領地運用試験報告 ~労働なき国家の始動~
リンの村の住人がダンジョンに入った日。
ミックと話した事で憂いが無くなった俺は、ダンジョンの引越をする事に決めた。
しかし動き出すのは、囚人が帰って来てからだ。
そうしないと領地まで囚人が来れなくなる。
四村全てが移動完了してからにするかどうか悩んだ。
何故なら鉱山から領地までの道が無いからだ。
しかし今度は、リンの村の村人達をダンジョンにずっと閉じ込めておかなければならない、という問題が発生した。
人生? ままならないものである。
今日ミックと話をして、鉱山〜領地間の街道を最優先で作る事が確定した為、引っ越す事に決めた。
ミックとの会話では既に確定した言い方だった?
ブラフだよ。
ミック、ジョージと囚人に恩を売る為だ。
ついて来て下さいという立場と、来たいなら仕方ないという立場では、発言力が変わるからな。
まぁ相手の発言を許さないのは変わらないんだが……。
そんなこんなで夕暮れ時に俺はケルピーに乗り、領地に向かう。
道無き道を走るのも三度目なので、もう慣れた。
ケルピーと感覚を一緒に出来る俺だから平気だが、他の人間ではとてもじゃないが無理ゲーだ。
ケルピーに乗れば、一時間もかからないで領地に到着した。
橋を渡ると、街道が一本真っ直ぐ走っている。
道の両側は鬱蒼とした森だ。
言った通り幅五メートルで十キロ進んでいるのだろう。
平坦な道をケルピーで駆け抜ける。
十キロなんてあっという間だった。
道に突き当たると、今度は見渡す限り開拓された土地が広がっている。
半径一キロぐらいは既に開拓済みじゃないのか? これ。
開拓された土地の真ん中に一本の木が立っている。
これが中心地という証なのだろう。
木を正面に、ダンジョンの入り口を生成する。
これで引越は完了だ。
このままだと魔素の通りが悪いので、一度ダンジョンに戻りゴーレムを生成する。
平地に階段を作り、突き当たりに改めてダンジョン入り口を移す。
先ずは囚人フロアに行き、
「引越が完了した。皆確認しておくように。」
と言うと、我先に囚人達が飛び出して行く。
外に出ると早速皆走り回っている。
採取組は何とウルフを乗りこなしていた。
「トーマス、なんだそれは?」
「はい? 通常形態ですけど?」
「いつもそうなのか?」
「はい、いつも交替で乗ってます」
俺は初めてだろう! 怒りを込めて怒鳴りつけた!
「馬鹿野郎! なんで六人に対して三頭で行動してるんだ!
六頭にすれば行動範囲広がるだろうが!」
「……!!」
「そういう事はきちんと報告上げとけ!!」
「はい! すいませんでした!」
「今日からお前らは“ウルフルズ”だ!」
「「「「「「ありがとうございます」」」」」」
「「「ガウッ」」」
橋まで十キロあるから、街道作りにも馬車が必要か。
明日までに馬車を生成しておく。
暗闇の鉱山での作業より、外でやる作業の方が嬉しいらしい。
俺はダンジョンに戻り、ケルピー二頭、大型馬車(座席無し)、開拓道具一式、ミミックさん一匹、ゴーレム五体を生成し、
ゴーレムの指示機能をミックとジョージに委託した。
ゴーレムは橋まで朝までに移動する様指示を出し、囚人達の対応を終わらせた。
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翌朝。
リンの村の村人の……違うな、リンフロアの住人?
リンの連中で良いか。
リンの連中が朝食を食べ終わる頃に、顔を出した。
「皆おはよう。よく眠れたか?」
皆、一日経過した事、熟睡の催眠でぐっすり眠った効果で、昨日より大分スッキリした顔をしている。
「今日は皆に見せたい物がある。全員ついて来てくれ。」
囚人達は既に馬車に乗って出発している。
リンの連中全員を連れて外に出る。
「希望者はここで農作業をしてもらう。
但し小麦は作らない。野菜が主になる。
キャベツ、大根、きゅうり、なす、にんじん、ピーマン――何でも良いぞ。
種、苗は用意する。あっ、道具も用意するし、労働の手助けにゴーレムも貸し出す。
出来た野菜は全て買い取る。
勿論経費分はもらうが、残りは全て個人の手取りになる。
考えてみてくれ。
衣食住が全て完備されていて、自分が作った結果が全て自分に返ってくるんだ。
わくわくしないか?
まだ人が少ないから使い道がないが、今後エリザベート王国の人員は加速度的に増えていく。
シグの町の規模を超えるのも直ぐだ。
東西南北でハイム、ガルド、ベルク、リンの各村で開墾してもらうつもりだ。
昨日言った“頑張ったら頑張った分返ってくる仕組み”だ。
キャベツ一個・銅貨一枚だとして、百個で銀貨一枚。
経費を引いて三割が当人の取り分だ。
三割だけ? と思うかもしれないが、リスクがなく生活保証されているので理解してくれ。
今後、自分の資産、金を守るために必要なのが、読み書き計算だと思ってくれ。
農業やりたいという人がいたら、担当農地を決めていくので言ってくれ。」
近くにいた男が質問したいらしく手を挙げた。
俺が頷くと、
「さっき、ハイムやガルドの村の名前が出てきたんですけど、他の村の人もここに来るんですか?」
「ああ、他の三村は大体一週間から十日後ぐらいに来ると思ってくれ。」
他の男が手を挙げる。
「希望したら農地もらえるって言ってましたけど、いつから貰えるんですか?」
「二、三日待ってくれ。
希望者は記録しておくから、ダンカンに言っておいてくれ。」
「あと、昨日言ったが――例えば
料理人になりたい。
服の仕立て屋になりたい。
商売してみたい。
冒険者になりたい。
神官になりたい。
何でも希望を言ってくれ。
出来る限り手を貸す事を誓おう。」
リンの連中の大半は目を輝かせていた。
目を輝かせることをできない奴らは脱落していくだろう。
それで良いのだ。
【モード】領地運営モード(開拓地稼働中)
【眷属】エリザベート、ダンカン以下5名、ノーム20、ウルフ16、ゴーレム10、ケルピー4、ミミック2
【協力班】看守(ミック/ジョージ)、リンフロア(村人)、囚人班(整備・採取班〈ウルフルズ〉)
【生産】ノーム班(開拓)、囚人整備班(街道造成10km)
【収支】収入9.6万魔素/支出4.2万魔素/純増+5.4万(安定)
【新規】識字教育開始、農地私有制試験、街道輸送整備中
メイズは仕事をしたくなる仕組みを作りました。
命令ではなく、構造で。
強制ではなく、理由で。
働かせるのではなく、働きたくさせる。
リンの村の人々が今日から始めたのは、
与えられた労働ではなく、
自分の意思で選ぶ仕事でした。
“労働”をなくし、“働く”を生かす国。
それが、エリザベート王国の最初の形です。
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読んでくれる一人ひとりが、このダンジョンの“魔素”です。




