なにも……」
ムリしているのが分かる。今まで人の顔色ばかりうかがってきた僕にはなんとなくだけどそれが分かってしまう。
「良いよ、ムリしなくても」
こればっかりは今すぐ解決なんてできないと思う。
「違う! ……ごめん違うっていうか違わないかもしれない。けど! ……けど……アイスの件とかさっきのピザの好みとか、姿は違うけど……どこか明だなって、そう思えたの」
姉さんはそう言って不器用な笑みを顔に浮かべていた。
「姿は違うけど明なんだなって」
「ありがとう……姉さん」
一通り注文が終わったのか父さんが電話を切った。
「それでは……教えてくれないか? 光。明がどうしてそんな姿になってしまったのか」
父さんが厳しい顔で母さんにたずねた。当の母さんも笑みを沈めて真顔になる。
「それじゃあ、初めから説明するわね~」
□◇□◇□◇□◇□◇――…
本日3回目の説明、内容はかくかくしかじかうまうまといった具合に進む。
僕がオオカミに襲われてこうなったことを説明した母さん。ただ、『願いごと』のことをうまくごまかして。
車の中で約束した。母さんの叶えた『願いごと』のことだけは話さないということ。
多分、今話したら母さんと父さんはケンカをすることになると思うから言わないでと、母さんに頼んで伏せてもらった。そりゃあ、いつかは話さないといけないことかもしれないけど、今話すよりは良いと思う。
「――というわけで明ちゃんは女の子になっちゃいました。ということなんだけど……」
場の空気はかなり重かった。覚悟してたけどそれ以上に重かった。父さんは考え込むようにほおづえをついたまま、押し黙ってしまった。智樹は話は聞いている様子ではあったけど視線を合わせようとはしない。
ただ、姉さんだけは値踏みするように僕を見始めたのが怖い。本当になにを考えているのか分からないよ。
「じゃあ、本当にその子は……その、お兄なのか?」
智樹が頭をかきながら明後日の方向を見て言った。
「ええ、そうよ~?」
僕も軽くうなずいて肯定する。
「光、明は元には……戻らないのかい?」
「それは……今はムリとしか言えないみたい」
「そうか……」
父さんも心配そうにこっちをチラチラ見てくる。心配してくれるのは嬉しいけど、やっぱりなんだか迷惑かけてるようで申し訳ない気持ちになってくる。
そんな重い空気ばかりが圧し掛かり続ける中、空気を断ち切るように姉さんが、
「でも、そうだとするとお父さんも智樹も覚悟しなさい」
と急に言った。
「む? なにを、かな?」
父さんが姉さんを見ると、姉さんは不敵に笑いながら僕の隣のイスに座って僕の肩を抱き寄せた。
「ちょっと姉さん!?」
ぐいっと引き寄せられてバランスを崩した。
「これで女3人、男2人よ?」
「あら、それはステキなことね~」
ねえ、そうゆう問題? そうゆう問題なの? 母さんも変なところで同意しないでよ!
「明はもう女の子だし。民主主義で女の優勢よね?」
母さんがさらに僕の肩に腕を通して締め付ける。別々の方向から引っ張られたら苦しいっていうか首しまってる。首しまってるよ……。
「あらあら、それは楽しそうね~。お母さん嬉しいわ~」
「なんで!? 僕、別にそんなつもりは!」
なんでうちの女性陣は状況を引っ掻き回して放置することばかりするんだよ。いやシリアス過ぎて空気変えようとしてくれたのは嬉しいけどさ。これはこれでまた別の悩みが増えて困るんだよ!?
