表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンの社会的貢献を目的とした地位向上のすすめ ~奪わず与え従え支配するダンジョン育成記~  作者: 不可思議 那由多
第二章 対外接触と社会実験の始動 ~循環構造の外部展開と制度設計の初期実装~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/79

交渉戦略実践報告 ~言語支配モデルおよび取引心理分析~

ジャックたちが帰ってきた。

予定通り、商人と浮浪孤児を連れている。

……やはり、ジャックは使える男だ。


護衛は冒険者のウォーレンとランディ。

あとは御者リーダーだな。


入ってくるなり、ジャックの様子が少しおかしい。


「ただいま戻りました!

 エリザベート様! な、何故そんなに大きく成長なされて――

 以前の可愛さは薄れましたが、なおいっそうお美しくなられて……っ!」


言葉を並べるほどにテンションが上がっていく。

……美辞麗句を連打しているうちに、自分で混乱しているな。


「このジャック、正気ではとてもいられません!」


完全に“孫娘を見た祖父”の顔になっている。

あれはしばらく駄目だな。

ジャックって、あんなキャラだったか?


「まあ良い。ジャックは放っておけ。自己紹介を頼む」


普通なら俺のナリを見て恐怖に慄くか、不気味そうにするところだが――

ジャックの行動で全部吹き飛んだな。

……もしや、それを計算に入れての行動か?

いや違う。あれは天然だ。


「はい。シグの町で商会を営んでおります、デイビッドと申します。

 昔ジャック様には大変お世話になりました」


「ああ、聞いている。大分懇意にしていたようだな。

 商談も合意してくれたと聞いている。今後ともよろしく頼む」


「はい、こちらこそ」


「シグの町に住んでいるマックスです」

「ブレンダです」


「ブレンダは具合が悪かったそうだが、大丈夫なのか?」

「はい、おかげさまで元気になりました」


「そうか、それなら良かった。

 命に関わるようなら、ジャックのように眷属化も視野に入れていたが……問題ないなら必要ないな。

 まずはここの生活に慣れてくれ。希望があれば、ジャックについて商売と交渉を学んでみてくれ」


「長旅で疲れただろう。

 とりあえず風呂に入って身体をほぐしてから、また話をしよう」


そう言って一度全員を解散させた。

気づけばジャックは再起動していたので、皆の案内を任せる。

エリザベートの側にいたそうだったが、無視した。


ブレンダはまだ幼い。

付き添いとしてマックスと一緒に入らせることにした。

問題はないだろう。


ちなみに、エリザベートが入るときは全員立ち入り禁止だ。

警備には蜘蛛さんたちが当たってくれている。


……俺も一度入ってみたが、骨の体だから風呂の良さがまったくわからなかった。

それ以来、一度も湯に浸かっていない。


風呂が終わったら飯だ。

集合場所は食堂にした。

今日は来賓が来るので、囚人たちは宿舎で食べている。


風呂上がりの一同の顔を見て、

満足してもらえたのが一目でわかった。


「風呂が満足してもらえたようで嬉しいよ」


「独特のルールが辛かったですが、風呂上がりがこんなに爽やかなのは初めてです」


「マックスとブレンダは無理してないな?」

「子供は体温が高くて代謝も良い。

 のぼせやすいから無理は禁物だ。サウナは大人になって血行が悪くなってからでいい」


「はい、1分で出ました」

「それなら良い」


「では、食事にしよう」


俺は料理を生成した。

今日は甘口カレー、ナン、ラッシー、タンドリーチキンだ。

ブレンダには刺激のない方が良いかと思い、

シチュー、白パン、ラッシー、焼き鳥にした。

エリザベートには血ワインもつけてある。


この料理を選んだのにも、きちんと理由がある。

デイビッドに香辛料を見せたかったのだ。


「カレーはこの世界にあるのか?」

「いえ、ありません」

「そうか、それは良かった」

「リバーシの二の舞はごめんだからな」


「では、食べてみてくれ。こちらのカレーにナンをつけて食べるんだ」


……はい、阿鼻叫喚の世界、頂きました。


最初はおずおずと食べていた一同の手が、

だんだんと加速していく。

足りなくなりそうなタイミングで、カレー・ナン・ラッシー・タンドリーチキンのおかわりを生成していく。

ブレンダはおかわりしなかったが、一人前はきっちり食べていた。


やがて全員のペースが落ち、満足した様子を見せた。

デイビッドが深く息をつきながら言う。


「このような美味しい料理、初めて食べました。

 それにしても、使われている香辛料の量がとても多く感じました」


「そうだな。普通なら使えないだろうな」


「その香辛料が相場の半額で手に入るなら、デイビッドならどうする?」


「それは、全てを投げ打ってでも買います!」


「では、投げ打ってもらおう」


そう言って、胡椒と乾燥唐辛子、塩、砂糖をそれぞれ1kgずつ生成した。

カレー粉はまだ出さない。


デイビッドは機能停止。再起動待ちだ。


「うぉーーーーーーー!」

「買います! 買います! 買わせて下さい!」


再起動、非常にうるさい。


「とりあえず必要な物を言え。全部先に渡す。

 代金は小麦にしようと思っていたが……もっと必要な物があった。


 奴隷を買い付けてくれ。

 百人くらい買えるか?

