運搬担当個体選定記録 ~労働対象と愛着形成の因果~
村を発見した。
ここからが本番――ダンジョン引っ越し大作戦の始まりだ。
まず理解しておかなきゃいけないのは、
ダンジョンコアを“外”に出すとどうなるか、という話。
どうやら、コアを外部に持ち出した瞬間、
内部の出入口は自動で封鎖され、
中身はまるごと異次元空間に“一時保存”されるらしい。
つまり、コアを持って出た俺は、
異世界の“外”を歩き回る――ただの宝珠状態になるということ。
ただし、新しい場所で扉を設定すれば、
また同じ空間(今のダンジョン内部)に繋ぎ直せる仕組みだ。
……うん、分かりやすく言うと、
「ダンジョンの本体がUSBメモリに入ってて、
俺がそのUSBを持って歩く」
そんな感じである。
________________________________________
コアを運ぶ方法
さて、問題は――どうやって運ぶか。
コア単体じゃ動けない。
だから**“器”**が必要になる。
ダンジョン知識によると、
コアを持つことができるモンスターは限られており、候補は三種。
•ゴーレム系(頑丈で安定)
•スライム系(衝撃吸収◎)
•アンデッド系(コスパ良し)
ゾンビウルフが現実的かな?移動に使うだけだからな。
蠅とは比較にならない高級モデルだ。
四足で足も速い。
将来的には、この“器”と完全同化することも可能らしい。
ただし――そのモンスターが倒されたら、
「はい、ゲームオーバー☆」である。
……いや、軽いノリで言ってるけど、普通に怖い。
________________________________________
ゾンビウルフ、生成
「――ゾンビウルフ、生成」
空間の一角がドロリと溶け、黒い煙が立ちのぼる。
腐肉の匂いを含んだ冷気が部屋を満たし、
骨と肉片がゆっくりと絡み合って――一匹の獣が立ち上がった。
皮膚の大半は朽ち、片目は白濁している。
それでも、犬らしい体格と筋肉のしなやかさを残していた。
その瞳に宿るのは――命ではなく、義務。
「……起動完了、って感じか?」
ゾンビウルフは動かない。
ただ静かに立ち尽くし、俺を見つめている。
呼吸も鼓動もない。
それでも、その姿には確かな“意志の残滓”があった。
命令を待つ、プログラムされた忠実な兵士――そんな印象だ。
「……うん、真面目だな。悪くない」
________________________________________
コア融合、開始
さて、いよいよ本番だ。
ゾンビウルフが、無言で俺の前に立つ。
その白濁した瞳には何の感情もなく、
ただ「命令を待つ」という一点の意志だけが漂っていた。
「――よし、行くか」
コアの光を強め、ウルフに触れるよう命じる。
その毛皮にコアの光が触れた瞬間――
ズゥン……と、空気が震えた。
まるで水面に石を落としたように、ウルフの体に波紋が広がる。
波紋が胸元まで達したとき、
コアはまるで“吸い込まれるように”体の中へと沈み込んでいった。
抵抗も拒絶もない。
ただ静かに、当然のように――融合は完了した。
次の瞬間、ウルフの体表に淡い光の紋様が浮かび上がる。
それは骨と筋肉をなぞるように走り、脈打つように明滅する。
「……これが、融合か」
俺の意識が、ゾンビウルフの内側に引き込まれていく。
重たい肉の感覚、冷え切った血の流れ、
地面を掴む爪の硬さ。
ウルフの喉から低い唸り声が漏れた。
それは怒りでも苦痛でもない。
まるで「起動完了」を告げる起動音のようだった。
「視界……広いな。嗅覚もすごい」
腐臭と、ダンジョン独特の無臭の空気。
あらゆる情報が一気に流れ込む。
――融合完了。
新たな“器”としての体を手に入れた。
________________________________________
引っ越しルート設定
行き先は決まっている。
川の東、森を抜けた先10km――あの小さな集落。
できれば洞穴でもあればいいんだけどな。
「じゃあ、行きますか」
ゾンビウルフの体がゆっくりと動き出す。
地を蹴るたび、鈍い音とともに土が舞い上がる。
腐った肉片がぽとりと落ちても、すぐに魔素が補修して塞ぐ。
……便利だな、アンデッド。
もし途中で倒されたら、**アイアンゴーレム(小)**を生成して再融合。
「ただの岩ですが何か?」戦法で隠れる予定。
完璧な作戦だ。――たぶん。
________________________________________
俺はゾンビウルフの体を操りながら、
初めて“外”の世界へと足を踏み出した。
闇を抜け、湿った土を踏みしめ、
夜の風が毛皮を撫でる。
「……よし、いってみようか」
静寂の森に、アンデッドの足音が響いた。
俺の、そしてダンジョンの――初めての旅が、始まった。
________________________________________
【現在のステータス】
項目内容
種別ダンジョンコア(ゾンビウルフ融合体)
ダンジョン名無名(引っ越し中)
眷属蠅 ×8(殉職)
器ゾンビウルフ(融合済)
状態引っ越し準備完了・地上移動中
初めて“足”を得ました。
それは自由でも、冒険でもない。
ただ、移動手段を手に入れただけの話です。
けれど、土を踏む感覚には――確かに何かがありました。
腐臭の奥に、世界の匂いがしました。
生きているものも、死んでいるものも、
この大地の上では同じ“素材”にすぎない。
さて、次はその素材をどう使うか、だけですね。
※感想・ブクマ励みになります!
読んでくれる一人ひとりが、このダンジョンの“魔素”です。




