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スターダストカフェへようこそ

掲載日:2026/06/09

 ビジネスマンが足早に行き交う東京・大手町。その一角に私の勤めるスターダストカフェという小さな喫茶店がある。店内は落ち着いた雰囲気で若者たちが集まるスポットになっている。私はこの店の副店長。女子高生たちが楽しそうにおしゃべりをしたり、サラリーマンが忙しそうにパソコンを打ち込んでいる姿をよく見かける。そんなお客様の中に気になる常連の女性がいた。その人はいつもやさしい笑顔でカフェオレを飲みながら静かに読書を楽しんでいた。私はその女性と顔なじみとなり一言二言言葉を交わすようになった。

ある日、その女性が夕方来店されたのだが、どこか様子がおかしい。

「大丈夫ですか」

私がカフェオレを準備しながら声をかけてみた。

「仕事で失敗しちゃって」

女性はポツリとつぶやき、席に座っても俯いたままだった。

テーブルを片付けながら店内を回っていると彼女は小刻みに震えながら涙を流していた。

私は、話を聞かなければいけない、と思い店長に了解を得て少しだけお話をした。

彼女の話によると、どうやら仕事で重大なミスをしてしまい取引先の会社に迷惑をかけてしまいそうだというのだ。私は少し考え、自分なりの解決策を提案した。それを聞いた彼女は小さく頷いてくれ、震える手でカフェオレを口に運ぶと一口飲んだ。そしてゆっくりと息を吐いた。徐々に落ち着いた表情になっていき、静かに店を出て行った。

翌日、その女性が来店したのだが昨日とは一転していつものように笑顔が輝いていた。問題の件は無事に解決しトラブルにならなかったという。

「よかったですね」

私も彼女の笑顔を見て胸をなで下ろした。

「ありがとうございます。何かお礼を」

にこやかに彼女がいってくれた。私は少し迷ったけれども、一緒に食事へ出かけることになった。

翌週、駅から少し離れたところにある小さな洋食屋さんに二人で入った。ビーフシチューをメインとした料理を楽しみながら会話が弾んだ。彼女の名前は赤木萌さんといい、私と同い年。お互いに映画鑑賞が趣味だったので話が盛り上がり、いつか一緒に見に行こうと約束をしてその日は解散した。

彼女はその後も毎日のように来店し楽しく言葉を交わしたのだが映画を一緒に見に行くという約束は都合が合わず実現しないままだった。

そうこうしているうちに、彼女がパタリと来店しなくなってしまった。何があったのだろうかと私はずっと気になっていた。

そんな時、ビジネスマンらしき男性二人のお客様の会話が耳に入ってきた。

「ウチの会社、今度名古屋支店をつくるでしょ」

「ああ、社長もかなり力を入れているよね」

「赤木さんが名古屋に転勤になったしね」

「営業部は本当に大変だよね。でも赤木さんは恋人が名古屋にいるらしいから、自分で転勤を希望したらしいよ。いずれその人と結婚するみたいだし」

「もう東京には戻って来ないだろうね」

赤木さんの同僚の噂話なのだろうが、片付けをしている私の手は小さく震えていた。赤木さんの話は事実かどうかわからないけれど、その後も彼女は店に顔を出すことはなかった。毎日、カフェオレの注文があるとお客様の顔を確認してしまうのだがそこには赤木さんの姿はなかった。私はもう彼女には会えないのだと自分に言い聞かせるようにしていた。


それから何週間経っただろうか。これまでどおりの日々が続き、私はカフェオレの注文があっても、彼女のことを気にすることもなくなっていた。

そんな時、仕事をしていると背後から

「カフェオレをお願いします」

聞き覚えのある声が聞こえてきた。振り返るとそこには笑顔の赤木さんがいた。私は小さく口を開けたまま声が出なかった。

「なかなか来れなくてごめんなさい」

赤木さんはちょこんと頭を下げた。

「名古屋に転勤になったのでは」

「それは私の妹のことです。同じ会社に勤めているんですよ」

「そうなんですね。じゃあ、結婚のお話は」

 すると赤木さんは手で口を押さえながら大きな笑い声をあげた。

「それも妹のことですよ。うちの会社の人がお店で噂話をしていたんですね。もう本当に口が軽い人たちですね」

赤木さんは小さく両肩をあげながらニッコリと微笑んだ。

「そうですか」

私の心は急に軽くなっていた。

「私、体調を崩して会社を少しの間、お休みしていたんです。だから、このお店にも来れなくて」

赤木さんは小さく頭を下げながら私を見つめていた。

「でも、もう元気になりましたよ」

 彼女が元気そうに小さく右腕を上げ下げした。

「よかったですね」

 私も赤木さんの元気な姿を見てホッとしていた。

「私はこの店のカフェオレが大好きなんです」

赤木さんは嬉しそうに微笑んだ。

「最高のカフェオレをご用意しますね」

  私も心が軽くなり飛び上がりそうな心持ちだった。

「絶対、映画に行きましょうね。二人で」

赤木さんは私にだけ聞こえるような小声で頬を赤らめながら話してくれた。

                               (了)

       


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