往路報告 ~納得という名の旅路~
私、ジャックは馬車に乗っています。
昼過ぎにシグの町を出立しました。
今回のメンバーは、私、マックス君、ブレンダさん、デイビット、ウェイン、マーク、テリー、ジム、赤い羽根の五人、そして神官のリック様とジミー様です。
ジミー様はリック様のたっての希望で同行となりました。
三台の馬車での移動です。
今回は赤い羽根の五人のうち三人が御者の隣に乗ることで、何とか収まりました。
……いきなり人数を増やすのはやめて頂きたいものです。
馬車の割り振りですが、神官二人にはマックス君とブレンダさんの相手をお願いしました。
何やら私のことは確実に疑われているようですので……。
私はマーク、テリー、ジムの三人のお相手をします。
残りの馬車はデイビットとウェイン、それに赤い羽根です。
親子で親睦を深めて頂きましょう。
一番嫌がっていたのもこの二人だったことは、良い過去の思い出です。
馬車に乗り、ヴェストガルド村までは普通に向かいます。
夕暮れ時まで時間を稼ぎ、メイズ様と合流する予定です。
「今日はよろしくお願いします。」
ジムが聞いてきます。
「ヴェスト方面に馬車で一日で着く所って言ったら、ヴェストベルクくらいしか思いつかないんだが……?」
「ヴェストガルドの村で馬車を乗り換えます。行き先はヴェストリンの村より先ですね。」
「ヴェストリンより先まで、一日じゃ無理だろ!?」
「とても優れた馬車なので大丈夫なのですよ。村間にかかる時間は三十分ぐらいです。」
「そんな馬車あるわけないだろ!」
「ジム……あなたの落ち着きのなさは全く変わりませんね。少しは落ち着きなさい。」
「……?」
「はぁ、まったく。マーク、テリー、あなた達もそう思いませんか?」
「……?」
「人を若返らせることができるお方ですよ? それぐらいのこと、できるに決まってるでしょうに。」
「……?」
「まだ分からないのですね。改めて自己紹介しましょうか。元ジャック商会会頭、ジャックです。」
「……!?」
「マーク、テリー、ジム。久しぶりですね。」
「……!!」
「また起動停止ですか……。」
マークが再起動しました。
一番最初に再起動するのは、いつもマークですね。
「ジャックさん……なのか?」
「だからそう言ってます。」
「私は我が主エリザベート様に新たな命を賜りました。
最盛期の肉体、脈々と受け継がれたヴァンパイアの記憶と知識。
文字通り、私は生まれ変わったのです。」
「とはいえ、エリザベート様はあまり人を支配するということを好まれるお方ではありません。
私を眷属にされたのも、私の命があと僅かだと分かっていたからです。」
「なので、ヴァンパイアだからといって商売ができないなどとは思わないで頂きたい。
全てにおいて、エリザベート様は素晴らしいお方なのですから。」
「いやいや……ということは、ジャックさんは今ヴァンパイアの眷属ってことか?」
ジムの再起動も終了したようですね。
「はい、そうです。エリザベート様の眷属でいられることを、今は誇りに思っています。」
「普通に人間にしか見えないんですね。」
最後の再起動者、テリーが聞いてきます。
「食欲がないこと、睡眠欲もそれほどないですね。
眷属は破壊衝動や吸血欲求があると聞きますが、エリザベート様に鎮静の催眠をかけられているので、とても心穏やかに過ごせています。」
「俺らの血が目当てとかじゃないんだな?」
「誰が好んでジムの首筋噛まなきゃならないんですか。頼まれても嫌ですよ。」
「なぜこの場で正体を明かしたんですか?」
「ガルドの村に行ったら、多分ですが神官二人と戦闘になると思われます。
危ないので、終わるまで馬車で大人しくしていてください。
メイズ様の指揮だと、戦闘らしい戦闘になるとは思えませんが……。」
「メイズ様? エリザベート様ではなく?」
「メイズ様はエリザベート様を生み出された存在です。ダンジョンマスターですね。」
「ダンジョンマスター!?
じゃあ、ダンジョンマスターが生み出したモンスターがヴァンパイアってことですか?」
「素晴らしいですね。話が早くて助かります。
そういうことです。生活型ダンジョンと、メイズ様は仰っていました。
美味しい食事、清潔な風呂場、快適な寝床、熟睡の催眠。
既に百名程度がダンジョンで生活しています。」
「生活型ダンジョン!?」
「ダンジョンは宝を用意して冒険者を呼び込み、冒険者の生命力を奪う。
ここまでは良いですか?」
皆が頷く。
「生命力とは命単体のことだけを指すわけではなく、活動エネルギーそのものを指します。
なので、長く滞在させるためにダンジョンは長く深くなるわけです。
長期間滞在させるために。」
「命を奪えば手っ取り早いですが、奪い続けるよりも、成長して再チャレンジしてもらった方が効率が良いらしいです。
なので、低階層は弱い魔物を出し、徐々に強い魔物にするわけです。」
「居続けてもらうために宝を用意して出直させるなら、そこで生活させるのが手っ取り早いだろ?
――というのが、メイズ様の持論です。」
「理屈は分かった! 分かった……けどよぅ……。」
「でしょうね。なので、見て、会って、納得してもらうのが一番早いのです。
デイビットの様子、変でしたか? 操られているように見えましたか?
マックス君とブレンダさんは楽しそうではありませんでしたか?
実際、経験してもらえば分かるのですよ。これは本物だと……。」
「確かに操られているようには見えなかったし、とても楽しそうでした。」
「メイズ様はこうも仰いました。
“俺の欲は魔素を得ることだけだ。
食欲も睡眠欲も性欲も名誉欲も何もない。
魔素を得る方法のうち一番効率が良いのが、
ダンジョン内にいる人間に快適を提供することなのなら――
俺は世界中の誰よりも為政者に向いているだろうな”と。」
「そりゃ確かに明君の素質ありだな……。」
「現在はダンジョン内にエリザベート王国を建国し、
ダンジョン内の住人はエリザベート王国国民という形になっています。」
「メイズ様、王様じゃないのですか?」
「先程言ったように、メイズ様は名誉欲のない方なので、
国の象徴たる王は慈悲深く美しいエリザベート様の方が適任だと仰っていました。
ご自分は宰相をやると。」
「意味不明だったのですが、どうも先人のクラマとかいう偉人の言葉で、
“組織の鍵はナンバー2が握る”という言葉に感銘を受けたとも仰っていました。」
「実際言われてみると、適材適所な形でしっくり来るので不思議なものです。」
「なんだか話だけ聞くと本当に素晴らしい人格者に聞こえるのですが……。」
「口は悪いですが、やっていることは聖人君子ですね。
口の悪さも照れ隠しではないかと、私は思っています。」
「聖人君子のダンジョンマスターですか……。
驚くことは多いですが、来て正解だったかもしれませんね。」
「おお、とても楽しみになってきたぞ。」
「何が何だか分かりませんが、ワクワクしてる自分がいますね。」
「では、メイズ様の初の戦闘を高みの見物と行きましょうか。」
「ジャックさん、戦わないんですか?」
「適材適所です。」
馬車に乗ったら正体明かす
ジャックの定番ですね。
デイビッドの説得の時より
説得の材料が増えているので
楽な勝負です。
次回はいよいよ神官相手の戦闘?になると思います。
明確に敵になっている相手と対峙するの初めてですね。
描き始めるまで作者本人も分かってないので楽しみです。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
今日もダンジョンは、静かに動いています。
もしメイズの考え方に少しでも共感してもらえたなら――
ぜひ、あなたの“魔素”を分けてください。
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