第9話 男の子が欲しかったの!……という名の不幸
皆さんお疲れ様です。
今回話が長くなってしまったので話をぶった切って切りの良いところで
新しいお話をおおくり致します。
(2012/10/27 体裁統一のためのチェック)
ドアの外にいるのはまちがいなく僕の母さん、佐伯光だ。
どうして母さんがここにいるんだろう? と思ったけど、つまり母さんが僕を女の子にしたってこと……?
「みんなお疲れさま~」
「お疲れさまです光さん」
「光、休日出勤申し訳ないな」
「光さんこんばんは? ですのん」
あっれー? なんかみんな当たり前のようにあいさつしてるんですけど……なになに? みんな知り合いなの?
「なんだか電話でとにかく来い! 早く来い! なんて言われたんですけど~……なにかご用かしら~?」
ああ、この間延びしたようなのんびり感を感じさせる口調はまちがいないよ。僕の母さんだ。
そんな母さんが僕を見て首を捻る。そんな様子に思わず身構えてしまった。今はこんな姿になってしまってる分、どんな反応をされるのか怖かった、んだけど……。
「ん~? 新人さんかな?」
母さんは僕だと気付いていなかった。
いやショックと言えばショックなんだけどね。実の息子のことに気付かないとかさ。でも今の僕の姿はどう見ても『佐伯明』じゃないんだ。しかたないよね。
僕は「はぁ……」とため息を1つついた。
「なになに? 新しく新人さんが急に入ったから指導してってことかしら?」
「いや、驚かずに聞いて欲しいのだが……その子は君の息子の佐伯明くんだよ」
「へ……?」
一瞬驚いた顔でこっちを凝視した後に目が合ってにへらって笑った。僕もつられてにへらって笑い返す。
「やだぁ、ジェイク。この子は女の子。明は男の子よ?」
ちょっとショック……。やっぱり信じてくれないらしい。
どうでも良いけどお猫さまの名前は『ジェイク』だそうです。やっぱり名前もダンディだった!
落ち込む僕の肩にポンと感触がする。見るとレッドさんが手を僕の肩に乗せて同情するような表情で首を振った。
同情するのは良いけど、それって逆に悲しいから! そんな目でこっちを見ないで!
「……あれ? ねぇ? ドッキリなのよね?」
さすがの母さんも場の空気を読んだらしくあわてて確認し始めた。
「残念ながら事実だ」
「ドッキリじゃないですよ」
「申し訳ないですのん」
「ドッキリだったらどんなに良かったことか……」
四者四様の答えに目頭を押さえて僕の前に立つ母さん。不意に前髪をはらわれて覗き込まれた。
「んぅー? ……確かにちょっと似てるような~……」
「ははっ……は……」
真剣に見つめられるとどうしても苦笑いしか浮かばないよね。
「でもどうして? うちの明ちゃんは確かに女の子にまちがわれるような顔はしてたけど、本当に女の子になっちゃうようなことは……」
「それはあたしが説明するですのん」
妖精さんが事を説明し始めた。
僕がオオカミに襲われていたこと。レッドさんが助けに入ったこと。そして妖精さんが勘違いで無理やり略式契約をして女の子になってしまったこと。なんだか色々まちがってるところやツッコみたいところはあったけど概ねあっていたかも。
「じゃあ、本当に明ちゃんなの? 本当に女の子になっちゃったの!?」
「うん……一応僕は明だよ?」
いや一応って訳じゃないんだけど、こう何度も聞かれると自信無くなっちゃうよ……。
「ここからは家庭の事情もある。高坂くん、わざわざ同席してもらってはなんだが席を外してもらえまいか?」
「家庭の事情も関わるのでしたら仕方ないですね。なにかあったらまた呼んでください」
そう言うとフェアリーレッドさんは課長室を出て行った。
「では改めて、私に来た報告によるものなのだが……光、君の『願いごと』の効果が消失した」
「はい? えーっと……私なにを『願いごと』したんでしたっけ?」
母さんの目が泳いでいる。絶対これはウソをついてる証拠だ。母さんってウソをつくと顔に出る人なんだよなぁ……。
「忘れている振りはよしたまえ。魔法少女監督省には君の『願いごと』の内容も管理されている。言い逃れはできないぞ?」
ああ、お猫さまも良く分かっていらっしゃる。そうです、これウソなんですよ。
「そうなんだ……」
「君が言いたくないのは分かるが、私の口から言うよりは君から言った方が良いだろう?」
お母さんは一瞬迷ったように顔を俯かせた後、僕をじーっと見た。そして口を開いた。
「ごめんね……明」
「え?」
開口一番が僕への謝罪だった。
「明をね――」
本当に僕を女の子にしたのは母さんってことなのか……。
僕はごくりとツバを飲み込んで母さんの言葉の続きを聞き逃さないようにと身構える。
「男の子にしちゃったのはお母さんなの……」
「は…うぇ!? はいぃっ!?」
予想外の言葉にちょっと意識が飛びそうになったじゃないか。
……って、ちょっと待って! 今なんて言ったの!? 『男の子にしちゃった』って言ったの!? 女の子じゃなくて男の子!? ええっ!?
