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ダンジョンの社会的貢献を目的とした地位向上のすすめ ~奪わず与え従え支配するダンジョン育成記~  作者: 不可思議 那由多
第二章 対外接触と社会実験の始動 ~循環構造の外部展開と制度設計の初期実装~

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制御系再起動報告 ~信仰構造の再定義と記憶媒体応用実験~

結局、マックスとブレンダはしばらくジョンの家で世話を受けることになった。

ブレンダは完全な栄養失調状態だったため、重湯から始め、

パン粥など消化の良いものを少しずつ与えて回復を待った。

今では顔色も良くなり、ようやく歩けるようになっている。


メイズ様へは、デイビッドと共に二人を連れて行くと蜘蛛を通じて報告してある。

そのため、ウルフの出迎えはおそらくないだろう。


一方、デイビッドの方も出張前に多少のトラブルがあったようで、

三日後の予定だった出発は結局一週間後に延びた。


ダンジョン行きのメンバーは、

私、デイビッド、護衛に赤い羽根のウォーレンとランディ、

そして以前の輸送隊で御者リーダーだったウェイン。

荷物は――ミミック、ただ一体である。


見送りには、ジョンとポール、ジョンの妻シンシア、

息子のジュリアンとショーン、

それに赤い羽根の残りの冒険者たちが集まっていた。


「お気をつけて。あと、メイズ様に“やりすぎ注意”とお伝えください」

ジョンとポールが笑いながら手を振る。


ジュリアンとショーンは、短い間にマックスとブレンダにすっかり懐いていた。

同年代ということもあり、別れ際は目を赤くしている。

シンシアは、まるで自分の子を送り出す母親のような表情で、

二人に細かい生活のアドバイスをしていた。


冒険者たちは全員「行きたい!」と名乗り出たらしく、

最終的にはジャンケンで決めようとしたが、

結局リーダーのウォーレンと回復役のランディが選ばれたようだ。


出発の朝は、まるで遠足のような騒がしさだった。

デイビッドも思わず苦笑する。

「何ともまとまりのない集団のようで、実に一致団結しておりますな」


__________________________________


馬車で四泊五日の旅。

ゆっくりと街道を進み始めてしばらくすると、

私は軽く息をつき、口を開いた。


「さて――これで君たちは逃げられませんので、種明かしができますね」


「その言い方まで主の真似しなくていいでしょ!」

ウォーレンが笑いながら突っ込む。

どうやら今回の“ツッコミ役”は彼で決まりらしい。


「私の主はヴァンパイアです。それは可憐で可愛らしく――」

「ストーップ! それはもういいから!」


「……失礼しました。どうもテンションが上がっているようで」


マックスとブレンダは、最初の一言で完全に固まっていた。


「お二人の“再起動”を待っても、またすぐフリーズしそうですので、

 このまま説明を続けますね」


主がヴァンパイアであること、

その主を生み出した偉大なる存在――メイズ様のこと。

ダンジョン、催眠、商売、囚人たちのこと。

思いつく限りのことを、包み隠さず話した。


「どうですか? 感想を聞かせてください」


「……催眠で、いいように操られるってことですか?」


「良い質問ですね。

 今の私も“催眠状態”なのだと思うのですが、自覚がありません。

 メイズ様は本当に最低限の意思操作しかしないのです。

 だから本人にも、周囲にも、催眠かどうか分からないのです」


「それって……どういうことなんですか?」


「マックス、それにブレンダ。あなた達は神を信じますか?」

「『はい、信じています』」


「それも洗脳ですよ。一種の催眠状態です」


「??」


「生まれた直後に“神”を知る子などいません。

 親から『神は信じるものだ』『信仰すれば救われる』と繰り返し聞かされ、

 やがて信じるようになる。

 ――それもまた“刷り込み”です。


 もちろん、神はいると思います。いるのでしょう。

 けれど、もし拝めば救われるのなら、

 あなた達が今ここにいること自体、矛盾になりますよね」


「だから私は神を信じることをやめました。

 そして、メイズ様とエリザベート様を信仰して生きていくことにしたのです。

 それが“洗脳の上書き”というのなら、喜んで受け入れます」


私は静かに続けた。

「ちなみに私の年齢は八十二歳です。

 お二人に出会わなければ、あと一ヶ月も生きられなかったでしょう。

 文字通り、命を救われたのです」


「私は“頑張れば報われる”という洗脳で生きてきました。

