眷属生成試験Ⅰ ~吸血姫型個体の創造と情動反応~
「……できれば農村とかの方が良かったんだけどなー」
鎖の音。ツルハシの打撃音。
働くのは男ばかりで、目の光が死んでいる。
「……鉱山奴隷か。いやー、テンション下がるな」
まぁ、全部がうまくいくわけじゃない。
「せっかくだし、この辺に拠点を移すか。
鉱山の中にダンジョンを作った方が、いろいろ便利そうだし」
――というわけで、また引っ越しである。
集落を見回っていた蠅たちにも指示を出す。
全員、鉱山へ。奥までくまなく探索だ。
入り口から掘削中の坑道とは逆側――
すでに掘り尽くされ、誰も近づかない廃坑を発見。
「よし、ここだ。誰も来ない、最高の立地」
夜を待って、ゾンビウルフの視界を通して見下ろす。
灰色にくすんだ鉱山、煤まみれの小さな集落。
ゾンビウルフの体を岩肌に沈め、コアを震わせた。
次の瞬間、洞窟の奥が光に包まれる。
岩壁がきしみ、扉が現れ――
その扉の向こうに、例の真っ白な部屋が現れた。
「……ふぅ、移転成功っと。よし、ここが本当のスタート地点だ」
ここから、“俺のダンジョン生活”が本格的に始まる。
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「さて――この巣の象徴を生み出そう」
その前に、ゾンビウルフの体を返納しよう。
俺ひとりならまだしも、
ボスモンスターが人型なので悪臭に付き合わせるのは気の毒だ。
「ゾンビウルフ君、ありがとう。君の走りは忘れない」
静かに感謝を告げ、コアを震わせる。
魔素の流れが止まり、体が崩れ落ちる。
その破片は灰となり、床に吸い込まれた。
――さて、本番だ。
コアが明滅し、床に黒い魔法陣が広がる。
空気が一気に冷え込み、闇の粒子が渦を巻く。
「――いでよ、吸血姫ヴァンパイア!」
轟音とともに黒霧が弾け、
そこに――ひとりの少女が立っていた。
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生成したのはレッサーヴァンパイア
俺のダンジョンに強力な能力はいらない
最低限の能力がありそれをきちんと実行出来る能力があれば良い
なのでヴァンパイアとしては下位となるレッサーヴァンパイアを生成した
身長はおよそ一四〇センチ。
体重は三〇キロ台ほど。
細い手足、骨の浮くほどの華奢な体躯。
黒糸のような髪が肩口でゆらりと揺れ、
雪より白い肌が淡い光を返す。
まるで血の通わぬ陶磁器のようだった。
だが、目と唇だけが異様に鮮やか。
血を垂らしたような紅。
白い頬に映えて、ぞっとするほど艶やかだ。
黒と白と紅――三色だけで構成された、人工めいた完璧さ。
――美しい。だが、冷たい。
心を持たない精密な人形のようだった。
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『……生成完了』
少女がゆっくりと瞳を開く。
紅玉のような双眸が、静かにコアである俺を見つめた。
ただの珠である俺がマスターであると本能で理解出来たようだ。
その瞳の奥に感情はない。
ただ、計算された知性だけが存在している。
じっと俺を見つめたまま、動かない。
瞬きすらしない。
(……こうして見ると、某オリエント工業製の人形みたいだな)
命令待ちAI感がすごい。
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『さて――名を与えよう』
コアの光が柔らかく脈打ち、
魔素が少女の体を包む。
念話で伝える『君の名は――エリザベート』
瞬間、空気が一変した。
魔素がざわめき、少女の身体が淡く光を帯びる。
紅い瞳が見開かれ、ほんの一瞬――息を呑んだ。
「……なに、これは……?」
困惑、戸惑い。
初めて“感情”という不明な変数を得た存在の反応。
どうやら、名付けには魂を震わせる力があるらしい。
無機質な人形だった存在が、
今――確かに“生き物”になった。
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『……エリザベート。それが、君の名前だ』
「……名前」
小さく反芻するように呟き、少女は俺を見つめた。
紅い瞳に、かすかな光が宿る。
その頬が、ほんのりと紅潮していた。
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どうやら“再起動”には時間がかかるようだ。
無感情の存在が、突然“心”という未知の機能を得たのだから。
混乱するのも当然だろう。
『しばらく休んでいい。落ち着いたら話をしよう』
俺はそう告げて、コアの光を少し弱めた。
新たに生まれた吸血姫――エリザベート。
その胸の奥で、確かに何かが動き始めていた。
【現在のステータス】
項目内容
種別ダンジョンコア
ダンジョン名鉱山拠点「第一巣」
所在地鉱山奥・廃坑区域(地脈安定)
ボスモンスター吸血姫エリザベート(生成・名付け済)
眷属蠅 ×4(偵察終了・休眠中)
状態移転完了・主核安定中
生まれる瞬間を見た。
それは、コードに感情が混ざる瞬間だった。
命令通りに動くはずの存在が、
“名を持つ”というバグを起こす。
理屈では説明できない。
けれど、たぶんそれが――生命なんだろう。
これで、俺のダンジョンはようやく“心臓”を得た。
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読んでくれる一人ひとりが、このダンジョンの“魔素”です。




