商人応対報告③ ~労働再設計と文化基盤の提示~
俺たちはダンジョンの外に出て畑にいる。
遠くの方で畑を耕しているリンの村の連中がいる。
申し訳ないがエリザベートはお留守番だ。
「何ですか、この広大な畑は!?」
ウェインが騒ぎ出した。
「見ての通り大規模農場だ。同じ面積を耕作するにしても、各個人でやるより同じ作業をまとめてやった方が効率良いだろ?
25人ぐらいでやってるので、1人当たり4km²程度だぞ?
そこにノーム、ウンディーネ、ゴーレムが補助してるだけだ。
労働時間は、基本的には朝五時起床、飯を食って六時開始。
三時間毎に軽食付き三十分休憩で十六時終了だ。
生産量はリンの村の時の10倍が目標だ。」
「はぁ、もう言葉も出てきませんよ……
1人当たり4km²程度って普通は1人当たり多くても300㎡ぐらいですよ?
だからノーム、ウンディーネ、ゴーレムの補助なんですね……
なんで三時間毎に食事つきの休憩あるんですか……
何も言わなくても良いです。農民の為ですよね……
至れり尽くせりなメイズ様の方針は理解してきましたから……」
マークが呆れた様に言う。
「生きるという事は働く事という定義から脱却したいからな。
目途が出来れば今の労働時間九時間体制を減らしていくつもりだ。
最終的には六時間労働ぐらいにしたいな。」
「六時間!? それで良いんですか!?」
「好きな事に時間使って欲しい。
学校で基礎知識学べば知識欲に目覚める奴居るはずだ。
本を沢山仕入れたから知識欲満たせる様にしたし
若い奴等は体鍛えて魔物狩ったり、
体動かせない奴等は将棋、リバーシ、麻雀やるのも良いな。
絵を書くのも良い、将来的には楽器仕入れて音楽家も育てたい。」
「何でそんな事させるんですか?」
「文化形成だ。
エリザベート王国自体の文化を作る。
文化ってのは一朝一夕には出来ない。その国その地域に根差した何かだ。
当たり前の様にあるけれど、他の場所から来た奴が『凄い』と思える何かが多い所ほど『文化的に進んでいる』と言われる。
何年後になるか分からないが、外交的に『文化が進んでいる国』ってなっていれば舐められにくいだろ?
だが何をしたから文化が生まれるって訳でもない。
民衆の自然の流れの中で民衆の心の支えであったり、流行であったり、当たり前のものが文化だ。
俺が出来る事はその種を植え、発芽を促してやる事ぐらいだ。
だから仕事だけに人生の時間を使うのではなく、自分の好きな事に使える時間を増やしてやりたいんだよ。」
「あくまでエリザベート王国の為と仰りたいのですね……」
ジャックが含んだ様な言い方をする。
「国民の忠誠度上がるとも考えているぞ?」
「かしこまりました。メイズ様のお言葉、胸にしっかりと刻み付けさせて頂きます。」
「おぉ? 刻み付けてくれ。」
何やらジャックの心に響く事を言ってしまった様だ。
「何だかエリザベート王国の国民が羨ましくなってきたんですけど……」
ジムがぼやいている。
「私は一日でも早くジャック様と同じ眷属になるのが夢ですので。」
デイビットが爆弾発言している。
「親父は確かに前もそんな事言っていたな……」
ウェインは知っていた様だ。
「マーク、楽器の手配できますよね?」
ジャックがマークに聞く。
「大丈夫ですよ。最初は数揃えた方が良いでしょう。心当たり当たっておきます。」
「よろしくお願いします。」
楽器は今すぐじゃなくて良いんだが……言い出せる雰囲気では無かった。
「では食堂に行くぞ。」
「食堂ですか?」
「元々ジムの商材の話だろう?
ここに来たのは原料である『大豆』の生産状態を見て欲しかったからだ。
なので食堂で実際の物を味見してもらおうと思っている。」
「なるほど、早くいきましょう!」
「現金な奴だ。」
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俺はまず味噌と醤油を生成する。
味噌や醤油の発酵食品は、他の調味料に比べて生成コストが高い。
発酵状態は有機物が多いという認識は間違ってないと思う。
なのできちんと生産して流通させる事にした。
「これが味噌で、こっちが醤油だ。」
味噌を見て全員揃って嫌そうな顔をしている。
エリザベート、お前もか!
お前はこの間味噌汁飲んでただろ!
「エリザベート、この間リンの村の連中と一緒に味噌汁飲んでたよな?」
「味噌汁? あれは美味しかったですよ?
