教育管理論 ~知を与え、不満を制す~
「カーカー」
俺はカラスさんを生成した。
以前、カラスを育てる動画を見たことがあり、飼ってみたいと思ったのを思い出した。
本当は八咫烏にしたかったんだ。
だが、大きすぎて止めておいた。体長一メートル以上のカラスなんて、鷹より大きくてほぼ鷲じゃないか。
流石に目立ちそうだからな……。
「可愛いですね」
エリザベートがカラスさんを撫でている。
カラスさんも嬉しそうだ。
シグの町まで手紙を届けてもらうためだ。
カラスさんの足に手紙を巻き付ける。
「シグの町のジャックのところまで届けてくれ」
カラスさんはあっという間に飛んでいった。
「行っちゃいましたね」
エリザベートは少し寂しそうだ。
「今度、ペットの一匹でも生成してみるか」
「ペット……ですか? どんな動物を?」
「まあ、そのうち思いついたらな」
ジャックからの報告は蜘蛛さんを通してこちらに伝わるので問題はないが、
俺からジャックへの連絡方法がないのが不便だ。
「本を仕入れてくるように頼んだ」
「本ですか?」
「そろそろいろいろな情報を仕入れないとな。
本を読めば流行、文化、思想、社会、哲学、経済、歴史とさまざまな情報が分かる」
「……本だけで、そんなに分かるものなんですか?」
「文章ってのはな、意外とその時代の考え方が染み出してるもんだ。
奴隷を購入する予定だった分の売上がそのまま残っているはずだ。
それをすべて本の仕入れに回す。
一つ銀貨一枚(約十万円)だとしても、百冊は買える計算になる」
「百冊も……ずいぶんたくさんですね」
「リンの連中の識字率からしても、文化的にそこまで発達してはいないようだが、
基準が分からないと育てようがないからな」
「私の記憶も偏っていますからね。
人間の文化レベルなんて気にした事も無かったです。」
魔法の細かい内容も知りたい。
リンの連中も魔力はあるようだが、使い方を知らない。
ちょっとした火や水は出せるが、それだけだ。
折角だからそちらも強化できれば良いと思っている。
「魔法の授業、ですか?」
「ある程度分かれば、各属性の精霊を教師にして教えることもできるんじゃないか?
今のままでは、教えるのが下手な大学教授が小学生に講義するようなもんだ。
次元が違いすぎる。
せめて精霊の感覚と人間の感覚の違いが分かってからだな」
「精霊の感覚……難しそうですね」
「さらに、リンの連中を教育するにも、毎日毎時間授業を行うのも馬鹿らしい。
本を読んで、周りと共有し、議論して、自分たちなりの正解を導き出し、勝手に育ってくれればしめたものだ」
「自主的に学ぶ、ということですか?」
「そうだ。
読ませて、写本させて、読者感想文を書かせて、発表させて、質問を受けて、それに答える。
これをやらせるだけでも、大分能力が上がるだろう。
催眠で集中力を爆上げさせるしな」
「……催眠込みの勉強会、ですね」
「各自が発表して、自分の興味ある分野に徐々に傾倒していけば良い。
結果、自分がやりたいことを探すのにも役に立つだろう。
それでも見つからない奴は、他の方法を考えれば良いだけだし、
絶対に見つけなければならないものでもないからな」
「メイズ様にしては優しい方法ですね。」
「やる気を出させて叱咤激励しているが、結局はただの時間潰しなんだよ」
「時間潰し、ですか?」
「人間は現状に満足していても、
同じ状態が慢性化すれば不満を感じ出すようにできている。
進歩がなければ停滞し怠惰になり、滅びる可能性が高まるから、
わざわざ不満を自分の中で作り出し、現状を打破しようとする」
「……人間って、難しいですね」
「だから、不満を感じる暇がないように叱咤激励し、
やりたいことに没頭できる環境を作ってやるだけなんだよ」
「そうなんですか? てっきりエリザベート王国の国力増強の一環だと思ってました」
「もちろんそれもある。
けれど、わざわざ無理に働かせなくても、精霊さんとゴーレムコンビで大体なんとかなるよな?」
「確かにそうですね。ノームさん、ゴーレムに任せれば何とかなりそうですね。」
「全員強催眠にして人格を奪って、ただダンジョンに居させるだけってこともできる。
だがそれをやると、最終的に人族全体を敵に回すことになる。
それでは普通のダンジョンマスターと変わらなくなって、討伐の対象になってしまう」
「確かに、レッサーヴァンパイアの頃の記憶を遡ると、
屋敷の中に強催眠をかけて人形のようになった人間を飼っていたご主人様がいました!」
「それ、討伐対象になって冒険者が来ただろ?」
「はい、その通りです!」
「だから俺は、人間との共存体制の構築をしているんだよ。
あくまで共存だ。支配はしない。管理はするがな。
支配するのはエリザベートの仕事だ」
「わ、わたしですか?!」
「君臨すれども統治せず、だ。
エリザベートの場合は、そこにいるだけで良いんだ。
お前の慈悲深さは勝手に伝わる。
計算された動きじゃないのは、気づくものだ。
そうすれば周りが勝手に祭り上げてくれる。
な? 支配者っぽいだろ?」
「私は元々弱者で、使い捨ての存在でしたから、どうしても弱者側に立ってしまうんです。」
「弱者の気持ちが分かる強者っていう者が、世の中には少ないんだよ。
そんな人物が王として見守ってくれている。
それだけで人心は安定する。
さらに細かいササクレは催眠で洗い流す。
悩まず前向きな集団の出来上がりだ」
「細かい催眠の使い所はメイズ様が一番長けていると思います。」
「そうだ。催眠を万能だと思い強催眠をメインに使い続けていれば痛い目にあう日が来るだろう。
あくまで催眠は補助的に使い、本人たちの思考を誘導する程度にするべきだな。
常に本人たちが満足する状態を維持させてやるのが、俺たちの仕事だ」
「私もお役に立ててるので満足しています。」
「ちなみに俺は不満だらけだ!」
【モード】教育循環モード
【眷属】エリザベート、ダンカン以下5名、ノーム20、ウルフ16、ゴーレム10、ケルピー4、ミミック2、カラス1(通信任務)
【協力班】教育班、農場班、看守班(ミック/ジョージ)
【生産】教育資料と紙素材の内部供給を開始。
【収支】収入9.8万魔素/支出4.5万魔素/純増+5.3万(安定)
【新規】外界通信ルート(カラス)開通。
教育とは、支配の最も穏やかな方法なのです。
与える情報を偏らせれば、それは人格にも影響を与えます。
「一人を殺せば犯罪者だが、百万人殺せば英雄になる」――
チャップリンの映画『殺人狂時代』の一節です。
戦争という名の教育が、人の道徳をどこまで歪めるかを示した言葉でしょう。
教育とは、本当に恐ろしいと思った瞬間でした。
だからこそ、メイズは情報統制はしません。
各自が何を感じ、何を思うのか――それは各自に任せます。
その上で、悩みや苦しみからは出来るだけ解放しようとしています。
教育を行い、情報を精査すればするほど、現状への疑問が生まれることを
メイズは知っています。
だからこそ、教育を通して
「自分がどこに立っているのか」「何を目指すのか」「どう行動すべきか」を
問いただしていこうとしているのです。
この姿勢こそが、
「支配しない支配者」という在り方を象徴しているのかもしれません。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
今日もダンジョンは、静かに動いています。
もしメイズの考え方に少しでも共感してもらえたなら――
ぜひ、あなたの“魔素”を分けてください。
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