 結果、従業員に裏切られ、借金奴隷となり、鉱山送りになった。

 恨んではいません。ただ――努力だけでは足りないと知ったんです。

 『一生懸命頑張れば幸せになれる』という教えも、

 結局は誰かが作った“催眠”なんですよ」


マックスが小さく呟く。

「じゃあ……どうすればいいんですか?」


「だから、一緒にダンジョンへ行きましょう。

 衣食住が保証され、自分の価値を確認できる仕事があり、

 喜んでくれる主がいる。

 今の私にとって、それが一番の幸せです。


 あなた達の幸せがどんな形になるかは分かりませんが、

 一緒に探すお手伝いができればと思っています」


静かな沈黙が落ちた。

やがてマックスが口を開く。


「……難しい話すぎて、分かったことの方が少ないです。

 でも、ジャック様が嘘をついてないのは分かります。

 ゆっくりダンジョンで考えます」


ブレンダも頷く。

「私も、よく分からないってことが分かりました」


「それはとても素晴らしい答えです。

 “分かったふり”をされるのが一番困るのですよ」


「――あ、ちなみにその宝箱モンスターはミミックです。優しくしてあげてくださいね」


その一言で、二人は再び固まった。


__________________________________


三日目の午後。

ゴブリンの群れに襲われた。


「ゴブリンが二十匹ほど来ます!」

御者のウェインが声を上げる。


「予定通りに動きましょう。

 ウェインさんは馬を外して後方へ。

 ミミックさん、少し食料を。餌でゴブリンを誘います。

 ブレンダはウォーレンさん、マックスは私が抱えて移動します。

 ランディとデイビッドは後方に続いてください」


ウォーレンが軽く笑う。

「さすがジャックさん、戦略が徹底してますね」


普通に戦っても問題はない。

だが、今回は“ミミックを使った戦略”の実験データを取る機会でもある。


私はマックスを抱え、なるべく揺らさぬよう走った。

ウェインも無事に後方へ退避している。


「びっくりしましたねー」

ランディが軽い調子で言う。

マックスとブレンダの緊張を解くためだろう。


「これで実戦データが取れます。ある意味ラッキーでしたね」

「魔物に襲われてラッキーって……! 馬車、襲われてません!?」

「机上の空論より、実戦です。失敗しても“次”に繋がりますから」


「……やっぱりメイズ様の弟子ですね。匂いが同じだ」

ウォーレンが笑い、デイビッドも平然と事の行方を見守っていた。


「馬車にゴブリンが入っていきましたね」

「……入っていきましたね」


悲鳴もなく、ただ静寂だけが残る。


やがてウォーレンが剣を構えたまま、そっと馬車へと近づいた。

しばらく中の様子をうかがい、慎重に扉を開けて確認する。


そして数歩後ずさり、こちらを振り返って――

大きく腕で丸を作った。


「異常なし」の合図だ。


私たちは警戒を解き、馬車へ戻る。

餌はそのまま、荒らされた形跡もなく、

ゴブリンの痕跡すら一つ残っていなかった。


「……ミミックさんの実力はここまでですか」

思わずため息が漏れる。


「これで下級魔物程度なら問題ないと判明しましたね。

 改善点もない、完璧な結果です」


「ゴ、ゴブリンはどこ行ったの!?」

マックスが恐怖と動揺で叫ぶ。


「全部、ミミックさんの中でしょうね」


「「ミミックさん、すごい!!」」


二人の声に、ミミックがぴょこんと跳ねて喜んだ。


――あと二日で、我が家だ。

十日ほどしか離れていないのに、妙に懐かしい。


ミミックも、マックスも、ブレンダも――

皆、それぞれの形で“ダンジョンの一部”になり始めている。


帰ればまた、あの二人が待っている。

静かで、けれど確かに温かいあの場所へ。


早く、お二人の顔を見たいものだ。


【ダンジョン成長報告】


【モード】帰還モード

【同行者】デイビッド商会代表/赤い羽根ウォーレン・ランディ/御者ウェイン

【新規構想】ミミック運用実戦テスト:完了(下級魔物対処可)

【新規契約】孤児マックス・ブレンダ(観察下)

【備考】「洗脳」「信仰」「支配」の定義再構築フェーズ突入

ジャックの語る「信仰」と「洗脳」は、

単なる言葉遊びではなく、

人が“誰の構造の中で生きているか”という問いへの導入です。


メイズは誰も強制せず、ただ合理を提示される。

けれど、その合理は人を魅了し、

気づけば“信仰”に変わっていく。


神を否定しても、仕組みを信じる。

それがこの世界の“新しい祈り”の形なのだと思います。


※感想・ブクマ励みになります!

読んでくれる一人ひとりが、このダンジョンの“魔素”です

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