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ダンジョンの社会的貢献を目的とした地位向上のすすめ ~奪わず与え従え支配するダンジョン育成記~  作者: 不可思議 那由多
第三章 外界統合と福祉支配の拡張 ~人道的管理による社会統合モデルの確立~

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【閑話】ヴァンパイアの苦悩 ~プライドと忠誠のあいだで揺れる心~

(ミカエル殿は何故あの様に様々な出来事がわかるのか?)


それが、私ドラキュラの心境だった。


生成されたのは私より後なのだ。

私の目の前で生成されたのだから、それは確実だ。

なのに私よりこの場において詳しいのは何故だろうか。

私には全ての情報が流れて来ていないのだろうか。


確かに心当たりはある。

これは私たちヴァンパイア組全体に言えることなのだろう。


分かってはいるのだ。

『エリザベート様は素晴らしい方であり、メイズ様の隣にいるに相応しい存在である』

ということは……


同時に、


『レッサーヴァンパイアのくせに』

という意識が心の奥底にある。


これはミディアムヴァンパイアの意識の抵抗なのだろうということも理解している。

しかしどうしても抗うことが出来ない。

抗わなければならないと分かってはいても、どうにもならないのだ。


今日のミカエル殿の言動を見ていると、焦りと共に焦燥感に包まれてしまう。

ミカエル殿を含めた天使組は、既に完全にメイズ様・エリザベート様に心酔している。

それにより制限なしのパスが繋がり、全ての情報を網羅できているのだろう。


私たちヴァンパイア組は、ミディアムヴァンパイアとしての些細なプライドによって完全な心酔が出来ていない。

これが普通のダンジョンなら、さほど問題にはならないはずだ。

各自が担当エリアを決められ、そこに侵入して来た敵に相対すれば良いだけなのだから。


しかし、メイズ様のダンジョンは勝手が違う。

端的に言えば、領主の補佐に近いものがある。


なぜそんな事が分かるかというと、ミディアムヴァンパイアとしての意識の記憶の中に、領主の補佐をしていた記憶があるからだ。

なぜそのような事になったのか詳しい事は分からないが、領主の館に侵入し、執事見習として働いていた記憶がある。


今回の生成はそれに近いものを感じる。

以前の記憶がある分お役に立てると思っていたのだが、情報伝達に差があると、それもどこまで可能か分からない。


この状態をどうにかしなければならないという焦りだけが募っていく……


焦りは胸に渦を巻いたまま、抜けない。

どうにかしなければならない――

そう思うほど、足がすくんで動けなくなる。


その時、背後から声がした。


「ドラキュラ殿。顔色が優れませんが、大丈夫ですか?」


振り返ると、ミカエル殿が立っていた。

天使特有の柔らかな雰囲気だが、視線だけは鋭い。

すべてを見透かしたような目だ。


「……問題ありません。少々、考え事をしていただけです。」


嘘だった。

だがミカエル殿はすぐに見抜いたようだ。


「魔力の流れが弱い感じがしますね。

 ヴァンパイアの皆さまは、天使として最下層の私たちより格上のミディアムヴァンパイアなのに、魔力の流れが弱い気がします。

 顔色が優れない事と、何か関係がありますか?」


胸が跳ねた。


「……やはり、分かるのですか。」


「ええ。私たちは“すべての情報”を共有できていますから。」


その言葉に、また焦りが胸を刺した。

情報共有――

私が最も欲しいものだ。


「大丈夫ですか? 原因に心当たりはありそうですね。」

ミカエル殿は穏やかに聞いてくる。


「ミディアムヴァンパイアの意識が、レッサーヴァンパイアの部下という事を否定するのです。

 エリザベート様は素晴らしい方なのに……」


「選別意識ですか……」


「ミディアムヴァンパイアの劣等感を解消できるのは、レッサーヴァンパイアだけです。

 些細で矮小なプライドです。しかし捨てられない……捨て方が分からないのです。」


ミカエル殿は小さく頷いた。


「なるほど。では、逆に聞きます。」

彼は一歩、私の方へ踏み込んだ。


「“プライド”と“役に立ちたい”――

 どちらがあなたにとって大事なのですか?」


言葉に詰まった。


「……私は、エリザベート様のお役に立ちたい。

 しかし……プライドを捨てるのも……」


「では順番を変えれば良いのです。」


「順番?」


「プライドを捨てるのではなく、

 “プライドを持ったまま心を開く” という順番です。」


私は目を細めた。

理解できそうで、できない。


ミカエル殿は続ける。


「あなたがエリザベート様を尊敬しているのは、間違いありません。そのうえでプライドも維持しましょう。

 そのプライドは、メイズ様の構造に従うことと矛盾しません。


 むしろ――

 “より良い働きをするためにプライドを使う” のです。」


「……プライドを使う。」


「はい。プライドを“捨てる”のではありません。

 “働きの燃料にする”――そうすれば、情報の流れも自然と開きます。」


私は言葉を失った。

ミカエル殿の言うことは、あまりに自然だった。


「あなたは既に、その資格がありますよ。」

ミカエル殿は微笑んだ。


「エリザベート様の隣に立ちたい――

 その願いはプライドそのものです。

 そのプライドがあれば、心酔は『屈服』ではなく『忠誠』になります。」


胸が熱くなった。


私がずっと恐れていたのは、

“プライドを失うこと”ではなく――


“プライドの使い方を知らないこと”だったのかもしれない。


ミカエル殿はふわりと翼を震わせ、背を向けた。


「焦らずとも、いずれ分かる時が来ます。

 メイズ様の構造は、あなたを導くでしょう。

 忘れないで下さい、私はあなたが言うレッサーヴァンパイアと同格の、ただの天使なんですよ?」


その言葉と共に、ミカエル殿は静かに去っていった。


残された私は、ゆっくりと胸に手を当てた。


プライドを捨てるのではなく、プライドを使う。

それが、私たちヴァンパイアの“心酔”の形。


既にレッサーヴァンパイアと同格のただの天使であるミカエル殿を認める事が出来た私たちなら、難しい事ではない――

その答えが、胸の奥にしみ込んでいく様だった。



種族の意識という部分を考えた時

エリザベートはレッサーヴァンパイアの記憶

ドラキュラ達はミディアムヴァンパイアの記憶

を持っている。


となると生成時の記憶はドラキュラ達の方が高位になる。

そうすると厄介な階層意識の摩擦”が生まれますよね

自分は偉いという選民意識は面倒くさいです。


メイズのダンジョンでは何しろ生成したモンスターが死なない

戦闘おきないのだから当たり前です。

なので生成された順番に強くなるという一般のダンジョンでは起きない現象が普通になります。


ヴァンパイアたちが抱くプライドは、決して悪ではありません。

ただ、そのプライドが“パスの繋がり”――情報共有の妨げになってしまう。


今回ミカエルが語った

「プライドを捨てるのではなく、プライドを使う」

という言葉は、選民意識を逆手に取った説得方法です。

プライドが邪魔だが捨てきれないというドラキュラの心情だからこそ通じた方法でしょう。


ドラキュラが最後に見せた変化は、

「心酔=屈服」ではなく

「心酔=最適化」だったのでしょう


こうして一人ひとりが“最適化”されていくことで、

ダンジョン全体がゆっくりと国家の形へ向かっていきます。


ここまで読んでくださってありがとうございます。

今日もダンジョンは、静かに動いています。

もしメイズの考え方に少しでも共感してもらえたなら――

ぜひ、あなたの“魔素”を分けてください。


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