商会再編報告 ~調味料取引と人材供給ルートの確立~
私はデイビッド。
ジャック様からお誘いを受け、いきなり決まった旅路でしたが――とても有意義なものでした。
まさか帰り道で、四つの村を支配することになろうとは。
出発時には夢にも思いませんでしたね。
我々はシグの町へ帰ってまいりました。
私と「赤い羽根」が同行していたため、町の入り口で詮索されることもありません。
リーダーのウォーレンと回復役のランディとは商会の前で任務完了の書類にサインを交わし、そこで別れました。
「またすぐに呼び出すことになると思います」
と付け加えるのは、もちろん忘れません。
商会に戻ると、私はすぐに息子のウェインを呼びつけました。
「これから商会は、調味料主体の商会となる」
ウェインはきょとんとした顔をしました。
「いきなり何を言い出すんだ?」
「こちらはジャック・ラビリンス様。
これから我が商会の主たる取引先の管理業務を一任されている方だ。
そして見習いのマックス君とブレンダちゃん。
今回の取引で、塩・胡椒・砂糖・乾燥唐辛子を各百キロ、ついでにリバーシを千組仕入れてきた」
「ジャック・ラビリンスと申します。よろしくお願いします」
「マックスです」
「ブレンダです」
「?!……ウェインです。よろしくお願いします。
って親父、もう少し説明してくれよ! 意味がわからん!」
「守秘義務がある。詳しくは言えん。
仕入れた商品は馬車に積んである。
仕入れ代は後払いで金貨百枚。相場で売れば金貨二百枚、利益百枚の計算だ」
「いや待て! どこから突っ込めばいいんだ?
そんな量、馬車に積みきれないだろ!
後払いでそんな取引が成立するか!?
利益率もおかしい、普通は二、三割だろ!」
「うるさい奴だな……だから言っただろう。
商会をジャック様との取引中心に変えると」
「いや聞いたけど! そんな話だとは思わないだろ!」
「反対か?」
「反対できるわけないだろ!
でもそんな量、どこに売るんだよ!」
「商会ギルドの調味料組は、全部傘下に取り込むつもりで動く。
ジャック様のお知恵を借りれば問題ない。
それにな、俺もそろそろ歳だ。
落ち着いたら商会はお前に譲るつもりでいる」
(ジャック様……どう見ても俺より若いんだが)
「その量の調味料の取引は今回限りではなく、永続的ということなのか?!
それなら拡大路線に舵を切るのもやぶさかではないが……
それに引退って!?
この間まで全然そんなこと言ってなかっただろ?
一体どうしちまったんだよ? 何か悪い物でも食べたのか?」
「俺も、第二の人生を歩みたくなったのさ」
ジャック様が前に出て、静かに言いました。
「ここからは私がお話ししましょう。
ウェインさん、初めまして――と申し上げるべきでしょうか。
正確には、ずいぶん前にお会いしています。
もっとも、当時の私は“別の姿”でしたが」
「……どういうことです?」
「私は元・ジャック商会会頭――ジャックです」
「!?」
「ご主人様により新たな生を受けました。
ご主人様エリザベート様は、メイズ・ラビリンス様によって生み出されたヴァンパイアです。
ですが一般に思われているような存在ではありません。
とても可憐で、進化のたびに可愛らしさと美しさが増し、最近では慈悲深さまで備え――」
「ジャック様、その辺で」
「あっ、申し訳ありません。最近の悪い癖でして。
というわけで、私は齢七十二歳のジャックです。思い出されましたか?」
「ジャックさんは覚えてるけど……若返りすぎて、面影が……」
私は話を引き取りました。
「ジャック様の古い伝手を活かしてもらう。
表に出なくてもやり方はいくらでもある。
誰がどの商材を扱い、誰が誰と手を組んでいるか。
私の情報と過去のジャック様の情報を合わせれば、筋道は見えてくる」
ジャック様が笑いました。
「デイビッドも、私と同じように第二の人生を謳歌したいと仰っていましたよ」
「ウェイン、大体の話は分かったか?」
「分からんけど理解しなきゃいけないんだろ?!
