【閑話】進化副作用実証報告 ~能力拡張が娯楽行動へ与える影響分析~
エリザベートを進化させて良かった――
心からそう思う日が来るとは思わなかった。
……進化させてからまだ数日だけどな。
理由は単純だ。
前の背丈では、一緒に麻雀ができなかったからだ。
今でも牌を取るたびに少し背伸びしている。
それでも頑張って手を伸ばしているあたりが、なんというか微笑ましい。
前の身長では、まず卓に届かなかっただろう。
――というわけで、ダンジョンに麻雀部屋を作った。
部屋は、これまでで一番防犯に力を入れた場所だ。
入室は魔素認証で個人確認しないとできない。
さらにドアを開けても内部が見えない、完全な隠蔽構造になっている。
ここが世間に知られたら、娯楽に飢えた囚人たちが暴動を起こしかねない。
皆が楽しみを得れば統制が崩れる。
労働意欲の低下、秩序の崩壊、監視負担の増大――。
そのリスクを考えれば、この防犯設計は理に適っている。
俺が今までリバーシや麻雀を作らなかったのも、
娯楽品は商人に売って利益を得るためであり、
鉱山の生活レベルを上げるためではない。
――囚人に娯楽を与えてはならない。
だからこそ、この部屋は限られた者だけの特別な空間であるべきなのだ。
魔素認証、遮蔽構造、完全防音。
どれも合理的な必然であり、
決して“無駄に凝った趣味部屋”などではない。
中央には麻雀卓が一台。
壁の三方には大きな役一覧表を貼ってある。
やり方はともかく、役は覚えきれないからな。
最初の三戦までは皆ぎこちなく、表を見ながらのプレイが続いた。
結果は俺の三連勝。順調だった。
――四戦目。南二局。
エリザベートの親番で空気が変わった。
十二ツモ目、彼女が首をかしげる。
「あれ? これで良いのですか?
魔術師三代原則ですね。ツモです」
卓の上には――杖、ローブ、無がそれぞれ三枚ずつ。
さらに丸1が三枚、5の三角が二枚。
いわゆる大三元だ。
「エリザベート……それ、四暗刻もついてるな。」
「あ、あぁ……そうですね。上がれて良かったです♪」
親のダブル役満。32000オール。
半荘は一気に傾き、エリザベートの勝ちだ。
「ありがとうございます。麻雀って楽しいですね!」
「……そ、そうだな。喜んでもらえて嬉しいよ」
ミックとジョージは、もはや空気である。
その後の彼女は止まらなかった。
「剣、鎧、盾、兜……頭がローブで“大戦士”ですね。
絵一色のダブル役満です」
(いわゆる大四喜だ。)
「いやトリプル役満だ、、、エリザベート」
「面前丸一色(清一色)です」
「あっそれポンお願いします。――あ、それロンです。
1と9ばかりですね。清老頭です」
勢いは朝まで続き、結局エリザベートの一人勝ちとなった。
そして満面の笑みで言った。
「メイズ様、とても楽しかったです。
またぜひ、やらせてくださいませ」
――進化の成果が、想定外の方向に発揮された夜であった。
知性と集中力の向上が、いつの間にか“人外が麻雀で人間を圧倒する”という副作用を生んでしまいました。
進化とは、時に理不尽である。
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読んでくれる一人ひとりが、このダンジョンの“魔素”です。




