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ダンジョンの社会的貢献を目的とした地位向上のすすめ ~奪わず与え従え支配するダンジョン育成記~  作者: 不可思議 那由多
第1章 対外接触と社会実験の始動 ~循環構造の外部展開と制度設計の初期実装~

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対骸骨交流観察記録 ~恐怖と憧憬の相関分析~

蜘蛛たちの作業が終わるまで、約一時間。

村の住人たちは、すでに寝静まっていた。

スモールスパイダーたちは、

一人ずつベッドごと胴体を拘束していく。

ベッドの上で暴れても、起き上がれなければ問題ない。

細い糸が、静寂の中で淡く光を放つ。

小型とはいえ、数と連携で仕事は完璧だ。

物理的にも、精神的にも――

この村はいま、完全に“蜘蛛の巣”の中にある。

________________________________________

『さて、俺たちも行こうか』

俺はエリザベートの方を振り向いた。

月光が差し込むたび、彼女の黒髪が淡く光る。

その姿は神聖にも見えるのに、瞳の奥にはまだ影があった。

「……マスターが、直接現地に?」

『うん。コアを通して見るだけじゃなく、現場の空気を感じておきたい。

 指揮官が後方で指揮だけしてるの、嫌いなんだよね。

 できるだけ前線に居たい。

 もちろん、邪魔になるようなら後方にいるけど』

彼女の指がわずかに震えた。

恐れ、あるいは戸惑い。

そのどちらなのか、自分でも分かっていないようだった。

「……了解しました」

冷静に見えて、声の端が少しだけ柔らかい。

機械のようだった最初の頃とは違い、

“心”が少しずつ言葉に滲み始めている。

________________________________________

だが問題があった。

コアはそのままでは“ただの宝珠”。

持ち運びできても、しゃべれない。

『コアがあって、話せるモンスター……何かいないか?』

頭の中で候補を並べる。

ゴーレム:喋れるゴーレムだとコストが高すぎる。

スライム:物理的に不可能。

アンデッド:コスパ最強。ただしビジュアル最悪。

……うん、決まりだな。

『スケルトンだな』

エリザベートが目を細めた。

あからさまに「やめてください」という視線だ。

「骨に……喋らせるおつもりですか?」

『拡声の魔道具あったから。骨伝導で何とかならないかなと思って。

 駄目なら、他の方法探すよ』

一瞬の沈黙。

そして――わずかに息を吐いた。

「……了解しました」

その声にはまだ緊張が混じる。

けれど、命令ではなく“納得”の色があった。

________________________________________

スケルトンの肉体を生成し、コアを融合させる。

骨の構造が浮かび上がり、成人男性の形を象る。

さらにフードローブと長めの手袋、ブーツを生成し

顔には――能面を被る。

これで、完璧に怪しいダンジョンマスターの完成である。

「その平坦な顔は……怖いです」

「この仮面はな、使う人の動作やしぐさで、

 見る人によって様々な感情を呼び起こすことができるんだぞ。

 俺にはそういう技術はないが、そのうち身につくと信じてる」

そう説明しながら、前世で見た“能”の舞台をふと思い出した。

静寂と、面に宿る表情のない表情――あの空気。

「……そういう問題ではないと思います」

「おっ、発声も問題ないな。拡声の魔道具、いい仕事してくれる」

仮面と魔道具を微調整していると、彼女がそっと近づいた。

その仕草は無意識のもの。

彼女の指先が、ほんの少しだけ仮面の縁に触れた。

「……冷たいですね」

「まあ、骨だからな」

「……そういう意味ではありません」

呟くようにそう言って、すぐに視線を逸らした。

________________________________________

「さて――行こうか、美少女吸血姫」

「……呼び方の変更を要請します」

「却下」

「マスターの言葉は時折、理解不能です」

「褒めてるんだよ?」

「それも理解不能です」

ツン、とした声。

けれどほんの一瞬、唇が緩んでいた。

その微笑は、本人すら気づいていない。

________________________________________

夜風がざわめき、木々が軋む。

蜘蛛の糸が月光を反射し、遠くでふくろうが鳴く。

静寂の中、骨と美少女の二つの影が並んで歩く。

恐怖と戸惑いを胸に抱えたまま、

それでもエリザベートは一歩、マスターの隣に進み出た。

彼女の紅い瞳には、確かに光が宿っていた。

それは――

“恐怖と同じ場所から生まれた、憧れ”の光。

囚われた村へ向けて、

骨と吸血姫は静かに歩き出した。

________________________________________

【現在のステータス】

項目内容

種別ダンジョンコア(スケルトン融合体)

ダンジョン名鉱山拠点「第一巣」

ボス吸血姫エリザベート(覚醒段階:Ⅰ)

眷属スモールスパイダー ×34(村制圧完了)/蠅 ×4(休眠中)

状態潜入行動中/夜間任務フェーズ1

備考コア形態:スケルトン+黒ローブ+能面。発声補助魔道具搭載。


面を被ると、不思議と心が落ち着いた。

表情がないというのは、こんなにも楽なのか。


恐怖も、哀れみも、感情というノイズも、

すべて面の裏に隠せる。


けれど――

その面を覗き込む紅い瞳の熱だけは、

どうしても無視できなかった。


あれは“理解不能”の象徴だ。

それでも、ほんの少しだけ見てみたいと思った。

あの目が映す世界を。


※感想・ブクマ励みになります!

読んでくれる一人ひとりが、このダンジョンの“魔素”です。

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