人員回収実施報告 ~ヴェストリン村における眷属化および記憶処理の適用事例~
俺はジャックから蜘蛛さんを通して連絡を受けた。
「エリザベート、出番だ。行くぞ」
「はい、久しぶりのお出かけで楽しみです」
エリザベートは完全にデート気分だ。
……まあ、良いと思う。
俺はケルピーをもう一体生成した。
次に、タイヤ型ゴーレム付きの馬車を生成する。
三人が四列で乗れる変則型だ。
何人連れて帰ることになるか分からないので、大型馬車にしておく。
外装は特に無い、イメージはコンテナだ。
窓はつけたがガラスは無い。
外の空気を感じてもらおう。
タイヤ型ゴーレムは、路面の衝撃を形を変えて吸収してくれるため、
スピードを落とさずに走っても揺れが非常に少ない。
ケルピー二頭立ての馬車に乗り、ヴェストリンの村へ向かう。
馬車としてはかなり飛ばした。
御者席に二人で並んで座ると、気分は完全にドライブデートだ。
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結局、ジャックからの連絡を受け村人全員を催眠にかける事にした。
リンの村の村長がジャックを陥れた事のある奴らしい、
それでもジャックは計画通りに行おうとしたが、
俺の方から強行的な方法への変更を提示した。
全員催眠状態にしておけば後々の計画も楽になりそうだしな。
とりあえず今回ダンジョンに連れ帰るのは、緊急性があると判断した数人のみ。
残りは記憶を改ざんしておく。
俺とエリザベートでジャックが付けた蜘蛛さんの所に行く。
炊き出しの際、自宅にいる父の分をと、余分にパンとスープを持って行った女性の家に入る。
鍵などかかっていない扉を開けると、すでに二人とも眠っていた。
エリザベートは寝たきりの父親を見て、
「眷属化しかないですね」
と、諦めたように言った。
見た目は六十代くらいの痩せ細った老人で、寝ているだけでも辛そうだ。
エリザベートが「カプッ」と可愛らしく噛みつくと、
辺り一面が光り輝き、そこには二十代後半ほどの若者が立っていた。
目を覚まさせると、ゆっくりと意識を取り戻していく。
エリザベートが、
「はい、理解して」
と言うと、彼はしばらく動きを止めたあと、
「はい、理解しました。ありがとうございます。そしてよろしくお願いします、エリザベート様」
と土下座した。
……そこは片膝立ちだろうに。
今後ジャックに作法を教わってほしい。
エリザベートは、横で眠っている四十代くらいの女性を起こす。
起こすと同時に鎮静の催眠をかける。
一瞬驚き、パニックになりかけたが、すぐに大人しくなり話を聞く姿勢になった。
半分眠っているような状態だが、受け答えはしっかりしている。
「お父様は私の眷属となり、二度目の人生を歩むことになります。
貴方には三つの道があります。
一つ目はこのまま村で過ごす。
二つ目はお父様と共に人間として私の元に来る。
三つ目はお父様と共に眷属となり、私の元で二度目の人生を歩む。
どれが良いですか? 少し他の方の所に行ってくるので、その間に考えておいてください。
では失礼します。お父様、娘さんとお話ししていてください。」
「分かりました」
若返った父親は、娘に向かって話し始めた。
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「次はどこだ?」
蜘蛛さん情報を頼りに村を歩く
そこには三十代くらいの夫婦と、その息子――十二歳ほどの少年が眠っていた。
「この三人ですか?」
エリザベートが聞く
「いえ、この奥にいる子供だ」
奥へ行くと、藁に埋もれるようにして六歳ほどの子供が眠っていた。
虐待されているわけではなさそうだが、良い待遇とは言えない。
“居させてあげているだけ”といった雰囲気だ。
エリザベートは子供を起こしながら鎮静の催眠をかける。
「こんばんは。
貴方は今の生活に満足している?
貴方が望めば、満腹の食事、清潔な衣服とお風呂、快適な寝床を与えてあげる。
ここのご家族によくして頂いているというなら、諦めるけれどね。」
子供は鎮静の催眠を受けた状態でも、
夜中にいきなり現れたこの世の者とは思えないオーラを放つ少女に、
動揺を隠しきれずにいる。
俺は必要以上に混乱させないため、見えない位置から様子を見ていた。
「おなかいっぱいたべれるの? あとはよくわかんない。
ぼく、いつも“いさせてもらえるだけありがたいと思え”って言われてる。
だから“ありがとうございます”って、いつも言うし、思うことにしてるよ。」
エリザベートは少し悲しげに微笑んだ。
「分かりました。一緒に来なさい。
本当に“居させてくれてありがとうございます”と心の底から言える生活をさせてあげるわ。」
「おねえさん、きれいだし、やさしそうだから、すき。」
子供とはいえ、普段なら照れて言えなそうなことを素直に言っているな。
「ありがとう。じゃあお眠りなさい。」
エリザベートが熟睡の催眠をかけ、俺は子供を抱きかかえる。
この家の三人には、“子供は村長の推薦で出稼ぎに出た”という記憶を植え付けておく。
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「次で連れ帰るのは最後だな。」
歩くのが困難な男とのことだった。
扉を開けると男は熟睡しており、足がない。義足だったようだ。
エリザベートが起こしながら鎮静の催眠を使う。
今回は俺の出番か。
「足、欲しければやるぞ。いるか?」
男はきょとんとした顔で、恐怖に震えている。
鎮静の催眠があったとしても、能面の骸骨が目の前で
「足やる」などと言っていれば、悪夢か悪魔の契約にしか見えないだろう。
「悪い、これは説得無理だ。このまま連れて行こう。」
エリザベートに夢遊状態にしてもらい、義足を装着して村の入り口へ歩かせる。
子供と男を馬車の中に放置し、先ほどの父娘のもとへ戻る。
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二人は楽しそうに会話していた。
娘はまだ催眠の効果が残っているようだが、本当に嬉しそうだ。
無表情のまま、涙だけが止めどなく溢れている。
その涙を拭うこともなく、父と会話を続けている。
エリザベートが問いかける。
「どうするか決まりましたか?」
娘は涙を拭いながら答えた。
「できれば、眷属にして頂きたいです。」
「眷属にはいつでもなれるので、今日はそのまま一緒に行きましょう。」
隠れていた俺を見つけた娘は一瞬ビクッとしたが、
父親から話を聞いていたのか、すぐにお辞儀をした。
「よろしくお願いします。」
俺は片手を上げて返した。
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その後、各家を周り、
“居なくなった人間は出稼ぎに行った”
“特に問題はない”という記憶を全員に植え付ける。
最後に村長宅へ向かう。
村長宅は閂がかかっていたので、蜘蛛さんに頼んで外してもらう。
糸で巻き、テコの原理を使えば意外と楽なものだ。
村長も結局起きなかったため、村人と同じ催眠をかけて一通り終わらせる。
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子供、父娘、そして足を失った男を連れ、
俺とエリザベートはダンジョンへ帰ることにした。
輸送隊の皆はこのまま次の村へ向かっている。
他の村の村長次第では懐柔策を取る可能性もあるが期待しない方が良いみたいだ。
情報が入り次第動く準備はしておこう。
今回は完全に“現場オペレーション”でしたね。
メイズが動くと、どんな冷徹な行動も淡々と
「業務報告」になってしまいますね。
彼にとってはただの目的のための行動が結果相手にとって救済となる。
エリザベートの優しさがメイズの対比で際立っていきますね。
けれどすべては“ダンジョンの成長”という一つの目的に回収されていく――。
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読んでくれる一人ひとりが、このダンジョンの“魔素”です。