頭を抱えてうつむいた僕をみて父さんは苦笑した。
「待ちなさい。明を困らせるだけだ。今一番困っているのは明だ。そうだろう?」
父さん……。
「だったらまずは明の気持ちを優先してやれ」
父さんはそう言って僕に微笑んだ。
「私たちのことは二の次で良い」
「父さん」
「さっきは済まなかったな。突然のことで動揺してしまって」
「ううん……しかたないから……」
誰だってそうゆう反応をすると思う。それは父さんだけじゃない。
「でもこれだけは言わせてくれ。もう仕方ないという言葉で逃げるのは止めろ」
「え……?」
ほほをかきながら言う父さん。
「逃げるくらいなら私たちを頼れ。それが家族というものだろう?」
照れくさかったのか恥ずかしかったのか良く分からないけれど、それだけを言って黙ってしまった。
「あ……ありがとう……」
父さんカッコつけ過ぎだよ。こっちまで恥ずかしくなっちゃうじゃないか。ほほが熱くて仕方ないよ。
そんないたたまれない空気もインターフォンが鳴ったせいで終わってしまった。
「ピザが届いたようだ。とりあえず今は食べて飲んで、このことを忘れてしまえ。眠って起きて気持ちを整理させてから考えれば良い」
父さんが玄関に向かった後に智樹がやっと口を開いた。
「あのさ……やっぱり俺、まだお兄のこと、まだお兄だってちょっと思えないんだけどさ。できるだけ早くお兄のことをお兄だって思えるようにするからさ」
「うん」
智樹の言いたいこともなんとなく分かる。
「良いよ。待ってる」
だからその想いにできるだけの笑顔で応える。
「ぅっ……あぅ……」
智樹も恥ずかしかったのか顔がすごく赤くなっていた。
「明ちゃん……」「明……」
母さんと姉さんはなんだかジト目でにらんできた。
「僕、なにかしたかな?」
責められるようなことしてないよね?
「これは早く教えた方が良いかしら~?」
「危ないわよね……これは……」
2人とも僕を挟んでくすくす笑ってる。なんのことかさっぱり分からないけれど、空気がやわらかくなって良かったと思える。
ピザを引き取って来た父さんが戻ってきた。
「さあ、光。ピザを食べる準備だ。人数分のグラスと酒、買い置きのペットボトルと押し入れに入った高級リンゴジュースでも開けよう」
「分かりました」
「お母さん、私も手伝うよ」
「俺も」
席を立った母さんに続いて姉さんと智樹も立ち上がった。
「それじゃあ、千夏ちゃんは押し入れのリンゴジュース。智樹ちゃんはペットボトルね」
「じゃあ、僕もなにか手伝う」
そう言って席を立とうとしたところで母さんに止められた。
「明ちゃんはそのままで待ってて、どうせその髪じゃあ動き回れないでしょ?」
確かに、今の僕じゃあ手伝いなんてできないかも……。
「そうしょ気るな明。確かにお前が女になって私たちは動揺してないとは言えないさ。それでも家族なんだ。こんな時くらいは甘えて罰は当たらん。そうだろう?」
「そうですよ~」
「そうね、お父さんの言う通りよ」
「いや、俺は……まぁそのなんだ。別にそんな考えてないけどさ……」
こんな僕だけど、みんながこんなにも心配してくれる。それがとても嬉しい。なんだか目頭痛くなっちゃうなぁ。
「ありがと……みんな……」
多分今の僕、涙出てると思うけど、泣き笑いになってるかもしれないけど、それでもこの気持ちだけは本当だから伝えよう。
「僕……みんなと、家族で良かった……」
みんな笑い返してくれた。
― つ・づ・く ―
結構自分で校正はしているのですが誤字脱字が多い性分です。
誤字とか脱字があったらご指摘いただけたら幸いです。
という訳で今回で一区切りの『ばっくわ~どまじっく』にお付き合い下さりありがとうございます。
次回以降と書いていましたが今回からタイトルの後ろが変わります。
統一感はそのままに章毎に変化していく予定です。
新年度でバタバタして居た為に執筆速度が落ちてましたがそろそろ慣らしが効いて来たのかペースを回復していきたいと思います。
次回からは新しい展開で行きますのでよろしくお願い致します(ぺっこり