「ちょ……なにその僕がもとは女の子って言い方!? やめてよ~……僕生まれて15年、男の子だったじゃん。お父さんだって僕のことを息子あつかいするじゃん!」
「お母さんね。どうしても男の子が欲しかったの……」
それでも真面目な顔をして母さんが言葉を続ける。ちょっと冗談だよね。そんなバカなこと……。
「えー……っと。ねぇ? ドッキリなんだよね?」
重い空気に耐え切れなくてお猫さまに尋ねると、前足を器用に広げて首を振った。
「残念ながら事実だ」
「佐伯くんって光さんと同じような反応するのね。さすがは親子ですのん」
「光の『願いごと』は『元気な男の子を生みたい』というものだったのだ」
なんだ、まっとうな『願いごと』じゃないか。
「それで僕が生まれたんならなんの問題があるっていうの? 僕が生まれてめでたしめでたしじゃん」
「それがそうも行かなかったの。お父さんの方のお婆ちゃんが厳しいのは知ってるよね?」
「うん」
おばあちゃんは昔気質で気難しい性格の人なんだ。
佐伯家は結構古くて18代くらい続く由緒正しい家柄だと言ってたから、あの性格もしかたないと言えばしかたないのかも。
僕に対しても「明、お前は佐伯家20代目を継ぐ者。立派な大人になるんだよ」と言い続けてた。
「それでね。子供を産むなら男の子を生めと言われていたのよ。はじめは千夏が生まれて2人目は絶対に男の子でなければ許さないと言われていて」
あのお婆ちゃんなら言いそうだ。
「お母さんノイローゼになっちゃってね? 気付いたら『元気な男の子を生みたい』って『願いごと』してたの……」
怖いおばあちゃんからそんなこと言われ続けてたらそりゃあノイローゼにもなっちゃうよね……。
「光はそれまで『願いごと』の権利を使っていなかったのだよ」
「それで生まれて来たのが明なの」
「ふーん……。あれ? でもだったら男の子にしちゃったってのは?」
そうだよ。別に『願いごと』で元気な男の子が生まれるなら悪いことじゃないじゃん。
「お母さんね。明が生まれる前にエコー検査を受けててね。明が『女の子』かも知れないって知らせを受けてたの」
「は……? えーっと……待って! お腹の中にいた赤ちゃんは『女の子』かも知れなかったんだよね? それで『願いごと』は……」
「『元気な男の子を生みたい』というもの」
「光は『願いごと』で叶えてしまったんだよ。光が『男の子を生む可能性』を。魔法による『願いごと』の力によって赤ん坊は『女の子』から『男の子』に変わってしまったんだ」
「え……? じゃあ本当は僕、女の子として生まれてくるはずだったの!?」
僕が本当は女の子……? まさかそんな……ないわ~。ないったらない! そんな誰かウソって言ってよ!?
「ごめんね……明……」
いや……そんな謝られてもどうすれば良いの? 怒ればいいのか悲しめばいいのかよく分かんないよ。
ただただ驚いてばっかりで頭の中真っ白でなにも考えられないや。
― つ・づ・く ―
結構自分で校正はしているのですが誤字脱字が多い性分です。
誤字とか脱字があったらご指摘いただけたら幸いです。
『男の子が欲しかったの』というセリフが使いたくて仕方なかったんです。
ほら、TSモノってお母さんに『私、女の子が欲しかったの!』って言わせるのが王道じゃないですか?なので正に正反対の反応で『男の子が欲しかったの』と言わせてみたくなったんです。
この言葉が使えてちょっと感動……。
今回もセリフ多い回で申し訳ないなぁと思いつつおおくりしました。
こんなダメすぎる作者ですが今後もお付き合い下さいませ(ぺっこり