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ダンジョンの社会的貢献を目的とした地位向上のすすめ ~奪わず与え従え支配するダンジョン育成記~  作者: 不可思議 那由多
第三章 外界統合と福祉支配の拡張 ~人道的管理による社会統合モデルの確立~

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主従再定義~教育・労働・管理の連鎖~

「あんただけで帰りなさいよ!!」

ダンジョン内に、いくつもの怒声が響き渡る。


帰る宣言をしたトビー以下四人の村人の家族たちが騒いでいた。


エリザベートがこちらを見てくる。

「いいんですか? あんなこと言って?」

その表情には、少し疑いと戸惑いが混ざっている。


(大分表情豊かになったな……)

どうでもいいことを考えながら、俺は答える。

「いいんだよ。そもそも“催眠”と“自己催眠”の境界なんて、誰にも定義できやしないさ。」


実はトビー以下四人には、「村に帰りたい」という催眠を別にかけてある。

つまり、あの五人はここに満足するかどうかに関わらず、“村に帰る”という選択肢しか取れないわけだ。

他の連中には特に催眠をかけていないので、何人かは村に戻ると思っていたが、誰もそうしなかった。

まあ、村で比較的待遇が良かった連中を帰すようにしたから、結果は当然といえば当然だろう。


人は弱いものだ。

自分より下がいると、それだけで安心し、

下に見られたくないと思うようになる。

だから、時々耳元で囁いてやるだけでいい。

「リンの村に帰った連中、大変みたいだぞ」

――そう言えば、エリザベート王国の忠誠心は自然と上がる。


リンの村には最低限の援助をしてやればいい。

あいつらも感謝するだろうし、村が存続している限り、

「俺が侵攻したわけではなく、村人が勝手に移住しただけ」

という苦しい言い訳も通る。


とはいえ、どうしたもんだろうな……。

さすがに家族を置いて帰るとは思えない。

帰ってもらわないと困るんだが。


そのとき、一人の女性がこちらにやって来た。

「お話、できますでしょうか? 私はトビーの妻のエミリーと言います。」

あぁ、こっちに来たか。

「ああ、いいぞ。」


「うちの旦那たちが申し訳ございません。

私どもはここに置いていただきたいのですが、だめでしょうか?」

「それは、旦那だけ村に帰すということか?」

「はい、そうです。」

「旦那たちは何と言ってる?」

「“勝手にしろ! 俺は帰るんだ!”の一点張りです。」

(催眠、効いてるな……)

「子供たちは?」

「ご飯もおいしいし、お風呂も楽しい。勉強も面白いって。村よりここの方がいいって言ってます。」

「そうはいっても、父親がいなくなるのはまずいだろ。」

「気にしてないみたいですね……。寂しがるかもしれませんが、それよりも“ここに居たい”気持ちの方が強いようで。」


「旦那共五人とも、料理も洗濯もしたことないよな?

いきなり旦那五人だけで村で生活できると思うか?」

「無理だと思います……。家のこと、何一つできませんから……。」

「まあ仕方ない。良い薬だ。じゃあ、あの五人だけ村に帰す。」


もう日が暮れていた。

明日まで待っても良かったが、家族部屋に戻っても一晩中揉めるのが目に見えていた。

俺は馬車を用意し、彼らを村へと送り出す。


「家族ごとに催眠をかけるべきだったかな?」

エリザベートが、少し柔らかい声で言う。

「……あまり褒められた人物ではなかったようですし、

見捨てられないと思えば、ついて行ったのではないでしょうか。

これまでの行動が招いた結果だと思いますので、気にしなくて大丈夫です。」

慰められたのか、評価されたのか、よくわからない。


――まあいい。これで一区切りだ。


_____________________________________________


「さて、リンの村もひと段落ついたかな。

とはいえ、この後ハイム、ガルド、ベルクの村の接収が始まる予定だ。

眷属たちはいるにはいるが、管理部門の増強が必要になる。」


「そう思わないか、エリザベート?」

「そこでわざわざ私に聞くという行為が“何かある”というのは、最近理解いたしました。

確かに、催眠をするにしても私一人ではそろそろ限界です。」


「うむ。相互理解が進んでいるようで結構。

というわけで、エリザベート――さらに進化してもらおう。」


俺の言葉と共に、黒い霧が静かに広がりはじめた。

空気がざわめき、音が吸い込まれる。

やがて霧は光を飲み込み、世界が沈黙した。


霧の中で、エリザベートの輪郭だけがぼんやりと残る。

その体がゆっくりと伸び、手足がしなやかに形を変える。

光の本流が走り、黒と白がぶつかり合い、音もなく弾けた瞬間――


少女だった輪郭が、女へと変わった。


髪は漆黒に紅が混じり、月光のようにきらめく。

肌は透き通るほど白く、唇は深紅に染まる。

瞳の奥には、静かな支配者の光が宿っていた。


もう、“少女”ではない。

そこに立っていたのは、絶世の美女エリザベート――吸血姫としての完成形だった。


「いきなり進化させないでください!