とりあえず品物見せてくれ、話はそれからだ」
私たちは馬車から倉庫に移されたミミックさんのもとへ向かいました。
ジャック様が紹介します。
「こちらがミミックさんです。収納量はとりあえず十トンということにしています」
「魔物じゃねえか! ……っと、失礼しました。ジャックさんも同じなんでしたね」
「正確に言えば半分魔物、半分人間なのでしょうが――正直分かりません。
メイズ様の眷属もエリザベート様の眷属も皆大人しいのです。
私自身も特に破壊衝動があるわけでもなく、血を欲するわけでもありません。
あぁ、魔素切れだけは注意していますが」
そう言って、懐から手のひらサイズの玉を取り出しました。
「これは魔素玉です。定期的にこの玉から魔素を吸収する他は、人間と全く変わりありません」
ジャック様はミミックさんに魔素玉を付け、しばらく魔素を与えます。
そして一言。
「とりあえず、胡椒を全部出してください」
ミミックさんは胡椒百キロをその場に吐き出しました。
落ち着いている私たちをよそに、愚息がまた騒ぎ始めます。
「本当に出た! っていうか何だこの胡椒!
混ぜ物なしの特級品じゃねーか!
こんなの相場どころか五割増しの値段付くぞ?!」
「まったく……本当に落ち着きがないですね。
お前、そんなに慌てる性格でしたか?
そこを敢えて、“相場で流しても利益十分”“取引の主導権を握って相手を牛耳れ”“好きに動けるようにしろ”という意図ですよね、ジャック様」
「はい、そうですね。
メイズ様は“まず与える”ことで相手を掌握するのを好まれる方です。
ですからデイビッド商会も、目先の利益に囚われず“気持ちいい商売”を心がけていただければと思います」
「今、“支配”とか恐ろしい言葉が聞こえた気がしたけど……まあ、言ってることは分かる。
それでやっていけるなら、それが一番いいことだ」
「やっていけるので大丈夫です」
「大丈夫だ」
私とジャック様の声が重なりました。
私は続けます。
「ちなみに、エリザベート様が治める“エリザベート王国”は、
満腹になるまでの食事、清潔な衣服、入り放題の風呂、寝心地のいい寝床――
文句のつけようのない場所でした」
「そんな国、この近くに無いだろ?
あれば噂になって、人が殺到してるだろ?
悪霊にでも騙されてるんじゃないのか?」
「誓って嘘でもなければ、騙されてもいない。
場所は――ダンジョンだ」
「はぁ!? あのダンジョン!?
洞窟みたいでモンスターが出る、あの……?」
「そう、そのダンジョンだ。
そこを治めているのがメイズ様。
ダンジョンを“支配し、運営している”。
その中に、エリザベート王国はある。
売りは“快適さ”だ。
月に一度、コップ二杯ほど血を捧げるだけで、一人分の生活が成り立つ。
つまり――月に一度の献血で、幸福が保証される場所なのだ」
マックスが笑いました。
「僕たちは眷属じゃないけど、お腹いっぱいご飯が食べられました。
だから今度は、僕たちが貧民街のみんなを連れていくんです」
「君たちは貧民街の出身か?」
「はい。警備団のジョンさんが僕のお父さんの友達で、紹介してくれました。
ブレンダは寝たきりだったけど、おかげで元気になったんです」
「お前も落ち着いたら行ってみればいい。
百聞は一見にしかずだ。行けば分かるさ。
メイズ様が何を求め、どこへ向かおうとしているのかがな」
「そうだな……行けば分かるか。
商会なら情報は自分できちんと精査しないとな。
とはいえ今は行ってる暇はないな。
俺のやることは――
親父が調味料を持って帰ってきた。
それを相場で捌くだけで十分美味しい商売ができる。
規模も拡大できる。
ジャックさんも協力してくれる。
マックス君とブレンダちゃんも手伝ってくれる。
それでいいんだな、親父」
「警備団のジョンさん、ポールさん。
冒険者の『赤い羽根』も協力者ですね。
それにミミックさんは運搬以外に護衛もできます。
万が一馬車が襲われたら、全員逃げてミミックさんに任せればいい。
先日はゴブリン二十匹を回収してくれたそうですよ」
「本当に至れり尽くせりでびっくりするな。
とりあえず、調味料を捌くのを頑張るか!」
「改めて、ジャックさん、マックス君、ブレンダちゃん。
よろしくお願いします!」
ウェインは――仲間に加わった。
相変わらず初めてエリザベート王国の話を聞いた人間の反応は面白いですね。
ウェインもエリザベート王国の魅力に染まっていってもらいましょう。
既存の調味料の商人たちは助かりますが調味料の生産者達にはメイズ達のやっている事は打撃になり、奴隷落ちする人が出るかもしれません。
それが世界の摂理であり必然なのはメイズが一番よく分かっています。
いつかその生産者を救える日が来る事を祈っています。
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読んでくれる一人ひとりが、このダンジョンの“魔素”です。




