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ダンジョンの社会的貢献を目的とした地位向上のすすめ ~奪わず与え従え支配するダンジョン育成記~  作者: 不可思議 那由多
第三章 外界統合と福祉支配の拡張 ~人道的管理による社会統合モデルの確立~

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神官の講話~ワタル王国建国と浄光教設立の歴史~

午前中は写本をしていました。

「集中の催眠」は凄いですね。書いた文章がほぼ頭の中に残っています。

私が始めた本は1冊写本するには3日程度必要でしょう。

最後まで写本したい。と願っている自分を少しおかしく感じてしまいました。


午後からは求められた講話をする事になりました。

私が最初にする講話は決まっています。


『勇者ワタル様の魔王キコ討伐、ワタル王国建国と浄光教設立の歴史です』


その昔、この世界は魔素に溢れていました。

魔素を溢れさせていたのは「魔王キコ」。

その勢力は年々広がり、さまざまな村を蝕んでいきました。


最初は西の果ての一部だったのですが、

徐々に魔素に満たされた地域は広がっていったそうです。


そしてその勢力は、とうとう我が国にも到達しました。


ある村で、一人の村人の全身が紫色になり、

いきなり恐ろしい形相で叫び出すと、

隣にいた自分の息子を殴り倒して殺したのです。

その後、その村人は暴れまわり、村は壊滅状態になりました。


紫の呪いに侵された者は、体のどこかに痣が一つ二つ出ます。

その後徐々に痣の数が増えていき増えるに従い、

怒りやすく泣きやすく笑いやすく、躁鬱状態が繰り返され

徐々に感情の制御が効かなくなります。

感情の制御が効かなくなると同時に痛みと熱に苦しみ、

最後には破壊衝動に支配されるようになります。

村の古い証言では「心が壊れていくようだった」と語られます。


その場に居合わせた数名は逃げ延び、隣の村へ報告に向かいました。

隣の村の者たちと共に、被害のあった村に戻ると、

紫色の肌をした大人数の人間たちが、村を囲うように塀を立て、

誰も近づけないようにしていたのです。


その塀を作る作業は、普通の人間ではありえない速度で作られており

夜も休む事なく作業は続けられていたそうです。

魔王軍の士気の高さ、実力を示す貴重な記録として残っています。


魔王キコは、そうやって徐々に領土を広げ、

我が国の領土を蹂躙していきました。


そんな時に現れたのが「勇者ワタル」様です。

神より「浄化」の力を与えられた勇者ワタル様は、

魔王キコ討伐のため、魔王の領域へと向かわれました。


魔王キコが接収した土地に入り、浄化の力を使うと、

魔素にまみれた土地が普通の土地へ戻り、

魔王キコの侵攻は止まりました。


勇者ワタル様は浄化の力で領土奪還を進めていきましたが、

その道のりは決して平坦ではありませんでした。


紫の呪いは魔素に敏感な者ほど影響を受けやすいとされ、

ワタル様の仲間の戦士は呪いに倒れ、

なんとか殺さず生け捕りにして王都へ送りました。


しかし護送の途中、戦士は魔王キコの配下に連れ去られてしまいます。

その護送の記録には一部空白があり、

「護衛全員が眠り込んでいた」など、不可解な点も残っています。

王都の記録官が、その日の報告書を数度書き直していたと伝わるほどです。


さらに、道中で神官と魔法使いも紫の呪いに倒れました。

意識は戻るものの痛みが酷く、同行は困難だったため、

近くの村で安静にするように言い残し、

勇者ワタル様はただお一人で魔王城へ向かわれました。


仲間を失いながらも、ひとり魔王城へ向かうその勇気こそ、

神が勇者ワタル様を選ばれた証だと浄光教は説いています。


魔王城の内部構造についての記録は、地域ごとに食い違いがあります。

「魔物が溢れていた」というものから、

「ただの廃墟のようだった」という証言まで存在しています。

なぜ一致しないのかは、いまも学者たちの議論の的です。


結果、勇者ワタル様は魔王キコの討伐に成功し、

世界は平和に包まれました。


しかし勇者ワタル様の旅は終わりませんでした。

魔素汚染に苦しむ民のため、各地を巡って浄化を続け、

その行いが評価されて、

当時の王から深い信任を受け、王位を譲られました――

と浄光教の史書には記されています。


その後、浄化の勇者ワタル様は王となり、

王国を再編して「ワタル王国」を建国しました。

さらに浄化の教えを体系化し、

「人は魔素に呑まれるのではなく、浄化によって救われる」

という浄光教を設立しました。


これが、ワタル王国建国の歴史と

浄光教設立の流れになります。

_____________________________________

リックが話を締めくくると、教室に静寂が落ちた。

だがそれは“理解できなかった沈黙”ではなく、

ただ圧倒されている沈黙だった。


最初に口を開いたのは、好奇心旺盛な少年だった。


「……勇者ワタル様って、すごいんだね。」


その一言をきっかけに、子供たちから声があふれだす。


「紫の呪いって……そんなに怖いものなんだ。」

「自分の家族を……あんな……」

「でもワタル様が全部戻したんだよね?」

「魔王キコって、どうしてそんな事したんだろう……?」


素朴な疑問が次々と飛んでいく。


中でも、写本が得意な少女が震える声で言った。


「……村を囲ってた人たち……

 誰かに助けを求めてたのかなって……そう思っちゃいました。」


リックは少し驚いたように目を瞬いた。


「それは……分かりません。

 ですが、紫の呪いに侵された者には、もう理性は残っていなかったはずです。」


少女は小さく頷いたが、まだ納得しきれない表情をしていた。


別の少年が元気な声で手を挙げる。


「じゃあ、もしまた魔素が増えたらどうするの?

 ワタル様はいないんでしょ?」


教室が再び静まる。

さっきまで英雄譚に胸を躍らせていた子供たちの顔に、不安が宿る。


リックは静かに答えた。


「――だからこそ、私たちが祈りを受け継がねばならないのです。

 人の心が清らかである限り、紫の呪いは広がりません。

 浄光教の“浄化の法”はそのためにあるのです。」


その言葉に、子供たちは胸に手を当てて頷いた。

まだ幼い彼らにとって、祈りは努力よりも分かりやすい“希望”だった。


教室の空気は、いつもの学習時とは違い、どこか厳かだった。

懸命な読者にはバレバレの流れですね。


歴史というものは、多くの場合

「勝者が書いた物語」

であり、

語り手が誰かで全く内容が変わります。


リックが語ったのは、浄光教が定めた唯一の正史。

彼はそれを疑わず、子供たちも当然のように受け入れます。


この世界では、

“正しいこと”よりも

“正しいと信じられていること”

のほうが強い力を持ちます。


この正史が後にどう崩れ、

どんな真実が表に出てくるのか楽しみです。


ここまで読んでくださってありがとうございます。

今日もダンジョンは、静かに動いています。

もしメイズの考え方に少しでも共感してもらえたなら――

ぜひ、あなたの“魔素”を分けてください。


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あなたの一票が、この国を育てます。

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