福祉統治実施報告 ~医療・教育・支配構造における優しさの制度化~
父娘、子供、足の無い男を連れてダンジョンに帰って来た。
夜も遅く、皆精神的に疲れている様だったので、馬車に乗せてすぐ熟睡の催眠をかけ、昨日は宿舎で寝かせた。
翌朝、ダンジョンに来るようにミックとジョージにお迎えを頼んだ。
呼び出したのは謁見の間ではなく、食堂だ。
どうせ飯を食わせなければならないしな。
囚人達はすでに食べ終わり、作業に出ている。
鉱山の朝は早い。
そのままミックとジョージに風呂へ案内させ、ルール通りに入浴してもらう。
サウナ、湯、休憩を三周。湯船の中で体をこすって洗う方式だ。
子供はそのかぎりではない。
娘だけは宿舎で盥にお湯を張り、体を拭かせた。
湯から上がった四人――いや、実質は三人と一組の親子だが、
顔つきは昨日とはまるで別人のようだった。
血色が戻り、瞳に光が宿っている。
――清潔と温かさ。それだけで、人はここまで変わる。
風呂を終えた四人を、俺とエリザベートの“ボス部屋”へ通す。
一応はエリザベートとの共用スペースだが、実際はほとんど執務室だ。
隅に遮光カーテンで仕切られたエリザベートのベッドルームがある程度で、私物はほとんど無い。
ちなみに俺は椅子に座ったまま、スイッチを切ったように休む。
――「体、あんなの飾りです。偉い人にはそれがわからんのですよ」
と言いたくなるが、一番偉いのが俺なので言えないのが寂しい。
ボス部屋ではエリザベートはすでに採血の準備をしていた。
完全に連れてきたら“食事・風呂・採血”がルーティン化している。
とても良い傾向だ。
最近、エリザベートの能力がさらに上がった。
どうやら血を見るだけで、その成分が分かるらしい。
完全に血液検査を兼ね備えたようなものだ。
住民たちの健康状態まで確認できる――実に、管理に適した能力だと思う。
進化とは、その個体の“望む方向”へ伸びるものらしい。
そして、彼女が望んだのは“支配”でも“力”でもなく、“見守る力”だったのかもしれない。
エリザベートは、弱者への優しさが強くなってきた。
かつては、弱い者に対して特別な興味を示すこともなかった。
だが進化を重ね、自身が“強者”の立場になった今――
かつてレッサーヴァンパイアだった頃の“弱い自分”を、相対的に思い出しているのだろう。
あの時の至らなさ。悔しさ。悲しみ。
それらが、いま彼女の中で「他者への共感」に変わりつつある。
“慈悲深く優しいヴァンパイアの君主”
――言葉としては突っ込みどころしかないが、実際にそんな存在が目の前にいるのだから、仕方がない。
俺としては、戦略上何の問題もない。
むしろ、エリザベート王国の発展にこれほど適した人材はいないだろう。
そう思えること自体、少し誇らしい。
やがて、顔を上気させた面々がやって来た。
俺の姿を見て恐怖を露わにする者もいたが、昨日一度会っているので、そこまで酷くはない。
エリザベートに軽い鎮静の催眠を頼む。
採血で暴れられても困るので、ちょうど良いだろう。
エリザベートが採血を行う間に、俺は足の無い男に話しかけた。
「昨日も言ったが、足いるか?」
少しぼんやりとした状態で、男が答える。
「普通に歩けるようになるなら、歩きたいです。」
俺はゴーレムを足型にして、核の部分を男の膝に埋め込んだ。
男はいきなりの痛みに叫び始めたので、エリザベートが鎮痛の催眠をかける。
俺はエリザベートに謝罪した。
エリザベートは呆れたように微笑んでくれた。
「どうだ? 動くか?」
男は足を動かしてみて、
「はい、本当に足をもらえました。」
「微調整するから、少し歩いてみろ。」
男はおずおずと歩き出した。俺は様子を見て微調整する。
徐々にペースを上げて歩き、やがて普通に歩けるようになった。
「走ってみろ。」
男は走り出し、
「問題ありません。」
ここに来て初めての笑顔だ。
「良かったな。」
ミック、ジョージを中心に村人全員で拍手が起こる。
エリザベートと俺も遅れて参加した。
「では改めて、エリザベート女王の謁見の儀を行う。」
村人全員が驚愕する。
ミックとジョージは笑っている。
「女王様?!」
「謁見?!」
「貴方様が王様では?」
色々な声で騒がしくなってきたので、エリザベートが軽い鎮静の催眠を施す。
「ここは鉱山の中にあるダンジョンだ。
近々、西十キロ先にある川の向こう岸に首都を作る。
そこはエリザベート王国。
ここにいるのが初代女王、エリザベート・ラビリンスだ。」
「エリザベート・ラビリンスです。よろしくお願いします。」
「そして俺が宰相のメイズ・ラビリンスである!」
「各自、自己紹介をしろ。」
先ずは、全て理解している爺さん。
「はい、私はリンの村で農民をしておりました、ダンカンと言います。
昨日エリザベート様の眷属としてもらい、この様な若さを与えられました。
第二の人生、誠心誠意お勤めさせて頂きます。」
「えっ?! ダンカンのジジイ?! 俺より年下にしか見えないぞ!」
と騒ぎ始めたので、また鎮静。
弱めだとすぐ解けるな。
次、「私ですかね?」という顔で、娘が
「ダンカンの娘、ニアです。
お父さんを助けてもらって……もう、それだけで嬉しくて。
お父さん共々、よろしくお願いします。」
鎮静したので大人しくなった男が、
「リンの村の農民、ダックです。
足をありがとうございました。よろしくお願いします。」
「農民なのに足を無くしたのか? 兵士かと思ってたぞ。」
「はい。町に出稼ぎに行った時に高い所から落ちて、
骨がぐちゃぐちゃになっちゃって……
回復魔法をかけるにも高すぎるってことで、切られました。」
「そうか、分かった。最後に坊主、自己紹介できるか?」
「うん、ぼくはパーシーって名前です。
おいしいごはんと、おふろと、きるもの……ありがとうございます。」
「よく自己紹介できたな。偉いぞ。」
俺が褒めてやると、とても嬉しそうにした。
昨日の話を聞く限りでも、あまり褒められることがなかったのだろう。
「とりあえず、ダックとダンカンはここの農場を手伝ってくれ。
ニア、読み書き計算はどれくらいできる?」
「あまりできないです。」
「そうか。ニアとパーシーは読み書き計算の練習だ。
ミックとジョージ、二人を農場まで案内してくれ。」
ニアとパーシーには催眠学習をさせてみよう。
エリザベート先生、お願いしますね。
【ダンジョン成長報告】
【モード】福祉統治モード(医療・教育・再生)
【眷属進化】エリザベート:治癒・血液解析能力を獲得。住民健康監査機能発現。
【医療管理】義足生成技術(ゴーレム核埋込型)確立。生活再建者3名受入完了。
【教育制度】催眠学習実験開始(識字・計算教育)
【社会基盤】風呂・食事・採血のルーティン化。生活満足度上昇。
【魔素収支】福祉活動に伴う心理安定化により生産効率+6%。
今回は、エリザベートが本格的に「女王」になった回でした。
支配というより、見守るような優しさが既に聖女と化してますね。
血を見るだけで成分を判別できる進化は、
もはや“医療AI”のような存在ですよね。
メイズとエリザベート、それぞれ極端な正邪の様な雰囲気強まって
エリザベート王国の形が見えてきました。
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読んでくれる一人ひとりが、このダンジョンの“魔素”です。