ああ、味噌を入れた汁って……」
「気づいてなかったのか……」
唯一表情に出さなかったジャックに言う。
「このきゅうりに少量つけて食べてみろ。」
「はい、かしこまりました。」
多少嫌そうな感じはしているものの、本当に少しつけ食べてみる。
「今までに味わった事のない風味です。
そこまで美味しいかと言われると、正直答えづらいです。」
基本この世界の旨味はイノシン酸がメインで、
グルタミン酸の旨味の食品は少ない。
なので慣れるまでこの程度の感想は仕方ないんだよな。
味噌汁とつくね串を出す。
「全員で食べてみてくれ。」
「これは以前飲みました。」
とエリザベートが思い出した様に言う。
「これは何とも優しい味ですね。」
「美味しいです。」
味噌汁は豚汁にしてある。豚のイノシン酸が欲しかった。
つくね串はつくね串自体がイノシン酸だし、味噌には砂糖入ってるからな。
「次はこれだ。」
焼きおにぎりとすまし汁を出した。
「味噌も使い道は豊富だが、醤油は更に万能調味料だ。
とりあえず一番シンプルな物にした。」
「確かに素朴な味わいですね。」
「これは米ですね……米がこんなに美味しいとは。」
「これは見た事ある米と違う気がします。」
さすがは商人の集まりだ。細かい所をついてくる。
「それは米の種類の差だな。
その米も栽培しようと思ってる。」
「味噌、醤油、米だな。
シグの町のどこかで食堂か弁当屋?
総菜屋でも併設してやれば十分採算とれるだろ。
前世では小麦と米の生産量はほぼ同じだったからな。
味噌や醤油が合うのは断然米だ。米食が増えれば増えるほど儲かるぞ?」
「やります! やらせて下さい。」
ジムが張り切って言う。
俺は絹の反物を生成する。
「後はこれだ。
シルクスパイダーの反物だ。」
「えぇ! めちゃくちゃ高級品じゃないですか!」
「そうだろうな。でもシルクスパイダーは俺の眷属に数匹いるからな。」
進化した蜘蛛さんは一定確率でシルクスパイダーに進化している。
今は普通に護衛に使っているが、適材適所を考えればシルクの生産させた方が良いだろう。
「まぁ月に一本程度の生産量しか無いが、増やせと言われれば増やせるぞ。」
「……。月に一本で、この間の調味料ぐらいの売上なりますよ……。
月に一本でも多すぎです……」
マークがぼやく。
「そうか……じゃあジムには荷が重そうだな……担当マークよろしく。」
「『えっ!?』」
ジムは悲しそうな顔を、マークは驚いた顔でこちらを見ている。
「ジムよりマークの方が貴族関係強そうだしな。」
「そんなぁー……」
「ジム、五年以内に米、味噌、醤油の販売だけで、
今のシグの町……いや辺境伯領の小麦の取り扱い量全量超える予定だぞ?
反物まで手を出して大丈夫か?」
「へ?……無理です。」
「そうだろうな。
なので被服関係はマークに頼む。
誰か担当の商人連れて来てくれても良いぞ。
今度からデイビット商会まで連れてくるだけだから楽だろ。」
「担当の商人つけた方が良さそうですね。
ジャック様、デイビットさんと相談して見繕っておきます。」
「じゃあよろしく頼む。」
「「「「はい」」」」
【モード】領地運営/農業・教育・物流拡張
【眷属】エリザベート/ジャック/ダンカン以下5名/天使4/ヴァンパイア4
【モンスター】ノーム23/ウルフ16/ゴーレム13/ケルピー4/ミミック2
【協力班】看守2/リン出身78(農業24/家事21/児童33)
【生産】大規模農場稼働
【物流】ミミック連結による即時輸送網構築
【文化構想】娯楽・教育・音楽導入準備
【備考】商人応対進行中。食堂試作実演。
メイズにとって「働くこと」と「生きること」が同等となる事は、一番忌避する事なのかもしれません。
きっと前世でよほどのブラック企業に居たのでしょう。
メイズにとって農業はただの生産手段ではなく、
“余白を生み出すための仕組み”でしかありません。
その余白に、学びや娯楽は文化となって積み重なっていく。
その発想自体、この世界には無いものでしょう。
どちらかというと貴族の考えに近いかもしれません。
しかし、文化形成を庶民に与えるという概念は、この世界にはまだ早いでしょうね。
味噌や醤油の試食では、
この世界の食文化が大きく変わり始める予感もありました。
米は麦と同程度市場確保出来る前例があるのですから、やらなければ勿体ないですからね。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
今日もダンジョンは、静かに動いています。
もしメイズの考え方に少しでも共感してもらえたなら――
ぜひ、あなたの“魔素”を分けてください。
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