人生でそう多くある機会ではないのに、もっと余韻が欲しいじゃないですか!」

「怒れるようになったのも進化の影響か?」

「……? 確かに、今までは何があっても一度咀嚼してから意見を言っていましたが、

今はすぐ言葉になってしまいましたね。何らかの変化があるのかもしれません。

……って、話をごまかしましたね?」

「おおっ、ごまかしも効かなくなったか! 進化すごいな!」

「進化を喜ぶポイント、確実にずれてます……」

「ツッコミのレベルも上がったな!」

「もういいです……」


「悪い悪い、本当に申し訳なかった。

ただ、嬉しいんだよ。最初に生成して名付けたときなんて、某オリエンタル工業の人形かと思ったぐらいだ。

それが今や、人間味あふれるツッコミができるまでになったんだから。」

「その“某オリエンタル工業の人形”がどんな物かはわかりませんが、仰っている意味は理解しました。」


エリザベートは居住まいを正し、声に緊張を帯びた。

「メイズ・ラビリンス様。このエリザベート・ラビリンス。

ヴァンパイアに進化させていただいたこと、感謝いたします。

今後改めて忠誠を誓い、常に傍にいることを誓います。」

「うむ、よろしく頼む。」


互いに少し照れながら、改めて主従の誓いを交わした。


「では、次の作業に移る。出でよ――ヴァンパイアたち!」

「そうです、そういう“様式美”大事なんです!」

「根に持ってるな……」


黒い霧が再び辺りを包み、四つの光の珠が浮かび上がる。

光はやがて人の形を取り、ゆっくりと輪郭が確かになっていった。


まだ幼さを残す体格――だが、その目だけが“完成された捕食者”のものだった。

身長はおよそ一五〇センチ。均一な骨格、滑らかな肌。どこか人工的な均整。

それは「人間に似せた兵器」に近い印象を与える。


最初に姿を現したのは赤髪の少女。

髪は燃えるように紅く、瞳は光を吸い込む血の色。

気配は荒々しく、戦場の煙をそのまままとっているかのようだ。

「お前は――カーミラだ。」


次に現れたのは白髪の少女。

雪のような髪が肩に流れ、動きには一切の無駄がない。

視線は冷ややかで、まるで血流そのものを観察しているよう。

「お前は――リリス。」


三人目は黒髪の少年。

髪は闇に溶け、瞳は赤い線のように輝く。

静かだが、空気の奥で力を凝縮している気配がある。

「お前は――ドラキュラ。」


最後に銀髪の少年。

髪は淡く光り、わずかに微笑を浮かべていた。

他の三人とは異なり、かすかに温度を感じさせる優しさを残している。

「お前は――ルースヴェン。」


光の本流が静まり、四人は同時に膝を折り、頭を垂れた。

その小さな体からは、年齢に似つかわしくない気配が漂う。


「改めて自己紹介しておこう。

俺がメイズ・ラビリンス。隣がエリザベート王国の女王、エリザベート・ラビリンスだ。」

「エリザベート・ラビリンスです。皆さん、よろしくお願いします。」


「エリザベート、この四人ともパスを繋げられるか?」

「はい。私はボスモンスターに認定されていますので、

メイズ様が生成したモンスターはすべて私の支配下にあります。

全員の経験を疑似体験可能で、すでに必要事項の疑似体験は完了済みです。」

「仕事早くて助かる。では説明は不要だな。

お前たちにはまずリンの村の連中の世話をしてもらう。

その後、ハイム・ガルド・ベルクの各村を担当してもらうつもりだ。」

「「「「かしこまりました」」」」


「部屋は四人部屋? 男女別? 個室? どっちがいい?」

「最初の質問がそれですか……。メイズ様らしいですけどね。

私の経験上、同系統のモンスターにも相性はありますが、

自我が生まれたばかりの今は特に問題ありません。まずは四人部屋で大丈夫です。」

「男女一緒でいいのか?」

「人間じゃなくてモンスターです。

名付けされたので可能性がないとは言い切れませんが、問題ありません。」

「じゃあ、四人部屋を生成しておく。」

(……なんかエリザベートに逆らえない日々になりそうだな。)


【モード】領地運営モード(教育・農業段階へ移行)

【眷属】エリザベート、ヴァンパイア4名、ダンカン以下5名、ノーム23、ウルフ16、ゴーレム13、ケルピー4、ミミック2、ウンディーネ3

【協力班】看守班(ミック/ジョージ)、リン出身民24名、児童33名、家事班26名

【生産】大豆栽培開始、用水路整備40本整備中

【教育】基礎魔法・思想授業導入

【新規】帰還希望者5名送還


メイズにとって村へ帰る者というのは生贄です。

但し見方を変えれば信念を持った者になる筈です。

未来に夢見るのか過去に縋るのか

どちらも自由に見えて、実はどちらも選ばされているという事実があるだけです。


そしてエリザベートの進化。

彼女が感情を言葉に出すようになったことで、

メイズは「自我を持った存在を従える」という次の段階に足を踏み入れました。

ヴァンパイアたちの誕生も、その延長線上にあります。


教育、労働、管理――

これらが一つの循環を持ち、社会を形作る。



ここまで読んでくださってありがとうございます。

今日もダンジョンは、静かに動いています。

もしメイズの考え方に少しでも共感してもらえたなら――

ぜひ、あなたの“魔素”を分けてください。


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あなたの一票が、この国を育てます。

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