 そのついでに貧民街で燻ってる奴らを説得してくれ。

 鉱山の宿舎の先に開拓を始めた人がいるってな」


話を聞いたデイビッドは再び固まった。

そして再起動。


「メイズ様は……そのままダンジョンに吸収などということは、しない……ですよね?

 目的をお教え頂いても良いでしょうか?」


「ダンジョンに吸収なんて勿体ないことはしない。

 働ける限り働いてもらう。

 動けなくなったら眷属にして、ジャックのように働いてもらう。


 裏ルールだが、働きたくない奴は働かなくても良い。

 一日中ボーっとしていたければ、それでもいい。


 俺の元に居る条件はひとつだけだ。

 毎月、普段の生活に支障のない量――

 コップ二杯分くらいの血液を献血すること。それだけだ」


「それなら希望者が殺到しませんか?」

「殺到するだろうな。同時に、既得権益が騒ぎ出すだろう」


「お前、大量の調味料を世界にばらまくつもりなんだろう?

 今までより品質が良く、価格も安いものを。

 今まで調味料でぼろ儲けしていた連中が、黙っていると思っているのか?」


「奴隷を俺が買い占めれば、市場から奴隷が居なくなる。

 そうすれば相場が上がる。数を必要とする奴隷商会にとっては死活問題だ。


 俺がやっているのは、俺への忠誠度の高い味方――仲間を増やすこと。

 それも底辺からだ。


 これは教会や領主の領分を侵すことになる。

 つまり、食材系商人、奴隷商人、教会、領主――国の既得権益を荒らすということだな。


 食材系の商人の味方はデイビッド、お前だ。

 奴隷商人と、教会の中にも味方がいると良い。

 本当に清廉潔白で、貧民のことを考えている馬鹿な神官はいないか?」


「既得権益に喧嘩を売るのに力を貸せと仰るのですね。

 ……なるほど、そう来ましたか。少し考えさせてください」


デイビッドは短く息を吸い、静かに目を閉じた。

やがて、ゆっくりと口を開く。


「これだけの調味料の商いです。

 調味料だけのことを考えても、世の中への影響は大きいでしょう。

 その一端を私に預けてくださると仰るのですから――腹をくくらないと駄目ですね」


彼はまっすぐ俺を見据え、微かに笑った。


「既得権益、望むところです。

 了解しました。奴隷商人の件も任せてください。

 それと……神官の件も、心当たりがあります。

 清廉潔白を地で行く変わり者ですが、貧民のために本気で動ける男です。

 信頼できるかは分かりませんが、話を通してみます」


デイビッドは静かに息を呑んだ。

目の奥に、恐れとも敬意ともつかない光が宿る。

しばらくの沈黙のあと、彼は苦笑を浮かべた。


「なるほど……これが悪魔の契約なのですね」


「あんなのと一緒にするな。

 俺は悪魔を生成することもできる。

 悪魔より上位の存在であり、悪魔よりタチが悪いぞ」


「まあ今日はこんなところにしておくか。

 まだ見せたい商品はあるが、もう遅い。

 満腹になったら眠くなるだろう。あとは明日にしよう。

 今日は“熟睡の催眠”を受けて寝てくれ」


皆がそれぞれ席を立ち、静かに部屋を出ていく。

残された食器と香辛料の香りが、まだ空気の中に漂っていた。


……取引とは、支配の最も穏やかな形だ。

相手が笑って頷く限り、鎖は見えない。

けれど確かに、そこに繋がりが生まれる。


悪魔の契約よりも、ずっと効率的に。


【ダンジョン成長報告】

【モード】通常運営(帰還・商談統合期)

【眷属】ジャック帰還・デイビッド商会接続完了

【交渉成果】香辛料取引成立(相場比1/2・高純度生成)/奴隷労働力確保交渉進行中

【備考】ブレンダ体調回復・孤児救済ルート形成/外部経済・労働市場・宗教接続強化




“悪魔の契約”と呼ばれたものの正体は、

理と信頼を基盤にした“効率的な支配”でした。


経済を動かす商人、信仰を担う神官、そしてそれらを繋ぐメイズ。

支配の輪は、恐怖ではなく理解によって広がっていきます。


理屈の延長にある温度のない優しさ。

そこにこそ、彼の世界の形が見えてきます。


※感想・ブクマ励みになります!

読んでくれる一人ひとりが、このダンジョンの“魔素”です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